オーナー社長の急逝は、会社にとって「経営者がいない」という問題と同時に、お金が一度に必要になるという問題を生みます。借入の返済を求められるかもしれない、売上が落ちるかもしれない、遺族への退職金、相続人から自社株を買い取る資金……。こうした資金需要に、法人契約の生命保険で備える会社は少なくありません。
この記事では、経営者の万一に備える生命保険と資金繰りについて、必要保障額の考え方、保険料の経理、保険金を受け取ったときの税金と株価への影響、受取人をめぐる裁決・判例、相続人から株式を買い取る金庫株の特例まで解説します。保険商品の選び方ではなく、会社の財務と承継から見た保険の話です。
- 社長の死亡で必要になる資金は、借入・保証の整理、運転資金、死亡退職金・弔慰金、自社株の買取資金の4つに分けて見積もる
- 定期保険・第三分野保険の保険料は最高解約返戻率で経理が決まる。50%以下なら原則全額損金
- 法人が受け取る保険金は益金で、自社株の純資産価額では資産になる。死亡退職金と一緒に設計する
- 遺族が受取人の保険は、規程で退職金と明示しない限り生命保険金として相続税の対象になる(裁決)
- 相続人から株式を買い取る金庫株には、申告期限後3年以内ならみなし配当課税をしない特例がある
社長が亡くなると、会社に必要になるお金
最初に、社長が亡くなったときに会社で何にお金が要るのかを分解します。
| 資金の使い道 | 中身 | 見積もりの考え方 |
|---|---|---|
| 借入・保証の整理 | 銀行から条件の見直しや一部返済を求められる可能性。後継者が保証を引き受けられない場合 | 借入残高のうち、事業の継続だけでは説明しにくい部分 |
| 運転資金 | 社長の営業力や信用に頼っていた売上の落ち込み、取引条件の悪化 | 固定費の数か月分+売上減少の想定 |
| 死亡退職金・弔慰金 | 遺族の生活資金・相続税の納税資金 | 役員退職慰労金規程に基づく額 |
| 自社株の買取資金 | 後継者以外の相続人が株式の現金化を望む場合に会社が買い取る | 相続税評価額や交渉価格×買取株数 |
社長個人の借入と会社の借入の関係、経営者保証の相続については口座の凍結・借入・経営者保証はどうなるかをご覧ください。
必要保障額の考え方
必要保障額は、次のように考えます。
たとえば、説明用の架空の数字で、借入のうち整理が必要になりそうな額5,000万円、運転資金3,000万円、死亡退職金・弔慰金6,000万円、自社株の買取資金4,000万円とします。手元で使える現預金が5,000万円なら、必要保障額は1億3,000万円です。
ただし、保険金は益金となり法人税がかかる一方、死亡退職金は損金になるなど、税金の出入りもあります。また、保険料は毎年の資金繰りと利益を確実に圧迫します。必要額と、無理なく払い続けられる保険料の両方から金額を決めるのが現実的です。
保険の種類と保険料の経理
法人が契約者・保険金受取人となる保険の保険料は、保険の種類と解約返戻率によって、損金になる部分と資産に計上する部分が決まります。
| 保険の種類 | 保険料の経理(原則) |
|---|---|
| 定期保険・第三分野保険(最高解約返戻率50%以下) | 全額損金 |
| 同(最高解約返戻率50%超70%以下) | 当初の一定期間、保険料の40%を資産計上 |
| 同(最高解約返戻率70%超85%以下) | 当初の一定期間、保険料の60%を資産計上 |
| 同(最高解約返戻率85%超) | 最高解約返戻率に応じたより大きな割合を資産計上 |
| 終身保険(法人受取) | 原則として全額資産計上 |
| 養老保険(死亡保険金は遺族、満期保険金は法人など一定の場合) | 2分の1を資産計上、2分の1を損金 |
定期保険・第三分野保険の取扱いは、2019年(令和元年)7月8日以後の契約に適用されています。最高解約返戻率が70%以下で、被保険者1人あたりの年換算保険料が30万円以下の契約は、全額損金にできる例外もあります(法人税基本通達9-3-5の2、国税庁タックスアンサーNo.5364)。経理の詳細は法人の生命保険は損金になる?で解説しています。
ここで大切なのは、保険は「損金になるか」ではなく「必要なときに必要な額が出るか」で選ぶということです。解約返戻金を目当てに保険料を大きくすると、毎年の現預金が減り、銀行の評価に影響します。
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事業承継・M&A支援を見る保険金を受け取ったときの税金と株価
法人の税金
法人が受取人の死亡保険金は、益金として法人税の対象です。資産計上していた保険積立金があれば、それを取り崩した差額が益金になります。同じ事業年度に死亡退職金の支給額が確定すれば、その額は損金になります(過大な部分を除く)。死亡退職金の税務は死亡退職金・弔慰金の税務で詳しく解説しています。
自社株の評価
相続税の計算で自社株を純資産価額で評価する場合、被相続人の死亡によって会社が受け取る生命保険金は保険金請求権として資産に計上します。一方、その保険金で被相続人の死亡退職金を支払う場合は、死亡退職金の額と、保険差益にかかる法人税額等を負債に計上します(国税庁「評価会社が受け取った生命保険金の取扱い」)。
つまり、保険金が大きいほど、相続人が引き継ぐ自社株の評価額は上がります。保険で会社の資金を厚くすることと、相続人の相続税を抑えることは、ときに逆方向に働くことを知っておいてください。
受取人をめぐる裁決・判例
保険の受取人を法人にするか遺族にするか、保険料を誰が負担するかで、課税関係は大きく変わります。公表されている裁決事例と最高裁判決を整理します。
