外部への売却(M&A)

同業を連続して買収する戦略(ロールアップ)と注意点|管理機能の集約・グループ税制・準備金の拡充枠・銀行の見方

同じ業種の中小企業を一社ずつ買い集め、グループとして規模を広げる。このような同業の連続買収(ロールアップ)は、後継者のいない同業者が増えるなかで、中小企業にとっても現実的な成長戦略になってきました。

一方で、買えば買うほど、統合の手間、借入、のれんが積み上がります。1件目でうまくいった買い手が、3件目、4件目で管理が追いつかなくなり、資金繰りに苦しむこともあります。この記事では、中小企業庁の「中小PMIガイドライン」(2022年3月)が紹介する集約の事例をもとに、連続買収のメリットと注意点、グループの組み方と税金、銀行の見方を整理します。

この記事の結論
  • ロールアップの効果は、購買・採用の規模、管理機能の集約、拠点の統廃合、人材の融通。ただし、効果が出るのは統合(PMI)をやり切った後
  • 組み方は、事業会社の子会社にする、持株会社の下に並べる、合併して一つにするの3通り。グループ法人税制と合併の税務を踏まえて選ぶ
  • 2社目以降の株式購入には、中堅・中小グループ化税制(準備金の拡充枠:最初90%、以降100%)が使える場合がある
  • 買収のたびに借入とのれんが積み上がる。債務償還年数で次の買収の余力を確かめる
  • 1件ごとに「統合が終わったか、借入が戻ったか、次を任せる人がいるか」を確認してから進む

同業を連続して買収する狙い

中小PMIガイドラインは、M&Aによる成長の方向性の一つとして、既存の製品・既存の市場でシェアを広げる市場浸透を挙げ、その例として競合企業の買収を示しています。同業の連続買収は、この市場浸透を繰り返す戦略です。期待できる効果は、ガイドラインが「コストシナジー」として整理する取組と重なります。

効果中身ガイドラインの事例・留意点
管理機能の集約経理・人事・法務・許認可の管理を親会社に寄せる複数社を譲り受けた会社が、子会社の会計・財務の機能を親会社に集約。日々の入出金入力は子会社、決算は親会社が行い、子会社の経理担当を最小化し、決算の早期化にも貢献した
許認可の一元管理各社の許認可の更新を親会社で管理する同業他社を複数社譲り受けた古物商が、各社の許認可の管理を親会社に移管し、更新等の対応漏れが削減できた
採用の共同化グループとして採用活動を行う譲り受けた会社がグループの採用活動に参加し、採用活動費を圧縮しつつ人材を採用できた
拠点の統廃合営業エリアが重なる拠点をまとめる賃貸物件は解約予告の時期によって違約金が生じうるため、契約内容をDDで確認しておく。勤務地の変更は事前の説明と合意に留意
購買・価格交渉仕入れをまとめて条件を改善する取引先の見直しは、売り手経営者の思い入れのある取引先との衝突に注意

なお、これらの効果は、買った瞬間には生まれません。ガイドラインは、推進体制の確立や信頼関係の構築などを、M&A成立後100日までを目途に集中的に実施し、その後おおむね1年を目途に取り組むという時間軸を示しています。次の買収は、前の会社の統合がこの段階を越えてから、と考えるのが安全です。

連続買収のリスク:何が積み上がるか

積み上がるもの起きやすい問題
統合の作業同時に複数社のPMIが走り、どの会社も中途半端になる
経営人材の不足子会社の社長を任せられる人がいない。派遣した役員一人に任せきりになる
借入買収のたびに借入が増え、グループの債務償還年数が伸びる
のれん価格のうち純資産を超える部分。業績が落ちると会計上の減損の対象になり、決算を傷める
文化の違い各社の給与体系・就業規則・商習慣がばらばらのまま残る
規制規模が大きくなると、独占禁止法上の企業結合の届出が必要になる場合がある

