消費税

課税事業者選択届出と2年・3年の縛り|提出期限、事業開始の判定、調整対象固定資産を買ったときの延長と裁決事例

基準期間の課税売上高が1,000万円以下の事業者は、原則として消費税の免税事業者です。それでも、建物を取得する年に消費税の還付を受けたい、テナントからインボイスを求められている、といった理由で、あえて課税事業者を選択することがあります。そのための手続が「消費税課税事業者選択届出書」です。

この届出は、出すタイミングと、出した後にやめられない期間の2つが落とし穴になります。いったん課税事業者を選ぶと最低2年間はやめられず、その間に建物などを取得すると、縛りは3年に延びます。さらに、提出が1期遅れただけで還付がまったく受けられなかった、という裁決事例もあります。この記事では、届出の効力の発生時期と縛りの期間を整理し、不動産投資での注意点を公表裁決事例とともに解説します。

この記事の結論
  • 課税事業者選択届出書は、原則として提出した日の属する課税期間の翌課税期間から効力が生じる。事業を開始した課税期間などは、その期間中の提出でその期間から
  • 「事業を開始した日」は準備行為を行った日とされることがある。契約や申請を行った期が事業開始の期と判断され、選択が1期遅れて還付を受けられなかった裁決がある
  • 事業を行っていない個人が出した選択届出書は効力がないとされた裁決もある
  • 選択すると最低2年間は課税事業者。その間に調整対象固定資産(税抜100万円以上)を一般課税で取得すると、3年間に延びる。税抜1,000万円以上の高額特定資産の3年縛りは、選択の有無にかかわらずかかる
  • インボイス登録の経過措置で課税事業者になった場合にも、2年間免税に戻れないルールがある

課税事業者選択届出の基本

効力が生じる時期

国税庁タックスアンサーNo.6501によると、課税事業者選択届出書を提出した場合、原則として提出した日の属する課税期間の翌課税期間以後の課税期間から、納税義務が免除されなくなります。ただし、事業を開始した日の属する課税期間など一定の場合は、その課税期間中に提出すれば、その課税期間から課税事業者になれます(消費税法9条4項、消費税法施行令20条)。

場面提出期限課税事業者になる課税期間
既に事業を行っている免税事業者課税事業者になりたい課税期間の開始の日の前日まで提出した日の属する課税期間の翌課税期間から
新たに事業を開始した個人・設立した法人事業を開始した日の属する課税期間の末日までその課税期間から
やむを得ない事情で期限までに出せなかった事情がやんだ日から2か月以内に特例承認申請書を提出し、承認を受ける承認により、本来の課税期間から

課税期間の末日が土曜日・日曜日・祝日などに当たっても、提出期限は延長されない点に注意が必要です(タックスアンサーNo.6501)。

選択をやめるとき(不適用届出)

課税事業者の選択をやめるには、「消費税課税事業者選択不適用届出書」を提出します。効力は提出した日の属する課税期間の末日の翌日から生じます。ただし、事業を廃止した場合を除き、課税事業者となった課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ、この届出書を提出できません。

例(個人・暦年)内容
令和7年中に選択届出書を提出令和8年分から課税事業者
不適用届出書を出せる最初の時期令和9年1月1日以後(令和8年1月1日から2年を経過する日=令和9年12月31日の属する課税期間の初日)
令和9年中に不適用届出書を提出令和10年分から免税事業者に戻れる(基準期間の課税売上高などの要件を満たす場合)

つまり、課税事業者を選択すると、令和8年分と令和9年分の最低2年間は課税事業者です。

2年が3年に延びる場合:調整対象固定資産

課税事業者選択届出書を提出した事業者が、課税事業者となった日から2年を経過する日までの間に開始した各課税期間中に、調整対象固定資産の課税仕入れ等を行い、その課税期間の確定申告を一般課税で行った場合は、その仕入れを行った課税期間の初日から原則として3年間は、免税事業者に戻れません。この間は簡易課税制度も選択できません(タックスアンサーNo.6501、国税庁質疑応答事例「課税事業者選択の取りやめと簡易課税制度選択の制限」)。

用語内容
調整対象固定資産棚卸資産以外の資産で、一の取引単位の税抜価額が100万円以上のもの(建物、構築物、機械装置、車両、器具備品など)
3年間の起点調整対象固定資産の仕入れ等を行った課税期間の初日
不適用届出書3年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ提出できない。仕入れより前に提出していても、提出がなかったものとみなされる
簡易課税同じ期間は簡易課税制度選択届出書も提出できない

高額特定資産の3年縛りとの違い

課税事業者を選択したかどうかにかかわらず、一般課税の課税事業者が税抜1,000万円以上の高額特定資産を取得すると、取得した課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間まで、免税事業者に戻れず簡易課税も選べません(消費税法12条の4)。居住用賃貸建物として仕入税額控除が制限される場合でも、この特例は適用されます。詳しくは高額特定資産・自己建設高額特定資産の「3年縛り」をご覧ください。

