株主が分散した会社で、少数株主や退職した役員から株式を買い取るとき、「社長個人が買うか、会社が買うか」はよく迷うところです。会社が買い取る自己株式の取得は、社長個人が資金を用意しなくてよい反面、売る側の株主にはみなし配当という、第三者に売る場合とはまったく違う課税が生じます。
この記事では、自己株式の取得で生じるみなし配当の仕組みと計算例、個人株主と法人株主の違い、会社法の手続と財源規制、そして国税不服審判所の公表裁決や最高裁判決を紹介します。株式の集約を考えるオーナーの方、会社に株式を買い取ってもらうよう求められている株主の方の判断材料としてお読みください。
- 会社が自己株式を取得して払う金銭のうち、資本金等の額のうち対応する部分を超える額はみなし配当(所得税法25条1項5号、法人税法24条1項5号)
- 個人株主は配当所得として総合課税。会社は20.42%を源泉徴収する。残りの部分は株式の譲渡損益になる
- 内部留保が厚い会社ほどみなし配当の割合が大きく、第三者に売る場合(20.315%)より税負担が重くなりやすい
- 法人株主は、みなし配当に受取配当等の益金不算入を使える場合がある
- 会社法の手続(特定の株主からの取得は特別決議など)と分配可能額の範囲内という財源規制を守る必要がある
みなし配当の仕組み
会社が株主から自己株式を買い取ると、税務上は次の2つに分けて考えます。
「資本金等の額」は、株主が出資した払込額を中心とする税務上の金額で、決算書の資本金と資本剰余金に近いものです。1株当たりの資本金等の額に、買い取られる株数を掛けたものが「対応する部分」になります。これを超える部分は、会社が積み立ててきた利益から払われたものとして、配当とみなされます(個人株主は所得税法25条1項5号、法人株主は法人税法24条1項5号)。国税庁のタックスアンサーNo.1477も、個人が非上場株式を発行会社に譲渡した場合、この超える部分は配当所得とみなされると説明しています。
計算例
資本金等の額1,000万円、発行済株式1万株(1株当たり1,000円)の会社が、株主から1,000株を1株10万円、合計1億円で買い取る例で考えます。株主の取得費は1株1,000円とします。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 交付金銭 | 1億円 |
| 資本金等の額のうち対応する部分(1,000円×1,000株) | 100万円 |
| みなし配当 | 9,900万円 |
| 会社が源泉徴収する所得税等(9,900万円×20.42%) | 約2,022万円 |
| 株式の譲渡収入 | 100万円 |
| 取得費 | 100万円 |
| 株式の譲渡損益 | 0円 |
みなし配当9,900万円は配当所得として総合課税されます。ほかに所得がない場合で概算すると、所得税等(配当控除後)と住民税の合計は約4,300万円、受取額の4割を超えます。同じ株式を第三者に1億円で売った場合の税金は、譲渡益9,900万円×20.315%で約2,010万円ですから、2倍以上の差があります。源泉徴収された約2,022万円は、確定申告で精算します。
個人株主と法人株主の違い
| 項目 | 個人株主 | 法人株主 |
|---|---|---|
| みなし配当の課税 | 配当所得として総合課税(配当控除あり) | 受取配当等の益金不算入の対象(株式の保有割合に応じた割合) |
| 源泉徴収 | 20.42% | 20.42%(法人税から控除) |
| 譲渡損益 | ②−取得費。一般株式等の譲渡損益として申告分離課税 | ②−帳簿価額。益金・損金に算入(完全支配関係がある法人間では計上しない) |
法人株主の受取配当等の益金不算入は、株式の区分によって割合が違います(完全子法人株式等・関連法人株式等は全額、それ以外は50%または20%など)。ただし、自己株式として取得されることが予定されている株式を取得し、その予定どおりに取得された場合のみなし配当は、益金不算入の対象になりません(法人税法23条3項)。資産管理会社を通じて株式を保有している場合は、個人で持つ場合と結論が大きく変わるため、持株会社(法人株主)が子会社株式を売る場合の税務もあわせてご確認ください。
会社法の手続と財源規制
自己株式の取得は、会社から株主への財産の払戻しなので、会社法に手続と上限が定められています。
| 取得の方法 | 主な手続 | 注意点 |
|---|---|---|
| 株主との合意による取得(全株主に申込みの機会) | 株主総会の普通決議で、取得する株数・対価の総額・期間を定める(会社法156条) | |
| 特定の株主からの取得 | 株主総会の特別決議(会社法160条1項、309条2項2号) | 他の株主は自分も売主に加えるよう請求できる(会社法160条2項・3項。定款で排除することも可能) |
| 相続人等からの取得 | 特定の株主からの取得と同じ手続 | 非公開会社で、相続人が株主総会で議決権を行使していない場合などは、他の株主の売主追加請求ができない(会社法162条) |
| 譲渡制限株式の譲渡承認をしない場合の買取り | 株主総会の特別決議(会社法140条) | 価格は協議、まとまらなければ裁判所が決定 |
さらに、自己株式を取得するために払う金銭等の総額は、効力発生日の分配可能額を超えてはなりません(会社法461条1項)。違反すると、取得に関わった取締役などに支払額の責任が生じ、期末に欠損が生じた場合の責任もあります(会社法462条、465条)。手続の詳細は会社による自己株式の取得で解説します。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る判例・裁決で確認する、みなし配当の判断
