親族内承継

後継者に安く株を売ったときの課税|みなし贈与(相続税法7条)とみなし譲渡(所得税法59条)、持株会社に売る場合の三重の課税

「息子に会社を継がせるので、株は額面で売ってしまおうと思う」。親族内承継のご相談で、よく聞くお話です。親子の間なら価格は自由に決められる、と考えがちですが、税務では時価とかけ離れた価格での売買は、贈与や譲渡があったものとみなされることがあります。

特に注意したいのは、誰が買うかで課税がまったく変わることです。後継者個人が買う場合は後継者にみなし贈与(相続税法7条)、後継者の持株会社が買う場合は親にみなし譲渡(所得税法59条)、持株会社に受贈益、さらに後継者に別のみなし贈与、と課税が重なることがあります。

この記事では、後継者に安く株を売ったときの課税を、個人に売る場合と法人に売る場合に分けて計算例で示し、所得税基本通達59-6、最高裁令和2年3月24日判決、相続税法7条をめぐる判決・裁決を、裁判所と国税不服審判所の公表資料で紹介します。

この記事の結論
  • 後継者個人に売る場合:著しく低い価額なら、時価(株式は相続税評価額)との差額に贈与税(相続税法7条)。2分の1の基準はなく、個々の事案で判定される
  • 持株会社に売る場合:時価の2分の1未満なら親にみなし譲渡(所得税法59条)。時価は所得税基本通達59-6により親の議決権で判定し、小会社として評価するので、相続税評価額より高くなりやすい
  • 持株会社には時価との差額の受贈益、持株会社の株主(後継者)には株価が上がった分のみなし贈与(相続税法9条)が生じ得る。同じ取引で三重の課税になることがある
  • 個人間で通達の評価額を上回る価格なら著しく低いとはいえないとした判決(東京地裁平成17年10月12日)、法人への譲渡で譲渡人の支配力で評価すべきとした最高裁判決(令和2年3月24日)がある
  • 民法では、安い売買が遺留分や特別受益の問題になることもある。価格の根拠を残し、家族で話し合う

誰に売るかで、課税がまったく違う

後継者個人に売る後継者の持株会社に売る
売り手(親)の課税実際の売買価格で譲渡所得を計算。時価の2分の1未満で譲渡損が出ても、その損失はなかったものとされる(所得税法59条2項)時価の2分の1未満なら、時価で譲渡したとみなす(同法59条1項2号、所得税法施行令169条)
買い手の課税著しく低い価額なら、時価との差額に贈与税(相続税法7条)時価との差額が受贈益として法人税の課税対象(法人税法22条2項)
その他-持株会社の株価が上がった分、その株主にみなし贈与(相続税法9条、相続税法基本通達9-2(4))
基準となる時価株式は相続税評価額(後継者の取得後の議決権で株主区分を判定)所得税は所得税基本通達59-6、法人税は法人税基本通達9-1-14の例

後継者個人に売る場合:みなし贈与(相続税法7条)

「著しく低い価額」とは

相続税法7条は、著しく低い価額の対価で財産を譲り受けた場合、時価との差額を、譲渡した人からの贈与とみなします。国税庁タックスアンサー「No.4423 個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき」は、次のように説明しています。

  • 著しく低い価額の対価かどうかは、個々の具体的事案に基づき判定する
  • この判定基準は、法人に対する譲渡の「時価の2分の1に満たない金額」という基準とは異なる
  • 時価とは、土地・建物などは通常の取引価額、それ以外の財産(株式など)は相続税評価額

つまり、個人間の株式の売買では、相続税評価額が物差しになります。後継者が取得後に同族株主になる場合は、類似業種比準方式・純資産価額方式による原則的評価で計算します。計算方法は自社株評価の方法をご覧ください。

判決・裁決

判決・裁決事案結論
東京地裁 平成17年10月12日判決(平成15年(行ウ)第214号)非上場会社の株式の譲受けが、相続税法7条の低額譲受けに当たるとして贈与税が課された同族株主以外の株主が取得する株式を配当還元方式で評価する通達の定めは合理的で、譲渡価格はその方式の価額を上回っている。通達によらないことが正当とされる特別の事情もないとして、課税処分を取消し(裁判所ウェブサイト)
国税不服審判所 平成13年4月27日裁決(裁決事例集No.61・533頁)父から売買契約で土地を譲り受けた相続税法7条は、経済的には差額の贈与があったと同視できることに着目した規定。審判所が算定した時価と売買価額の差額は約1,850万円に達し、著しく低い価額に当たる
国税不服審判所 平成15年6月19日裁決(裁決事例集No.65・576頁)祖母から土地建物を譲り受けた借入金返済のための譲渡で、取得資金を金融機関から借り入れ、対価の合計が相続税評価額の合計を上回ることなどを総合勘案し、著しく低い価額には当たらない

