M&A仲介会社やFAの資料には、たいてい「成功報酬はレーマン方式」と書かれています。ところが、実際に請求された金額が、思っていたより大きかったという声は少なくありません。中小企業庁の資料にも、「成功報酬は売却代金の5%と聞いていたが、最低報酬金額が適用され、想定よりも高い手数料を払うことになった」という事例が載っています。
この記事では、M&Aの手数料がどう決まるのかを、中小M&Aガイドライン(第3版)の説明と計算例に沿って整理します。レーマン方式の計算、最低手数料、報酬の基準になる価額の違いを押さえると、「何%か」よりも「最終的にいくら払うのか」を確かめるべき理由が分かります。
- 手数料は、着手金・月額報酬・中間金・成功報酬の組み合わせ。成功報酬だけの業者もある
- 成功報酬はレーマン方式が多いが、掛ける対象(譲渡額・移動総資産・純資産)で金額が大きく変わる
- 小規模な案件では最低手数料が適用され、実質の料率が20%を超えることもある
- 比べるべきは料率ではなく、想定譲渡額で実際に払う絶対額
- 手数料は譲渡所得の計算で差し引けるのが一般的。手取りの試算に必ず入れる
M&Aの手数料の種類
ガイドラインは、仲介者・FAの手数料に一般的な法規制はなく、料金体系は各業者が決めるとしたうえで、よく見られる形を4つに整理しています。
| 種類 | 発生するタイミング | 注意点 |
|---|---|---|
| 着手金 | 主に仲介契約・FA契約の締結時 | 成約しなくても戻らないことが多い。成功報酬の内金になるかを確認 |
| 月額報酬(リテーナーフィー) | 毎月定額 | 契約期間が長引くと膨らむ。マッチングが長期化したら減免の協議も |
| 中間金(マイルストーンフィー) | 基本合意の締結時など、途中の一定時点 | 成功報酬に含まれるか(内金か)を確認 |
| 成功報酬 | クロージング時など案件の完了時 | 基準となる価額、料率、最低手数料で決まる |
着手金・月額報酬・中間金を取らない「完全成功報酬型」の業者も相当数あるとされます。また、交通費などの実費が別に請求されることもあります。ガイドラインは、マッチングに想定以上の期間がかかった場合、月額報酬制の業者は依頼者と協議し、適正な金額への減免などに応じることが望ましいともしています。
レーマン方式とは:階層ごとに料率を掛けて合計する
レーマン方式は、「基準となる価額」を階層に分け、各階層の部分にそれぞれの料率を掛けて合計する計算方法です。ガイドラインが示す一例は次のとおりです(あくまで一例で、階層・料率は業者ごとに異なります)。
| 基準となる価額 | 料率 |
|---|---|
| 5億円以下の部分 | 5% |
| 5億円超10億円以下の部分 | 4% |
| 10億円超50億円以下の部分 | 3% |
| 50億円超100億円以下の部分 | 2% |
| 100億円超の部分 | 1% |
階層ごとに料率が下がるため、価額全体に一律4%を掛けるのとは結果が違います。「8億円なら4%の区分だから3,200万円」とはなりません。
何に掛けるかで大きく変わる:譲渡額・移動総資産・純資産
料率が同じでも、基準となる価額に何を使うかで報酬は大きく変わります。ガイドラインは主な基準として次の3つを挙げ、報酬基準額に「移動総資産」が使われる場合は、「譲渡額」「純資産」の場合より報酬額が高くなると説明しています。
| 基準 | 中身 | 特徴 |
|---|---|---|
| 譲渡額(譲受額) | 株式の譲渡代金そのもの | 分かりやすい。買い手側は定額にすることもある |
| 移動総資産額 | 主に譲渡額に負債額を加えた額 | 借入金が多い会社ほど報酬が高くなる |
| 純資産額 | 資産と負債の差額(簿価なら決算書から計算) | 小規模な会社で使われることがある。債務超過なら別の基準になる |
たとえば、株式の譲渡額が2億円、会社の負債が3億円のケースを、上の料率表と最低手数料なしの前提で試算すると、次のようになります(税抜)。
| 基準 | 基準となる価額 | 成功報酬 |
|---|---|---|
| 譲渡額 | 2億円 | 2億円×5%=1,000万円 |
| 移動総資産 | 2億円+3億円=5億円 | 5億円×5%=2,500万円 |
同じ「レーマン方式5%」でも、2.5倍の差になります。借入の多い会社ほど、基準となる価額の確認が欠かせません。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る最低手数料:小規模な案件ほど効いてくる
譲り渡し側が小規模だと、レーマン方式で計算した成功報酬が小さくなります。そのため、最低手数料を設けている仲介者・FAは多い、とガイドラインは記載しています。第2版の改訂では、登録M&A支援機関の最低手数料の分布も紹介されました。
ガイドラインが示す4つの計算例(消費税10%込み)を並べると、最低手数料の影響がよく分かります。
| 計算例 | 譲渡額 | 条件の要点 | 手数料総額(税込) | 譲渡額に対する割合 |
|---|---|---|---|---|
| 事例1 | 1億円 | 着手金100万円+レーマン方式(譲渡額基準、最低500万円) | 660万円 | 約6.6% |