中小PMIガイドラインは、失敗例として、M&A成立後に譲渡側の経営を派遣した役員一人に任せたまま放置したため、経営が安定せず、役員や従業員の心が離れてしまった例を挙げています。連続買収で最も不足しやすいのは、お金よりも経営を任せられる人です。

価格についても注意が必要です。同業の買収を続けると「この地域でシェアを取るために」と、価格を高めに出したくなる場面があります。決まった相場の倍率はなく、価格は対象会社の将来のキャッシュフローとリスクで決まります。考え方はEBITDA倍率の考え方をご覧ください。

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グループの組み方と税金

3つの組み方

組み方特徴税務・会計の主な論点
事業会社の子会社にする買い手の事業会社が株式を持つ。最も単純100%子会社ならグループ法人税制の対象。親会社の決算は子会社株式を取得価額で計上
持株会社の下に並べる持株会社が各社の株式を持ち、管理機能を集約する経営指導料・配当で資金を集める。グループ内の取引価格は正常な価格で
合併して一つにする子会社を親会社や中核会社に吸収する適格合併の要件、繰越欠損金の引継ぎ・使用の制限、許認可の承継

100%グループの税務

親会社が子会社の株式を100%持つと、法人税のグループ法人税制が適用されます。主なルールは次のとおりです。

  • グループ内で一定の資産(譲渡損益調整資産)を譲渡した損益は、繰り延べられる
  • グループ内の寄附は、出した側で損金にならず、受けた側で益金にならない
  • 完全子法人株式等からの配当は、全額が益金不算入

中小PMIガイドラインは、グループ内で取引を行う場合、利益はグループ全体で留保されるものであり、どちらかに有利な価格とせず、市場価格等の正常取引価格に基づき取引することが、双方の業績を判断するうえで有益なことが多いとしています。経営指導料や賃料をグループ内で動かす場合も、根拠を説明できる金額にします。

合併するときの注意

管理をさらに一本化するために、買った会社を合併することがあります。合併は、適格合併の要件を満たすか、対象会社の繰越欠損金を使えるか(支配関係が生じてからの期間などによる制限)を事前に確認する必要があります。詳しくは合併と繰越欠損金のルールと組織再編の適格要件をご覧ください。

2社目以降に使える税制:中堅・中小グループ化税制

株式を購入して会社を買う場合の中小企業事業再編投資損失準備金には、2024年度の税制改正で、複数回の買収を想定した拡充枠が設けられました。国税庁の解説資料によると、概要は次のとおりです。

区分経営力向上計画に係る措置(従来の枠)特別事業再編計画に係る措置(拡充枠)
必要な認定経営力向上計画の認定産業競争力強化法の特別事業再編計画の認定(2024年9月2日から2027年3月31日まで)
対象の株式購入により取得した株式等。取得価額10億円以下購入により取得した株式等。取得価額1億円以上100億円以下
積立ての上限取得価額の70%最初の特別事業再編で取得した株式等は90%、それ以外は100%
主な除外事業年度末に特定保険契約(表明保証保険など)を締結している場合事業年度末に一定の表明保証保険契約を締結している場合

積み立てた金額は、その事業年度の損金に算入できます。ただし、どちらも据置期間の後に取り崩して益金に算入する課税の繰延べです。準備金を積み立てると税負担は先に延びますが、取崩しの時期には税負担が戻ってきます。連続買収では、各社の取崩しの時期が重なると税負担が集中するため、買収ごとに一覧で管理してください。計画の認定はM&Aの実行前に受けるのが原則です。最初の1件での使い方は中小企業が初めて会社を買うときの進め方で触れています。

確認先

国税庁「第56条《中小企業事業再編投資損失準備金》関係」(令和6年度改正の概要)PDF。要件の細部は、適用前に措置法と最新の通達、経済産業省・中小企業庁の資料で確認してください。

