外部への売却(M&A)

中小企業が初めて会社を買うときの進め方|目的の決め方・相談先・8つのステップ・資金計画と税制

後継者のいない会社を引き継いで、事業を広げる。人手不足を、人ごと引き継ぐことで補う。中小企業でも、M&Aで会社を買うことは珍しくなくなりました。ただ、売り手の多くがM&Aを一度しか経験しないのと同じように、買い手の中小企業にとっても、最初の1件は分からないことだらけです。

この記事では、中小企業が初めて会社を買うときの進め方を、目的の決め方から、相談先、案件探し、交渉、デューデリジェンス(DD)、契約、買収後の統合(PMI)まで、8つのステップに分けて整理します。中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」(2024年8月)と「中小PMIガイドライン」(2022年3月)を手がかりに、税理士・公認会計士の立場から、資金計画と税制のポイントを加えます。リスクの見方は買い手として小さな会社を買うときの注意点とあわせてお読みください。

この記事の結論
  • 最初に決めるのは「何のために買うのか」。目的が、買う会社の条件・予算・体制を決める
  • 相談先は、仲介者・FA、M&Aプラットフォーム、事業承継・引継ぎ支援センター、金融機関、税理士など。買い手も、仲介者・FAから財務状況を調べられる
  • 進め方は 目的→相談先→案件探し→トップ面談・意向表明→基本合意→DD→最終契約・クロージング→PMI の8ステップ
  • 資金は、買収代金・手数料・DD費用・買収後の運転資金の総額で計画し、対象会社のキャッシュフローで返せるかを確かめる
  • 中小PMIガイドラインのとおり、最終契約と決済はスタートライン。PMIの準備はM&Aの検討段階から始める

ステップ1:何のために買うのかを決める

中小PMIガイドラインは、何のためにM&Aを実行するのか、経営の方向性を言語化して社内外の関係者に説明することを求めています。目的があいまいなまま案件を見始めると、「安いから」「勧められたから」で判断してしまい、買った後に何をすればいいか分からなくなります。

ガイドラインは、成長を目指すM&Aの方向性として、製品・市場の組み合わせに垂直統合を加えた5つの選択肢を紹介しています。

方向性中身買う会社の例
市場浸透既存の製品×既存の市場でシェアを広げる同じ地域の同業者
市場開拓既存の製品を新しい市場へ自社が入れていない地域・顧客層を持つ同業者
製品開発新しい製品を既存の市場へ異なる製品群を扱う会社、技術を持つ会社
垂直統合サプライチェーンの川上・川下へ仕入先、販売先
多角化新しい製品×新しい市場異なる事業分野の会社

初めての買収では、自社の事業をよく分かっている同業・隣接業種から始める会社が多くあります。統合の作業が具体的に想像でき、金融機関にも説明しやすいからです。

ステップ2:相談先と社内の体制を決める

相談先の種類

相談先主な役割確認したい点
仲介者売り手と買い手の両方から依頼を受けてマッチングと交渉を支援両方から手数料を受け取る構造。利益相反への対応
FA(ファイナンシャル・アドバイザー)買い手だけの立場で助言価格交渉・DDの調整まで任せられるか
M&Aプラットフォームインターネット上で売り手を探す情報の取扱い、手数料体系
事業承継・引継ぎ支援センター国が各都道府県に設置する公的な相談窓口譲り受け側としての登録・相談
金融機関案件紹介、買収資金の融資融資の条件と、紹介の手数料
税理士・公認会計士・弁護士株価算定、DD、契約、税務M&Aの実務経験

仲介者・FAを選ぶときは、国のM&A支援機関登録制度に登録しているか、手数料の計算方法(多くはレーマン方式)と最低手数料を確認します。詳しくはM&A支援機関登録制度とM&Aの手数料(レーマン方式)をご覧ください。

買い手も調べられる

中小M&Aガイドラインは、仲介者・FAに対し、譲り受け側が最終契約を履行し、対象事業を引き継ぐ意思・能力を有しているかを確認するための調査を求めています。財務状況(債務超過・赤字でないか、現預金の額など、M&Aを実施できる状況か)と、反社会的勢力への該当性や過去のM&Aトラブルといったコンプライアンス面が対象です。買い手としては、直近の決算書、資金計画、買収の目的を説明できる資料を、最初から準備しておきます。