| 裁決・判決 | 事案 | 判断と示唆 |
|---|---|---|
| 国税不服審判所 昭和55年10月4日裁決(裁決事例集No.21・180頁) | 雇用主が契約し保険料を負担した団体定期保険の保険金を遺族が受領。遺族は弔慰金・退職手当金等だと主張 | 規程などで退職手当金等として支給する意思が明白に表示されている場合に限り退職手当金等。本件は生命保険金(相続税法3条1項1号)とした |
| 国税不服審判所 平成12年9月20日裁決(裁決事例集No.60・491頁) | 会社が保険料を負担した保険の死亡保険金の一部を、遺族が会社に贈呈。残額は退職手当金等だと主張 | 定款・株主総会・社内規程などで退職手当金等として支給する意思が明らかでなく、総会決議もない。全額が生命保険金として相続税の対象 |
| 国税不服審判所 昭和59年2月27日裁決(裁決事例集No.27・231頁) | 毎年保険料相当額の贈与を受け、子がその資金で保険料を支払っていた | 贈与税の申告・納税もあり、贈与された預金で払ったと認められる。保険金は相続で取得したものとはみなされない |
| 最高裁第二小法廷 平成24年1月13日判決(平成21年(行ヒ)第404号) | 法人が保険料を負担した養老保険の満期保険金を役員個人が受領し、一時所得の計算で法人負担分の保険料も控除 | 一時所得の計算で控除できるのは、所得者本人が負担した保険料に限られる。法人が負担した保険料は控除できないとした |
前の2つの裁決からは、遺族が直接受け取る保険金を退職金の代わりと考えるなら、規程と株主総会の決議でそれを明らかにしておく必要があることが分かります。そうでなければ、退職金とは別の「生命保険金」として扱われ、非課税枠も生命保険金の枠(500万円×法定相続人の数)で判断されます。
最高裁判決は、保険料を法人が払い、保険金を個人が受け取る形の保険について、個人の所得税を軽くすることはできないと示したものです。保険の契約形態は、誰が保険料を負担し、誰が受け取るかから逆算して決める必要があります。
各事例は、国税不服審判所の公表裁決事例要旨(相続税:保険金)と、裁判所ウェブサイトの判決情報で確認できます。
相続人から自社株を買い取る:金庫株と税金の特例
後継者以外の相続人が株式を相続し、現金化を望むことがあります。その場合、会社が自己株式として買い取る(いわゆる金庫株)方法があります。
会社法のルール
- 会社が特定の株主から自己株式を取得するには、原則として株主総会の特別決議が必要で、他の株主にも自分の株式を売主に加えるよう請求する権利があります。ただし、非公開会社が相続人から取得する場合は、相続人が総会で議決権を行使したときなどを除き、この請求権の規定は適用されません(会社法162条)
- 買取りの総額は、分配可能額の範囲内でなければなりません(会社法461条1項)。ここに保険金が効いてきます
税金の特例
本来、会社に株式を売ると、取得価額などを超える部分はみなし配当として総合課税の対象になります。しかし、相続で取得した非上場株式を、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに発行会社に売った場合は、みなし配当課税をせず、株式の譲渡所得として課税する特例があります(租税特別措置法9条の7)。あわせて、その株式に対応する相続税額を取得費に加算できる特例もあります(租税特別措置法39条)。いずれも相続税が課された人が対象です。詳しくは相続した株式を会社に売る特例で解説します。
銀行から見た保険と資金繰り
銀行は、決算書の保険積立金を、解約返戻金ベースで見直して評価することが多いです。積立型の保険で保険料を大きく払っていると、帳簿上の資産は残っていても、現預金が減り、実質的な純資産は小さく見られることがあります。
著書のモデルでは、債務償還年数=(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)を返済能力の物差しにしています。保険料の支払いは、現預金と経常利益の両方を減らすため、この指標を悪化させます。保障は掛捨ての定期保険で必要額を確保し、残りは現預金で持つという考え方も、資金繰りの柔軟性を重視する会社には合理的です。
一方で、社長の急逝時に保険金が確実に入ることは、銀行にとって返済原資の裏付けになります。保険の加入状況を事業承継の計画とあわせて説明すれば、後継者の代での融資の相談もしやすくなります。不動産投資の借入で使われる団体信用生命保険との違いは団信と不動産投資をご覧ください。
まとめ
- 必要保障額は、借入・保証、運転資金、死亡退職金・弔慰金、自社株の買取資金から、使える現預金を引いて考える
- 保険料の経理は最高解約返戻率で決まる(2019年7月8日以後の契約)。損金かどうかより、必要額が出るかで選ぶ
- 法人の保険金は益金、自社株の純資産価額では資産。死亡退職金は負債になる
- 遺族受取の保険を退職金代わりにするなら、規程と総会決議で明らかにする(昭和55年10月4日・平成12年9月20日裁決)
- 相続人からの株式の買取りは、分配可能額の範囲で。申告期限後3年以内ならみなし配当の特例がある
保険は、社長が亡くなった後の会社のお金の流れを設計する道具です。クレフティでは、事業承継・M&A支援の中で、必要保障額の試算、保険金と株価・相続税の関係の確認、金庫株の分配可能額のチェック、銀行への説明までご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