制度対象縛りの期間
課税事業者の選択選択届出書を出した事業者最低2年
選択+調整対象固定資産選択後2年以内に開始した課税期間に税抜100万円以上の固定資産を取得(一般課税)取得した課税期間の初日から3年
高額特定資産一般課税の課税事業者が税抜1,000万円以上の資産を取得取得した課税期間の初日から3年(選択の有無を問わない)
新設法人+調整対象固定資産資本金1,000万円以上の新設法人などが基準期間のない期間に取得取得した課税期間の初日から3年

建物を取得して消費税の還付を受けた後も、少なくとも3年間は課税事業者として申告を続けることになります。その間の家賃収入(事業用部分)にかかる消費税の納付や、課税売上割合の変動による調整対象固定資産の第3年度の調整まで見込んで判断する必要があります(調整対象固定資産と課税売上割合の著しい変動)。

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インボイス登録との関係

令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間中に登録を受ける免税事業者は、経過措置により、課税事業者選択届出書を出さなくても登録日から課税事業者になります。一方、登録日の属する課税期間が令和5年10月1日を含まない場合は、登録日の属する課税期間の翌課税期間から、登録日以後2年を経過する日の属する課税期間までは、免税事業者になれません(国税庁「インボイス制度に関するQ&A」)。

インボイス登録を検討している大家さんは、登録すれば事業用賃料だけでなく、建物を売るときの建物代金にも消費税がかかることを含めて判断する必要があります(大家のインボイス登録は必要?、建物を売ったときの消費税)。

公表裁決事例

平成29年6月16日裁決:準備行為をした期が「事業を開始した課税期間」

事案:会社員の請求人は、太陽光発電事業を行うため、平成25年9月30日に発電所の建設工事請負契約を結び、同年中に契約金の支払い、電力会社への系統連系の照会、経済産業大臣への設備認定申請、農用地区域からの除外の申出などを行いました。設備の引渡し・売電開始は平成26年7月で、同年12月に課税事業者選択届出書を提出し、平成26年分の消費税の還付申告をしました。請求人は、事業を開始したのは開業届に記載した平成26年7月であり、平成26年は「事業を開始した日の属する課税期間」だから、その年中の届出で同年から課税事業者になれると主張しました。

判断:審判所は、新たに事業を行うにあたり必要な準備行為を行った日の属する課税期間は、消費税法施行令20条1号の「課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日の属する課税期間」に当たるとしました。契約の締結を契機に事業に必要な各種手続が順次行われていることから、平成25年の各行為は準備行為に当たり、事業開始の課税期間は平成25年分だと判断しています。準備行為に当たるかどうかは、納税者の主観ではなく客観的な事実で判断されるとし、選択届出書の効力は平成27年分から生じるため、平成26年分は免税事業者で還付は受けられないとしました(棄却)。

確認先:国税不服審判所 公表裁決事例(平成29年6月16日裁決)

平成27年6月11日裁決:事業者でない個人が出した選択届出書は効力がない

事案:会計事務所の職員である請求人は、平成22年2月に課税事業者選択届出書を提出していました。その後、平成24年11月に不動産をホテル営業目的で法人に貸し付ける賃貸借契約を結び、同年12月から賃貸を開始して、平成24年分の消費税の還付申告をしました。請求人は、平成22年当時もネットオークションへの出品や中古書籍の売却、不動産投資に関する書籍の購入(開業準備)をしていたから事業者だった、と主張しました。

判断:審判所は、オークションへの出品は1回限り、中古書籍の売却も各年1回限りで、反復・継続した事業とはいえず、書籍の購入も賃貸借契約の約2年前の市販書籍の購入にすぎないとして、平成22年当時の請求人は消費税法上の事業者ではなかったと認定しました。消費税法9条4項は事業者が選択届出書を提出した場合の規定であり、事業者でない個人が提出した選択届出書には効力がないとして、平成24年分は免税事業者で還付は受けられないとしています。一方で、ホテル営業目的の貸付けは、規模を問わず消費税法上の事業に当たるとされています。

確認先:国税不服審判所 公表裁決事例(平成27年6月11日裁決)

2つの事例から読み取れること

どちらも「早く出しすぎ」「遅く出しすぎ」で、選択届出の効力が狙った課税期間に生じなかった事例です。1つ目は、契約や申請などの準備行為を始めた期が事業開始の期とされ、届出が1期遅れました。2つ目は、事業を始める前の事業者でない時期に出した届出が無効とされました。建物の取得や新規事業で還付を見込む場合は、どの行為をした期が事業開始の期になるのかを、契約・申請の前に専門家と確認しておく必要があります。

