オーナーの急逝

代表取締役が亡くなったら?いなくなったときの手続き|取締役会・株主総会・登記の順番と判例

「社長が倒れて、そのまま亡くなった。明日の支払いは、誰が決めればいいのか」。オーナー経営者が急逝したとき、会社が最初にぶつかるのが、代表取締役がいないという問題です。

この記事では、代表取締役が亡くなった・いなくなったときの手続きを、会社法の条文に沿って順番に整理します。取締役会があるか、取締役が何人残っているか、亡くなった社長が大株主だったかによって、取るべき手順は大きく変わります。あわせて、手続を急いだ結果、株主総会の決議が取り消された判例や、銀行・取引先への影響も紹介します。

この記事の結論
  • 代表取締役が亡くなると、その時点で退任する。任期満了・辞任と違い、後任が決まるまで権利義務を持ち続ける規定(会社法346条1項)は使えない
  • 取締役会設置会社は取締役会で、非設置会社は定款の定めに従い互選・株主総会などで後任を選ぶ。取締役が足りなければ、先に株主総会で取締役を補充する
  • 社長が大株主だった場合、相続人は権利行使者を決めて通知しないと議決権を使えない(会社法106条)
  • 変更登記は2週間以内(会社法915条1項)。手続の瑕疵は総会決議の取消しにつながるため、急ぐときほど順番を守る

代表取締役が亡くなった瞬間に、会社で起きること

会社は続くが、「会社の名前で決める人」がいなくなる

会社(法人)は、社長が亡くなっても存続します。従業員との雇用契約も、取引先との契約も、銀行からの借入も、会社の名義のまま残ります。

ただし、代表取締役は会社を代表して契約を結び、支払いを決め、書類に署名する人です。その人がいなくなると、新しい契約の締結、銀行の届出印を使った手続、官公庁への申請など、会社の名前で行う行為が止まります。

死亡は「権利義務取締役」にならない

会社法346条1項は、役員が任期満了または辞任で退任して員数が足りなくなった場合、新しい役員が就任するまで、退任した役員が引き続き役員としての権利義務を持つと定めています。代表取締役についても同じ趣旨の規定があります(会社法351条1項)。

しかし、死亡はこの規定の対象ではありません。亡くなった方が権利義務を持ち続けることはできないため、代表取締役の席は、その時点で空きます。辞任と違って、空白期間を短くする手段は、後任をできるだけ早く選ぶことしかありません。

会社のタイプ別:後任の代表取締役の選び方

自社がどのタイプに当たるかは、登記事項証明書(履歴事項全部証明書)と定款で確認できます。

会社のタイプ後任の選び方主な条文
取締役会設置会社(取締役3人以上が残っている)取締役会で代表取締役を選定会社法362条2項3号・3項
取締役会設置会社(社長が亡くなり取締役が2人以下に)株主総会で取締役を補充し、その後に取締役会で選定会社法329条1項、331条5項
取締役会非設置会社(取締役が複数)定款の定めに従い、取締役の互選や株主総会の決議で選ぶ会社法349条3項
取締役が亡くなった社長1人だけ株主総会で取締役を選任(その人が代表取締役になる)会社法329条1項、349条1項

取締役会設置会社の場合

取締役会設置会社では、代表取締役は取締役会が取締役の中から選定します(会社法362条2項3号・3項)。

取締役会の招集は、原則として各取締役ができます(会社法366条1項)。定款で「取締役会は社長が招集する」と定めている会社も多いですが、その社長が亡くなった場合は、定款の「社長に事故があるときは、あらかじめ定めた順序で他の取締役が招集する」といった定めに従います。招集通知は会日の1週間前まで(定款で短縮可)ですが、取締役(監査役設置会社では監査役も)全員の同意があれば招集手続を省略できます(会社法368条)。決議は、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、その過半数で行います(会社法369条1項)。

注意したいのは、取締役会設置会社の取締役は3人以上必要だという点です(会社法331条5項)。取締役3人の会社で社長が亡くなると、残りは2人で、法律上の員数を欠きます。員数を欠いた状態の取締役会で代表取締役を選定できるかは解釈が分かれる部分もあるため、まず株主総会で取締役を補充し、そのうえで取締役会で代表取締役を選ぶのが確実です。

取締役会非設置会社の場合

取締役会のない会社では、取締役が各自会社を代表するのが原則です(会社法349条1項・2項)。ただし、定款、定款の定めに基づく取締役の互選、または株主総会の決議で代表取締役を定めていた場合は、代表取締役以外の取締役は代表権を持ちません(同条3項・4項)。