社内の体制

中小PMIガイドラインは、PMIの重要な意思決定や企画・推進には、多くのケースで譲受側の経営者だけでなく、譲受側の役員や譲渡側の前経営者などが関与していると整理しています。社長一人で抱え込まず、買収後に誰が対象会社に入るのか、経理・人事を誰が見るのかを、案件を探す前に決めておきます。

ステップ3〜7:案件探しからクロージングまで

ステップ買い手がすること注意点
3 案件探し目的に合う条件(業種・地域・規模・価格帯)を伝え、ノンネームシートを受け取る秘密保持契約を結んでから会社名と資料を受け取る
4 トップ面談・意向表明売り手経営者と面談し、価格の目安と条件を意向表明書で示す売り手への敬意。否定的な発言は関係を壊す(中小PMIガイドラインの失敗例)
5 基本合意価格の目安、独占交渉期間、DDの範囲、スケジュールを合意価格は通常、DDの結果で見直す余地を残す
6 DD財務・税務・法務・労務などを調査する調査の範囲は規模と予算で絞ってよいが、要点は外さない
7 最終契約・クロージング価格、表明保証・補償、前提条件、経営者保証の扱いを契約し、代金を支払う売り手の経営者保証の解除・移行は買い手の義務

トップ面談の作法はトップ面談で話すこと・聞くこと、DDの範囲の決め方は買い手のためのDDチェックリストで解説しています。

中小M&Aガイドラインは、DDは譲り受け側が客観的資料に基づいてそもそもM&Aを実行すべきかを検討し、実行する場合には譲渡額・表明保証・補償などを調整することで、M&A成立後のトラブルを防止できるとしています。初めての買収ほど、「ここまで来たのだから」と引き返せなくなりがちです。DDで重大な問題が見つかったら、条件の見直しや中止も選択肢です。考え方はDD後にM&Aをやめられるかをご覧ください。

株主構成の整理から、承継・売却まで一緒に考えます

M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。

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資金計画:総額で考え、返せるかを確かめる

必要な資金の総額

資金中身
買収代金株式の購入代金(または事業譲渡の対価)
仲介・FAの手数料着手金、中間金、成功報酬など
DD費用財務・税務・法務・労務の調査
登記・契約の費用役員変更登記、事業譲渡なら不動産登記や許認可の取り直し
買収後の運転資金取引条件の変化、人員補充、システム統合などへの備え

返済の見通し

買収資金を借りる場合、返済原資は原則として対象会社が生み出すキャッシュフローです。株式で買った場合、対象会社の利益は自動的には買い手に来ないため、配当、経営指導料、将来の合併など、資金を移す方法とその税金まで計画に入れます。著書のモデルでは、債務償還年数「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」10年以内を健全の目安としています。買収後の買い手グループ全体で、この数字がどこまで悪化し、何年で戻るかを試算しておくと、金融機関への説明がしやすくなります。

融資の制度としては、日本政策金融公庫の事業承継・集約・活性化支援資金や、民間金融機関との協調融資があります。事務所でも、専門職(年商5,000万円)のお客さまが、9,000万円のM&Aの資金を、政府系金融機関と地方銀行の協調融資(買収資金と統合後の運転資金)で調達された事例があります。融資の組み立てはM&Aの買収資金の融資で解説しています。

税制:中小企業事業再編投資損失準備金

株式を購入して会社を買う場合、中小企業事業再編投資損失準備金を使える場合があります。経営力向上計画の認定を受けて株式等を購入により取得した場合、取得価額の70%以下を準備金として積み立て、損金に算入できる制度です(取得価額10億円以下、計画の認定期限は2027年3月31日まで)。5年間の据置期間の後に取り崩して益金に算入する課税の繰延べであり、事業年度末に表明保証保険などの特定保険契約を締結している場合は使えないといった要件があります。計画の認定はM&Aの実行前に受けるのが原則とされているため、基本合意の頃には検討を始めてください。

