個人で宅地建物取引業(宅建業)の免許を取り、不動産の売買や仲介を営む人がいます。賃貸業を続けながら、売買・仲介も手がけるという形も珍しくありません。
このとき迷いやすいのが所得区分です。同じ「不動産の取引」でも、仲介手数料、販売用物件の売却、保有物件の家賃、保有物件の売却では、事業所得・不動産所得・譲渡所得・雑所得のどれになるかが違い、税率や損益通算、青色申告の特典まで変わります。この記事では、個人の不動産業者の所得区分を、法令と通達、公表裁決事例をもとに整理し、消費税・個人事業税、帳簿と銀行の見え方まで解説します。
- 仲介手数料と販売目的で取得した物件の売却は、不動産業から生じる事業所得
- 販売用物件を売れるまで一時的に貸した家賃も事業所得(所得税基本通達26-7)。一方、長く保有して貸している物件の家賃は不動産所得
- 賃貸用に保有してきた物件の売却は、原則として譲渡所得(分離課税)。保有目的の区分と記録が分かれ目
- 免許なく売買を繰り返すと、譲渡所得ではなく雑所得や事業所得とされることがある(公表裁決)
- 消費税・個人事業税・青色申告の扱いも所得区分で変わる。銀行には事業の収益と賃貸の収益を分けて示す
取引ごとの所得区分
| 取引 | 所得区分 | 根拠・考え方 |
|---|---|---|
| 売買・賃貸の仲介手数料 | 事業所得 | 不動産業(仲介業)から生じる所得 |
| 販売目的で取得した物件の売却(買取再販など) | 事業所得 | 棚卸資産の譲渡は譲渡所得に含まれない(所得税法33条2項1号) |
| 販売用物件を売れるまで一時的に貸した家賃 | 事業所得 | 所得税基本通達26-7 |
| 賃貸用に保有している物件の家賃 | 不動産所得 | 不動産の貸付けによる所得(所得税法26条) |
| 賃貸用に保有してきた物件の売却 | 譲渡所得(分離課税) | 固定資産の譲渡 |
| 免許なく営利目的で繰り返す売買 | 雑所得または事業所得 | 営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡は譲渡所得に含まれない |
不動産所得と事業所得の線引き
所得税法26条は、不動産の貸付けによる所得を、事業所得や譲渡所得に当たるものを除いて不動産所得とします。不動産業を営んでいる人でも、貸付けによる所得は原則として不動産所得で、規模が大きくても事業所得にはなりません。
例外として、所得税基本通達26-7は、不動産業者が販売の目的で取得した土地・建物を一時的に貸し付けた場合の所得は、不動産業から生じる事業所得に当たるとしています。この場合、貸し付けた建物については、減価償却資産に準じて計算した償却費相当額を必要経費に算入できるとされています。
事業所得と譲渡所得の線引き
所得税法33条2項1号は、棚卸資産(これに準ずる資産を含む)の譲渡や、営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡による所得は、譲渡所得に含まれないとしています。販売用として仕入れた物件の売却は事業所得で、賃貸用として保有してきた物件の売却は譲渡所得です。
どちらに当たるかは、取得したときの目的、保有期間、帳簿上の区分(販売用不動産か固定資産か)、実際に賃貸していたか、などで判断されます。保有目的を途中で変えた場合の考え方は、販売用不動産と固定資産の区分で整理しています。
公表裁決事例
繰り返しの売買が雑所得とされた事例(平成元年6月23日裁決、裁決事例集No.37 48頁)
事案:請求人は、ワンルームマンションを中心に不動産の購入と売却を繰り返し、売却代金の大部分と多額の借入金で新しい物件を買っていました。請求人は、物件は賃貸業に使っていたもので、より条件の良い物件の取得とローンの負担軽減のために入れ替えた結果、売買の回数が増え所有期間が短くなっただけであり、譲渡所得とすべきだと主張しました。
判断:審判所は、相当数の売買を繰り返し、売却した物件の所有期間が極めて短いことなどから、その譲渡は営利を目的として継続的に行われたものと認められるので、所得税法33条2項1号により譲渡所得には当たらないとしました。そのうえで、請求人が売買のあっせん・仲介をしたことがなく仲介を不動産業者に依頼していたこと、取引のための雇人や物的施設を持っていなかったこと、別会社の代表取締役の地位にあったことを総合すると、売買は社会通念上事業と認めるに足りないので、事業所得ではなく雑所得に当たると判断しました。
個人時代の棚卸資産の売却が事業所得とされた事例(昭和45年10月29日裁決、裁決事例集No.1 12頁)
事案:不動産仲介業を営んでいた個人が、事業を法人に組織替えした後、個人事業の当時に棚卸資産として取得し、法人に引き継がなかった土地を売却しました。
判断:審判所は、その限りで個人事業が継続しているとみるべきであり、売却による所得は固定資産の譲渡による譲渡所得ではなく、事業所得であると判断しました。
確認先:国税不服審判所 公表裁決事例要旨「不動産の継続的譲渡による所得」、同「廃業後の棚卸資産の譲渡による収入」
実務への示唆
- 「賃貸のための入替え」と主張しても、売買の頻度と資金の動きから営利目的の継続的な譲渡と見られることがある
- 事業所得になるか雑所得になるかは、事業としての実態(仲介の実績、人や事務所、帳簿)で判断される
- 法人化した後も、個人に残した棚卸資産の売却は個人の事業所得として扱われ得る。法人化のときに在庫をどうするかを決めておく
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る所得区分で何が変わるか
| 項目 | 事業所得 | 不動産所得 | 譲渡所得(土地建物) | 雑所得 |
|---|---|---|---|---|
