ご相談の内容
近いうちに会社を清算する予定で、会社名義の建物を役員個人に移したいと考えています。会社には役員からの借入金(役員借入金)が残っており、建物の評価額はその範囲内に収まりそうです。借入金と相殺する形で建物を移してよいのか、また、名義変更は清算前と清算のタイミングのどちらがよいのか、というご相談です。
- 建物を時価で評価し、役員借入金の範囲内なら、借入金と相殺して役員に譲渡(代物弁済)できる
- 時価より低い金額で相殺すると、差額が役員給与とされ、会社・役員の双方で課税されるおそれがある
- 名義変更は清算前でも清算中でもできるが、譲渡益や債務免除益が出るなら解散後のほうが有利になる可能性がある
回答
借入金との相殺は「代物弁済」にあたる
建物を時価で評価し、その金額が役員借入金の範囲内であれば、借入金と相殺して役員に譲渡することは可能です。これは代物弁済(お金の代わりに物で借入金を返すこと)にあたります。
相殺する金額は「時価」が前提
相殺の金額は「時価」によることが前提です。固定資産税評価額や帳簿価額は、時価と異なることがあります。
時価より低い金額で譲渡すると、差額が役員への経済的利益(役員給与)とされ、法人税法34条により損金不算入となるおそれがあります。役員側でも給与所得として課税される可能性があるため、不動産鑑定評価などで時価を把握しておくと安心です。
会社側・役員側にかかる税金
| 立場 | 主な税金・論点 |
|---|---|
| 会社 | 時価と帳簿価額の差額が譲渡損益になる。消費税の課税事業者であれば、代物弁済による建物の譲渡も課税売上げ(消費税法2条1項8号) |
| 役員 | 登録免許税と不動産取得税がかかる |
解散前と清算中、どちらで行うか
- 解散前に譲渡する場合:通常の事業年度の取引として課税されます。
- 解散後、清算中に債務の弁済として行う場合:課税の考え方は基本的に同じです。ただし、残余財産がないと見込まれるときは、期限切れ欠損金(繰越期限を過ぎた過去の赤字)を損金に算入できます(法人税法59条4項)。
このため、建物の譲渡益が出る場合や、相殺後に残った役員借入金を免除して会社に債務免除益が生じる場合には、解散後に行うほうが税負担を抑えられる可能性があります。逆に譲渡損が出る場合は、どちらで行っても大きな差は生じにくいと考えられます。
注意したいポイント
- 残余財産の分配と混同しない:借入金との相殺ではなく、清算の最後に残余財産として建物を株主に分配すると、株主側でみなし配当課税(所得税法25条)が生じ得るなど、扱いが異なります。
- 債務の弁済であることを書面に残す:今回は借入金の返済(代物弁済)であることを、契約書や議事録で明確にしておくとよいでしょう。
- 時価の根拠を用意する:鑑定評価書など、相殺した金額が時価であることを説明できる資料を残しておくことが大切です。
役員借入金の整理方法全般は役員借入金の解消方法、会社から役員へ物件を移すときの論点は法人から個人(役員)へ物件を売るときの税務もあわせてご覧ください。
まとめ
- 建物を時価で評価し、役員借入金の範囲内なら代物弁済として相殺・譲渡できる
- 時価より低い相殺は役員給与とされるおそれがあり、鑑定評価などで時価を把握しておく
- 譲渡益や債務免除益が出るなら、期限切れ欠損金を使える解散後の実行が有利になる可能性がある
この記事は、実際に寄せられたご相談をもとに、個人が特定されないよう内容を一般化して作成しています。個別の状況によって結論が変わることがありますので、詳しくは税理士にご相談ください。
