企業価値と株価

株式の買取りで税務上問題にならない価格|所得税法・法人税法の「時価」、所得税基本通達59-6と最高裁令和2年3月24日判決

「辞めた役員が持っている株を、会社で買い取りたい」「叔父の持ち株を、社長個人か持株会社で買い集めたい」。株式を集めて経営を安定させたいとき、必ず問題になるのがいくらで買えば税務上問題にならないかです。

非上場株式には市場価格がありません。安く買えば売り手や買い手に思わぬ課税が生じ、高く買えば差額が寄附金や贈与と見られることがあります。しかも、所得税・法人税・贈与税で「時価」の考え方が少しずつ違います。

この記事では、株式の買取りで税務上問題にならない価格を、買い手と売り手の組み合わせごとに整理します。所得税基本通達59-6、法人税基本通達9-1-14の条件を国税庁の通達本文で確認し、最高裁令和2年3月24日判決をはじめとする判例・裁決を、裁判所と国税不服審判所の公表資料で紹介します。

この記事の結論
  • 「税務上問題にならない価格」は、誰が誰から買うかで基準が違う。個人どうしは贈与税(相続税評価額が基準)、個人から法人へは所得税法59条(時価の2分の1未満でみなし譲渡)、法人どうしは法人税法の時価
  • 個人が法人に売るときの時価は、所得税基本通達59-6により、売り手の譲渡直前の議決権で株主区分を判定、中心的な同族株主なら小会社として評価、土地・上場株式は譲渡時の価額、法人税額等相当額は控除しない
  • 最高裁令和2年3月24日判決は、譲受人ではなく譲渡人の支配力で評価すべきとした
  • 発行会社が自己株式として買い取る場合も、売り手には59条が適用され、他の株主へのみなし贈与(相続税法9条)の問題も生じ得る
  • 第三者との交渉で決まった価格は、経済的合理性があれば時価と認められる(平成21年3月3日裁決)。親族・同族関係者との和解価格は認められなかった例がある(令和7年9月10日裁決)

誰が誰から買うかで、基準が変わる

まず、買い手と売り手の組み合わせごとに、価格が時価からずれたときの課税を整理します。

売り手 → 買い手時価より安い場合時価より高い場合時価の基準
個人 → 個人(社長個人が買う)著しく低い価額なら、買い手に差額の贈与税(相続税法7条)。売り手は時価の2分の1未満で譲渡損が出ても、その損失はなかったものとされる差額は売り手への贈与と見られることがある株式は相続税評価額(国税庁タックスアンサーNo.4423)
個人 → 法人(持株会社・発行会社が買う)時価の2分の1未満なら、売り手は時価で譲渡したとみなされる(所得税法59条1項2号、所得税法施行令169条)。買い手の法人には受贈益(発行会社の自己株式取得を除く)差額は売り手の一時所得や給与・配当と見られ、法人側は寄附金や役員給与とされることがある所得税基本通達59-6
法人 → 個人差額は買い手の給与・一時所得など。売り手の法人は寄附金や役員給与差額は法人の受贈益など法人税基本通達(4-1-5・4-1-6、9-1-13・9-1-14)
法人 → 法人差額は売り手の寄附金、買い手の受贈益(法人税法37条、22条2項)同じく寄附金・受贈益の問題同上

時価の2分の1以上で法人に売れば、所得税法59条のみなし譲渡は適用されません。ただし、その取引が同族会社の行為計算の否認(所得税法157条)に当たる場合は、時価で計算されることがあると、所得税基本通達59-3は注意しています。また、2分の1以上であっても、買い手の法人には時価との差額の受贈益が生じます。2分の1は「売り手のみなし譲渡」の線であって、「問題にならない価格」の線ではない点に注意してください。