| 課税方法 | 総合課税 | 総合課税 | 分離課税(所有期間5年超は長期、以下は短期) | 総合課税 |
| 赤字の扱い | 他の所得と損益通算できる | 損益通算できる(土地の借入金利子部分などの制限あり) | 他の所得との損益通算は原則できない | 損益通算できない |
| 青色申告特別控除65万円 | 要件を満たせば適用 | 事業的規模であることが必要 | 対象外 | 対象外 |
| 個人事業税 | 不動産売買業・仲介業などは対象業種 | 一定規模以上の不動産貸付業は対象 | 対象外 | — |
土地建物の譲渡所得の税率は、所有期間が5年を超える長期譲渡所得で所得税・住民税等あわせて20.315%、5年以下の短期譲渡所得で39.63%です(不動産売却の税金)。事業所得として売却益に累進税率がかかる場合と比べ、どちらが有利かは所得の規模で変わります。なお、個人の事業所得等のうち短期所有の土地の譲渡等には、税負担を重くする特例(いわゆる土地重課)が設けられていますが、長期間にわたり適用が停止されています。停止の期限は税制改正ごとに延長されてきたため、売却の際には最新の取扱いを確認してください。
赤字になった事業所得が税務署の目に留まりやすい理由は、個人の事業所得のマイナスはなぜ目立つのかで解説しています。
消費税
| 取引 | 消費税 |
|---|---|
| 仲介手数料 | 課税 |
| 建物の売却(販売用・保有用とも) | 課税(土地部分は非課税) |
| 住宅の家賃 | 非課税 |
| 事務所・店舗の家賃、駐車場 | 課税 |
個人の消費税の納税義務は、基準期間(前々年)の課税売上高などで判定します。販売用物件の建物部分の売上げは課税売上高に入るため、売買を始めると課税事業者になりやすくなります。簡易課税を選ぶ場合、仲介手数料や賃貸は第6種(みなし仕入率40%)など、事業の区分ごとにみなし仕入率が変わります。詳しくは不動産業の簡易課税を参照してください。
会計上の扱いと帳簿、銀行からの見え方
帳簿の区分
青色申告で複式簿記の帳簿を付ける場合、事業所得と不動産所得は別々の決算書(青色申告決算書の一般用と不動産所得用)にまとめます。販売用物件は棚卸資産(販売用不動産)として計上し、売れたときに売上原価に振り替えます。賃貸用物件は固定資産として減価償却します。
この区分は、企業会計で用いられる一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)の、保有目的に応じて棚卸資産と固定資産を分ける考え方と同じです。税務上の所得区分と帳簿の区分がそろっていれば、税務調査でも銀行でも説明しやすくなります。
決算書の見せ方
著書では「収益は上に、費用は下に」として、宅建業を兼業しているなら、仲介手数料や買取再販の売却益も売上高に計上できると説明しています。これは、宅建業の仲介・売買が本業として実際に営まれているから成り立つ話です。税務上の所得区分や損金・必要経費の判断とは別に、決算書のどの区分に表示するかは、企業会計の基準に沿って取引の実態で判断する必要があり、どの区分にできるかは実態次第です。賃貸用に保有してきた物件の売却益を、売上高を大きく見せるために本業の売上として扱う、といったことはできません。顧問税理士・会計の専門家と検討してください。
銀行からの見え方
| 見られる点 | 個人の不動産業者で起きやすいこと |
|---|---|
| 収益の安定性 | 売買の利益は年による変動が大きい。賃貸の収益と分けて示すと、安定収益が見えやすい |
| 在庫の滞留 | 販売用物件が長く売れ残っていると、評価の引下げや資金繰りの懸念につながる |
| 借入れの性格 | 仕入資金の短期の借入れと、賃貸物件の長期の借入れを分けて説明する |
| 個人の申告書 | 事業所得・不動産所得・譲渡所得が混在していると、利益の実態が読み取りにくい |
売買の規模が大きくなってきたら、法人化によって事業と個人の財産を分けることも選択肢になります(個人事業主の法人化のタイミングと目安)。その際は、個人に残る棚卸資産の扱いを前もって決めておきましょう。
実務のチェックポイント
| チェック項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 物件ごとの保有目的 | 取得時に販売用か賃貸用かを決め、帳簿・稟議・契約書で一致させているか |
| 一時的な貸付け | 販売用物件を貸している場合、事業所得として処理しているか |
| 保有目的の変更 | 販売用から賃貸用(またはその逆)に変えたときの理由と時期を記録しているか |
| 帳簿の区分 | 事業所得と不動産所得の決算書を分けて作っているか |
| 消費税 | 建物部分の売上げで課税事業者の判定が変わらないか。簡易課税の事業区分 |
| 個人事業税 | 不動産売買業・仲介業・貸付業の申告 |
| 宅建業の免許 | 業として売買・仲介を行うなら免許を受けているか |
| 銀行への説明 | 事業の収益と賃貸の収益、短期の仕入資金と長期の借入れを分けて示せるか |
まとめ
- 仲介手数料と販売用物件の売却は事業所得、販売用物件の一時的な貸付けも事業所得(所得税基本通達26-7)
- 賃貸用に保有している物件の家賃は不動産所得、その売却は原則として譲渡所得
- 営利目的で繰り返す売買は譲渡所得に当たらず、実態によって雑所得か事業所得になる(公表裁決)
- 所得区分によって、課税方法・損益通算・青色申告特別控除・消費税・個人事業税が変わる
- 物件ごとの保有目的を最初に決めて記録し、銀行には事業と賃貸の収益を分けて示す
クレフティでは、不動産投資家向けサポートの中で、個人の不動産業と賃貸業の区分の整理、申告、法人化の判断までご相談をお受けしています。
