外部への売却(M&A)

買収後の会計・経理の統合|決算期の変更、会計方針の統一、月次決算の早期化、のれんとグループ税務

会社を買った後、最初に「困った」と感じやすいのが会計・経理です。月次の数字が何か月も締まらない、勘定科目が親会社と違って比べられない、決算期がずれていてグループ全体の数字が出せない。中小企業の買収では、こうした問題がほぼ必ず起きます。

中小企業庁の「中小PMIガイドライン」(2022年3月)は、譲渡側が中小企業である場合、会計・財務の担当者が少なく、処理が適正に行われていないこともあるほか、月次決算が確定するのに数か月要しているケースもあると指摘しています。この記事では、ガイドラインの「会計・財務分野」の取組をもとに、買収後の会計・経理の統合の進め方を、決算期、会計方針、月次決算、内部統制、のれんと税務、銀行への説明の順に整理します。

この記事の結論
  • 株式譲渡では、買った会社の決算手続は原則そのまま残る。事業譲渡・合併では、買い手の決算に完全に統合する作業が必要
  • 決算期はそろえるのが望ましい(ガイドライン)。変更には定款変更(特別決議)と税務署などへの届出が必要
  • 会計方針は、主要な収益・費用の計上基準と引当金から先にそろえる。過去の誤りは是正が先
  • 月次決算は、決算確定日を決めて守ることから。会計システムの統一は、効果と移行コストを比べて判断する
  • のれんは、株式で買えば個別の決算書には出ず、税務上も償却できない。事業譲渡なら税務上5年で償却が原則

買い方によって、統合の作業は変わる

中小PMIガイドラインは、会計・財務の統合で行う取組がM&Aの形によって違うことに注意を促しています。

買い方会計・経理の扱い主な作業
株式譲渡譲渡側の法人格は維持され、単体の決算手続は原則としてそのまま決算期・会計方針・月次報告のルールをそろえ、グループとして管理する
事業譲渡・合併・吸収分割買い手(存続会社)に決算手続が完全に統合される数値確定のための仮決算、会計システムへのデータ登録、減価償却の方法や耐用年数の登録、所要の税務手続の引継ぎ

ガイドラインは、事業譲渡などでは、資産や負債の評価額などの数値だけでなく、減価償却の方法、耐用年数等の登録、所要の税務手続などの処理方法の引継ぎや変更が必要になるとし、譲り受けた事業の業績を管理したい場合は、データを区分管理できる体制を整えることが必要だとしています。

なお、ガイドラインのこの部分は、買い手・対象会社とも金融商品取引法監査や会計監査人監査の対象ではなく、会社法の連結計算書類の作成が義務付けられていないことを前提にしています。上場企業のグループに入る場合などは、適用すべき会計基準や内部統制の大幅な見直しが必要になることがあるため、公認会計士に相談してください。

決算期をそろえる

なぜそろえるのか

決算期がずれていると、グループ全体の数字を出すたびに、時期の違う決算を足し合わせることになります。ガイドラインは、連結ベースで決算を行う場合には、月ずれによる調整事項が少なくなるよう、決算月を統一することが望ましいとしています。PMIの課題管理表の例でも、会計・財務分野の優先度の高い課題として「決算期の12月への変更」が挙げられています。

決算期を変える手続

手続中身根拠
定款の変更事業年度の定めを変える株主総会の決議。特別決議(議決権の過半数を持つ株主が出席し、その3分の2以上の賛成)が必要会社法466条、309条2項11号
税務署などへの届出事業年度を変更した旨を、変更前と変更後の事業年度を記載して届け出る法人税法15条(遅滞なく)。都道府県・市町村にも届け出る
変更後最初の事業年度計算書類の期間は1年を超えられないが、決算期を変更した後の最初の事業年度は1年6か月まで認められる会社計算規則59条2項
税務上の事業年度会計期間が1年を超える場合は、税務上は1年ごとに区切って申告する法人税法13条1項

決算期を変えると、変更した年は「8か月決算」のような変則決算になります。消費税の課税期間、中間申告、役員報酬の改定時期、賞与の支給時期にも影響するため、税理士と一緒にスケジュールを組んでください。決算期の選び方そのものは決算期(事業年度末)の決め方で解説しています。

