土地を買って賃貸物件を建てるとき、建物の工事費とは別に土地まわりの工事が発生することがあります。高低差を解消する切土・盛土、軟弱な地盤の改良、隣地との境の擁壁、上下水道の引込み、駐車場の舗装。見積書では「外構・造成工事一式」とまとめられていることも少なくありません。
税務では、これらの費用が土地・建物・構築物のどれに入るかで、減価償却できるか、何年で償却するかが変わります。この記事では、法人と個人に共通する通達の線引きを整理し、擁壁の耐用年数、消費税、公表裁決、決算書の表示と銀行からの見え方まで解説します。
- 埋立て・地盛り・地ならし・切土・防壁工事など土地の造成・改良の費用は土地の取得価額(減価償却しない)
- 防壁・石垣積みでも、規模・構造から区分が適当なら構築物にできる。上下水道の工事も同様
- 建物を建てるためだけの地盤強化・地盛り・特殊な切土は、建物の取得価額
- 既存の擁壁や土留めを元どおりに直す工事は、修繕費になり得る。新たな機能を加える工事は資本的支出
- 土地に入った費用は償却前利益に寄与しない。見積書の段階で工事を分け、区分の根拠を残しておく
通達の線引き:土地・建物・構築物
原則は「土地の造成・改良の費用は土地」
法人税基本通達7-3-4は、埋立て、地盛り、地ならし、切土、防壁工事その他土地の造成又は改良のために要した費用は、その土地の取得価額に算入するとしています。個人についても所得税基本通達38-10が同じ内容を定めており、土地の取得費に算入します。
そのうえで、二つの例外があります。
- 土地についてした防壁、石垣積みなどであっても、その規模、構造等からみて土地と区分して構築物とすることが適当と認められるものは、構築物の取得価額とすることができる。上水道や下水道の工事の費用も同様
- 専ら建物、構築物等の建設のために行う地質調査、地盤強化、地盛り、特殊な切土など、土地の改良のためのものでない工事の費用は、その建物・構築物等の取得価額に算入する(7-3-4の注、38-10の注1)
また、個人の場合、土地の測量費は、必要経費に算入されたものを除き土地の取得費に算入するとされています(38-10の注2)。
工事ごとの整理
| 工事の例 | 区分の傾向 | 考え方 |
|---|---|---|
| 高低差をなくす切土・盛土、整地 | 土地 | 土地そのものの形質を変える造成 |
| 建物の基礎のための柱状改良・杭による地盤補強 | 建物 | 建物の建設のためだけの地盤強化(7-3-4注) |
| 土地全体の地盤を良くする改良(建物の有無にかかわらず価値が上がるもの) | 土地 | 土地の改良に当たる |
| 宅地としての擁壁・石垣(新設) | 原則土地。規模・構造により構築物とすることも可 | 7-3-4本文・ただし書 |
| 敷地内の上下水道の配管工事 | 原則土地。構築物とすることも可。建物内部の配管は建物附属設備 | 7-3-4のなお書 |
| 駐車場のアスファルト・コンクリート舗装、フェンス | 構築物 | 土地と別の独立した工作物 |
| 植栽・庭園 | 構築物(緑化施設及び庭園) | 耐用年数表に区分あり |
| 既存擁壁の原形どおりの復旧 | 修繕費になり得る | 維持・回復のための支出 |
駐車場の舗装やフェンスなど構築物の耐用年数は、駐車場舗装・フェンス・外構など構築物の耐用年数で詳しく扱っています。
個人と法人で違うところ
通達の線引き自体は法人と個人で共通です。違いが出るのは、その後の扱いです。
| 論点 | 法人 | 個人 |
|---|---|---|
| 土地に入った造成費 | 土地の帳簿価額。売却時に譲渡原価 | 土地の取得費。売却時の譲渡所得の計算で控除 |
| 構築物とした擁壁など | 減価償却(償却方法は定額法) | 減価償却(定額法) |
| 造成のための借入金の利子 | 損金(建築中は取得価額に算入する選択も) | 不動産所得が赤字の場合、土地等の取得のための負債の利子として損益通算が制限される部分に当たり得る |
