「自社株を息子に贈与したいが、贈与税はいくらになるのか」。後継者への承継を考え始めたオーナー経営者から、最初に出てくる質問です。答えを出すには、①株価を出す、②贈与の方式を選ぶ、③分け方を決めるという3つのステップが必要です。
この記事では、自社株を贈与したときの贈与税の計算例を、株価の出し方から順に示します。暦年課税(一般税率・特例税率)、相続時精算課税、事業承継税制の違いを同じ数字で比べ、贈与した株式の評価が争われた国税不服審判所の裁決なども紹介します。税率や計算方法は、国税庁のタックスアンサーで確認したものです。
- 株価は、贈与を受けた後継者の株主区分(同族株主か)と会社規模で評価方式が決まる。後継者が同族株主なら原則的評価
- 例:1株5,500円×2万株=1億1,000万円を子に贈与すると、暦年課税で一度に贈与すれば約5,350万円、10年に分ければ合計約2,070万円、相続時精算課税なら1,678万円(相続時に精算)
- 娘婿・甥などへの贈与は一般税率で、特例税率より重い
- 暦年課税の分割は、贈与者の相続開始前の加算期間(段階的に7年)に注意。精算課税は贈与時の価額で相続財産に加算される
- 贈与株式の評価は、配当還元方式の利用、営業権、相当の地代の借地権などが争われてきた。評価の根拠を残す
ステップ1:株主区分と評価方式を決める
取引相場のない株式の評価は、国税庁タックスアンサー「No.4638 取引相場のない株式の評価」のとおり、株式を取得した人の立場と会社の規模で決まります。
| 取得者の立場 | 評価方式 |
|---|---|
| 同族株主等(後継者が親から受ける場合の多く) | 原則的評価方式:大会社は類似業種比準方式、小会社は純資産価額方式、中会社は両方を併用 |
| 同族株主以外の株主等 | 特例的評価方式:配当還元方式 |
| 特定の評価会社(株式等保有特定会社、土地保有特定会社、比準要素数1の会社など) | 原則として純資産価額方式 |
贈与では、贈与を受けた後の後継者の議決権で判定します。親から子への贈与なら、子は通常、同族株主として原則的評価になります。評価方法の詳細は自社株評価の方法と非上場株式の相続税評価の基本で解説しています。
ステップ2:株価を計算する(中会社の例)
類似業種比準価額は、上場会社の業種別の株価をもとに、評価する会社の1株当たりの配当・利益・純資産(簿価)を比べて計算します(財産評価基本通達180)。
中会社は、会社の規模に応じた割合(Lの割合:0.90・0.75・0.60)で類似業種比準価額と純資産価額を組み合わせます。ここでは、次の会社で計算します(数字は説明のための仮定)。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 発行済株式 | 2万株(社長が全株保有) |
| 類似業種比準価額 | 1株4,000円 |
| 純資産価額(相続税評価額ベース) | 1株1万円 |
| 会社規模 | 中会社(Lの割合0.75) |
なお、中会社・小会社は、純資産価額のほうが低ければ純資産価額で評価できます。利益が大きい会社は類似業種比準価額が上がり、含み益の大きい会社は純資産価額が上がります。どちらが株価を押し上げているかを知ることが、贈与のタイミングを考える出発点になります。
ステップ3:贈与の方式ごとの税額
税率の確認
国税庁タックスアンサー「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」の速算表です(基礎控除110万円を引いた後の金額に当てはめます)。
| 基礎控除後の課税価格 | 特例税率(18歳以上の子・孫が直系尊属から) | 一般税率(それ以外) |
|---|---|---|
| 200万円以下 | 10% | 10% |
| 300万円以下 | 15%・控除10万円 | 15%・控除10万円 |
| 400万円以下 | 15%・控除10万円 | 20%・控除25万円 |
| 600万円以下 | 20%・控除30万円 | 30%・控除65万円 |