| 事例2 | 5億円 | 中間金50万円(内金)+レーマン方式(移動総資産10億円基準、最低1,000万円) | 4,950万円 | 約9.9% |
| 事例3 | 3,000万円 | 着手金50万円+月額10万円×4か月+一律4%(最低300万円) | 429万円 | 約14.3% |
| 事例4 | 5,000万円 | レーマン方式(譲渡額基準、最低1,000万円) | 1,100万円 | 22% |
※割合は筆者が計算例の数字から算出したものです。
事例4では、レーマン方式なら5,000万円×5%で250万円(税抜)のところ、最低手数料1,000万円(税抜)が適用され、譲渡額の2割を超える手数料になっています。事例2は、譲渡額は5億円でも負債5億円を加えた移動総資産10億円が基準になっているため、譲渡額に対する割合は1割近くになります。
契約前に確認すべきこと
ガイドラインが求める説明
ガイドライン第3版は、仲介者・FAに対し、契約前に重要事項を記載した書面を交付して説明するよう求めています。手数料に関しては、次の点が説明事項に含まれます。
- 報酬率、報酬基準額(譲渡額・純資産・移動総資産など)、最低手数料の額
- 報酬の発生タイミング(着手金・月額報酬・中間金・成功報酬)、既に払った手数料の控除
- 手数料以外に依頼者が払う費用
- (仲介者の場合)相手方から受け取る手数料の算定基準、最低手数料、支払時期
実務で確かめたい5つの点
- 想定譲渡額で、実際にいくら払うか:料率ではなく絶対額で比べる。ガイドラインも、単に階層ごとの報酬率のみではなく、最終的に支払う報酬の絶対額を確認することが重要としている
- 基準となる価額の定義:「移動総資産」の負債に何を含むか(借入金だけか、買掛金なども含むか)
- 最低手数料と、どの価額で切り替わるか
- 中途解約とテール条項:契約終了後の一定期間に成約した場合の報酬。ガイドラインはテール期間を最長でも2〜3年以内が目安とし、対象を、その業者が関与し、ネームクリアを経て紹介した相手に限定すべきとしている
- 報酬の対象となる取引:株式の譲渡代金だけか、役員退職金や不動産の売却代金も含めるのか
M&A支援機関登録制度のホームページでは、登録機関の手数料体系をデータベースで検索でき、2026年4月には手数料の簡易計算ツールも公開されています。登録制度についてはM&A支援機関登録制度と業者の選び方で解説します。
補助金の対象になるのは登録機関だけ
中小企業庁の「事業承継・M&A補助金(専門家活用枠)」では、FA業務・仲介業務の手数料について、あらかじめM&A支援機関登録制度に登録された業者によるもののみを補助対象としています。補助率や上限は公募回ごとに変わるため、最新の公募要領で確認してください。公的支援の全体像は事業承継・M&Aの補助金と公的支援をご覧ください。
手数料と税金・手取り
売り手(個人株主)の場合
個人が株式を売った場合、非上場株式の譲渡益には20.315%(所得税15%・住民税5%・復興特別所得税)がかかります。売却のために直接要した仲介手数料は、譲渡所得の計算で譲渡費用として差し引くのが一般的です(所得税法33条3項)。
事例4(譲渡額5,000万円、手数料1,100万円)で、取得費を仮に1,000万円とすると、譲渡益は2,900万円、税額は約589万円、手取りは約3,311万円です。手数料の差は、そのまま手取りの差になります。ただし、手数料の名目や支払時期によっては扱いが変わることがあるため、契約前に税理士に確認してください。手取り全体の試算は会社を売ったら手元にいくら残るかで取り上げます。
買い手(法人)の場合と銀行の見方
法人が株式を買う場合、仲介手数料などの購入のために要した費用は株式の取得価額に含めます(法人税法施行令119条1項1号)。費用にならず、資産として残ります。
買収資金を借りる場合、銀行は手数料も含めた資金使途を確認し、買収後に返済できるかを見ます。著書のモデルでは、債務償還年数「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」10年以内を健全の目安としています。手数料の支払で現預金が減れば、この指標も悪化します。買収資金の融資はM&A・買収資金の融資をご覧ください。
まとめ
- M&Aの手数料は着手金・月額報酬・中間金・成功報酬の組み合わせで、業者ごとに大きく違う
- レーマン方式は階層ごとの料率を合計する方式。掛ける対象が移動総資産だと、借入の多い会社ほど高くなる
- 小規模な案件では最低手数料が効き、ガイドラインの計算例でも手数料が譲渡額の22%になるケースがある
- 比べるべきは料率ではなく、想定譲渡額で実際に払う金額と、テール条項・中途解約の条件
- 手数料は譲渡所得の計算で差し引くのが一般的。手取りの試算に入れて判断する
仲介とFAの立場の違いはM&A仲介とFAの違い、契約書の確認点はM&A仲介・FA契約書のチェックポイントもあわせてご覧ください。クレフティでは事業承継・M&A支援として、提示された手数料と条件のセカンド・オピニオン、手取り額の試算、株価算定のご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士が対応します。