| 裁決・判決 | 事案の概要 | 判断 |
|---|---|---|
| 国税不服審判所 昭和57年9月3日裁決(裁決事例集No.24) | 会社が株式の任意消却のために株式を買い入れた。株主は独立した売買だから譲渡所得と主張 | 任意消却の買入れも消却により交付される金銭等に当たり、みなし配当になる |
| 国税不服審判所 平成17年9月21日裁決(裁決事例集No.70) | 反対株主の株式買取請求で会社が自己株式を取得。取得の日がいつかで、みなし配当課税の適用の有無が変わる事案 | 価格が決まらないうちは売買の効力は生じない。裁判所での和解で価格が決まった日が取得の日で、みなし配当課税が適用される |
| 国税不服審判所 平成21年3月3日裁決(裁決事例集No.77) | 会社が、自己株式の取得価額は時価より高く、差額は売主への寄附であり、売主の一時所得だからみなし配当はないと主張 | 第三者間の合意に基づく価格で、純資産価額や直前の取引価格と比べても適正な価額。資本金等の額を超える部分はみなし配当 |
| 国税不服審判所 平成24年8月15日裁決 | 子会社から利益剰余金と資本剰余金を原資とする配当を同時に受けた | その全額が資本の払戻しに該当する |
| 最高裁第一小法廷 令和3年3月11日判決(令和元年(行ヒ)第333号) | 外国子会社から資本剰余金と利益剰余金の双方を原資とする配当を受けた | 双方を原資とする剰余金の配当は、その全体が法人税法24条1項3号の資本の払戻しに当たる。ただし、政令の計算方法のうち、資本剰余金の減少額を超えて資本の払戻し部分が計算される限度で違法・無効とし、申告額を超える更正処分を違法とした原審の結論を維持(国の上告を棄却) |
| 国税不服審判所 令和4年6月2日裁決 | 持分会社の社員が死亡退社し、払戻額を零円とする総社員の同意があった | 定款に持分承継の定めがない以上、死亡と同時に持分払戻請求権に転換し、出資を超える部分は被相続人のみなし配当になる |
平成21年3月3日裁決は、価格が高すぎると主張しても、それが第三者間の合意で成立し、株価の水準とも整合していれば、みなし配当の課税は変わらないことを示しています。逆に、親族や役員から時価を大きく外れた価格で買い取ると、低額なら株主に時価での譲渡とみなす課税(所得税法59条、時価の2分の1未満の場合)、高額なら差額の性質をめぐる課税の問題が生じ、他の株主の株式の価値が動くことでみなし贈与(相続税法9条)が問題になることもあります。時価の考え方は株式の買取りで税務上問題にならない価格で取り上げます。
令和4年6月2日裁決のように、持分会社(合同会社など)では、社員の死亡そのものがみなし配当の課税につながることがあります。会社の形態ごとに、相続のときに何が起きるかを確認しておくことが大切です。
最高裁判所第一小法廷 令和3年3月11日判決・令和元年(行ヒ)第333号 法人税更正処分取消請求事件。裁判所ウェブサイトの判決原文(PDF)/みなし配当の公表裁決事例要旨(昭和57年・平成17年・令和4年)/平成21年3月3日裁決ほか(源泉徴収・みなし配当)
会社に売るか、社長個人に売るか
株式を集約するとき、買い手を会社にするか社長個人にするかで、売り手と会社の負担が変わります。
| 会社が買い取る(自己株式) | 社長個人が買い取る | |
|---|---|---|
| 売り手の課税 | みなし配当(総合課税)+譲渡損益 | 譲渡益に20.315% |
| 買い手の資金 | 会社の資金(分配可能額の範囲内) | 社長個人の資金。役員報酬や借入で用意 |
| 価格の目安(税務) | 個人株主から法人への譲渡として、所得税法上の時価が問題になる | 個人間の譲渡として、贈与税の時価が問題になる |
| 会社の決算書 | 純資産が減り、現預金も減る | 会社の財務は変わらない |
売り手の税負担だけを見ると、社長個人が買うほうが有利なことが多い一方、社長は買取資金を役員報酬(総合課税)などで用意する必要があります。どちらの手取りが大きいかは、売り手・社長・会社の税金を並べて比べないと分かりません。社長個人が買い取る場合の価格と税金は社長個人が少数株主から買い取るときの価格と税金をご覧ください。
銀行から見た自己株式の取得
自己株式を取得すると、会社の純資産と現預金が同時に減ります。自己資本比率が下がり、著書のモデルでいう安全性の評価にも影響します。著書では、プロパー融資の目安を「正常先+純資産1億円」としています。多額の自己株式の取得を予定しているなら、取得後の自己資本比率と現預金の水準を試算し、必要なら取引銀行に事前に説明しておくと安心です。純資産の考え方は純資産1億円の意味で解説しています。
まとめ
- 自己株式の取得で株主が受け取る金銭のうち、資本金等の額のうち対応する部分を超える額はみなし配当になる
- 個人株主は総合課税で、会社は20.42%を源泉徴収する。第三者に売る場合の20.315%より重くなりやすい
- 法人株主は受取配当等の益金不算入を使える場合があるが、取得が予定された株式は対象外
- 特定の株主からの取得は特別決議、相続人等からの取得には特則、取得額は分配可能額の範囲内
- 裁決は、任意消却の買入れや、高額だと主張された取得でも、みなし配当と判断している
- 相続した株式を会社に売る場合は、みなし配当にならない特例がある(相続した株式を会社に売る特例)
クレフティでは事業承継・M&A支援として、株式の集約方法の比較(会社が買うか、社長が買うか)、みなし配当を含む売り手の手取りの試算、自己株式の取得価格の検討をお手伝いしています。初回のご相談は無料で、担当者がお話を伺います。