銀行は「グループ全体」で見る

借入の積み上がりと次の買収の余力

買収資金を借りて買うたびに、グループの借入は増えます。株式で買った場合、親会社の貸借対照表には子会社株式が取得価額で載り、価格のうち純資産を超える部分(のれん相当額)は、担保として当てにできる資産ではありません。銀行は、親会社単体の決算書だけでなく、子会社を含めたグループ全体の借入と利益を合わせて見ます。

著書のモデルでは、債務償還年数「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」10年以内を健全、20年超は厳しい目安としています。1件目の買収でこの数字が10年を超えたなら、次の買収の前に、統合の効果で利益を伸ばし、返済を進めて年数を戻すことが先です。グループ全体の見られ方はグループ会社を銀行はどう見るか、格付けの上げ方は銀行格付けを上げる方法をご覧ください。

グループファイナンス

中小PMIガイドラインは、買い手の財務基盤や信用力を生かして、譲渡側の既存借入金の借換えや新規の資金調達を行うことで、より有利な条件で資金調達を行い、グループ内で資金を融通することで、グループ全体の有利子負債の低減や支払利息の抑制が期待できるとしています。連続買収では、どの会社が借り、どの会社に資金を回すのかを、メインバンクと早めに相談しておきます。詳しくは買収後の銀行取引の整理で解説します。

1件ごとのチェックリスト

確認項目次の買収に進む目安
前の会社のPMI100日の集中実施期を終え、月次決算がグループの期限で締まっている
経営人材前の会社を任せられる人がいて、次の会社に入る人もいる
借入グループの債務償還年数が、自社が決めた上限の内側にある
管理機能経理・人事・許認可の管理を親会社に集約できている
税務準備金の積立て・取崩しの時期、グループ内取引の価格を一覧で管理している

まとめ

  • ロールアップの効果は、管理機能の集約、許認可の一元管理、採用・購買の規模、拠点の統廃合。統合をやり切って初めて出る
  • 最も不足しやすいのは経営を任せられる人。派遣した役員に任せきりにしない
  • 組み方は子会社・持株会社・合併。グループ法人税制と、合併時の適格要件・繰越欠損金を確認する
  • 2社目以降は、中堅・中小グループ化税制(最初90%、以降100%)が使える場合がある。課税の繰延べで、取崩しの時期を管理する
  • 銀行はグループ全体で見る。債務償還年数が戻ってから次の買収へ

クレフティでは事業承継・M&A支援として、買い手側の株価算定と財務・税務DD、グループの組み方と税務の検討、準備金の適用判断、買収資金の調達支援をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。

よくある質問

同業を続けて買収するメリットは何ですか?
仕入れや採用をまとめて交渉力を高める、経理・人事・許認可の管理を親会社に集約して効率化する、拠点を統廃合して費用を下げる、人材を会社間で動かす、といった効果が期待できます。中小PMIガイドラインにも、複数社を譲り受けた会社が子会社の会計・財務の機能を親会社に集約し、子会社の経理担当を最小化して決算の早期化にもつなげた事例が紹介されています。
2社目以降の買収で使える税制はありますか?
産業競争力強化法の特別事業再編計画の認定を受けた法人が、計画に従って他の法人の株式を購入した場合、取得価額の一定割合を中小企業事業再編投資損失準備金として積み立て、損金に算入できる措置があります(いわゆる中堅・中小グループ化税制)。国税庁の解説では、最初の特別事業再編で取得した株式は90%、それ以外は100%で、取得価額1億円以上100億円以下、計画の認定は2027年3月31日までです。課税の繰延べである点と、細かな要件に注意してください。
連続して買収すると、銀行の評価はどうなりますか?
銀行は、グループ全体の借入と利益を合わせて見ます。買収のたびに借入が増え、のれん相当額の分だけ純資産が厚くならないため、次の買収の資金を借りにくくなることがあります。著書のモデルでは債務償還年数((借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等))10年以内を健全の目安としており、1件ごとに、買収後のグループ全体でこの数字がどう動くかを確かめてから次に進むことが大切です。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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