そのため、亡くなった社長を代表取締役と定めていた会社では、定款の定め方(「取締役の互選により定める」など)に従って、新しい代表取締役を決め直します。

取締役が社長1人だけだった場合

最も困るのが、取締役が亡くなった社長1人だけだった会社です。取締役会も残りの取締役もいないため、株主総会で新しい取締役を選ぶしかありません。しかし、株主総会を招集するのは本来取締役です(会社法296条3項)。そこで、次のような方法を検討します。

  1. 株主全員の同意で招集手続を省略する(会社法300条)。株主が少ない同族会社では、これが現実的です
  2. 株主全員の書面による同意で、総会決議があったものとみなす(会社法319条1項)
  3. 株主が裁判所の許可を得て自ら招集する(会社法297条。非公開会社では議決権の3%以上を持つ株主が請求でき、保有期間の要件はありません)
  4. 裁判所に一時取締役(いわゆる仮取締役)の選任を申し立てる(会社法346条2項)

大阪地方裁判所の解説によると、一時役員の選任は、株主総会で後任を選べる場合などは「必要性」がないとされ、候補者は原則として裁判所が選ぶ弁護士です。報酬などのための予納金が必要になることもあります。株主総会を開ける状態であれば、まず総会での選任を目指すのが基本です(大阪地方裁判所「仮役員選任申立事件について」)。

亡くなった社長が大株主だったとき:議決権は誰が使うのか

オーナー企業では、亡くなった社長が株式の過半数、あるいはほとんどを持っていることが普通です。その株式は相続によって相続人全員の共有(準共有)になり、遺産分割が終わるまで、1人の相続人が単独で議決権を使うことはできません。

共有株式の権利を行使するには、共有者が権利を行使する者1人を定めて、会社に通知する必要があります(会社法106条本文)。最高裁は、共有株式の議決権の行使は、株式の処分や内容の変更を伴うなどの特段の事情がない限り、共有物の管理行為に当たり、各共有者の持分の価格の過半数で決められると判断しています。また、指定・通知がないまま会社が同意して権利行使を認めても、その行使が民法の共有の規定に従っていなければ適法にはならないとしました。

判決の確認先

最高裁判所第一小法廷 平成27年2月19日判決・平成25年(受)第650号 株主総会決議取消請求事件(民集69巻1号25頁)。裁判所ウェブサイトの判決情報

実務では、法定相続分の過半数を持つ相続人(たとえば配偶者と子1人の場合の配偶者と子の合意など)で権利行使者を決め、取締役の選任議案に議決権を行使します。相続人の間で意見が割れると、ここで会社が止まります。詳しくは相続で共有になった株式の議決権で解説します。

遺言で株式を後継者に承継させておけば、遺産分割を待たずに後継者が議決権を行使しやすくなります。経営者の遺言については経営者の遺言:株式を誰に、どう遺すかをご覧ください。

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登記と届出:期限と提出先

後任が決まったら、登記と各種の届出を進めます。

手続期限・ポイント根拠・提出先
代表取締役(取締役)の退任・就任の変更登記変更から2週間以内。怠ると100万円以下の過料のおそれ会社法915条1項、976条1号/法務局
法人の異動届出(代表者の変更)変更後すみやかに税務署、都道府県・市町村の税務担当
社会保険の事業所関係の変更届変更後すみやかに年金事務所など
銀行の代表者変更・届出印の変更新代表者の就任後すみやかに。登記事項証明書と印鑑証明書が必要取引金融機関
許認可の変更届業法ごとに期限が異なる(建設業、宅建業、運送業など)各監督官庁

登記の申請には、死亡を証する書面(死亡診断書の写しや戸籍の記載など)、株主総会議事録、取締役会議事録、就任承諾書、印鑑証明書などが必要になります。新しい代表取締役が法務局に印鑑を届け出るまでは、会社の実印(法人の印鑑証明書)が使えない場面もあるため、登記を先送りすると銀行や取引先の手続がすべて止まると考えてください。

手続を急いだ結果、決議が取り消された判例

急逝の直後は、とにかく早く新体制を作ろうとして、手続が雑になりがちです。しかし、株主総会の招集手続に重大な瑕疵があると、決議が後から取り消されるおそれがあります。

最高裁は、株主総会の招集手続または決議方法に重大な瑕疵がある場合は、その瑕疵が決議の結果に影響を及ぼさないと認められるときでも、裁判所は裁量で取消請求を棄却することはできないと判断しました。その事案では、取締役会の有効な決議に基づかずに総会が招集され、招集通知も法定の期間に足りない日数で発送されていました。

判決の確認先

最高裁判所第一小法廷 昭和46年3月18日判決・昭和44年(オ)第89号 株主総会決議無効確認請求事件(民集25巻2号183頁)。裁判所ウェブサイトの判決情報

株主総会で選んだ取締役の選任が取り消されると、その取締役で構成した取締役会の代表取締役選定にも影響が及びます。相続人の一部が経営方針に反対している会社ほど、招集の決定、通知の期間、権利行使者の通知を一つずつ確認しながら進めることが、結果として最短の道になります。