2つの裁決は土地の事案ですが、相続税法7条の考え方を示しています(国税不服審判所「公表裁決事例要旨:資産の低額譲受け」)。株式でも、相続税評価額を下回らない価格で、代金を実際に支払う(後継者が借入れなどで資金を用意する)ことが、著しく低い価額と見られないための基本になります。

持株会社に売る場合:みなし譲渡と三重の課税

時価は所得税基本通達59-6で計算する

親が後継者の持株会社など法人に売る場合、所得税法59条の時価は、所得税基本通達59-6により、財産評価基本通達の例を次の条件で修正して計算します(国税庁:法第59条関係の通達)。

  1. 同族株主かどうかなどは、株式を譲渡した個人(親)の譲渡直前の議決権で判定する
  2. 親が中心的な同族株主なら、発行会社を常に小会社として評価する
  3. 純資産価額の計算で、土地と上場有価証券は譲渡の時の価額による
  4. 評価差額に対する法人税額等相当額は控除しない

最高裁令和2年3月24日判決

最高裁判所第三小法廷 令和2年3月24日判決(平成30年(行ヒ)第422号)は、大会社の代表者が、配当還元方式で算定した1株75円で法人に株式を譲渡した事案です。原審は、譲受人が少数株主に当たるとして配当還元価額を時価と認めていました。最高裁は、譲渡所得課税は譲渡人のもとで生じていた値上がり益に課税するものであり、譲受人の支配力はその額に影響しないとして、譲渡人の支配力の程度に応じた評価方法を用いるべきだと判断し、原判決を破棄して差し戻しました(裁判所ウェブサイト)。国税庁は令和2年8月28日付で59-6を改正し、取扱いを明確にしています。

承継の場面に置き換えると、親が支配株主である以上、買い手の持株会社がどんな立場でも、親の立場で評価されるということです。

当事者の事情は考慮されにくい

国税不服審判所の令和7年9月10日裁決は、支配株主と厳しく対立していた同族株主が、訴訟上の和解で決めた価格で親族が経営する会社に株式を譲渡した事案で、対立の事情があっても59-6の評価方法によるべきで、小会社として評価するのが相当としました(裁決)。平成16年3月8日裁決(裁決事例集No.67・350頁)も、低額譲渡かどうかは時価の2分の1未満かで判断し、当事者の意図や恣意性の有無を問わないとしています(要旨)。「親子だから」「承継のためだから」という事情は、時価の判断を変えないと考えておくべきです。

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計算例:同じ株を、誰にいくらで売るか

父が100%保有する会社(発行済株式1,000株、資本金1,000万円で設立)を、後継者の子に承継する場合です。数字は説明のための仮定です。

  • 相続税評価額(子が取得後に同族株主となる場合の原則的評価):1株5万円(合計5,000万円)
  • 所得税基本通達59-6による時価(小会社として評価、土地は時価、法人税額等相当額を控除しない):1株9万円(合計9,000万円)
ケース父の譲渡所得税等(20.315%)買い手側の課税問題点
① 子個人に1,000万円で売る譲渡益ゼロ(取得費1,000万円)時価5,000万円との差額4,000万円に贈与税。暦年課税の特例税率で約1,530万円著しく低い価額と判断される可能性が高い
② 子個人に5,000万円(相続税評価額)で売る譲渡益4,000万円に約813万円原則として贈与税なし子に5,000万円の資金が必要
③ 持株会社に3,000万円で売る時価9,000万円の2分の1(4,500万円)未満なので、9,000万円で売ったとみなされ、譲渡益8,000万円に約1,625万円(受け取るのは3,000万円)持株会社に受贈益6,000万円。持株会社の株価が上がれば、株主の子にみなし贈与の問題三重の課税のおそれ
④ 持株会社に9,000万円(59-6の時価)で売る譲渡益8,000万円に約1,625万円原則として課税なし持株会社の買収資金(借入れ)と返済計画が必要