会計方針をそろえ、過去の誤りを直す

一般に公正妥当と認められる会計基準とは

会社法は、株式会社の会計は一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとしています(会社法431条)。法人税法も、所得の計算は一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算するとしています(法人税法22条4項)。この「一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)」は、中小企業の場合、「中小企業の会計に関する指針」や「中小企業の会計に関する基本要領」などが目安になります。会計と税務の関係は税務と会計の違い(GAAP)で解説しています。

まず過去の誤りを確かめる

ガイドラインは、譲渡側の過去の処理に誤りと思われる点がある場合、その性質や発生時期を明らかにし、必要に応じて譲渡側経営者とすり合わせて、誤りなのか、見解の相違にすぎないのかを判断する必要があるとしています。例えば在庫や債権の評価に問題があるなら、過去の販売状況や債務者の返済能力を確認して判断します。是正が必要なら、調整の仕訳と影響額を検討して速やかに直します。誤りの是正に費用がかかる場合は、表明保証条項などにより譲受側と譲渡側で負担を分担することがあるとも述べています。表明保証をめぐる判例は売却後のトラブルと判例をご覧ください。

ガイドラインの失敗例には、回収不能な債権を見つけていたのに貸倒引当金を追加計上せず放置し、後日、対象会社が債務超過寸前であることに気づかなかった、というものがあります。

そろえる順番

優先度項目理由
高主要な収益の計上基準(出荷基準・検収基準など)売上の時期がずれると、月次の業績が比べられない
高各種引当金(貸倒・賞与・退職給付)ガイドラインも、主要な収益・費用の計上基準や引当金は早期の統合が業績管理上望ましいとしている
中減価償却の方法と耐用年数、在庫の評価方法利益とEBITDAの見え方が変わる。税務の届出が必要な場合がある
中勘定科目と部門の区分グループ全体の集計とコスト比較のため
低細かな表示の方法業績の判断への影響が小さい
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月次決算・会計システムと不正の防止

決算確定日を決めて守る

ガイドラインは、決算(年次・月次)の早期化について、まず決算確定日を定め、その日までに確定することを徹底すること、間に合わない場合は買い手から臨時で人員を派遣するなどの応急対応を行い、遅れの原因を特定して、サポート体制の構築や決算作業の担当替えを講じることを挙げています。月次決算の早期化のために、在庫金額などを概算で行うことも検討してよいとしつつ、材料費が高騰している状況などでは概算と実態が大きくずれることがあるため、合理的な見積り方法を使うよう注意しています。

失敗例としては、譲渡側の月次決算の締めが遅いのを放置していたところ、業績悪化に気づくまでに時間がかかり、気づいたときには深刻な赤字決算になっていた例が紹介されています。

会計システムは「比べて」決める

対象会社と買い手の会計システムが違うと、必要なデータや帳票がすぐに出せず、買い手からのサポートもしにくくなります。ガイドラインは、譲渡側のシステムの特性を理解したうえで、変更による利便性の向上と、移行に伴うコストを比較衡量し、必要であれば譲受側のシステムに変更することを検討するとしています。すぐに統一できなくても、勘定科目の対応表を作り、毎月同じ形式で報告してもらうだけで、管理は大きく改善します。

管理会計とグループ内取引

ガイドラインは、業績管理に必要な情報(売上・営業利益・資金状況など)を選び、報告の単位(日次・月次)と期限を決めること、PMIの初期は事業を理解するためにも細かな単位で高い頻度の報告を求めることが望ましいことを挙げています。また、買い手と対象会社の間で取引をする場合は、どちらかに有利な価格にせず、市場価格等の正常取引価格に基づき取引することが、双方の業績を判断するうえで有益なことが多いとしています。

不正を防ぐ体制をつくる

ガイドラインの失敗例には、決算・財務の担当者を長期間固定し、支払も一任し続けていたところ、資金の横領を発見できず、多大な損失を被った例があります。中小企業では、経理を一人の担当者や社長の家族が長年担っていることが多く、買収後に最初に手を入れるべき部分です。ガイドラインが挙げる対策の例は次のとおりです。

  • 一定金額以上の入出金を行う場合の、買い手への報告
  • 入出金の状況や現預金の残高(実際の在高)の、買い手への定期的な報告
  • 一定金額以上の出金を行う場合の稟議
  • 資金管理担当者の定期的な異動
  • 在庫の棚卸を複数人で数え、上長がサンプルで数え直す

