日本経済新聞(2026年10月20日)が、住宅金融支援機構の住宅ローン「フラット35」で、本来は対象にならない民泊用の物件に計13億円超が融資されていたと報じました。会計検査院の調査で分かったもので、検査院は機構に審査の改善を求めています。
民泊の需要が伸びるなかで、「住宅ローンの低い金利で家を買い、民泊で回す」という発想は、一見うまい方法に見えるかもしれません。しかし、それは契約違反であり、見つかれば一括返済を求められるおそれがあります。この記事では、報道で示された内容を引用しながら、住宅ローンを投資や民泊に使ってはいけない理由と、用途を変えたいときの正しい順番を整理します。
- 会計検査院は、フラット35で融資された戸建て住宅のうち、民泊25件(約13億7千万円)、店舗・事務所への一部利用39件(約16億6千万円)を不適正と指摘。計64件・約30億4千万円について、機構に償還請求などの措置を求めた(日本経済新聞)
- 住宅ローンは本人や家族が住むことが前提の融資。民泊や賃貸に使うと一括返済を求められるおそれがあるうえ、住宅ローン控除も受けられない
- 一度でも契約違反をすると、その金融機関だけでなく、今後の不動産投資の融資にも響きかねない
- 民泊や賃貸をしたいなら、最初から事業用の融資で、事業用の金利を前提に収支を試算する。住んでいる家の用途を変えたいときは、必ず事前に金融機関へ相談する
報道で示された検査の内容
記事では、会計検査院の調査結果として、次のような内容が紹介されています。
| 項目 | 報道で示された内容 |
|---|---|
| 調査の対象 | 2023〜24年度にフラット35で融資を受けた都市部の戸建て住宅約1万件を抽出し、うち約200件を実地検査など |
| 民泊に使われていた物件 | 住宅宿泊事業法(民泊新法)による民泊7件、旅館業法による民泊16件、特区民泊2件。計25件、融資額は約13億7千万円 |
| 事前に分かったはずの事例 | 申請の1年以上前に旅館業の許可を受け、区のサイトにも掲載されていた中古住宅(約5,200万円)。利用者が別の民泊を運営していた、勤務先が民泊の運営事業者だった事例も |
| 店舗・事務所への一部利用 | 39件、計約16億6千万円 |
| 検査院の求め | 審査シートなどの改善、不適正とした計64件(約30億4千万円)の償還請求などの措置 |
| 民泊の広がり | 民泊新法の届出住宅は全国で約4万3千件(2026年9月15日時点、観光庁)。2021年9月の約1万8千件から5年で2.3倍 |
出典:日本経済新聞「フラット35、民泊転用見抜けず13億円融資 検査院が審査改善求める」(2026年10月20日)。数字は同記事が示した会計検査院・観光庁のデータによる。
フラット35は、住宅金融支援機構が民間の金融機関と提携して提供する、最長35年の長期固定金利の住宅ローンです。融資の審査は、機構がつくる審査シートをもとに民間の金融機関が行います。報道によれば、審査シートには「賃貸用や事業用の取得の懸念はないか」という項目はあったものの、民泊は具体的な確認項目として明示されていなかったとのことです。機構は、審査シートの項目を具体化するなどの対応をとる考えを示しています。
なぜ住宅ローンを民泊や投資に使ってはいけないのか
住宅ローンは「住むため」の特別な融資
住宅ローンの金利が低く、期間が長いのは、本人や家族が住む家という、返済の優先順位が最も高い資産に対する融資だからです。銀行から見ると、住宅ローンの借り手は「家を失わないために、何を削ってでも返済する」人です。だからこそ、事業用の融資よりずっと有利な条件が出ます。
民泊や賃貸は、これとはまったく違うリスクを持つ事業です。稼働率や宿泊単価、規制の変更によって、収入が大きく変わります。住宅ローンの条件のまま事業のリスクを負わせることは、貸し手から見れば前提が崩れた融資です。
契約違反として一括返済を求められるおそれ
住宅ローンの契約では、資金の使い道(資金使途)と、物件を自分や家族が住むために使うことが約束されています。これに反すると、契約違反として残っている借入の一括返済を求められる可能性があります。今回、検査院が機構に償還請求などの措置を求めたのも、この考え方によるものです。
一括返済を求められても、多くの人はすぐに返せません。物件を売るか、別の融資で借り換えるしかなく、事業用の融資は金利も審査も厳しくなります。民泊の収支が住宅ローンの金利を前提にしていた場合、事業として成り立たなくなることも考えられます。用途の変更と融資契約の関係は、用途転用と融資契約で詳しく解説しています。
住宅ローン控除も受けられない
住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)は、取得した家に自分が住んでいることが条件です。民泊や賃貸に使っている部分は控除の対象になりません。住んでいないのに控除を受けていた場合は、後から修正申告を求められ、さかのぼって税金を納めることになります。
