「子会社を売ることになったが、株主は自分ではなく持株会社。税金は個人のときと同じ20%だろうか」。持株会社を通じて事業会社を持っているオーナーから、こうしたご相談をいただきます。
答えは「違います」。持株会社(法人株主)が子会社株式を売ると、譲渡益は法人の所得として、法人税・住民税・事業税などの対象になります。税率の考え方も、使える手法も、注意すべき否認の規定も、個人株主とは大きく異なります。
この記事では、持株会社が子会社株式を売る場合の税務を、売却前の配当と「子会社株式簿価減額特例」、自己株式としての取得、公表裁決・判例、売却後の資金と銀行の見え方まで整理します。
- 法人が株式を売ると、譲渡益は他の所得と合算され、法人税等の対象になる(個人の20.315%の分離課税とは別の仕組み)
- 売却前に子会社から配当を受けると、受取配当等の益金不算入により譲渡益を圧縮できる場合がある
- ただし2020年度改正の子会社株式簿価減額特例で、10%を超える配当は株式の帳簿価額が減らされることがある。適用除外の要件を一つずつ確認する
- 関係者への低額譲渡は寄附金とされた裁決がある。売却価格の根拠は残しておく
- 売却代金が法人に残ることを前提に、再投資・借入返済・個人への還元の順番まで設計する
個人株主と法人株主で何が違うのか
まず、同じ株式を売っても、株主が個人か法人かで課税の仕組みが変わります。
| 項目 | 個人株主が売る場合 | 持株会社(法人株主)が売る場合 |
|---|---|---|
| 課税の方法 | 申告分離課税(他の所得と分けて計算) | 法人のその事業年度の所得に合算 |
| 税率 | 所得税・復興特別所得税15.315%+住民税5% | 法人税(基本税率23.2%)、地方法人税、住民税、事業税など |
| 損益の通算 | 株式等の譲渡所得の中で通算 | 本業の損益や繰越欠損金と相殺できる |
| 売却代金の行き先 | オーナー個人の手元 | 持株会社の手元(個人に出すと別途課税) |
| 売却前の配当 | 配当所得として総合課税(大口株主の場合) | 一定割合が益金不算入 |
法人の場合、譲渡益は「譲渡対価の額-譲渡原価の額」で計算し、株式譲渡契約をした日の属する事業年度の益金に算入します(法人税法61条の2第1項)。クロージング日ではなく契約日が基準になるので、契約日が決算日をまたぐかどうかは、納税資金の準備に直結します。
また、令和8年4月1日以後に開始する事業年度からは、防衛特別法人税(基準法人税額から年500万円の基礎控除を引いた額の4%)が加わります(国税庁「防衛特別法人税の創設」)。大きな譲渡益が出る年は、この上乗せも見込んでおきましょう。
なお、個人株主が売る場合の税金は個人株主が株式を売ったときの税金で詳しく解説しています。
法人株主ならではのメリットと落とし穴
法人株主には、個人にはないメリットがあります。
- 本業の赤字や繰越欠損金と相殺できる:持株会社に過去の欠損金があれば、譲渡益と相殺できます(ただし中小法人等以外は所得の50%が控除の上限)
- 売却代金をそのまま次の投資に回せる:個人に戻さずに、新しい事業の買収や不動産の取得に使えます
- 受取配当等の益金不算入を使える:売却前の配当の扱いが、個人とは大きく違います(次の章)
一方で、落とし穴もあります。売却代金が法人に残るため、オーナー個人の生活資金や相続税の納税資金にするには、配当や役員報酬、退職金といった形で個人に移す必要があり、その段階でもう一度課税されます。「法人で売ったほうが税率が低い」と単純に比べるのではなく、最終的に誰の手元に、いくら残るかで比べることが大切です。
売却前の配当と「子会社株式簿価減額特例」
受取配当等の益金不算入の区分
法人が他の内国法人から配当を受けると、株式の保有割合に応じて、次の割合が益金に算入されません(法人税法23条)。
| 株式の区分 | 保有割合の目安 | 益金不算入の割合 |
|---|---|---|
| 完全子法人株式等 | 100%(完全支配関係) | 全額 |
| 関連法人株式等 | 3分の1超 | 全額(負債利子の一部を控除) |
| その他の株式等 | 5%超3分の1以下 | 50% |