ガイドラインは、会計・財務関係の規程は就業規則などと違って作成が義務付けられているものではないとしつつ、新しいルールを周知・徹底するために、必要に応じて規程やマニュアルを作ることを検討するよう求めています。

のれんとグループの税務

のれんの会計と税務

買い方会計税務
株式譲渡親会社の個別の決算書には子会社株式を取得価額で計上。のれんは連結財務諸表を作る場合に表れる株式の取得価額に含まれ、償却できない
事業譲渡対価が受け入れた資産・負債の時価を超える部分をのれんとして計上し、規則的に償却資産調整勘定として、原則5年(60か月)で償却(法人税法62条の8)
子会社を合併合併により、のれんが個別の決算書に表れることがある適格合併か非適格合併かで扱いが違う

中小企業には連結計算書類の作成義務はありませんが、銀行はグループ全体の数字を見たいので、親会社と子会社の決算を合算した表を自主的に作ると説明がしやすくなります。のれんの扱いはのれんの会計と税務で詳しく解説しています。

100%グループの税務

株式を100%取得すると、グループ法人税制が適用されます。グループ内の一定の資産の譲渡損益の繰延べ、グループ内の寄附金の損金不算入と受贈益の益金不算入、完全子法人株式等からの配当の全額益金不算入などです。経営指導料、賃料、貸付金の利息をグループ内で動かすときは、上記の「正常取引価格」の考え方で金額の根拠を残してください。

銀行への説明

会計の統合は、銀行の評価にも直結します。決算期を変えた年は変則決算になり、前期との比較がしにくくなります。会計方針をそろえて引当金を積み増せば、その期の利益は下がります。どちらも、事情を知らない銀行からは「業績が悪化した」と見えかねません。

著書のモデルでは、債務償還年数「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」10年以内を健全の目安としています。統合で一時的に利益が下がる期は、変更の内容と影響額、正常化した場合の数字を添えて説明すると、評価のぶれを抑えられます。決算書を銀行に出す前の準備は銀行に出す前の決算書のチェック、買収後の借入の整理は買収後の銀行取引の整理をご覧ください。

まとめ

  • 株式譲渡なら単体の決算は残り、事業譲渡・合併なら買い手の決算に完全統合する
  • 決算期はそろえるのが望ましい。定款変更(特別決議)と届出、変則決算の影響を確認する
  • 会計方針は収益の計上基準と引当金から。過去の誤りは是正が先で、費用は表明保証で分担することもある
  • 月次決算は決算確定日を決めて守る。システム統一は効果とコストを比べる
  • 経理の一人担当・長期固定は、報告・稟議・異動のルールで見直す
  • のれんは、株式で買えば税務上償却できない。グループ法人税制と銀行への説明も含めて統合する

クレフティでは事業承継・M&A支援として、買収後の決算期変更や会計方針の統一、月次決算の仕組みづくり、グループの税務の検討、銀行への説明資料の作成をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。

よくある質問

買収した会社の決算期は、親会社に合わせる必要がありますか?
法律上の義務はありません。ただ、中小PMIガイドラインは、連結ベースで決算を行う場合には、月ずれによる調整事項が少なくなるよう決算月を統一することが望ましいとしています。決算期を変えるには、定款の変更(株主総会の特別決議)と、税務署などへの届出が必要です。変更後の最初の事業年度は変則的な期間になるため、銀行への説明も準備しておきます。
子会社の会計処理を親会社と同じにしないといけませんか?
それぞれの会社が一般に公正妥当と認められる会計基準に従っていれば、処理が違うこと自体が直ちに問題になるわけではありません。ただ、業績を同じ物差しで比べるためには、主要な収益・費用の計上基準や引当金などをそろえることが望ましく、中小PMIガイドラインもこれらは早期に統合することが業績管理上望ましいとしています。過去の処理に誤りがあれば、是正が先です。
株式で会社を買った場合、のれんは償却できますか?
株式を買った場合、親会社の決算書には子会社株式が取得価額で計上され、のれんは個別の決算書には出てきません。のれんが会計上表れるのは、連結財務諸表を作る場合や、子会社を合併した場合です。税務上は、株式の購入代金に含まれるのれん相当額を償却することはできません。事業譲渡で買った場合は、税務上の資産調整勘定として5年(60か月)で償却するのが原則です。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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