「株の大部分は後継者に贈与したいが、しばらくは自分が経営の判断をしたい」「株は家族で分けても、議決権は後継者に集めたい」。こうした希望をかなえる方法として、種類株式と並んで注目されているのが属人的株式です。
属人的株式は、非公開会社が定款で、株主ごとに議決権や配当の扱いを変えられる仕組みです。種類株式より柔軟で、登記にも表れないという特徴がありますが、その分、導入のハードルや使い方の注意点もあります。この記事では、属人的株式の仕組みを会社法の条文で整理し、事業承継での使い方、相続税評価、銀行やM&Aでの見られ方、失敗しやすいポイントを解説します。
- 属人的株式は、非公開会社が定款で、議決権・剰余金の配当・残余財産の分配について株主ごとに異なる取扱いを定める仕組み(会社法109条2項)
- 導入の定款変更には、総株主の半数以上・総株主の議決権の4分の3以上という厳しい決議が必要(309条4項)。株主が少ないうちでないと導入しにくい
- 事業承継では、株式を後継者に移した後も先代が議決権を持ち続ける、あるいは後継者に議決権を集中させるといった使い方がある
- 先代の認知症や死亡で議決権の行使が止まる、株主平等の原則との関係で争いになる、といったリスクがあり、定めの終わり方を最初に決めておく必要がある
- 相続税評価で属人的な定めを前提にした明文の規定はない。M&Aでは売却前に定めを廃止するのが通常
属人的株式とは:株主に着目した定款の定め
会社法は、株式会社は株主を、その有する株式の内容と数に応じて平等に扱わなければならないと定めています(109条1項、株主平等の原則)。そのうえで、公開会社でない株式会社(すべての株式に譲渡制限がある会社)は、次の3つの権利について、株主ごとに異なる取扱いを行う旨を定款で定めることができるとしています(109条2項、105条1項)。
- 剰余金の配当を受ける権利
- 残余財産の分配を受ける権利
- 株主総会における議決権
この定めがある場合、その株主の株式は、会社法の適用上、内容の異なる種類の株式とみなされます(109条3項)。このように株主ごとに異なる扱いを受ける株式を、実務では「属人的株式」と呼んでいます。
種類株式との違い
| 項目 | 種類株式(108条) | 属人的株式(109条2項) |
|---|---|---|
| 着目するもの | 株式の内容 | 株主(人) |
| 使える会社 | 公開会社でも可(一部の種類を除く) | 公開会社でない会社のみ |
| 対象となる権利 | 配当、残余財産、議決権、譲渡制限、取得請求権、取得条項、拒否権など | 配当、残余財産、議決権の3つ |
| 株式を譲渡したとき | 内容が株式とともに移る | 原則として特別な扱いは移らない(定款の定め方による) |
| 登記 | 種類株式の内容と数が登記される | 登記事項とされていない |
| 導入の決議 | 定款変更の特別決議など | 総株主の半数以上・議決権の4分の3以上 |
種類株式は、株式の中身そのものを変えるため、誰が持っても同じ権利がついてきます。属人的株式は「この株主の株式は1株につき10個の議決権」というように、人に着目して定めるため、承継のタイミングに合わせた柔軟な設計がしやすい仕組みです。種類株式の使い方は種類株式を事業承継に使うで解説しています。
導入に必要な手続き
属人的な定めを設ける定款変更は、通常の特別決議では足りません。総株主の半数以上(頭数)で、かつ総株主の議決権の4分の3以上に当たる多数の賛成が必要です(309条4項)。出席した株主ではなく、総株主を基準にする点が特別決議と大きく違います。
| 決議の種類 | 要件 | 主な対象 |
|---|---|---|
| 普通決議 | 議決権の過半数が出席し、出席株主の議決権の過半数 | 役員の選任、計算書類の承認など |
| 特別決議 | 議決権の過半数が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上 | 定款変更、組織再編など |
| 特殊決議(309条3項) | 議決権を行使できる株主の半数以上で、その議決権の3分の2以上 | 全部の株式に譲渡制限を設ける定款変更など |
| 特殊決議(309条4項) | 総株主の半数以上で、総株主の議決権の4分の3以上 | 属人的な定めを設ける・変更する定款変更 |
頭数の要件があるため、株主が多い会社や、反対する株主が複数いる会社では導入が難しくなります。属人的株式は、株主がオーナー一族の数人にとどまっているうちに検討するのが現実的です。なお、定めを廃止する定款変更は、309条4項の対象から除かれており、通常の特別決議で行えます。
保有比率ごとの決議の考え方は株式の保有比率ごとの権利にまとめています。
事業承継での使い方
属人的株式は、事業承継で次のように使われることがあります。
| 使い方 | 定款の定めの例 | ねらい |
|---|---|---|
| 先代が議決権を持ち続ける | 「株主Aが株式を有する場合、その株式1株につき100個の議決権を有する」 | 株式の大半を後継者に贈与しても、先代が当面の経営判断を続けられる |
| 後継者に議決権を集中させる | 「株主Bが有する株式は、1株につき10個の議決権を有する」 | 他の相続人に株式(財産)を分けても、後継者が過半数・3分の2以上の議決権を持てる |
| 経営に関わらない株主に配当を厚くする | 「株主Cに対する剰余金の配当は、1株当たり他の株主の2倍とする」 | 議決権の配分の見返りに、経済的な利益を配分する |
先代が議決権を持つ設計の例
発行済株式100株のうち、先代が90株を後継者に贈与し、10株だけを手元に残す場合を考えます。属人的な定めで、先代の株式1株に100個の議決権を与えれば、先代の議決権は10株×100個=1,000個、後継者は90個となり、先代が議決権の9割超を持ち続けられます。株式という財産は早めに後継者に移しつつ、経営の主導権は段階的に渡す、という使い方です。