| 1,000万円以下 | 30%・控除90万円 | 40%・控除125万円 |
| 1,500万円以下 | 40%・控除190万円 | 45%・控除175万円 |
| 3,000万円以下 | 45%・控除265万円 | 50%・控除250万円 |
| 4,500万円以下 | 50%・控除415万円 | 55%・控除400万円(3,000万円超) |
| 4,500万円超 | 55%・控除640万円 | 同上 |
1億1,000万円の株式を子に贈与する場合の比較
| 方法 | 計算 | 贈与税 |
|---|---|---|
| ① 暦年課税・一度に贈与 | (1億1,000万円-110万円)×55%-640万円 | 約5,350万円 |
| ② 暦年課税・5年に分ける(毎年2,200万円) | (2,200万円-110万円)×45%-265万円=675.5万円×5年 | 約3,378万円 |
| ③ 暦年課税・10年に分ける(毎年1,100万円) | (1,100万円-110万円)×30%-90万円=207万円×10年 | 約2,070万円 |
| ④ 相続時精算課税・一度に贈与 | (1億1,000万円-110万円-2,500万円)×20% | 1,678万円(相続時に精算) |
| ⑤ 事業承継税制(特例措置) | 一定の要件のもとで贈与税の全額の納税を猶予 | 猶予(要件を満たさなくなると納付) |
②③は、株価が毎年変わらないと仮定した単純な計算です。実際は、毎年の決算で株価が変わります。
方式ごとの「相続のとき」の扱い
| 方法 | 相続のときの扱い |
|---|---|
| 暦年課税 | 相続開始前の一定期間の贈与は相続財産に加算。令和9年1月1日以後の相続から段階的に延び、令和13年1月1日以後の相続で7年(延長された4年分は合計100万円まで加算しない) |
| 相続時精算課税 | 贈与時の価額(毎年110万円の基礎控除を除く)を相続財産に加算し、納めた贈与税を差し引く。株価が上がっても加算額は贈与時のまま、下がっても贈与時のまま |
| 事業承継税制 | 贈与者の死亡時に猶予税額は免除され、株式は相続で取得したものとみなして相続税の納税猶予に切り替えられる(要件あり) |
精算課税は「これから株価が上がる」会社に向き、暦年課税の分割は「贈与者が長く元気で、時間をかけられる」場合に向きます。事業承継税制の特例措置は、特例承継計画の提出が令和9年9月30日まで、贈与・相続が令和9年12月31日までとされています(国税庁タックスアンサーNo.4439)。方式の選び方は自社株を暦年贈与・相続時精算課税で後継者に移す方法、事業承継税制の期限は事業承継税制の特例の期限をご覧ください。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見るケース別の計算例
娘婿に贈与する場合(一般税率)
娘婿は直系卑属ではないため、一般税率になります。毎年1,100万円ずつ贈与すると、(1,100万円-110万円)×40%-125万円=271万円で、子への贈与(207万円)より年64万円重くなります。相続時精算課税も、原則として父母・祖父母から子・孫への贈与が対象なので使えません。娘婿への承継を考えるなら、養子縁組の有無を含めて、家族で話し合う材料にしてください(娘婿・子の配偶者への承継)。
株価が下がった年に贈与する場合
先代に役員退職金を払った年などは、利益と純資産が同時に減り、株価が下がることがあります。仮に1株3,000円(全株6,000万円)まで下がった年に一度に暦年課税で贈与すると、(6,000万円-110万円)×55%-640万円=約2,600万円です。1株5,500円のとき(約5,350万円)の半分以下になります。ただし、退職金は実質的な退職と金額の相当性が前提で、否認されれば株価の前提も崩れます(退職金スキームとは)。
贈与税を一度に払えない場合(延納)
