「会社を売ったら、税金はいくらかかるのか」。M&Aを考えるオーナー経営者が、最初に知りたいことの一つです。個人株主が株式を売った場合の税金は、譲渡益に対する20.315%の申告分離課税が基本で、給与や事業の所得とは別に計算されます。
ただし、「売却代金×20.315%」ではありません。課税されるのは売却代金から取得費と譲渡費用を引いた譲渡益で、その年の所得が極めて高い場合の追加負担や、親族・自分の会社に売る場合の時価の問題もあります。この記事では、中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」、国税庁・財務省の資料、公表された判例・裁決をもとに、個人株主が株式を売ったときの税金を整理します。
- 非上場株式の譲渡益には、所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%=20.315%。2027年分以後は所得税の一部が防衛特別所得税に置き換わるが、合計の税率は変わらない
- 譲渡益=売却代金−(取得費+譲渡費用)。取得費が分からなければ売却代金の5%を使える
- 所得が極めて高い年は追加負担がある。2027年分以後は特別控除額が1億6,500万円、税率30%に見直される
- 法人や親族に安く売ると、時価との差額に課税されることがある。非上場株式の時価は売る人の立場で判断する(最高裁令和2年3月24日判決)
税率20.315%の内訳と、2027年以後の扱い
非上場株式(一般株式等)の譲渡益は、ほかの所得と分けて税額を計算する申告分離課税です(租税特別措置法37条の10)。中小M&Aガイドラインも、株式譲渡の場合は譲渡益に対する分離課税(税率20.315%)で課税関係が終了すると説明しています。
| 税目 | 2026年分まで | 2027年分以後 |
|---|---|---|
| 所得税 | 15% | 15% |
| 復興特別所得税 | 0.315%(所得税額の2.1%) | 0.165%(所得税額の1.1%) |
| 防衛特別所得税 | - | 0.15%(所得税額の1%) |
| 住民税 | 5% | 5% |
| 合計 | 20.315% | 20.315% |
令和8年度税制改正で、2027年(令和9年)1月から防衛特別所得税(基準所得税額の1%)が創設され、復興特別所得税の税率は2.1%から1.1%に下がり、課税期間が2047年(令和29年)まで延長されました。国税庁も、改正の前後で合計の税率は変わらないとしています。
一方、事業譲渡で会社が事業を売り、その代金を配当や役員報酬で受け取る場合は、総合課税(ガイドラインの説明では税率15.105%〜55.945%)になります。手法による違いは事業譲渡と株式譲渡の違いで比較しています。
譲渡益の計算:取得費と譲渡費用
譲渡益は次のように計算します。
取得費
取得費は、株式を手に入れるために払った金額です。
| 取得の経緯 | 取得費 |
|---|---|
| 設立時に出資・増資を引き受けた | 払い込んだ金額 |
| ほかの株主から買い取った | 買い取った金額(手数料を含む) |
| 相続・贈与で取得した | 被相続人・贈与者の取得費をそのまま引き継ぐ(所得税法60条) |
| 取得費が分からない、または低い | 売却代金の5%(概算取得費) |
創業者が資本金1,000万円で設立した会社を10億円で売るなら、取得費は1,000万円です。売却代金の5%(5,000万円)の方が大きいので、この場合は概算取得費を使うほうが有利になります。
相続で取得した株式を、相続税の申告期限の翌日以後3年以内に売った場合は、支払った相続税の一部を取得費に加算できる特例があります(租税特別措置法39条)。発行会社に売る場合の特例とあわせて、相続した株式を会社に売る特例で詳しく解説します。
譲渡費用
譲渡費用は、売るために直接かかった費用です。M&A仲介会社やFAに売り手として払った成功報酬、株式譲渡契約の作成を依頼した弁護士の費用などが代表例です。一方、売却とは関係のない日常の顧問料や、買い手が負担するDDの費用は含まれません。仲介手数料の仕組みはM&Aの手数料をご覧ください。
損失との通算
非上場株式の譲渡損失は、ほかの一般株式等の譲渡益とは通算できますが、上場株式等の譲渡益や配当、給与などのほかの所得とは通算できません。また、原則として翌年以後への繰越しもできません。
所得が極めて高い年の追加負担
令和5年度税制改正で、極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置(租税特別措置法41条の19、特定の基準所得金額の課税の特例)が設けられ、2025年分から適用されています。株式の譲渡益が大きい年は、この措置の対象になることがあります。
「基準所得金額」には、総所得金額のほか、退職所得金額や、一般株式等に係る譲渡所得等の金額も含まれます。令和8年度税制改正で、この措置は2027年分の所得から次のように見直されます。
| 項目 | 2025年分・2026年分 | 2027年分以後 |
|---|---|---|
| 特別控除額 | 3億3,000万円 | 1億6,500万円 |
| 税率 | 22.5% | 30% |
ほかに所得がなく、株式の譲渡益だけがある単純な例で、所得税15%を基準所得税額とみなして概算すると、追加負担が生じ始める譲渡益の水準は、2026年分までは約9億9,000万円、2027年分以後は約3億3,000万円になります。たとえば譲渡益10億円なら、2027年分以後は(10億円−1億6,500万円)×30%−1億5,000万円=約1億円の所得税が加算される計算です。