税務上の扱い:法人と個人の違い

項目法人個人
課税期間事業年度暦年
事業開始の課税期間設立第1期など。資本金1,000万円以上の新設法人は届出がなくても課税事業者開業した年。準備行為を行った年とされることがある
選択の効力原則、提出した事業年度の翌事業年度から原則、提出した年の翌年から
縛り最低2年、調整対象固定資産の取得で3年同じ

新設法人の免税期間や設立時の注意点は法人設立前に知るべき消費税で整理しています。

会計上の扱いと決算書の表示、銀行からの見え方

決算書への出方

税務上は、課税事業者か免税事業者かで、消費税の納付・還付と、法人税・所得税の計算(経理方式)が変わります。免税事業者は税込経理しか使えず、課税事業者になれば税抜経理も選べます(税込経理と税抜経理)。一方、決算書の表示は、企業会計の基準、すなわち一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に沿って判断します。

還付を受けた期は、税抜経理なら未収消費税等として資産に、税込経理なら収益(雑収入など)として計上されます。還付は一過性のものなので、表示区分をどうするかは取引の実態と会計方針に沿って判断し、顧問税理士・会計の専門家と確認してください。

銀行からの見え方

見られる点課税事業者を選択したときに起きること
資金計画建物の消費税の還付を前提にした資金計画(つなぎ融資の返済原資など)は、届出のタイミングを誤ると崩れる
縛りの期間の納税3年間、事業用賃料の消費税を納め続ける。資金繰り表に入れておく必要がある
還付の年の利益税込経理なら還付で利益が一時的に膨らむ。銀行は一過性の収益を除いて見る
税務リスク届出の有効性が否認されると、還付金の返還と加算税が生じる

著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金-現預金)÷(経常利益+減価償却費-法人税等)」で計算し、10年以内を健全の目安としています。消費税の還付は、資金繰りには大きく効いても、本業の収益力を示すものではありません。銀行には、還付の金額と時期、その後の縛りの期間の納税見込みを、物件の収支計画とあわせて示すと説明しやすくなります。

実務のチェックポイント

チェック項目確認する内容
事業開始の時期契約・申請・融資交渉などの準備行為を始めた課税期間はいつか
届出の時期課税事業者になりたい課税期間の開始の日の前日まで(事業開始の期はその期末まで)に提出したか。期末が休日でも延長されない
届出の主体届出をする時点で消費税法上の事業者か(事業を行っていない個人ではないか)
縛りの期間2年か3年か。調整対象固定資産・高額特定資産の取得の有無と取得した課税期間
不適用届出提出できる時期になっているか。調整対象固定資産の取得前に出した届出が無効にならないか
簡易課税縛りの期間中は簡易課税制度選択届出書を出せない。過去に出した届出が残っていないか
インボイス登録経過措置で登録した場合の2年間の縛りと、登録をやめる時期
資金計画還付の時期と、縛りの期間の納税額を資金繰り表に入れたか

まとめ

  • 課税事業者選択届出書は、原則として翌課税期間から効力が生じる。事業を開始した期はその期中の提出でその期から
  • 「事業を開始した日」は準備行為を行った日とされることがあり、平成29年6月16日裁決では届出が1期遅れて還付が受けられなかった
  • 事業者でない個人が出した届出は効力がない(平成27年6月11日裁決)
  • 選択すると最低2年、その間に調整対象固定資産を一般課税で取得すると3年。高額特定資産の3年縛りは選択の有無を問わない
  • インボイス登録の経過措置で課税事業者になった場合も2年の縛りがある

課税事業者の選択は、届出1枚で数年先の消費税の負担まで決まる手続です。クレフティでは、不動産投資家向けサポートの中で、建物の取得前の消費税の試算から、届出の時期の判断、銀行に出す資金計画の作成までご相談をお受けしています。

よくある質問

課税事業者選択届出書は、いつまでに出せばよいですか?
原則として、課税事業者になりたい課税期間の開始の日の前日までに提出します。提出した日の属する課税期間の翌課税期間から効力が生じます。事業を開始した日の属する課税期間などは、その課税期間中に提出すればその課税期間から課税事業者になれますが、事業の準備行為を行った期が『事業を開始した日の属する課税期間』とされた裁決があり、判定には注意が必要です。
課税事業者を選択したら、何年で免税事業者に戻れますか?
課税事業者となった課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ、選択をやめる届出書(課税事業者選択不適用届出書)を提出できないため、最低2年間は課税事業者です。その2年の間に開始した課税期間中に税抜100万円以上の調整対象固定資産を取得し、一般課税で申告すると、取得した課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間の初日まで、不適用届出書を出せません。
インボイス登録をした免税事業者も、課税事業者選択届出書が必要ですか?
令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間中に登録を受ける免税事業者は、経過措置により課税事業者選択届出書を出さなくても、登録日から課税事業者になります。ただし、登録日の属する課税期間が令和5年10月1日を含まない場合は、登録日の属する課税期間の翌課税期間から登録日以後2年を経過する日の属する課税期間まで、免税事業者に戻れません。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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