| 非支配目的株式等 | 5%以下 | 20% |
100%子会社なら、配当は全額が益金不算入です。そこで、売却の前に子会社から多額の配当を受け、子会社の純資産を減らしたうえで(その分だけ売却価格も下がります)株式を売れば、課税される譲渡益を小さくできる、という考え方が生まれます。
2020年度改正で設けられた歯止め
この手法を使って、配当で株式の価値を下げてから売却し、譲渡損を作り出すという租税回避が問題になりました。そこで2020年度(令和2年度)の税制改正で、「子会社からの配当と子会社株式の譲渡を組み合わせた租税回避への対応」として、子会社株式簿価減額特例が設けられました(法人税法施行令119条の3第7項ほか。令和2年4月1日以後に開始する事業年度に受ける配当から適用)。
国税庁の改正解説によれば、仕組みは次のとおりです。
- 50%超の支配関係(特定支配関係)がある子会社から配当を受け、その事業年度内の配当の合計額が、株式の帳簿価額の10%を超えると、
- 配当のうち益金不算入となる金額だけ、子会社株式の帳簿価額を減額する
帳簿価額が下がれば、売却したときの譲渡益はその分だけ大きくなります。配当で非課税にした金額が、譲渡益として戻ってくるイメージです。
適用されない場合(適用除外)
ただし、次のいずれかに当たる場合は、この特例は適用されません(国税庁「令和2年度 法人税関係法令の改正の概要」)。
- 子会社が内国普通法人で、設立の時から特定支配関係が生じた日までずっと、発行済株式の90%以上を内国の普通法人・協同組合等・居住者が保有していた場合(証する書類の保存が必要)
- 配当の直前期末の利益剰余金から、その後の配当を引いた金額が、特定支配関係が生じる前の利益剰余金以上である場合(=支配後に積み上がった利益の範囲内の配当。書類の保存が必要)
- 特定支配関係が生じた日から配当を受ける日まで10年を超える場合
- その事業年度の配当の合計額が2,000万円以下の場合
オーナーが自分で設立し、ずっと持株会社や家族で保有してきた子会社であれば、1の要件に当たることが多く、売却前配当の効果が残る可能性があります。逆に、過去にM&Aで買った子会社や、外国法人が株主だった時期がある子会社を売るときは、この特例が問題になりやすいので注意が必要です。
なお、配当を受けるタイミングや金額は、買い手との価格交渉(配当で抜いた現預金の分だけ価格が下がる)や、子会社側の分配可能額(会社法461条の財源規制)とも関係します。税金だけで決めず、株式譲渡契約の条件とあわせて設計します。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る自己株式として子会社に買い取らせる場合の注意点
株式を第三者に売るのではなく、売却の前に子会社自身に一部を買い取らせる(自己株式の取得)と、法人株主の側では、受け取る金額のうち資本金等の額を超える部分がみなし配当になります(法人税法24条1項)。みなし配当も受取配当等の益金不算入の対象になり得るため、同じように税負担を下げる手段として検討されることがあります。
ただし、次の規定に注意してください。
- 完全支配関係がある子会社に自己株式として買い取らせた場合は、譲渡損益を計上せず、資本金等の額で調整します(法人税法61条の2第17項)。100%子会社を使って譲渡損を作ることはできません
- 自己株式として取得されることが予定されている株式を取得していた場合、その取得によるみなし配当は益金不算入の対象外です(法人税法23条3項)
- 自己株式の取得には、会社法の手続きと財源規制(分配可能額)がかかります
自己株式の取得とみなし配当の基本は自己株式の取得とみなし配当で解説しています。
公表裁決・判例から見る注意点
法人株主の株式の売買をめぐる公表事例のうち、M&Aの前後で参考になるものを紹介します。
| 事例 | 争点 | 結論 | 実務への示唆 |
|---|---|---|---|
| 国税不服審判所 平成11年2月8日裁決(裁決事例集No.57) | 法人が保有する関係会社の非上場株式を、その会社の代表取締役に額面で譲渡した価額は適正か | 財産評価基本通達の例に準じて算定した通常の取引価額より低いとして、差額を寄附金とした処分を相当とした | 関係者への売却は、価格の根拠(評価の方法と計算)を残す |
