個人と法人・損益通算

法人から個人(役員)へ物件を売るときの税務|時価との差額は役員給与、消費税の50%基準、利益相反取引と借入の整理

会社で持っている物件を、社長個人に移したい。自宅として使いたい、会社の財務を整理したい、相続の計画の一部として個人で持ちたいなど、理由はさまざまです。

個人から法人へ移す場合と同じように、法人から個人へ移す場合も、ポイントは価格です。会社と社長は身内どうしなので、価格はいくらでも決められます。しかし、時価より低い価格で売れば、その差額は会社から社長への経済的な利益=役員給与として扱われ、会社と社長の双方に課税が生じます。この記事では、法人から役員へ不動産を売るときの税務、手続き、決算書と銀行の見え方を整理します。逆方向の取引は個人から法人へ物件を移すときの税金で扱っています。

この記事の結論
  • 会社から役員への売却は時価が基準。時価より低い価格なら、差額は役員給与とされる(法人税基本通達9-2-9)
  • 会社側は時価で売ったものとして益金を計算し、差額の役員給与は原則損金不算入。社長側は差額が給与所得で、会社に源泉徴収義務
  • 消費税は、時価のおおむね50%未満の低額譲渡なら時価で課税される(消費税法基本通達10-1-2)
  • 会社法の利益相反取引の承認、抵当権付きなら銀行との調整が必要
  • 時価の根拠(鑑定評価など)と手続きの記録を残すことが、税務にも銀行への説明にも効く

法人から役員への売却で問われること

価格会社側社長側
時価時価と帳簿価額の差額が売却損益時価が取得価額。課税なし
時価より低い時価で売ったものとして益金を計算。差額は役員給与(原則損金不算入)。源泉徴収差額が給与所得
時価より高い時価を超える部分は社長からの受贈益と見られるおそれ時価を超えて払った部分は取得価額として認められないおそれ

法人税法22条2項は、資産の有償・無償による譲渡から生じる収益を益金とします。会社が時価より低い価格で譲渡しても、益金は時価を基準に計算されるのが原則です。

法人税基本通達9-2-9は、役員給与とされる「債務の免除による利益その他の経済的な利益」の例として、役員等に対して所有資産を低い価額で譲渡した場合の、資産の価額と譲渡価額との差額を挙げています。この経済的な利益は、毎月一定額の定期同額給与には当たらないため、原則として損金に算入されません。

公表裁決:役員への建物の低額譲渡(平成16年3月16日裁決、裁決事例集No.67 447頁)

事案:建設業を営む同族会社が、代表者の妻が所有するリゾート地の土地の上に建てた建物(取得価額約5,450万円、帳簿価額約5,200万円)を、代表者に税込500万円で譲渡し、帳簿価額との差額を固定資産売却損として計上しました。原処分庁は、建物の時価を約4,626万円と算定し、譲渡価額との差額を益金に算入するとともに、代表者への役員賞与として損金不算入とし、源泉所得税の納税告知もしました。

判断:審判所は、別荘地では土地付きの建物に市場性があり建物だけでは売買の対象にならないことや、建物の用途などを踏まえると、原処分庁の方法(取得価額から償却した未償却残高を時価とする方法)も、請求人の方法も採用できないとし、審判所自ら不動産鑑定士に鑑定を依頼しました。鑑定では、建物と敷地の所有者が異なるため建物の使用借権も検討したうえで、建物の時価は1,226万円とされました。審判所はこれを時価と認定し、譲渡価額(税抜約476万円)との差額約750万円を益金に算入するとともに、その差額は代表者への役員賞与(当時の法人税法35条)として損金に算入できないと判断しました。結果として、時価が原処分庁の認定より大幅に低くなったため、法人税の更正処分は全部取り消され、源泉所得税の納税告知処分も一部取り消されています。

確認先:国税不服審判所 公表裁決事例(平16.3.16、裁決事例集No.67 447頁)

実務への示唆:

  • 時価は、帳簿価額でも単純な未償却残高でもなく、その物件の市場性を踏まえた価額で判断される
  • 低額譲渡と判断されると、会社の益金、役員給与の損金不算入、源泉徴収の3つがまとめて問題になる
  • 時価の根拠として、譲渡時点の不動産鑑定評価などを用意しておくことが有効

消費税と流通税

消費税:建物部分は課税、低額なら時価で計算

会社が課税事業者であれば、建物部分の譲渡は課税取引で、土地部分は非課税です。会社が役員に資産を著しく低い価額で譲渡した場合は、時価を対価として消費税を計算します(消費税法28条1項ただし書)。「著しく低い」とは、譲渡金額が時価のおおむね50%に満たない場合とされています(消費税法基本通達10-1-2)。

法人税の役員給与の判定には50%のような線はなく、時価との差額があればその分が問題になります。消費税の50%基準と混同しないよう注意しましょう。土地と建物の価額の按分は土地と建物の按分方法と争いになった裁決事例を参照してください。

社長側の流通税

税金内容
登録免許税売買による所有権移転登記は、土地が固定資産税評価額の1,000分の20(令和11年3月31日までは1,000分の15の軽減)、建物が1,000分の20(自己居住用の住宅用家屋には軽減あり)
不動産取得税都道府県に納める。住宅・土地には軽減の特例がある
印紙税売買契約書の記載金額に応じて(軽減措置は不動産売買契約書・工事請負契約書の印紙税を参照)