ステップ8:PMIは買う前から準備する

中小PMIガイドラインは、M&Aにおける最終契約の締結・決済は、いわばスタートラインにすぎず、その後の統合の取組(PMI)こそが重要だとしています。また、PMIは「ポスト(後)」の字が付くためM&A後の取組と誤解されがちだが、M&Aの目的の明確化や譲受側の現状把握などを含め、成立前から準備する必要があるとも述べています。

ガイドラインは、推進体制の確立や関係者との信頼関係の構築などを、M&A成立後100日までを目途に集中的に実施することを示しています。初めての買い手が特に準備しておきたいのは次の3点です。

  1. 従業員への説明:M&A成立後遅滞なく、全従業員に同時に、等しく、正確に伝える場を設ける。キーパーソンには事前に個別に説明する
  2. 主要取引先への対応:取引先との関係が強い売り手経営者の協力を得て、あいさつと取引条件の確認を行う
  3. 売り手経営者の処遇:引継ぎ期間、役割、報酬、在籍期間を書面で決めておく

詳しくは買収後の統合(PMI)で失敗しないために、会計・経理の統合は買収後の会計・経理の統合をご覧ください。

初めての買い手が陥りやすい失敗

中小PMIガイドラインが紹介する失敗例から、初めての買収で起きやすいものを要約します。

失敗原因防ぎ方
譲渡側の従業員が離職した経営の方向性を示さず、将来不安を招いたDay.1の説明会と個別面談で「変わること・変わらないこと」を伝える
譲渡側経営者の協力が得られない過去の取組や業績に否定的な発言をした敬意をもって接し、傾聴する
改革に抵抗された譲渡側経営者の在籍期間を決めていなかった引継ぎ期間を事前に定め、書面にする
主要取引先を失ったM&A成立前後の説明やあいさつを怠った重要度に応じて速やかに説明する
経営が安定しない派遣した役員一人に任せたまま放置した定期的に状況を確認し、支援する

どれも、買収の価格や契約ではなく、人との向き合い方の失敗です。初めての買収ほど、契約交渉に力を使い果たし、統合の準備が後回しになりがちです。

まとめ

  • 最初に買収の目的を言語化する。目的が、買う会社・予算・体制を決める
  • 相談先と手数料を確認し、買い手も財務状況を調べられる前提で資料を準備する
  • 目的→相談先→案件探し→トップ面談・意向表明→基本合意→DD→最終契約・クロージング→PMI の8ステップで進める
  • 資金は総額で計画し、対象会社のキャッシュフローで返せるか、債務償還年数がどこまで悪化するかを確かめる
  • 最終契約と決済はスタートライン。PMIの準備は買う前から始める

クレフティでは事業承継・M&A支援として、買い手側の株価算定、財務・税務DD、買収資金の調達支援、買収後の会計・税務の統合をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。

よくある質問

初めて会社を買うとき、最初に何をすればいいですか?
最初に決めるのは「何のために買うのか」です。中小PMIガイドラインは、M&Aを通じて自らが達成したいことを言語化し、社内外の関係者に説明することを求めています。目的が決まれば、買う会社の業種・地域・規模、使える予算、必要な体制が決まり、仲介者・FAや金融機関への相談も具体的になります。
会社を買うのに、全部自己資金が必要ですか?
全額を自己資金で用意する必要はなく、金融機関の融資を組み合わせるのが一般的です。日本政策金融公庫には事業承継・M&Aに使える融資制度があり、民間金融機関との協調融資の形をとることもあります。ただし、買収代金だけでなく、仲介・FAの手数料、DD費用、買収後の運転資金まで含めた総額で計画し、対象会社のキャッシュフローで何年で返せるかを示す必要があります。
買い手も、仲介会社から調べられるのですか?
調べられます。中小M&Aガイドラインは、仲介者・FAに対し、譲り受け側が最終契約を履行し対象事業を引き継ぐ意思・能力を有しているかを確認するため、財務状況(債務超過・赤字でないか、現預金の額など)やコンプライアンス面の調査を求めています。買い手は、自社の決算書や資金計画をすぐに出せるよう準備しておくと、交渉がスムーズに進みます。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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