国税庁タックスアンサー「No.4429 贈与税の申告と納税」によれば、贈与税の申告と納税は、もらった年の翌年2月1日から3月15日までです。納付税額が10万円を超え、金銭で一度に納めることが難しい理由があり、担保を提供すれば、5年以内の年賦で納める延納ができます(延納税額100万円以下・延納期間3年以下なら担保不要)。延納には利子税がかかります。
後継者に贈与税を払う資金がない場合、会社から役員報酬を上げて払う、会社から借りる、といった方法が考えられますが、いずれも後継者個人の所得税や、会社の決算書の見え方(役員貸付金)に影響します。銀行は役員貸付金を実態の資産から外して見ることが多いので、資金の出し方も含めて計画しておくことが大切です(役員貸付金・借入金と銀行の評価)。
贈与株式の評価が争われた裁決・判決
贈与税の計算は、株価の評価で大きく変わります。国税不服審判所の公表裁決事例要旨(取引相場のない株式、株式等)と裁判所の裁判例検索で確認できたものを紹介します。
| 裁決・判決 | 争点 | 結論 |
|---|---|---|
| 国税不服審判所 平成10年1月29日裁決(裁決事例集No.55・533頁) | 贈与者が、配当還元方式で評価されることを利用して贈与税の負担を軽くする目的で取得した株式の評価 | 配当還元方式を適用すると実質的な租税負担の公平を著しく害するとして、時価純資産価額を基に評価 |
| 千葉地裁 平成12年3月27日判決(平成10年(行ウ)第66号) | 同族株主以外の株主が贈与で取得した株式を配当還元方式で申告 | 特別の事情がある場合は他の合理的な方法によることが許されるとして、時価純資産価額方式による更正を適法とした(裁判所ウェブサイト) |
| 国税不服審判所 平成20年10月23日裁決(裁決事例集No.76・336頁) | 贈与株式の純資産価額の計算で、会社の営業権の評価方法を補正すべきかどうか | 評価通達の営業権の評価方法には合理性があり、請求人が主張する補正をすべき理由はないとした |
| 国税不服審判所 平成27年3月25日裁決 | 父が相当の地代を受けて同族会社に貸している土地。会社の株式を子に贈与した際、借地権相当額を純資産価額に入れるか | 相続税だけの取扱いだという請求人の主張を退け、贈与の場合にも借地権相当額(20%)を純資産価額に算入すべき場合があるとした(一部取消し) |
| 国税不服審判所 平成11年3月29日裁決(裁決事例集No.57・395頁) | 家族名義の関係会社株式は、生前に贈与されたものか | 取得資金を被相続人が負担し、申込証の印章も被相続人のもので、配当も被相続人が受け取っていたとして、被相続人の株式(相続財産)と認定 |
裁決・判決から読み取れること
- 評価を下げる目的の形づくりは通らない:配当還元方式を使うために株主構成を作るような取引は、時価純資産価額で評価し直された例があります
- 通達の評価方法は原則として尊重される:営業権の評価のように、通達の方法を自分に有利に補正することは認められにくい
- 不動産と会社の関係も株価に入る:社長個人の土地を会社に貸している場合、借地権の扱いが株価に影響します
- 贈与の実態がなければ贈与にならない:名義を変えただけで、資金・印章・配当を親が管理していれば、相続財産とされます。贈与契約書、株主名簿の書換え、譲渡制限株式なら会社の承認、配当の受取りを後継者が行う、といった実態を整えます(名義株とは)
まとめ
- 贈与税の計算は、株価を出す→方式を選ぶ→分け方を決めるの3ステップ
- 例の1億1,000万円の株式では、暦年課税で一度に贈与すると約5,350万円、10年に分けると約2,070万円、相続時精算課税なら1,678万円(相続時に精算)
- 娘婿・甥などは一般税率。精算課税は原則として親・祖父母から子・孫へ
- 暦年課税の加算期間(段階的に7年)、精算課税の「贈与時の価額で加算」を踏まえて選ぶ
- 評価を下げる目的の形づくりは否認された例がある。贈与の実態と評価の根拠を残す
クレフティでは、自社株の評価から、贈与・売買・事業承継税制の比較、毎年の贈与計画と申告まで、事業承継・M&A支援の中でご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
