「広い土地をそのまま売るより、造成して区画を分けたほうが高く売れる」。不動産会社からそう提案されることがあります。確かに手取りは増えるかもしれませんが、税務上は土地を造成・分割して売ると、譲渡所得ではなく事業所得や雑所得になることがあります。分離課税の約20%で済むと思っていた税金が、総合課税の累進税率になると、結果は大きく変わります。
この記事では、個人の所得区分を決める所得税基本通達33-4・33-5の考え方、売買を繰り返して雑所得とされた事例を含む公表裁決、法人で固定資産を販売用不動産に振り替える場合の会計処理、消費税、銀行からの見え方を整理します。
- 固定資産である土地に区画形質の変更(造成・道路・水道など)を加えて宅地として売ると、原則として事業所得または雑所得(所得税基本通達33-4)
- ただし、変更を加えた土地がおおむね3,000㎡以下の小規模なものや、土地区画整理法などに基づくものは、なお固定資産(譲渡所得)として差し支えない
- 極めて長期間持っていた土地なら、造成着手直前の価額までを譲渡所得、造成による利益を事業所得・雑所得に区分できる(同33-5)
- 法人では、保有目的が販売に変わったら販売用不動産への振替を検討し、売上高・売上原価で表示するのが基本。区分は実態で決まる
- 繰り返し売る場合は宅地建物取引業の免許の要否も確認。銀行は不動産販売の売上を賃貸の家賃収入とは別の目で見る
なぜ造成すると所得区分が変わるのか
所得税法33条2項は、棚卸資産(これに準ずる資産を含む)の譲渡や、営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡による所得を、譲渡所得から除いています。譲渡所得は、長く持っていた資産の値上がり益を、手放すときにまとめて清算して課税する所得です。これに対し、土地に手を加えて商品として売る行為は、値上がり益の清算ではなく、造成・販売という事業活動から生まれる利益と考えられるためです。
最高裁昭和47年12月26日判決(民集26巻10号2083頁)も、譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによって所有者に帰属する増加益を、その資産が他に移転する機会に清算して課税する趣旨のものだと判示しています(裁判所)。
個人の判断基準:所得税基本通達33-4と33-5
33-4:区画形質の変更を加えて売ると事業所得・雑所得
国税庁の所得税基本通達33-4は、固定資産である林地その他の土地に区画形質の変更を加え、もしくは水道その他の施設を設けて宅地等として譲渡した場合、または固定資産である土地に建物を建設して譲渡した場合には、その譲渡による所得は、その全部が事業所得または雑所得に該当するとしています。
ただし、注書きで、次のいずれかに当たるときは、なお固定資産として(譲渡所得として)差し支えないとしています。
- 区画形質の変更などをした土地の面積(所有者が2人以上ならその合計)が小規模(おおむね3,000㎡以下)であるとき
- 区画形質の変更などが土地区画整理法、土地改良法など法律の規定に基づいて行われたものであるとき
33-5:極めて長期間持っていた土地は区分計算できる
同通達33-5は、33-4により事業所得または雑所得に当たる場合でも、その土地が極めて長期間引き続き所有されていたものであるときは、譲渡による所得のうち、区画形質の変更等による利益に対応する部分を事業所得または雑所得とし、その他の部分を譲渡所得として差し支えないとしています。この場合、譲渡所得の収入金額は、区画形質の変更等の着手直前の土地の価額とされ、譲渡に要した費用はすべて事業所得または雑所得の必要経費に入れます。
| ケース | 所得区分 | 根拠 |
|---|---|---|
| 分筆して、造成せずにそのまま売る | 譲渡所得(分離課税) | 所得税法33条 |
| 3,000㎡を超える土地を造成し、宅地として分譲 | 事業所得または雑所得(総合課税) | 所得税基本通達33-4 |
| 造成した土地がおおむね3,000㎡以下 | 譲渡所得として差し支えない | 同33-4(注)1 |
| 土地区画整理事業による造成 | 譲渡所得として差し支えない | 同33-4(注)2 |
| 極めて長期間持っていた土地を造成して分譲 | 着手直前の価額までは譲渡所得、造成による利益は事業所得・雑所得 | 同33-5 |
| 自分の土地に建物を建てて売る(建売) | 事業所得または雑所得 | 同33-4 |
| 物件の短期売買を繰り返す | 事業所得または雑所得 | 所得税法33条2項1号 |
事業所得か雑所得か