| 最高裁 令和3年3月11日第一小法廷判決(令和元年(行ヒ)第333号) | 資本剰余金と利益剰余金の両方を原資とする配当を受けた法人株主の課税 | 双方を原資とする配当は全体が資本の払戻しに当たるとしつつ、計算方法を定めた政令の一部を無効とし、更正処分を違法とした(国の上告を棄却) | 売却前の配当は、原資(利益剰余金か資本剰余金か)で課税が変わる |
平成11年2月8日裁決は、法人が持つ関係会社株式を、その会社の代表者(個人)に額面金額で譲渡した事案です。請求人は配当還元方式を重視した評価を主張しましたが、審判所は、法人税基本通達の取扱い(現在の9-1-13・9-1-14に相当)を踏まえ、財産評価基本通達の例による通常の取引価額と比べて低額だとして、差額を寄附金と認めました。M&Aの前に、子会社株式の一部を役員や後継者に移すときは、この考え方を前提に価格を決める必要があります。
令和3年3月11日の最高裁判決は外国子会社からの配当の事案ですが、資本剰余金を原資とする部分と利益剰余金を原資とする部分が混在する配当を、どう課税するかが争われました。最高裁は、双方を原資とする配当は全体が法人税法24条1項3号の「資本の払戻し」に当たると判断したうえで、株式対応部分の計算方法を定めた政令(法人税法施行令23条1項3号)は、利益剰余金を原資とする部分まで資本の払戻しとして扱う結果となる限度で無効とし、結論として更正処分を違法としました。売却前に子会社から資金を引き上げるとき、「その他資本剰余金」からの配当は資本の払戻し(みなし配当と株式の譲渡)として扱われ、利益剰余金からの配当とは計算がまったく異なります。どの剰余金を原資にするかは、取締役会・株主総会の議事録の段階で決めておきましょう。
売却代金の使い道と、決算書・銀行の見え方
子会社を売ると、持株会社の決算書には大きな特別利益と現預金が計上されます。銀行から見ると、これは一時的な利益です。私の著書で紹介している銀行格付けモデル(129点満点)でも、収益性や返済能力は経常的な利益をもとに評価され、特別利益は割り引いて見られるのが一般的です。
一方で、売却代金で借入金を返済すれば、債務償還年数(借入金-現預金)÷(経常利益+減価償却費-法人税等)は大きく改善します。ただし、子会社の利益がなくなる分、持株会社グループの経常利益は下がります。売却後の持株会社が何で稼ぐのか(残る事業、不動産賃貸、新たな買収など)を、銀行に説明できるようにしておくことが大切です。
売却前に決めておきたいのは、次の3点です。
- 売却代金の使い道:借入金の返済、次の事業への投資、不動産の取得、個人への還元の順番
- 納税資金:契約日の属する事業年度の法人税等と、防衛特別法人税の見込み額
- 個人に移す方法:配当、役員報酬、退職金のどれを、いつ使うか。それぞれの個人側の課税
持株会社の作り方と、グループ全体での銀行の見え方は持株会社をつくって株主構成を整理するやグループ全体での銀行の見え方もあわせてご覧ください。
まとめ
- 持株会社が子会社株式を売ると、譲渡益は法人の所得として法人税等の対象になる。課税は株式譲渡契約の日の属する事業年度
- 売却前の配当は、受取配当等の益金不算入により譲渡益を圧縮できる場合がある
- ただし、支配関係のある子会社から株式の帳簿価額の10%を超える配当を受けると、子会社株式簿価減額特例で帳簿価額が減らされることがある。設立以来の保有、10年超、2,000万円以下などの適用除外を確認する
- 100%子会社への自己株式の売却では譲渡損は計上できない。関係者への低額譲渡は寄附金とされた裁決がある
- 売却代金は法人に残る。再投資・借入返済・個人への還元まで含めて、手取りと銀行の見え方を試算する
クレフティでは、持株会社による子会社株式の売却について、売却前配当や自己株式の取得を使う場合の税額の試算、株式譲渡契約の条件の確認、売却後の資金計画と銀行への説明まで、事業承継・M&A支援の中でご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
