ご相談の内容
親が営んでいた個人事業を、年の途中で子が引き継いだ、というご相談です。親の廃業と子の開業の手続きは済みましたが、店舗の土地建物や設備は親の所有のまま無償で使っています。無償で使うと贈与にならないか、名義変更が間に合わず親名義で入金された売上や、親名義のままの水道光熱費はどう扱うか、今後の設備の入れ替えや保険料、車両費の按分はどうすればよいか、を知りたいという内容でした。
- 親の土地建物・設備を無償で使うだけなら使用貸借で、贈与税はかからない
- 引継ぎ日以後の売上は、名義にかかわらず子の売上。引継ぎ前の分は親の売上
- 親の資産の減価償却費や光熱費を経費にできるかは、親と生計を一にしているかで変わる
回答
無償で使う土地建物・設備
使用貸借(無償の貸し借り)であれば贈与税はかかりません。土地は「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」(昭和48年の個別通達)により、借地権相当額の贈与はないものとされます。建物や機械・備品も、所有権が移らない無償使用であれば贈与にはなりません。固定資産税相当額程度を負担する場合も、使用貸借の範囲とされます。
売上の帰属と、親の帳簿の締め方
所得は名義ではなく、実際に事業を行った人のものとして扱われます(所得税法第12条、実質所得者課税)。
- 引継ぎ日以後に提供した分は子の売上。親名義で入金された分は、親から受け取った旨を記録しておく
- 引継ぎ日前の分は親の売上。親の帳簿で引継ぎ前の月末に売掛金(未回収の売上)として計上済みなら、入金時は売掛金を減らす処理だけで、新たな所得は生じない
- 親は、廃業した年分の確定申告で、引継ぎ前までの事業所得を申告する
生計を一にしているかで変わる経費
生計を一にするとは、生活費を共通にしていることをいいます。
| 項目 | 生計を一にしている場合 | 別生計の場合 |
|---|---|---|
| 親名義の水道光熱費 | 親への支払は経費にならない(所得税法第56条)。代わりに、親が業者へ払った分のうち事業使用分を子の経費にできる。親へ払う必要はない | 合理的に按分した実費を親に支払えば経費になる |
| 親所有の建物・機械・備品の減価償却費、固定資産税 | 事業使用分を子の経費にできる(同条) | 無償使用のままでは経費にならない |
設備の入れ替え、保険料、車両費
- 新しく買う機械は子の資産です。子の帳簿で取得と減価償却(取得価額を耐用年数に分けて経費にすること)を行い、親側の処理は不要です。ただし、入れ替えの際に親所有の旧機械を売れば、親の譲渡所得として申告が必要になることがあります。
- 親が契約・支払った火災保険の前払分は親が負担したもので、子の経費や前払費用として引き継げません。建物の贈与を受けて子が契約者になれば、その後の保険料は事業用部分について経費になります。建物が使用貸借のままで子が保険料を負担する場合は、生計を一にしているかどうかで扱いが変わります。
- 車両費は家事関連費(仕事と私用が混在する費用)で、業務に必要な部分を明らかに区分できる範囲で経費になります(所得税法第45条、同法施行令第96条、所得税基本通達45-2)。親の帳簿の割合ではなく、ご自身の使用実態で按分してください。
注意したいポイント
- 使用貸借のままの親の資産は、引き続き親の所有です。廃棄や売却をしたら記録を残しておくと、親の申告や将来の相続財産の把握に役立ちます。
- 車両費の按分は、走行記録・日誌・訪問記録などの根拠を保存しておきましょう。
- 将来、資産を譲り受ける場合の扱いや、消費税・インボイス登録の要否は、別途確認が必要です。
親族への承継全体の考え方は子どもに会社を継がせるメリット・デメリット、車両費の業務使用割合の考え方は車両費・ガソリン代は経費になる?業務使用割合の按分でも解説しています(いずれも法人や不動産賃貸業の例が中心です)。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見るまとめ
- 親の資産を無償で使うだけなら使用貸借で、贈与税はかからない
- 売上は引継ぎ日で区切り、引継ぎ前の売掛金の入金は消込だけでよい
- 親の資産の償却費・光熱費の扱いは生計を一にしているかで変わり、按分は自分の実態で決める
この記事は、実際に寄せられたご相談をもとに、個人が特定されないよう内容を一般化して作成しています。個別の状況によって結論が変わることがありますので、詳しくは税理士にご相談ください。
