子どもが会社を継がない場合、娘婿や社長の配偶者が後継者になる例は珍しくありません。実子ではない後継者には、実子の承継にはない論点があります。いちばん大きいのが、養子縁組をするかどうかで、相続・贈与の税金と、家族の法律関係が大きく変わることです。
この記事では、娘婿・配偶者が会社を継ぐときの注意点を、民法の条文、国税庁の資料、最高裁の判例で整理します。離婚や離縁のときに株式がどうなるか、銀行から見たポイントもあわせて解説します。
- 娘婿は養子縁組をしなければ相続人ではない。株式は贈与・売買・遺贈で渡すことになり、贈与は一般税率、遺贈は相続税の2割加算の対象になる
- 養子縁組をすれば実子と同じ相続人になり、特例税率や相続時精算課税も使える。ただし相続税の計算で数える養子は、実子がいれば1人まで
- 最高裁平成29年1月31日判決は、節税目的の養子縁組でも直ちに無効ではないと判断した。とはいえ、実子との関係や遺留分への影響は残る
- 離婚で姻族関係は終わるが、養子縁組は離縁しない限り続く。株式の買戻しの仕組みを事前に決めておく
- 配偶者が継ぐ場合は、配偶者の税額軽減で一次相続の税金は抑えられても、二次相続で株式に再び相続税がかかる
娘婿は「養子縁組」で立場が変わる
娘婿は、社長から見ると姻族(配偶者の血族ではなく、子の配偶者)です。民法上の相続人は配偶者・子・直系尊属・兄弟姉妹なので、娘婿は養子縁組をしない限り相続人になりません。養子縁組をすると、縁組の日から養親の嫡出子の身分を取得し(民法809条)、養親やその血族と血族と同じ親族関係が生じます(民法727条)。
| 項目 | 養子縁組をしない | 養子縁組をする |
|---|---|---|
| 社長の相続人か | 相続人ではない | 実子と同じ相続人 |
| 株式の渡し方 | 生前の贈与・売買、遺言による遺贈 | 相続・遺言・生前贈与 |
| 生前贈与の贈与税の税率 | 一般税率(直系尊属からの贈与ではない) | 18歳以上なら特例税率 |
| 相続時精算課税 | 使えない(推定相続人・孫に当たらない) | 要件を満たせば使える |
| 遺贈で取得した場合の相続税 | 2割加算の対象 | 2割加算の対象外 |
| 相続税の基礎控除の人数 | 数えない | 実子がいれば養子は1人まで数える |
| ほかの相続人の取り分 | 変わらない | 実子の法定相続分・遺留分が減る |
出典:国税庁タックスアンサー No.4408「贈与税の計算と税率(暦年課税)」、No.4103「相続時精算課税の選択」、No.4157「相続税額の2割加算」、No.4170「相続人の中に養子がいるとき」
国税庁のタックスアンサーは、特例税率について「夫の父からの贈与」には使えないと例示しています。娘婿にとって、養子縁組をしていない義父は直系尊属ではないので、同じ扱いになります。
相続税の計算で数える養子の数
養子縁組をすれば法定相続人が1人増え、相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)や、生命保険金・死亡退職金の非課税枠が増えます。ただし、相続税の計算で法定相続人の数に含める養子は、被相続人に実子がいる場合は1人まで、いない場合は2人までです。さらに、相続税の負担を不当に減少させると認められる場合は、その養子は数に含められません(国税庁 No.4170)。
節税目的の養子縁組は有効か:最高裁の判断
養子縁組の目的が相続税対策だった場合、縁組そのものが無効になることはないのでしょうか。民法802条1号は、「当事者間に縁組をする意思がないとき」は縁組を無効としています。
| 裁判所・日付 | 争点 | 判断 |
|---|---|---|
| 最高裁第三小法廷 平成29年1月31日判決(平成28年(受)第1255号) | 専ら相続税の節税のためにした養子縁組は、「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるか | 専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに縁組をする意思がないとはいえない。縁組を無効とした原判決を破棄した(破棄自判) |
この判決は、節税の動機と親子関係を作る意思は両立しうる、と示したものです。一方で、「節税目的なら何でも有効」と言ったわけではありません。また、この事案自体が、縁組の効力を家族が裁判で争ったものでした。娘婿の養子縁組は、実子(娘の兄弟姉妹)から見ると、自分の相続分と遺留分が減ることを意味します。事前に家族の理解を得ておかないと、相続のときの紛争の種になります。遺留分の考え方は後継者以外の相続人との公平をご覧ください。
離婚・離縁のとき、株式と相続はどうなるか
娘婿が後継者になる場合に、家族があまり話したがらないのが離婚のリスクです。けれども、会社を守るためには避けて通れません。
| 出来事 | 法律上の効果 | 株式・会社への影響 |
|---|---|---|
