後継者がいない。子どもに継がせるつもりもない。そのとき、会社を外部に売却する(M&A)という選択肢が現実的になってきました。帝国データバンクの「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」によれば、2025年(速報値)に代表者が交代した企業のうち、M&Aほかによる交代は20.6%でした。
とはいえ、会社を売ることには、メリットとともに見落としやすいデメリットもあります。この記事では、外部に売却するメリット・デメリットを、親族内承継・社内承継・廃業と比べながら、公的データと中小企業庁の中小M&Aガイドラインをもとに整理します。
- 外部への売却の主なメリットは、後継者不在の解決、株式の売却代金という手取り、経営者保証の解除、雇用と取引の継続
- 主なデメリットは、社風や処遇の変化、売却後の責任(表明保証・補償)、手数料と時間、買い手との相性やトラブルのリスク
- 個人株主の株式譲渡益は、原則20.315%の申告分離課税。退職金との組み合わせで手取りが変わる
- 公的な支援も広がっている。令和6年度の事業承継・引継ぎ支援センターの第三者承継の成約は2,132件で過去最多
- 「売るか、継ぐか」は二者択一ではない。選択肢ごとの手取り・税金・従業員への影響を並べて比べることが出発点
承継の4つの選択肢を並べてみる
会社の将来には、大きく4つの道があります。
| 選択肢 | 会社はどうなるか | オーナーの手取り | 従業員・取引先 | 主な課題 |
|---|---|---|---|---|
| 親族内承継 | オーナー家に残る | 少ない(贈与・相続で渡すため) | 継続 | 後継者の意思と能力、相続税、ほかの相続人との公平 |
| 社内承継(役員・従業員) | 社内の人材に引き継ぐ | 後継者の資金力しだい | 継続しやすい | 買取資金、経営者保証 |
| 外部への売却(M&A) | 買い手のグループに入る | 株式の売却代金 | 原則継続。ただし方針が変わることも | 買い手探し、条件交渉、売却後の責任 |
| 廃業 | 清算して消滅 | 資産を売って借入を返した残り | 雇用・取引は終わる | 清算費用、従業員の再就職、取引先への影響 |
親族内承継のメリット・デメリットは子どもに継がせるメリット・デメリット、社内承継は役員・従業員への承継(MBO・EBO)、廃業との手残りの比較は廃業と売却の比較で詳しく解説しています。
外部に売却するメリット
1. 後継者がいなくても会社が残る
最大のメリットは、後継者がいなくても事業と雇用が続くことです。廃業すれば、長年の取引関係も従業員の職場も失われます。買い手にとっては、ゼロから事業をつくるより時間を買える価値があり、後継者不在の会社にも買い手がつく理由になっています。
公的な支援の実績も伸びています。中小企業基盤整備機構の事業評価報告書によれば、全国の事業承継・引継ぎ支援センターにおける令和6年度の第三者承継の成約件数は2,132件(前年比105%)で、過去最多でした。
2. オーナーに売却代金が入る
親族内承継では、株式は贈与や相続で渡すため、オーナーの手元にお金は残りません。外部への売却では、株式の売却代金がオーナーに入ります。
個人株主が株式を売った場合、譲渡益(売却代金−取得費−手数料など)に、所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%の合計20.315%がかかるのが原則です(申告分離課税)。役員退職金は退職所得として別の計算になり、売却の前に退職金を受け取るかどうかで手取りが変わります。詳しくは個人株主が株式を売ったときの税金と退職金スキームとはをご覧ください。
3. 経営者保証から解放される
会社の借入の個人保証は、売却後に買い手側の保証や信用に切り替えて、解除するのが一般的な目標です。売却は、オーナーが個人で抱えてきた保証のリスクを清算する機会でもあります。ただし、自動的に外れるわけではないため、最終契約で保証解除の段取りを決めておく必要があります。
4. 会社が成長する機会になる
資本力のある買い手のグループに入ることで、設備投資、人材採用、販路の拡大がしやすくなることがあります。買い手の信用力で、金融機関からの評価が上がる場合もあります。
外部に売却するデメリット・リスク
1. 社風や処遇が変わる
株式譲渡なら雇用契約はそのまま続きますが、買い手の方針で、組織、評価制度、働き方が変わることはありえます。古参の従業員が離れていく例もあります。どこまで約束してもらうかは交渉しだいで、雇用維持の期間などを最終契約に盛り込むかが論点になります。従業員への伝え方は従業員・取引先・銀行に売却をどう伝えるかで解説しています。
2. 売却後も責任が残る
株式譲渡契約では、売り手は会社の財務・税務・労務・契約などについて「表明保証」を行い、事実と違えば補償の責任を負うのが一般的です。未払残業代や過去の税務処理など、売り手自身が気づいていなかった問題で、売却後に補償を求められることがあります。売却代金の一部を後払いにする、オーナーが一定期間会社に残る、といった条件がつくこともあります。契約の要点は株式譲渡契約の要点、売却後のオーナーの関わり方は売却後、オーナーは会社に残るのかをご覧ください。