所得税法の時価:所得税基本通達59-6

基本の考え方

個人が法人に株式を売るときの「その時における価額」について、所得税基本通達59-6は、売買実例がある場合はその価額、類似会社の株価がある場合はそれに比準した価額などを使い(23〜35共-9に準じる)、それがない場合は、次の4つの条件のもとで財産評価基本通達の例により算定するとしています(国税庁:法第59条関係の通達)。

条件内容相続税評価との違い
(1) 株主区分の判定同族株主かどうかなどを、株式を譲渡した個人の譲渡直前の議決権で判定する相続税評価は、取得者の取得後の議決権で判定する
(2) 会社規模譲渡した個人が中心的な同族株主に当たるときは、発行会社を常に小会社として評価する大会社・中会社なら類似業種比準価額の比重が大きい
(3) 土地・上場株式純資産価額の計算で、土地(借地権などを含む)と上場有価証券は譲渡の時の価額による相続税評価は路線価などによる
(4) 法人税額等相当額純資産価額の計算で、評価差額に対する法人税額等相当額を控除しない相続税評価では控除する

つまり、所得税の時価は、相続税評価の物差しを借りながら、相続税評価額より高めに出るように修正されています。

計算例

中心的な同族株主である社長が、大会社に区分される自社の株式を持株会社に売る場合を考えます(数字は説明のための仮定)。

項目1株当たり
類似業種比準価額2,000円
純資産価額(相続税評価。路線価・法人税額等相当額控除後)5,000円
純資産価額(土地を時価に置き換え、法人税額等相当額を控除しない)8,000円
相続税評価額(大会社:類似業種比準価額)2,000円
59-6による時価(小会社:8,000円と、2,000円×0.5+8,000円×0.5=5,000円の低いほう)5,000円

この場合、相続税評価額の2,000円で売ると、時価5,000円の2分の1(2,500円)未満なので、5,000円で売ったものとみなして譲渡所得が計算されます。買い手の持株会社にも、時価との差額3,000円×株数の受贈益が生じます。

最高裁令和2年3月24日判決(タキゲン事件)

最高裁判所第三小法廷 令和2年3月24日判決(平成30年(行ヒ)第422号、所得税更正処分取消等請求事件)は、この条件(1)の意味が争われた事件です(裁判所ウェブサイト)。

判決によれば、大会社の代表取締役が、保有株式72万5,000株を1株75円(配当還元方式による額)で法人に譲渡しました。譲渡直前の代表者と同族関係者の議決権は22.79%、譲渡後の譲受人の議決権は7.88%でした。税務署は、類似業種比準方式による時価(1株2,990円、異議申立て後に2,505円に減額)の2分の1未満の低額譲渡だとして課税しました。原審の東京高裁は、通達の文言どおり、少数株主かどうかは取得者(譲受人)の議決権で判定すべきだとして、配当還元価額を時価と認めていました。

最高裁は、譲渡所得課税は、資産が所有者の手を離れる機会に、譲渡人のもとで生じていた値上がり益を清算して課税するものであり、譲受人の会社への支配力は、その値上がり益の額に影響しないと指摘しました。そして、相続税の場面を前提とする評価通達をそのまま使うことはできず、譲渡人の支配力の程度に応じた評価方法を用いるべきだとして、原判決を破棄し、東京高裁に差し戻しました。

国税庁は判決を受けて、令和2年8月28日付で所得税基本通達59-6を改正し、株主区分を「株式を譲渡又は贈与した個人の譲渡又は贈与直前の議決権」で判定することを明確にしました。国税庁は、これまでの取扱いに変更を生じさせるものではないと説明しています(国税庁:通達の一部改正について)。

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法人税法の時価:法人税基本通達9-1-13・9-1-14

法人が株式を売買するときは、法人税法の時価を使います。法人が低い価額で有価証券を譲渡した場合の対価の算定には、法人税基本通達4-1-5・4-1-6の取扱いを準用するとされ(同2-3-4)、その内容は、評価損の場面の9-1-13・9-1-14と同じ構造です。