社長が個人で賃貸に使う場合、建物は中古資産として、簡便法などによる耐用年数で減価償却を行います。取得価額の構成は、譲渡価額と課税関係を踏まえて整理してください。

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手続き:利益相反取引と銀行との調整

会社法の利益相反取引

取締役が自己のために会社と取引をする場合は利益相反取引に当たり、株主総会(取締役会設置会社では取締役会)で重要な事実を開示して承認を受ける必要があります(会社法356条1項2号、365条1項)。取締役会設置会社では、取引後に重要な事実を取締役会に報告することも求められます(365条2項)。

社長が唯一の株主・取締役である会社でも、議事録に、物件、価格、価格の根拠(鑑定評価など)を記録しておくと、後で税務署や銀行に経緯を説明しやすくなります。

宅建業者が売主になる場合

会社が宅地建物取引業者で、売主として社長個人に売る場合は、宅地建物取引業法の売主としての規制(重要事項説明など)がかかります。相手が社長であっても、手続きを省略しないようにしましょう。

借入れと抵当権

会社の借入れの担保になっている物件を売る場合、抵当権を抹消しなければ、社長は担保付きの物件を取得することになります。融資契約では担保物件の処分に銀行の承諾が必要とされているのが通常です。

  1. 銀行に売却の目的と時期を相談し、売却代金での繰上返済と抵当権の抹消の段取りを決める
  2. 社長が個人で借入れをするなら、個人の融資の審査を並行して進める
  3. 会社の残りの借入れの返済計画への影響を確認する

会計上の扱いと決算書の表示、銀行からの見え方

決算書の表示

会社が固定資産として保有していた物件を売った場合、売却損益は臨時的なものとして特別利益・特別損失に表示するのが一般的です。宅建業の在庫(販売用不動産)を売った場合は、売上高と売上原価になります。どの区分に表示するかは、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に沿って、保有目的と取引の実態で判断します。社長への売却だからといって、固定資産の売却益を売上高に計上したり、売却損を都合のよい区分に入れたりすることはできません。保有目的の区分は販売用不動産と固定資産の区分を参照してください。

低額譲渡で役員給与とされた部分は、税務上は益金と役員給与の両建てになりますが、決算書上の処理は実際の取引に基づくため、申告調整で対応することになります。

銀行からの見え方

見られる点起きやすいこと
会社の純資産時価で売って売却益が出れば純資産が増える。低額で売れば、本来残るはずの純資産が社長に移る
借入れの返済売却代金で繰上返済すれば借入れは減るが、家賃収入も減る
資金流出時価より低い売却は、会社から社長への資金流出と見られる
社長個人個人で借入れをすれば、社長個人の負債が増える。保証人としての評価にも影響

著書のモデルでは、プロパー融資の目安を「正常先+純資産1億円」としています。社長への低額譲渡は、会社の純資産を社長に移すことと同じなので、会社の格付けの面でも不利です。時価で売り、売却益に対する税金を払って純資産に残すほうが、会社の財務を強くすることにつながります。

実務のチェックポイント

チェック項目確認する内容
時価の根拠譲渡時点の不動産鑑定評価、査定書、近隣の取引事例など
価格時価を基準に決めたか。帳簿価額や固定資産税評価額をそのまま使っていないか
会社法利益相反取引の承認決議と議事録
宅建業法会社が宅建業者で売主となる場合の手続き
消費税建物部分の課税、時価の50%未満でないか、土地・建物の按分
源泉徴収差額が役員給与とされる可能性を検討したか
借入れ・抵当権銀行の承諾、繰上返済と抹消の段取り、社長個人の借入れ
決算書売却損益を保有目的と実態に沿って表示しているか

まとめ

  • 法人から役員への売却は時価が基準。低い価格なら差額は役員給与となり、会社は損金不算入、社長は給与所得、会社に源泉徴収義務
  • 公表裁決(平成16年3月16日)では、審判所が鑑定評価で時価を認定し、譲渡価額との差額を益金と役員賞与とした
  • 消費税は時価のおおむね50%未満なら時価で課税。法人税の判定とは基準が違う
  • 会社法の利益相反取引の承認、抵当権付きなら銀行との調整が必要
  • 低額譲渡は会社の純資産を社長に移すことと同じ。時価で売り、根拠と記録を残す

会社と社長の間の不動産の移転は、税務・会社法・融資が同時に動く取引です。クレフティでは、不動産投資家向けサポートの中で、価格の根拠づくりから、手続き、銀行との調整までご相談をお受けしています。

よくある質問

会社の物件を帳簿価額で社長に売っても問題ありませんか?
帳簿価額が時価と同じくらいなら問題になりにくいですが、時価より低ければ、その差額は会社から社長への経済的な利益として役員給与とされます。会社側では時価で売ったものとして売却益を計上し、差額の役員給与は原則として損金に算入できません。社長側では差額が給与所得となり、会社には源泉徴収の義務が生じます。帳簿価額ではなく時価を基準に価格を決めてください。
会社から役員への譲渡で、消費税はどうなりますか?
建物部分の譲渡は課税取引です。会社が役員に資産を著しく低い価額で譲渡した場合は、時価を対価として消費税が計算されます(消費税法28条1項ただし書)。「著しく低い」とは、譲渡金額が時価のおおむね50%に満たない場合をいうとされています(消費税法基本通達10-1-2)。土地部分は非課税です。
会社と社長が不動産を売買するとき、会社法の手続きは必要ですか?
取締役が自己のために会社と取引をする場合は利益相反取引に当たり、株主総会(取締役会設置会社では取締役会)で重要な事実を開示して承認を受ける必要があります(会社法356条、365条)。一人会社でも、議事録を作っておくと、後から取引の経緯と価格の根拠を説明しやすくなります。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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