3. 手数料と時間がかかる
M&Aには、仲介会社・FAへの手数料、デューデリジェンスへの対応、契約交渉の時間がかかります。手数料の体系は会社によって違い、着手金や最低報酬の有無で総額が大きく変わります。準備から成約まで、一般に1年前後かそれ以上の期間を見込むことが多く、その間も本業を回し続けなければなりません。全体の流れはM&Aはどう進むのか、手数料の仕組みはM&Aの手数料で解説しています。
4. 買い手との相性、悪質な買い手のリスク
条件が合う買い手が見つからない、見つかっても経営方針が合わない、ということはあります。さらに、中小M&Aでは、会社の資金を吸い上げる、約束した経営者保証の切替えをしないといった悪質な買い手によるトラブルも問題になっています。
中小企業庁は2024年8月に「中小M&Aガイドライン(第3版)」を策定し、不適切な譲り受け側の存在、経営者保証に関するトラブル、M&A専門業者による過剰な営業・広告といった課題への対応を盛り込みました(中小企業庁「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」2025年5月)。
悪質な手口と身を守る方法は悪質な買い手・トラブル事例と身を守る方法、吸血鬼スキームの手口と見抜き方で詳しく取り上げています。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る売れる会社、売りにくい会社
外部への売却は、どの会社でもできるわけではありません。買い手は、次のような点を見ます。
| 買い手が評価する点 | 売りにくくなる要因 |
|---|---|
| 安定した収益力(正常な利益水準) | 赤字が続く、利益がオーナー個人の手腕に依存している |
| 整った決算書と管理体制 | 簿外債務、税務リスク、会社と個人の取引が混在している |
| 取引先の分散 | 売上が特定の取引先に集中している |
| 人材と組織 | キーマンがオーナーだけ |
| 株主構成の整理 | 株式が分散している、名義株がある |
株式が分散していると、買い手は全株式を取得できず、M&Aの障害になります。株主構成の整理は株式が分散しているリスク、売る前の準備は売る前の磨き上げをご覧ください。
銀行から見た「売れる会社」
決算書の見え方は、買い手の評価と金融機関の評価で共通する部分が多くあります。買い手の多くは、買収資金を融資でまかないます。買い手の金融機関は、対象会社の利益で何年で借入を返せるかを見ます。著書のモデルでは、債務償還年数((借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等))は10年以内が健全の目安です。対象会社の財務が健全なら、買い手は融資を受けやすく、それが価格や成約のしやすさにもつながります。
クレフティでは、年商5,000万円の専門職の会社を9,000万円で買収する案件で、政府系金融機関と地方銀行の協調融資(買収資金と統合後の運転資金)による資金調達を支援した事例があります。融資の考え方はM&Aの買収資金を融資で調達するにはで紹介しています。
相談先を選ぶときの目安
M&Aの支援者には、売り手と買い手の間に立つ仲介と、一方の立場で助言するFA(フィナンシャル・アドバイザー)があります。違いはM&A仲介とFAの違いで解説しています。
中小企業庁は、2021年8月にM&A支援機関登録制度を創設し、中小M&Aガイドラインの遵守を宣言した仲介業者・FAを登録・公表しています。2025年2月の中小企業庁の公表では、約2,800件を超える仲介業者・FAが登録されています。登録は最低限の目安であり、登録されていれば安心というわけではありません。制度の内容はM&A支援機関登録制度と業者の選び方をご覧ください。
相談先を比べるときは、次の点を確認します。
- 仲介かFAか、どちらの立場で関わるのか
- 手数料の体系(着手金、中間金、成功報酬、最低報酬)
- 契約期間、専任条項、契約終了後も報酬が発生するテール条項の内容
- 自社と同じ規模・業種の実績
- 売却後の税金や手取りまで説明してくれるか
まとめ
- 外部への売却は、後継者不在の解決、売却代金という手取り、経営者保証の解除、雇用と取引の継続が主なメリット
- デメリットは、社風の変化、売却後の表明保証・補償の責任、手数料と時間、買い手との相性やトラブル
- 個人株主の株式譲渡益は原則20.315%。退職金との組み合わせで手取りが変わる
- 公的支援は広がっており、令和6年度の事業承継・引継ぎ支援センターの第三者承継の成約は2,132件で過去最多
- 親族内承継・社内承継・廃業と手取り・税金・従業員への影響を並べて比べ、納得して選ぶ
クレフティの代表は、ベンチャー企業のM&A仲介会社で役員を務め、仲介の実務を知る立場にありました。また、大手FASで財務デューデリジェンスや株価算定を担当してきた公認会計士・税理士が在籍しています。売るか継ぐかの比較、株価の試算、手取り額のシミュレーション、仲介会社・FAの提案へのセカンドオピニオンまで、事業承継・M&A支援としてお手伝いしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが具体的な選択肢をご案内します。