9-1-13は、市場価格のない株式の価額を、①売買実例があれば適正と認められる価額、②公開途上の株式は公募価格等、③類似法人の株価があればそれに比準した価額、④それ以外は純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額、とします。9-1-14は、④の場面で財産評価基本通達の例によって算定した価額を、課税上弊害がない限り、中心的な同族株主なら小会社として評価、土地・上場株式は時価、法人税額等相当額は控除しない、という条件で認めています(国税庁:法人税基本通達 第3款)。所得税基本通達59-6とほぼ同じ条件です。

発行会社が自己株式として買い取る場合

会社が株主から自社株を買い取る場合(自己株式の取得)は、さらに次の点に注意します。

  • 売り手の課税:買取代金のうち、資本金等の額に対応する部分を超える金額はみなし配当(総合課税)、残りが株式の譲渡所得になります。発行会社も「法人」なので、時価の2分の1未満なら所得税法59条のみなし譲渡の対象です。相続で取得した株式を一定期間内に発行会社に売る場合は、みなし配当課税をしない特例があります(租税特別措置法9条の7)
  • 他の株主への贈与:同族会社に対し、時価より著しく低い価額の対価で財産を譲渡すると、会社の株式の価値が増えた部分は、ほかの株主が譲渡した人から贈与を受けたものとして扱われます(相続税法9条、相続税法基本通達9-2)。安く買い取った結果、残った親族株主に贈与税がかかることがあります
  • 会社法の手続:特定の株主から取得するには、株主総会の特別決議が必要で、ほかの株主には自分も売主に加えるよう求める権利があります(会社法160条、309条2項2号)。取得の対価は分配可能額の範囲内でなければなりません(同法461条)

手続と課税の全体像は株主からの株式の買取り、みなし配当は自己株式の買取りとみなし配当で解説しています。

判例・裁決で見る「時価」の判断

判決・裁決事案結論と示唆
最高裁 令和2年3月24日判決大会社の代表者が配当還元価額(1株75円)で法人に譲渡譲渡人の支配力で評価すべき。譲受人の立場で安い評価方法を選ぶことはできない
国税不服審判所 令和7年9月10日裁決支配株主と対立していた同族株主が、訴訟上の和解で決めた価格で、親族が経営する会社に譲渡和解価格は時価とはいえない。対立の事情があっても59-6で小会社として評価するのが相当(裁決)
国税不服審判所 平成16年3月8日裁決(裁決事例集No.67・350頁)法人への土地の譲渡。恣意的に価格を決めたものではないと主張低額譲渡かどうかは時価の2分の1未満かで判断し、当事者の意図や恣意性の有無を問わない(要旨)
国税不服審判所 平成21年3月3日裁決(裁決事例集No.77・194頁)同族会社が、同族関係のない株主から1株15,800円で自己株式を取得。会社は時価より高い部分は寄附金だと主張第三者との再三の交渉で決まり、直前の取引価格(13,025円)にも近く、経済的合理性があるとして時価と認定。みなし配当の源泉徴収漏れを認めた(裁決)
国税不服審判所 昭和54年10月15日裁決(裁決事例集No.19・73頁)法人が関連会社から取得した株式の受贈益の算定ほかに時価を算定する具体的な方法がない場合、評価通達の例に準じた類似業種比準方式と純資産価額方式の併用による算定には合理性がある(要旨)
国税不服審判所 昭和55年11月19日裁決(裁決事例集No.21・89頁)主な資産が土地である子会社の株式を特殊関係法人に譲渡。土地を路線価で評価土地は通常の取引価額で評価して純資産価額方式に準じて算定した価額が時価(同上)