③のように、持株会社に2分の1未満の価格で売ると、父は受け取っていないお金にまで所得税を払い、持株会社は法人税を払い、子にも贈与税の問題が生じます。2分の1以上の価格(4,500万円以上)にすれば父のみなし譲渡は避けられますが、時価との差額は持株会社の受贈益として残ります。また、所得税基本通達59-3は、2分の1以上でも同族会社の行為計算の否認(所得税法157条)に当たる場合は時価で計算されることがあると注意しています。

「安く売る」より「適正な価格で売り、資金を手当てする」か「贈与・事業承継税制を使う」ほうが、結果として負担が小さく、説明もしやすいことが多いのです。贈与で移す場合の計算は自社株を贈与したときの贈与税の計算例、持株会社を使う方法は持株会社を使った株式の集約で解説しています。

民法の視点:遺留分と特別受益

安い価格での売買は、税金だけでなく家族の間の問題にもなります。

  • 遺留分:負担付贈与や不相当な対価による有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って行ったものに限り、対価との差額を贈与とみなして遺留分の計算に入れます(民法1045条2項)
  • 特別受益:相続人が生前に受けた利益は、遺産分割で考慮されることがあります(民法903条)

後継者に株式を集中させる必要性は家族の中でも理解されやすい一方で、ほかの兄弟から見れば「安く買った」ことは不公平に映ることがあります。経営承継円滑化法の遺留分に関する民法特例(除外合意・固定合意)を使う方法もあります。どちらが正しいということはなく、家族で話し合う材料として、価格の根拠と承継の考え方を共有しておくことが大切です(遺留分と自社株、経営承継円滑化法の遺留分に関する民法特例)。

銀行から見た注意点:買取資金と返済

適正な価格で売るなら、後継者や持株会社に買取資金が必要です。日本政策金融公庫の事業承継向けの融資や、信用保証協会の事業承継関連の保証など、後継者による株式取得の資金を対象にした制度があります。制度の内容はMBO・EBOの資金と株価で一次情報をもとに整理しています。

持株会社が借入れで株式を買う場合、返済原資は事業会社からの配当です。著書のモデルでは、債務償還年数=(借入金-現預金)÷(経常利益+減価償却費-法人税等)が10年以内なら健全、20年超は厳しいと見ます。持株会社と事業会社を合わせた数字で、この水準に収まるかを確認しておきます。銀行は「なぜこの価格なのか」「返済できるのか」を必ず確認しますので、株価算定書と返済計画をセットで用意しておくと説明しやすくなります。

まとめ

  • 後継者個人に安く売ると、相続税評価額との差額にみなし贈与(相続税法7条)。2分の1基準はなく、個々の事案で判定される
  • 持株会社に2分の1未満で売ると、親にみなし譲渡(所得税法59条)。時価は59-6により親の立場で計算し、相続税評価額より高くなりやすい
  • 持株会社の受贈益、後継者へのみなし贈与(相続税法9条)まで重なると三重の課税になり得る
  • 「親子だから」「承継のためだから」という事情は、時価の判断を変えない
  • 遺留分・特別受益の問題もある。価格の根拠を残し、家族で話し合う

クレフティでは、後継者への株式の承継方法(売買・贈与・事業承継税制・持株会社)の比較、株価算定、買取資金の調達まで、事業承継・M&A支援の中でご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。

よくある質問

親から子に自社株を売るとき、いくらなら贈与税がかかりませんか?
個人間の売買で、時価との差額に贈与税がかかるのは「著しく低い価額」で譲り受けた場合です(相続税法7条)。国税庁は、株式の時価は相続税評価額とし、著しく低いかどうかは個々の事案で判定するとしています。後継者が取得後に同族株主になる場合の相続税評価額(原則的評価)を下回らない価格であれば、贈与税の問題は生じにくいといえます。東京地裁平成17年10月12日判決も、通達の評価額を上回る対価での譲受けは著しく低い価額に当たらないとしました。
後継者の持株会社に安く売ると、どうなりますか?
親が法人に時価の2分の1未満で売ると、所得税法59条により時価で売ったものとみなされます。この時価は所得税基本通達59-6により、親の議決権で判定し、中心的な同族株主なら小会社として評価するため、相続税評価額より高くなることがあります。さらに持株会社には時価との差額の受贈益が生じ、持株会社の株主である後継者にもみなし贈与の問題が生じ得ます。
安く売った場合、ほかの兄弟との相続トラブルになりますか?
なる可能性があります。民法では、不相当な対価による有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って行ったものに限り、その差額を贈与とみなして遺留分の計算に入れます(民法1045条2項)。また、特別受益として遺産分割で考慮されることもあります。価格の根拠を残し、家族で話し合っておくことが大切です。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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