個人の損益通算の制限は借入金利子の処理と土地部分の利子の損益通算制限をご覧ください。
擁壁・防壁を構築物にした場合の耐用年数
構築物とした場合の耐用年数は、減価償却資産の耐用年数等に関する省令の別表第一「構築物」で、構造ごとに定められています。擁壁は、構造に応じて「防壁」などの細目に当てはめて判断するのが一般的です。
| 構造 | 細目 | 耐用年数 |
|---|---|---|
| 鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造 | 岸壁、さん橋、防壁(爆発物用を除く)、堤防など | 50年 |
| コンクリート造・コンクリートブロック造 | 岸壁、さん橋、防壁(爆発物用を除く)、堤防など | 30年 |
| 石造 | 岸壁、さん橋、防壁(爆発物用を除く)、堤防など | 50年 |
| 土造 | 防壁(爆発物用を除く)、堤防、防波堤及び自動車道 | 40年 |
| コンクリート造・コンクリートブロック造 | へい | 15年 |
耐用年数が長いため、構築物にしても年間の償却費は大きくありません。それでも、土地のままにして永久に償却できないのと比べれば、長期的には差が出ます。構築物として区分する場合は、擁壁の規模・構造・工事費がわかる見積書や図面を保存しておきましょう。
消費税:土地は非課税でも、造成工事は課税仕入れ
土地の譲渡は消費税の非課税取引ですが、造成工事・地盤改良・擁壁工事は工事会社からの役務の提供なので、課税仕入れに当たります。土地の取得価額に入るからといって、消費税の計算上も非課税になるわけではありません。
ただし、控除できるかどうかは用途で変わります。個別対応方式では、住宅の貸付けに使う土地の造成費は、通常、非課税売上げに対応する課税仕入れとなり、控除できません。店舗や事務所の敷地であれば課税売上げに対応します。用途の区分は個別対応方式と一括比例配分方式で解説しています。
公表裁決に見る判断の分かれ目
昭和59年11月30日裁決(裁決事例集No.28・250頁):崖地の防壁は土地と構築物に
病院の敷地に隣接する崖地に、改築を機に防護設備工事を行った法人の事案です(要旨のみ公表)。工事は崖地の突出部分を削り取って敷地の有効面積を約60㎡広げるとともに、厚さ15cmの鉄筋コンクリートの防護設備を設けるものでした。審判所は、工事費の中に修繕費の部分は認められないとし、その費用は土地の取得価額と、構築物である防壁の取得価額に計上するのが相当としました(国税不服審判所 公表裁決事例要旨)。
実務への示唆:敷地を広げる切土は土地、新たに設けた鉄筋コンクリートの防壁は構築物と、一つの工事の中でも性質ごとに分けて考えられています。
平成28年3月3日裁決:造成は土地の取得費、土留めの積直しは必要経費
相続で取得した土地を事業用定期借地として店舗用地に貸すため、建物を解体し、土地を造成した個人の事案です。審判所は、土地の掘削・切下げ、残土処分、埋戻し、整地は土地の形質を変更し改良する工事であるとして、土地の改良費(取得費)に算入すべきとしました。
一方、隣地境界のコンクリートブロックの最上段約20mを撤去し、従前と同様のブロックで積み直した土留め工事については、新たな土留めの設置や耐久性の高い資材への変更ではなく、土地を改良したり価額を増加させたりする工事とは認められないとして、不動産所得の必要経費に算入すべきとしています。解体費用は非業務用資産の処分費用として家事費、歩道の乗入れ部分の改修費用は繰延資産とされました(国税不服審判所)。
実務への示唆:同じ「外構・造成工事」の請負契約でも、明細ごとに土地・必要経費・繰延資産に分かれます。見積書の内訳が、そのまま判断の材料になります。
平成7年10月31日裁決(裁決事例集No.50・102頁):原形復旧した擁壁は原状回復