判例・裁決から読み取れること

  1. 「安く評価できる方法」を選ぶのは難しい:配当還元方式は、少数株主が取得する場面を前提とした評価方法です。支配的な株主が売る場面で使えば、最高裁判決のとおり否定されます
  2. 当事者の事情は考慮されにくい:対立していた、和解で決めた、恣意的ではなかった、といった事情は、時価の判断を変える理由として認められにくい傾向があります
  3. 第三者との真摯な交渉は尊重される:同族関係のない相手と交渉を重ねた記録があり、ほかの取引価格や純資産と整合していれば、通達の評価額と違っても時価と認められることがあります
  4. 土地の含み益は時価で見る:所得税・法人税の時価では、土地は譲渡時の価額で評価するのが原則です

価格を決めるときの実務の手順

  1. 組み合わせを確認する:売り手・買い手が個人か法人か、同族関係者か第三者か
  2. 3つの価格を並べる:相続税評価額、所得税基本通達59-6(法人税基本通達9-1-14)による時価、第三者間で想定される価格
  3. 2分の1基準だけで判断しない:売り手のみなし譲渡を避けても、買い手の受贈益、ほかの株主のみなし贈与が残ることがある
  4. 根拠を残す:株価算定書、交渉の経緯、取締役会・株主総会の議事録
  5. 資金と手続を確認する:自己株式なら分配可能額と特別決議。買い手が個人なら買取資金、法人なら借入れと銀行への説明

相続税評価額・税務上の時価・M&A価格の違いは同じ株に3つの値段がつく理由、後継者に安く売る場合は後継者に安く株を売ったときの課税、自社株評価の基本は自社株評価の方法をご覧ください。

まとめ

  • 株式の買取りで「税務上問題にならない価格」は、誰が誰から買うかで基準が違う
  • 個人から法人への譲渡は、所得税基本通達59-6の4つの条件で時価を出す。2分の1未満ならみなし譲渡。2分の1以上でも買い手の受贈益は残る
  • 最高裁令和2年3月24日判決は、譲渡人の支配力で評価すべきとした
  • 自己株式の買取りは、みなし配当、他の株主へのみなし贈与、会社法の手続まで確認する
  • 第三者との交渉で決まり経済的合理性がある価格は時価と認められやすく、同族関係者間の和解価格は認められなかった例がある

クレフティでは、株式の買取価格の算定(相続税評価額と所得税・法人税の時価の比較)、自己株式取得の手続と課税の検討、買取資金の調達まで、事業承継・M&A支援の中でご相談をお受けしています。大手FASでバリュエーションを担当してきた公認会計士・税理士も在籍しています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。

よくある質問

株主から自社株を買い取るとき、相続税評価額で買えば問題ありませんか?
相手と買い手によって違います。個人どうしの売買なら、贈与税の判定は原則として相続税評価額で行います。しかし、個人が法人(発行会社を含む)に売る場合の所得税の時価は、所得税基本通達59-6により、売り手の議決権で株主区分を判定し、中心的な同族株主なら小会社として評価するなどの条件がつくため、相続税評価額より高くなることがあります。時価の2分の1未満で売ると、時価で売ったものとみなされます。
最高裁令和2年3月24日判決は、何を判断したのですか?
大会社の代表者が、配当還元方式で算定した1株75円で株式を法人に譲渡した事案です。原審は、譲受人が少数株主に当たるとして配当還元価額を時価と認めましたが、最高裁は、譲渡所得課税は譲渡人のもとで生じた値上がり益に課税するものだから、譲受人ではなく譲渡人の会社への支配力に応じて評価すべきだとして、原判決を破棄し差し戻しました。国税庁は同年8月に所得税基本通達59-6を改正し、取扱いを明確にしました。
第三者の株主と交渉して決めた価格なら、時価より高くても問題ありませんか?
利害関係のない第三者との交渉で決まり、価格に経済的合理性があれば、税務上も正常な取引の価格として扱われるのが通常です。平成21年3月3日裁決は、会社が同族関係のない株主から自己株式を買い取った価格について、交渉の経緯や直前の取引価格などから経済的合理性を認め、時価と判断しました。交渉の記録を残しておくことが大切です。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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