| 娘と娘婿が離婚 | 姻族関係は離婚で終了する(民法728条1項) | 娘婿名義の株式はそのまま。養子縁組をしていれば、離縁するまで社長の子(相続人)のまま |
| 社長と娘婿が離縁 | 協議離縁、または一定の事由による裁判上の離縁(民法811条・814条)。離縁で養親側との親族関係は終了(民法729条) | 相続人ではなくなるが、すでに取得した株式は娘婿のもの |
| 娘婿が社長のまま株式を持ち続ける | ― | 元配偶者側の家族と、経営・株式をめぐる対立が続くおそれ |
離婚や離縁は、株式の所有を自動的に元に戻すものではありません。そのため、次のような備えを検討します。
- 株主間契約:離婚や退任など一定の事由が起きたとき、株式を誰が、どの算定方法の価格で買い取るかを決めておく
- 取得条項付株式:一定の事由が生じたときに会社が株式を取得できる種類株式(会社法108条1項6号)を活用する
- 段階的な移転:株式は後継者としての実績を見ながら段階的に移し、議決権の過半数はしばらく先代側に残す
どれも、後継者を疑うための仕組みではなく、会社と従業員を守るための仕組みとして説明すると、受け入れられやすくなります。株主間契約の内容は株主間契約で決めておくべきことで解説しています。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る娘婿を後継者にするときの実務の順番
- 家族で話し合う:娘、ほかの子どもたち、配偶者を含めて、娘婿が継ぐことへの理解を得る。会社を継ぐかどうかは娘夫婦の人生の選択でもあり、押しつけにならないようにする
- 養子縁組をするかを決める:税金だけでなく、相続分・遺留分、家族の気持ち、離縁の可能性まで含めて判断する
- 株価を把握し、移し方を決める:贈与(暦年・精算課税)、売買、事業承継税制のどれを使うか。詳しくは暦年贈与・相続時精算課税で株式を移す方法
- 社内での立場をつくる:役員として経験を積み、幹部・取引先・銀行との関係を築く。後継者の育て方は後継者の育て方と社内での立ち位置
- 株主間契約などで「もしも」に備える
法人版事業承継税制(特例措置)の後継者は、親族でなくてもよく、娘婿も対象になりえます。国税庁の手引きでは、贈与の時に18歳以上で、会社の代表権を持ち、特別の関係がある者と合わせて議決権の過半数を持つことなどが要件とされています。制度の概要は事業承継税制の解説をご覧ください。
配偶者が継ぐ場合の注意点
社長が急に亡くなり、配偶者が代表取締役になる、という形の承継もあります。
一次相続は軽くても、二次相続が重くなる
配偶者が株式を相続すると、配偶者の税額軽減により、取得した財産が1億6,000万円または配偶者の法定相続分相当額のいずれか多い金額までなら、配偶者に相続税はかかりません。ただし、その株式は配偶者が亡くなったときに、もう一度相続税の対象になります。配偶者の年齢が社長と近い場合、短い期間で2回、自社株に相続税がかかることになり、その間に株価が上がっていれば負担はさらに増えます。
一次相続で配偶者が株式を相続するか、最初から子や娘婿に相続させるかは、二次相続まで通して試算して決めるのが原則です。
「つなぎ」の承継と議決権
配偶者が代表になるのは、次の後継者が育つまでの「つなぎ」であることが多いでしょう。その場合でも、配偶者に議決権の過半数があれば、次の後継者を選ぶのは配偶者です。誰にいつ株式と代表権を渡すのかを、早めに家族で共有しておくと、社内の動揺を抑えられます。社長の急逝に備える手順は緊急時の承継計画にまとめています。
銀行から見た娘婿・配偶者の承継
金融機関が後継者に求めるのは、血縁ではなく経営の実績と、会社の数字を説明できる力です。娘婿でも、役員として決算説明に同席し、資金繰りや事業計画を自分の言葉で語れれば、評価は上がります。
一方で、経営者保証の引継ぎは必ず論点になります。後継者が保証人になるか、保証なしで融資を続けてもらえるかは、法人と個人の資産の分離や財務の健全性で決まります。保証を外す考え方は経営者保証を外す方法、後継者の保証については社内後継者と経営者保証・借入の引継ぎをご覧ください。
まとめ
- 娘婿は養子縁組をしなければ相続人ではない。贈与は一般税率、遺贈は2割加算になる
- 養子縁組をすれば実子と同じ扱いになるが、相続税で数える養子は実子がいれば1人まで。家族の相続分・遺留分も変わる
- 節税目的の養子縁組でも直ちに無効ではない(最高裁平成29年1月31日判決)。ただし家族の理解が前提
- 離婚・離縁で株式は戻らない。株主間契約や取得条項付株式で買戻しの仕組みを決めておく
- 配偶者が継ぐ場合は、二次相続まで通して、誰に株式を相続させるかを試算する
娘婿や配偶者への承継は、税金の問題であると同時に、家族の関係の問題でもあります。クレフティでは、養子縁組をする・しない場合の税額比較、株式の移し方、二次相続までの試算など、ご家族で話し合うための材料づくりを事業承継・M&A支援としてお手伝いしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、公認会計士・税理士が具体的な選択肢をご案内します。