将来の融資にも響く
一度でも住宅ローンの契約違反をすると、その金融機関との信頼関係は大きく損なわれます。不動産投資を続けていくうえで、銀行からの信用は最も大切な資産の一つです。目先の金利差のために、将来の融資の道を狭めるのは割に合いません。
民泊や賃貸をしたいときの正しい順番
民泊の需要が伸びていること自体は事実です。事業として取り組むなら、最初から事業として組み立てることが大切です。
| 進め方 | 住宅ローンを流用する | 事業として組み立てる |
|---|---|---|
| 借り方 | 住宅ローン(契約違反) | 不動産投資ローン、事業性の融資、日本政策金融公庫など |
| 金利 | 低い(ただし違反が分かれば一括返済のおそれ) | 住宅ローンより高い |
| 収支の試算 | 低い金利が前提で、甘くなりやすい | 事業用の金利が前提で、現実的 |
| 税務 | 住宅ローン控除は使えない。所得区分や消費税も後から問題になりやすい | 所得区分・消費税・減価償却を最初から設計できる |
| 銀行との関係 | 信用を失うリスク | 決算書の実績が次の融資につながる |
具体的には、次の順番で進めることをおすすめします。
- 住宅宿泊事業法の民泊か、旅館業の許可を取るかを決める:年間の営業日数の上限や、必要な設備・手続きが違います(住宅宿泊事業法と旅館業法の違いと税務)
- 事業用の金利で収支を試算する:稼働率が下がった場合や、規制が変わった場合も含めて試算します
- 所得区分と税務を確認する:民泊の収入は、規模や運営の実態によって、雑所得・不動産所得・事業所得のどれになるかが変わります(民泊収入の所得区分)
- 事業用の融資を申し込む:事業計画と、個人なら確定申告書、法人なら決算書をもとに相談します
- すでに住宅ローンで買った家の用途を変えたいときは、必ず事前に金融機関へ相談する:承諾を得たうえで、必要なら事業用の融資へ借り換えます
賃貸用の物件を民泊やホテルに転用するときの税務の論点は、レジデンスを旅館業・民泊に転用したら税務はどうなるかでまとめています。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る店舗・事務所との併用住宅にも注意
今回の検査では、民泊のほかに、住宅の一部を店舗や事務所に使っていた39件も不適正とされました。フラット35でも、店舗や事務所との併用住宅は、住宅部分の床面積などの条件を満たせば対象になります。問題になったのは、条件を満たさない形での利用だったと考えられます。
自宅の一部を事務所として使う場合も、申込みの段階で用途と面積を正直に伝えることが基本です。税務の面でも、自宅兼事務所の費用をどう按分するかは、個人と法人で考え方が変わります(自宅兼事務所の家事按分)。
今後も注意して見ていきたいこと
ここからは、税理士として、また自らも融資を受けて不動産投資を続けてきた立場からの考えです。
不動産の融資では、「書類上の用途」と「実際の使い方」のずれが、後から大きな問題になります。今回の報道で、機構は審査シートの項目を具体化し、民泊の違反事例を説明資料に明記する方針を示しました。次の点は今後も注意が必要だと考えています。
- 審査の厳格化:フラット35に限らず、住宅ローンの審査で、物件の用途や借り手の勤務先・事業の内容がより細かく確認されるようになる可能性があります。正しく使う人にとっては影響はありませんが、申込みの書類は正確に書くことが大切です
- 過去の融資の点検:検査院が償還請求などの措置を求めたことで、すでに融資を受けた物件についても、利用状況の確認が進む可能性があります
- 民泊の規制の動き:届出住宅が5年で2.3倍に増え、自治体による規制の見直しも続いています。民泊の収支は、規制の変更で大きく変わりうる点を忘れないでください
- 住まいと投資の線引き:自宅と投資用の物件は、借り方も税務もまったく別のものとして扱う、という原則を守ることが、長く投資を続けるための土台になります
融資は、借りるときよりも、借りた後の使い方で信用が決まります。正しい融資で、正しく使い、決算書で実績を積み上げることが、次の融資への一番の近道です(不動産投資で2棟目・3棟目の融資が止まる本当の理由)。
まとめ
- 会計検査院は、フラット35で民泊25件(約13億7千万円)、店舗・事務所への一部利用39件(約16億6千万円)を不適正と指摘し、機構に審査の改善や償還請求などの措置を求めた
- 住宅ローンは住むための特別な融資。民泊や賃貸に流用すると、一括返済を求められるおそれがあり、住宅ローン控除も受けられない
- 一度の契約違反が、今後の不動産投資の融資にも響きかねない
- 民泊や賃貸をするなら、最初から事業用の融資で、事業用の金利を前提に収支を試算する
- 住んでいる家の用途を変えたいときは、必ず事前に金融機関へ相談する
民泊や用途転用を考えていて、融資や税務の進め方を確認したい方は、お気軽にご相談ください。