これは仕組みを示すための概算で、実際の計算では復興特別所得税の扱いやほかの所得、各種控除によって金額が変わります。売却の時期を決める前に、税理士と試算しておくことをおすすめします。詳しくは株式売却益と高所得者の追加課税(試算)で取り上げます。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る法人・親族に安く売るときの「時価」:判例と裁決
M&Aで第三者に売る場合は、交渉で決まった価格が時価と考えられます。問題になるのは、自分の会社(資産管理会社など)や親族、役員に売る場合です。
所得税法59条:法人への低額譲渡
個人が法人に、時価の2分の1に満たない価額で資産を譲渡した場合は、時価で譲渡したものとみなして譲渡所得を計算します(所得税法59条1項2号、所得税法施行令169条)。国税不服審判所の平成16年3月8日裁決(土地の事案、裁決事例集No.67)は、低額譲渡に当たるかどうかは時価の2分の1に満たないかどうかで判断すべきで、当事者の意図や恣意性の有無を問わないとしています。
最高裁令和2年3月24日判決:時価は「売る人」の立場で判断する
非上場株式の時価について、国税庁は所得税基本通達59-6で、相続税の財産評価基本通達の例によることを原則としつつ、同族株主に当たるかどうかは譲渡直前の議決権の数で判定するなどの条件を定めています。
最高裁判所第三小法廷令和2年3月24日判決(平成30年(行ヒ)第422号)の事案では、大会社の代表取締役だった株主が、保有株式の一部を1株75円(配当還元方式で計算した額)で関係会社に売りました。譲渡直前の議決権割合は、本人が15.88%、同族関係者と合わせて22.79%でした。税務署は、類似業種比準方式による価額(異議決定後は1株2,505円)が時価だとして、低額譲渡に当たると判断しました。
原審は、評価通達の文言どおり、株式を取得した側(関係会社)の議決権割合で判定し、配当還元方式でよいとしました。これに対し最高裁は、譲渡所得課税は譲渡人の下で生じた増加益に課税するものだから、譲渡人の会社への支配力の程度に応じた評価方法を用いるべきだとして、原判決を破棄し、高等裁判所に差し戻しました(裁判官全員一致)。
最高裁判所第三小法廷 令和2年3月24日判決・平成30年(行ヒ)第422号 所得税更正処分取消等請求事件。裁判所ウェブサイトの判決原文(PDF)
令和7年9月10日裁決:支配株主と対立していても通達どおり
国税不服審判所の令和7年9月10日裁決は、発行会社の支配株主と厳しく対立していたため支配力が制限されていたと株主が主張した事案で、そうした事情があっても、所得税基本通達59-6の定めに従った評価方法で時価を適正に算定できない「特別の事情」とは認められないと判断しました。評価通達が同族株主の範囲を形式的・画一的に定めているのは、恣意性の排除と課税の公平の観点から合理的だ、という理由です。裁決は、上記の最高裁令和2年3月24日判決などを参考判決に挙げています。
国税不服審判所 令和7年9月10日裁決(令和3年分の所得税等の更正処分等、棄却)。公表裁決事例
この2つから分かるのは、親族間・同族会社間の株式の売買では、売る人がどの株主区分に当たるかで時価が大きく変わり、主観的な事情は考慮されにくいということです。個人間の売買では、時価より著しく低い価額で買った人に贈与税がかかることもあります(相続税法7条)。後継者への売却の課税は後継者に安く株を売ったときの課税で、時価の考え方は株式の買取りで税務上問題にならない価格で解説します。
申告と、税金以外に影響するもの
株式の譲渡所得は、売った年の翌年2月16日から3月15日までに確定申告します。代金を分割で受け取る場合でも、原則として株式を引き渡した年に全額が収入になる点に注意が必要です(契約の効力発生日の年で申告することも認められています)。
ガイドラインは、M&Aで経営者個人に所得が生じた場合、所得税・住民税のほか、会社の社会保険に加入していないときは国民健康保険料または後期高齢者医療保険料にも影響があるとしています。売却した翌年の保険料が大きく上がることがあるため、資金計画に入れておきましょう。
- 取得費の記録(設立時の払込み、増資、買取り、相続)は残っているか
- 仲介手数料などの譲渡費用の契約書・領収書をそろえたか
- 売却代金の一部を役員退職金で受け取る設計にするか(退職金スキーム)
- 売却する年の所得の合計で、極めて高い所得への追加負担がかからないか
- 親族・同族会社への譲渡が含まれるなら、時価の算定根拠はあるか
- 翌年の住民税・保険料の資金を確保しているか
まとめ
- 非上場株式の譲渡益は、所得税15%・復興特別所得税・住民税5%の合計20.315%の申告分離課税。2027年分以後も合計税率は同じ
- 譲渡益=売却代金−(取得費+譲渡費用)。取得費が分からなければ売却代金の5%を使える
- 所得が極めて高い年は追加負担があり、2027年分以後は特別控除額1億6,500万円・税率30%に見直される
- 法人に時価の2分の1未満で売ると時価で譲渡したとみなされる。非上場株式の時価は売る人の議決権割合で判断する(最高裁令和2年3月24日判決)
- 支配株主と対立していたという事情だけでは、通達と違う評価は認められなかった(令和7年9月10日裁決)
会社を売ったときの手取りは、税率だけでなく、取得費、退職金との組み合わせ、売却の時期によって変わります。クレフティでは事業承継・M&A支援として、売却前の株価の目安づくりと手取り額の試算、親族・同族会社間の株式の時価の検討をお手伝いしています。初回のご相談は無料で、担当者がお話を伺います。手取りの全体像は会社を売ったら手元にいくら残るかもご覧ください。