事業所得になるか雑所得になるかは、その売買が社会通念上「事業」といえる規模・態様かで判断します。雑所得になると、赤字が出ても他の所得と損益通算できません。所得区分の考え方は個人の事業所得のマイナスはなぜ目立つのかでも扱っています。
公表裁決:所得区分が争われた事例
国税不服審判所の公表裁決事例要旨(所得税法関係「造成土地の譲渡による所得」「不動産の継続的譲渡による所得」)から3件を紹介します。
昭和54年7月9日裁決(裁決事例集No.18・25頁):長期保有土地は区分して課税
- 争点:区画形質を変更して譲渡した土地の所得は、その全部が事業所得・雑所得か
- 判断:区画形質の変更を加えて宅地として譲渡した場合は、所得の全部が事業所得または雑所得に当たると解される。しかし、譲渡所得課税の本質は資産の値上がり益の清算であるから、その土地が極めて長期間引き続き所有されていたものであるときは、譲渡による所得には本来の譲渡所得の性質を持つ部分も含まれているとみるべきであり、譲渡所得と事業所得または雑所得とに区分して課税するのが相当とされた
昭和55年6月13日裁決(裁決事例集No.20・58頁):盛土しただけなら譲渡所得
- 事案:共有で取得した低湿地に2〜3メートルの盛土をして譲渡した。原処分庁は雑所得とした
- 判断:土地は取得後放置されてゴミ捨場のようになり、市当局などから管理責任を問われたため通常の管理行為として埋め立てたもので、工事費は少額、表面をならしただけで下水道・擁壁・石垣積みなどの工事はしておらず、そのまま宅地として使える状態ではなかった。宅地またはそれに近い状態にまで区画形質の変更が加えられたとは認められないとして、譲渡所得に当たるとされ、雑所得とした原処分は相当でないとされた
平成元年6月23日裁決(裁決事例集No.37・48頁):売買の繰返しは雑所得
- 事案:請求人は、物件は賃貸業に使っていたもので、より良い賃貸物件の取得とローン負担の軽減のために売った結果として売買回数が多くなっただけだと主張した
- 判断:ワンルームマンションを主とする不動産の売買を繰り返し、売却代金の大部分と多額の借入金で新たな物件を買うなど相当数の売買を繰り返し、売却した物件の所有期間は極めて短期間であったことなどから、営利を目的として継続的に行った譲渡と認められ、譲渡所得には当たらないとされた。さらに、仲介を業者に依頼し、取引のための人員や設備もないことなどから、事業とまでは認められず雑所得とされた
実務への示唆:所得区分は、工事の内容(宅地として使える状態にしたか)、面積、保有期間、売買の頻度などの実態で判断されています。造成の提案を受けたら、工事の範囲と面積を確認し、造成前に一括で売る場合との税額を比較してから決めるのが安全です。賃貸目的で買った物件でも、短期の売買を繰り返せば譲渡所得として扱われないことがある点も注意が必要です。これらの裁決は個別の事実に基づく判断であり、造成した土地の売却がすべて事業所得・雑所得になるという趣旨ではありません。
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不動産投資家向け税務・融資支援を見る法人の場合:固定資産から販売用不動産への振替
法人の場合、所得税のような所得区分はなく、売却益はすべて法人の所得に含まれます。法人で論点になるのは、その土地が固定資産か棚卸資産(販売用不動産)かという区分です。
| 項目 | 固定資産として売る | 販売用不動産(棚卸資産)として売る |
|---|---|---|
| 想定される場面 | 賃貸用の土地を造成せずに一括で売る | 造成・区画割りをして分譲する、建売にする |
| 損益計算書の表示 | 売却損益を原則として特別損益に表示 | 売上高・売上原価で表示 |
| 造成費の扱い | 売却前の工事費は土地の帳簿価額(または譲渡費用)として整理 | 棚卸資産の取得価額(売上原価)に含める |
| 評価 | 減損の検討(土地は減価償却しない) | 期末に時価が下がっていれば評価損の検討 |
賃貸用として持っていた土地を、造成して分譲することに決めた場合は、保有目的が変わった時点で固定資産から販売用不動産へ振り替えることを検討します。振替後に売れた区画は、売上高と売上原価で表示するのが基本です。保有目的の変更の考え方と税務上の論点は販売用不動産と固定資産の区分で詳しく扱っています。造成工事の費用そのものの区分(土地か構築物か)は造成費・地盤改良費・擁壁工事は土地か建物か構築物かを参照してください。
消費税
土地の譲渡は、造成して売っても非課税です。一方、造成工事費や販売のための広告費などは課税仕入れです。土地の売上が増えると課税売上割合が下がり、仕入税額控除が制限されることがあります。造成工事の消費税は、非課税売上げ(土地の譲渡)に対応する課税仕入れになり、個別対応方式では控除できないのが原則です。仕入税額控除の方式の考え方は個別対応方式と一括比例配分方式で整理しています。
