税のしるべ(2026年10月19日)が、中小M&Aの拡大に伴い、「中堅・中小グループ化税制」(中小企業事業再編投資損失準備金)の適用が増えていると報じました。令和3年度に20件だった適用件数は、令和6年度には110件まで伸びています。一方で、実際にM&Aを行っている企業からは手続きの煩雑さを指摘する声があり、経済産業省は令和9年度税制改正要望で、適用期限の延長とあわせて手続面の見直しを求めています。
M&Aで会社を買う側にとって、買収直後の法人税の負担を軽くできる制度です。この記事では、報道で示された内容を引用しながら、制度の仕組み、使うためのタイミング、注意点を整理します。
- M&Aで取得した株式の取得価額の最大100%を準備金として積み立て、損金に算入できる。経営力向上計画の認定なら70%以下(据置5年)、特別事業再編計画の認定なら2回目90%・3回目以降100%(据置10年)
- 据置期間の後、5年間で均等に益金算入する。税金がなくなるのではなく、M&A直後の税負担を繰り延べる制度
- 適用件数は令和3年度20件→令和6年度110件と増加。一方で、基本合意後・最終合意前に計画の認定を受ける必要があり、M&Aのスピードに合わないとの声も
- 現行の適用期限は令和8年度末(2027年3月31日)。経産省は3年間の延長と手続面の見直しを要望している
報道で示された内容
| 項目 | 報道で示された内容 |
|---|---|
| 適用件数(実績) | 令和3年度20件、4年度70件、5年度77件、6年度110件。経産省は7年度以降も増加を見込む |
| 制度の概要 | M&Aを実施した際、株式取得価額の最大100%を準備金として積み立て、損金算入できる |
| 経営力向上計画の認定 | 中小企業は株式取得価額の70%以下を積立て(据置期間5年) |
| 特別事業再編計画の認定 | 中堅・中小企業は2回目のM&Aで90%、3回目以降で100%を積立て(据置期間10年)。中堅企業は2回目以降のM&Aから活用できる(令和6年度改正で創設) |
| 取崩し | 据置期間の経過後に、損金に計上した分を5年間で均等に益金算入 |
| 適用期限 | 令和8年度末まで |
| 制度の目的 | M&A後に表に出やすい簿外債務や偶発債務などのリスクに備え、M&A直後の法人税負担を軽くする |
| 利用者の声 | 知名度の不足、申請の煩雑さ。連続的にM&Aをする企業は「その年の包括枠」がほしい。交渉期間が短いM&Aのプロセス中に計画の作成・申請が必要で、実務のスピード感に合わない |
| 経産省の要望 | 3年間の適用期限の延長と、基本合意後・最終合意前までに経営力向上計画(事業承継等事前調査の内容を記載)の認定を受ける必要があるなどの計画認定の見直し |
出典:税のしるべ「中堅・中小グループ化税制の適用が年間100件超に、経産省は手続面での見直しを要望」(2026年10月19日)。
仕組みを数字で見る
たとえば、経営力向上計画の認定を受けて、ある会社の株式を1億円で取得したとします(数字は説明のための例です)。
| 時期 | 処理 | 税務上の影響 |
|---|---|---|
| 取得した事業年度 | 取得価額の70%(7,000万円)まで準備金として積み立て | 7,000万円が損金になり、その年の法人税が減る |
| 据置期間(5年) | 準備金を据え置く | 影響なし |
| 据置期間の後の5年間 | 1年に1,400万円ずつ益金に算入 | 各年の法人税が増える |
結果として、法人税の総額は大きく変わらず、支払いの時期が後ろにずれるイメージです。M&A直後は、買収代金の支払いや統合の費用、思わぬ簿外債務の発覚などで資金が必要になりやすい時期です。その時期の税負担を軽くし、手元資金を厚くできることが、この制度の実務上の効果です。
なお、取得した株式を手放した場合などには、準備金を取り崩して益金に戻す必要があります。細かな要件は、計画の認定を受ける前に確認しておくことが大切です。
使うためのタイミングが一番の難所
この制度を使うには、M&Aの基本合意の後、最終合意の前までに、事業承継等事前調査(デューデリジェンス)の内容を記載した経営力向上計画を申請し、認定を受ける必要があると報じられています。
M&Aの実務では、基本合意から最終合意までの期間に、デューデリジェンス、条件交渉、契約書の作成、資金調達の準備を一気に進めます。そこに計画の作成と認定の手続きが加わるため、「実務のスピード感と合わない」という声が出ています。
ここからは、公認会計士・税理士として、M&Aの買い手を支援してきた立場からの考えです。この制度を使うなら、次の点を意識しておくと進めやすくなります。
- M&Aを検討し始めた段階で、制度を使うかどうかを決める:基本合意の後に気づいても、間に合わないことがあります
- デューデリジェンスの内容を計画に書ける形で進める:財務・税務・法務の調査結果を、計画の記載事項と合わせて整理しておきます(買い手のためのDDチェックリスト)
- スケジュールに認定の期間を織り込む:売り手との最終合意の日程に、認定を受ける期間を見込んでおきます
- 連続してM&Aをするなら、特別事業再編計画も検討する:2回目以降のM&Aでは積立率と据置期間が拡充されています(同業を連続して買収する戦略(ロールアップ))
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る銀行から見た準備金
M&Aの資金を借入で調達する場合、銀行は買収後の返済の見通しを重視します。準備金で買収直後の法人税が減れば、手元資金が増え、返済の余力が高まります。一方で、据置期間の後には益金算入で税負担が増えることも、長期の資金計画に織り込んでおく必要があります。M&Aの資金調達の考え方は、M&Aで融資をどう使うか、銀行はM&A融資のどこを見るかで解説しています。
今後も注意して見ていきたいこと
- 令和9年度税制改正:令和8年度末の期限が延長されるか。経産省は3年間の延長を要望
- 手続面の見直し:計画の認定のタイミングや、連続M&Aのための「包括枠」のような仕組みが入るか
- M&A市場の動向:中小M&Aの件数が増えるなかで、適用件数がどこまで伸びるか
まとめ
- 中堅・中小グループ化税制は、M&Aで取得した株式の取得価額の最大100%を準備金として積み立て、損金算入できる制度
- 経営力向上計画の認定なら70%以下(据置5年)、特別事業再編計画の認定なら2回目90%・3回目以降100%(据置10年)
- 据置期間の後に5年間で益金に戻す、税負担の繰延べの制度。M&A直後の手元資金を厚くできる
- 基本合意後・最終合意前に計画の認定を受ける必要があり、M&Aを検討し始めた段階で準備を
- 現行の期限は令和8年度末。経産省は延長と手続面の見直しを要望している
M&Aで会社を買う予定があり、この準備金を使えるか、スケジュールをどう組むかを確認したい方は、お気軽にご相談ください。