銀行・取引先・従業員への影響

銀行は「誰が経営し、誰が保証するか」を見ている

代表者の死亡で、借入金がすぐに返済を求められるとは限りません。ただし、多くの中小企業の借入には代表者の経営者保証が付いており、保証人の死亡によって保証債務は相続人に引き継がれます。銀行は、新しい代表者が誰か、その人が保証人になるのか、事業を続けられるのかを確認するために、早い段階で面談を求めてきます。

著書のモデルでは、銀行は決算書を点数化して格付けし、返済能力を債務償還年数=(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)で見ます。決算書の数字は社長が亡くなっても変わりませんが、経営の空白が長引くこと自体が、事業の継続性への懸念として評価に影響します。後任を早く決め、事業計画とあわせて説明することが大切です。借入と保証の扱いは口座の凍結・借入・経営者保証はどうなるかで詳しく解説します。経営者保証を外す考え方は経営者保証を外す方法もご覧ください。

取引先と従業員には「誰が決めるか」を早く伝える

取引先が気にするのは、契約がそのまま続くか、支払いが滞らないかです。従業員が気にするのは、給与と雇用です。正式な選定前でも、「○日に取締役会を開き、新しい代表者を選ぶ予定」「当面の業務は○○が窓口になる」と伝えるだけで、混乱はかなり抑えられます。

平時にやっておくべき3つの備え

代表取締役の空白は、平時の準備でかなり短くできます。

  1. 取締役の構成を見直す:取締役が社長1人だけの会社は、後継者候補や信頼できる役員を取締役にしておくと、急逝時の選択肢が増えます。株主総会で補欠の取締役をあらかじめ選んでおくこともできます(会社法329条3項)
  2. 定款を確認する:取締役会の招集権者と「事故があるとき」の順序、取締役会の書面決議(会社法370条)の定めがあるかを確認します。書面決議の定めがあれば、取締役が遠方にいても迅速に代表取締役を選定できます
  3. 株式の行き先を決めておく:遺言や生前の株式移転で、社長の株式が誰に渡るかを決めておけば、相続人の権利行使者の指定で揉める余地が小さくなります

これらを含めた全体のチェックリストはオーナー急逝に備えるチェックリストにまとめています。

まとめ

  • 代表取締役が亡くなると、その時点で退任する。死亡は権利義務取締役の規定(会社法346条1項)の対象外で、空白は後任選定でしか埋まらない
  • 取締役会設置会社は取締役会で選定。ただし取締役が3人を下回ったら、先に株主総会で取締役を補充する
  • 取締役が社長1人なら、株主全員の同意での総会、書面決議、株主による招集、一時取締役の申立てを検討する
  • 社長の株式は相続人の共有になり、権利行使者の指定・通知が必要。議決権の行使は持分の価格の過半数で決める(最判平成27年2月19日)
  • 変更登記は2週間以内。急ぐときほど招集手続を守る(最判昭和46年3月18日)

社長の急逝は、手続そのものより「誰が決めるのか分からない」状態が会社を傷めます。クレフティでは、事業承継・M&A支援の中で、株主構成と定款の確認、相続人の議決権の整理、銀行への説明の準備までご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが、司法書士・弁護士とも連携しながら対応します。

よくある質問

代表取締役が亡くなったら、副社長や専務が自動的に代表になりますか?
自動的にはなりません。取締役会設置会社では、取締役会で新しい代表取締役を選定する必要があります(会社法362条2項3号・3項)。定款に「社長に事故があるときは、あらかじめ定めた順序で他の取締役が代わる」といった定めがあっても、それは取締役会の招集や議長の役割などを想定したものが多く、代表取締役の登記まで自動で変わるわけではありません。
取締役が亡くなった社長1人だけの会社は、どうすればいいですか?
株主総会で新しい取締役を選ぶ必要があります。株主全員が集まって同意すれば、招集手続を省略して総会を開けます(会社法300条)。亡くなった社長が大株主だった場合は、相続人が株式を共有するため、権利を行使する人を決めて会社に通知します(会社法106条)。総会を開けない事情があるときは、裁判所に一時取締役の選任を申し立てる方法もあります(会社法346条2項)。
代表者変更の登記は、いつまでにしなければいけませんか?
登記事項に変更が生じたときから2週間以内に、本店所在地で変更の登記をする必要があります(会社法915条1項)。登記を怠ると、代表者に100万円以下の過料が科されることがあります(会社法976条1号)。代表取締役の死亡による退任と、新しい代表取締役の就任は、同時に申請するのが一般的です。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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