会計上の考え方と決算書の表示
決算書にどう表示するかは、企業会計の基準で判断します。ここでいう基準は、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)のことで、中小企業であれば企業会計原則、「中小企業の会計に関する指針」「中小企業の会計に関する要領」などが中心です。法人税法22条4項も、収益の額は一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算すると定めています。
著書では、PLの整え方の原則として「収益は上に、費用は下に」を挙げ、宅建業を兼業しているなら買取再販の売却益なども売上高に計上できるという例を示しています。これは、本業として行う販売の収益は売上高に表示されるという表示区分の話です。造成・分譲を事業として行うなら、その売上は売上高になり、営業利益に反映されます。
ただし、表示区分は都合で選ぶものではありません。賃貸用の土地を一度だけ売ったものを売上高に入れることはできず、反対に、事業として分譲したものを特別利益に回すこともできません。税務上の所得区分や益金算入の議論とは別に、決算書の表示区分(売上高か特別利益か、棚卸資産か固定資産か)は企業会計の基準に沿って判断する必要があり、どの区分にできるかは取引の実態次第です。顧問税理士・会計の専門家と検討してください。
銀行からの見え方と宅建業法
不動産販売の売上は「別の事業」として見られる
銀行は、賃貸の家賃収入を安定した収益として評価します。一方、土地の分譲や建売の売上は、景気や販売状況で大きく変動する収益です。販売用不動産が売れ残れば、棚卸資産が積み上がり、資金が寝ることになります。著書でも、棚卸資産(販売用不動産など)が長期滞留していないかを定期的に確認することを挙げています。
造成・分譲を事業として行う場合、銀行は、賃貸業とは別に、販売事業の採算、在庫の回転、販売用不動産の時価を確認します。資金も、長期の物件取得資金ではなく、造成・販売期間に合わせた短期の資金で借りることが多くなります。資金調達の考え方は短期継続融資(短コロ)とはも参考になります。
一度きりの売却なら、特別利益として説明する
賃貸用の土地を一括で売るだけなら、売却益は特別利益として表示され、本業の収益力とは区別して評価されます。銀行には、売却の目的と、売却代金の使い道(借入返済、次の物件の取得など)を説明します。
宅地建物取引業の免許
土地を区画に分けて不特定多数に繰り返し売る行為は、宅地建物取引業法上の「宅地建物取引業」に当たる可能性があり、その場合は免許が必要です。免許の要否は、売る相手、回数、目的などで判断されます。造成・分譲を計画するときは、税務だけでなく、宅建業法上の扱いも事前に確認してください。
実務のチェックポイント
| タイミング | 確認すること |
|---|---|
| 造成の検討時 | 工事の内容(道路・上下水道・擁壁など)が「区画形質の変更」に当たるかを確認したか |
| 造成の検討時 | 造成する土地の面積(共有なら合計)がおおむね3,000㎡以下か |
| 造成の検討時 | 個人の場合、造成して分譲する場合と一括で売る場合の税額(総合課税と分離課税)を比較したか |
| 造成の検討時 | 極めて長期間持っていた土地か。区分計算をするなら、造成着手直前の土地の価額の根拠(鑑定など)を用意したか |
| 造成の検討時 | 繰り返し売る場合、宅建業の免許の要否を確認したか |
| 決算時(法人) | 保有目的が販売に変わった時点で、販売用不動産への振替を検討したか |
| 決算時(法人) | 売れた区画を売上高・売上原価で、一括売却を特別損益で、実態どおりに表示したか |
| 申告時 | 課税売上割合の低下と、造成費の仕入税額控除への影響を確認したか |
まとめ
- 固定資産である土地に区画形質の変更を加えて宅地として売ると、原則として事業所得または雑所得になる(所得税基本通達33-4)
- 3,000㎡以下の小規模な造成や、土地区画整理法などに基づく造成は、譲渡所得として差し支えない。極めて長期間持っていた土地は区分計算ができる(同33-5)
- 裁決では、工事の実態、保有期間、売買の頻度で所得区分が判断されている。盛土だけなら譲渡所得、短期売買の繰返しは雑所得とされた例がある
- 法人では、保有目的が販売に変われば販売用不動産への振替を検討し、表示区分はGAAPに沿って実態で判断する
- 銀行は不動産販売の売上を家賃収入とは別に見る。宅建業法上の免許の要否も事前に確認する
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