ただし、この設計は「先代が判断できるうちは」という前提の上に成り立っています。
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事業承継・M&A支援を見る属人的株式の注意点とリスク
①先代の認知症・死亡で議決権が止まる
先代に議決権を集中させた状態で、先代が認知症になると、株主総会で議決権を行使できなくなるおそれがあります。後見人が選ばれても、後見人は本人の財産を守る立場で判断するため、後継者の経営方針どおりに議決権が行使されるとは限りません。
先代が亡くなった場合に、属人的な扱いがどうなるかも、定款の定め方次第です。「株主Aが有する限り」と定めていれば、相続人に株式が移った時点で特別な扱いは終わると考えられますが、定め方があいまいだと、相続人の間で争いになります。
対策としては、次のような定めを最初から組み込んでおきます。
- 特別な扱いを受ける株主が死亡した場合、または後見が開始した場合には、属人的な扱いが終わることを定款に明記する
- 先代の議決権を集中させる期間をあらかじめ決め、承継の計画とあわせて廃止の時期を決めておく
②株主平等の原則との関係
属人的な定めは株主平等の原則の例外として認められたものですが、特定の株主を不当に害する目的で導入した場合には、定款変更の効力が争われる可能性があります。たとえば、対立する少数株主の配当や議決権だけを狙って奪うような内容は、慎重に考えるべきです。導入の目的(事業承継の円滑化など)と内容の合理性を、議事録などに残しておくことが大切です。
③登記に表れないことの裏表
属人的な定めは登記事項とされていないため、外部からは見えません。経営の内情を外に出さずに済む一方で、銀行や取引先、M&Aの買い手にとっては、登記簿や株主名簿だけでは議決権の実態が分からないということでもあります。定款を確認しない限り気づかれないため、後から「聞いていない」と問題になることがあります。
税務上の取扱い:評価と判定への影響
相続税評価
属人的な定めで議決権や配当を変えても、株式の財産的な価値が当然に変わるわけではありません。また、財産評価基本通達には、属人的な定めを前提にした評価方法の明文の規定はありません。種類株式については、国税庁が平成19年の文書回答で、議決権の有無を原則として考慮せずに評価する考え方を示していますが、属人的株式の評価にそのまま当てはまるかは、事案ごとに確認が必要です(国税庁「相続等により取得した種類株式の評価について」)。
同族株主の判定への影響
財産評価基本通達188では、議決権の割合によって同族株主かどうか、配当還元方式を使える少数株主かどうかを判定します(財産評価基本通達188)。属人的な定めで議決権の数を変えると、この判定に影響し得ます。議決権を意図的に操作して評価方式を変えるような設計は、税務上も認められにくいと考えるべきです。
配当の差と贈与の問題
配当について株主ごとに差をつける場合、株主間で経済的な利益が移っていると見られる設計は、贈与税などの観点から慎重な検討が必要です。配当の差は、議決権の配分とのバランスなど、合理的な理由を説明できる範囲にとどめてください。
また、事業承継税制(非上場株式の納税猶予)は、後継者の議決権割合などを要件としています。属人的な定めがある会社で制度を使う場合は、要件の判定への影響を事前に確認してください。制度の概要は事業承継税制の特例をご覧ください。自社株の評価の仕組みは自社株評価の方法で解説しています。
銀行・M&Aから見た属人的株式
銀行の見方
銀行は、融資の審査で代表者の経営権を確認します。株主名簿上は後継者が9割を持っていても、属人的な定めで先代が議決権の大半を持っているなら、実質的な経営者は先代です。後継者への代替わりや経営者保証の引継ぎを相談するときは、定款の内容を含めて正確に説明することが、信頼関係の前提になります。
M&Aでは売却前に廃止するのが通常
会社を売却する場合、買い手は株式を取得しても、属人的な定めが残っていれば議決権の実態が変わってしまいます。デューデリジェンスでは定款が必ず確認され、属人的な定めがあれば、クロージングまでに定款変更で廃止することが前提条件になるのが通常です。廃止は特別決議で行えますが、特別な扱いを受けている株主の協力が欠かせません。
また、属人的な定めがある会社では、株式は種類株式とみなされるため(109条3項)、組織再編などで種類株主総会が必要になるかどうかも確認が必要です。
まとめ
- 属人的株式は、非公開会社が定款で、議決権・配当・残余財産について株主ごとに異なる扱いを定める仕組み。人に着目する点と、登記されない点が種類株式と違う
- 導入には、総株主の半数以上・議決権の4分の3以上という厳しい決議が必要。株主が少ないうちに検討する
- 先代に議決権を残す、後継者に議決権を集める、といった柔軟な承継ができる一方、先代の認知症・死亡で議決権が止まるリスクがある。終わり方を定款に書いておく
- 相続税評価で属人的な定めを前提にした明文の規定はなく、同族株主の判定や事業承継税制の要件に影響し得る
- 銀行には実態を正確に説明し、M&Aの前には定めを廃止する段取りを決めておく
税理士法人クレフティでは、属人的株式・種類株式・持株会社などの承継方法の比較から、議決権の配分と株価・相続税の試算、銀行への説明まで、事業承継・M&A支援としてご相談をお受けしています。初回のご相談は無料で、担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士がご支援します。定款の作成は、司法書士・弁護士と連携して進めます。