風水害で損壊した宅地の擁壁の修復工事について、市の災害復旧事業と同じ工法・同じ業者で、位置・形状・寸法・材質を変えずに原形復旧したとして、工事費用の全額を原状回復のための支出とした事例です(雑損控除の事案。国税不服審判所)。既存の擁壁の修繕と資本的支出の考え方は修繕費と資本的支出:判例・裁決事例で見る判断の分かれ目で詳しく扱っています。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る会計上の扱いと決算書の表示
企業会計(一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)。中小企業では「中小企業の会計に関する指針」や「中小企業の会計に関する基本要領」など)でも、固定資産の取得原価には、その資産を使える状態にするための付随費用を含めます。造成費は土地、地盤改良は建物、擁壁や舗装は構築物と、資産の実態に合わせた科目に計上するのが基本です。
税務上は「構築物とすることができる」という幅のある取扱いでも、決算書の科目は実態に沿って選ぶ必要があります。土地と一体になって区分できない工事を構築物に計上して償却することはできませんし、反対に、独立した工作物を土地に含めたままにすると、本来計上すべき減価償却費が出てきません。
銀行からの見え方
| 区分 | PLへの影響 | 償却前利益 | BS・担保評価 |
|---|---|---|---|
| 土地(造成費) | 費用にならない | 影響なし | 土地の簿価が上がる。担保評価に造成費が反映されるとは限らない |
| 建物(地盤改良) | 建物の耐用年数で減価償却 | 減価償却費が足し戻される | 建物の簿価に含まれる |
| 構築物(擁壁など) | 構築物の耐用年数で減価償却 | 減価償却費が足し戻される | 構築物として計上 |
| 修繕費(原形復旧) | その期の費用 | その期の利益を減らす | 資産は増えない |
銀行は、償却前利益(経常利益+減価償却費)で返済能力を見ます。土地に入った造成費は減価償却費にならないため、償却前利益にも、債務償還年数の分母にも寄与しません。一方で、土地の簿価は造成費の分だけ上がります。銀行が担保評価で見るのは簿価ではなく評価額なので、高額な造成費をかけた土地は、簿価と担保評価の差が大きくなることがあります。
崖地や高低差のある土地は価格が安い分、造成・擁壁の費用がかさむことがよくあります。購入を検討する段階で、造成費を含めた総投資額、土地と構築物の区分、それに対する銀行の評価を一緒に試算しておくと、融資の組立てで慌てずに済みます。銀行の評価の見方は不動産投資の銀行格付けで解説しています。
実務のチェックポイント
- 見積書が「造成・外構工事一式」になっていないか。土地の造成、建物のための地盤改良、擁壁、配管、舗装に分けてもらったか
- 建物のためだけの地盤改良を、土地ではなく建物の取得価額にしたか
- 擁壁を構築物にする場合、規模・構造がわかる図面と工事費の内訳を保存したか
- 構築物の耐用年数を、構造と細目に合わせて選んだか
- 既存の擁壁・土留めの工事は、原形復旧か、新たな機能の追加かを記録したか(工事前後の写真)
- 造成費の消費税を、用途に応じて個別対応方式の区分に入れたか
- 個人の場合、造成費に充てた借入金の利子と損益通算の制限を確認したか
- 造成費を含めた総投資額と、銀行の担保評価の差を試算したか
まとめ
- 土地の造成・改良の費用は土地の取得価額で、減価償却しない(法人税基本通達7-3-4、所得税基本通達38-10)
- 防壁・石垣積み、上下水道の工事は、規模・構造により構築物とすることができる
- 建物を建てるためだけの地盤強化などは、建物の取得価額
- 既存の擁壁・土留めを元どおりに直す工事は修繕費になり得る。一つの工事でも明細ごとに区分される
- 土地に入った費用は償却前利益に寄与せず、担保評価とも一致しない。購入前に区分と評価を試算する
物件取得時の諸費用の全体像は物件取得時の諸費用一覧で整理しています。造成を伴う土地の取得や新築計画のご相談は、不動産投資家向けサービスをご覧ください。
