外部への売却(M&A)

M&Aのトップ面談で話すこと・聞くこと|売り手の準備、確認すべき質問リスト、話さないほうがよいこと

M&Aの交渉で、売り手と買い手の経営者が初めて顔を合わせるのがトップ面談です。それまで資料と仲介者・FAを通じてしか知らなかった相手と、直接話す場です。「何を話せばいいのか」「何を聞けばいいのか」「言ってはいけないことはあるのか」と、緊張される方がほとんどです。

中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」は、トップ面談を、譲り受け側の経営理念・企業文化や経営者の人間性等を直接確認するための場であり、その後の円滑な交渉のためにも重要な機会だとしています。同時に、自分の態度や表情も相手に直接伝わりやすく、不用意な言動は信頼を損なうおそれがあるとも注意しています。この記事では、売り手の立場から、トップ面談の準備、話すこと、聞くこと、話さないほうがよいことを整理します。

この記事の結論
  • トップ面談は「値段を決める場」ではなく、相手の考え方と人柄を確かめる場。M&Aの成否を左右する
  • 面談の前に、希望条件に優先順位を付け、絶対に譲れない点を固めておく(ガイドラインの勧め)
  • 売り手が必ず聞くのは、M&Aの目的・経営方針、従業員の処遇、経営の担い手、経営者保証の引継ぎ、買収資金の出どころ
  • 従業員の個人情報や取引先の詳細な条件など、秘密保持の範囲を超える情報は面談では出さない
  • 面談で出た条件(役員退職金、残留期間、不動産の扱いなど)は、税務と銀行の面から後で必ず検証する

トップ面談はM&Aのどこにあるか

中小企業のM&Aは、おおむね次の順序で進みます。トップ面談は、買い手候補が資料で会社を検討した後、具体的な条件の交渉に入る前に置かれるのが一般的です。

段階主な中身トップ面談との関係
秘密保持契約・概要資料の提供買い手候補が会社の概要書(IM)などを検討面談の前提となる情報
トップ面談経営者同士が直接会い、考え方と人柄を確かめるここで「この相手と進めるか」の感触をつかむ
意向表明書買い手が価格の目安や条件を示す面談の内容を踏まえて出される
基本合意価格の目安、独占交渉、スケジュールガイドラインは原則として締結が望ましいとする
DD・最終契約・クロージング調査、契約、代金決済面談で聞いた内容がDDで確かめられる

ガイドラインは、交渉の進め方は当事者の関係や事業の類似性などによって様々で、トップ面談の時期や方法も様々な形態があるとしています。1回で終わることもあれば、工場や店舗の見学を含めて複数回行うこともあります。全体の流れはM&Aの流れと期間、面談の前の秘密保持契約と概要資料は秘密保持契約とノンネームシートをご覧ください。

面談の前に売り手が準備すること

希望条件に優先順位を付ける

ガイドラインは、トップ面談を含む交渉の際には、希望条件を明確化し、可能な限り優先順位を付し、特に絶対に譲歩できないのがどの点なのか固めておくことが望ましいとしています。たとえば次のように整理します。

希望条件優先度自分の考え
従業員の雇用の維持絶対に譲れない少なくとも数年は現在の雇用と給与水準を守ってほしい
経営者保証の解除絶対に譲れないクロージングと同時に外れることを条件にしたい
譲渡価格高い最低ラインは決めておく(面談では言わない)
社名・屋号の継続中できれば残したいが、理由があれば相談に応じる
自分の残留期間中引継ぎのために1年程度なら残ってよい

この表は、面談で相手に見せるためではなく、自分の頭を整理するためのものです。家族や右腕の社員とも共有しておくと、面談後の判断がぶれません。

会社の「物語」を自分の言葉で話せるようにする

買い手が面談で一番聞きたいのは、決算書には書いていないことです。創業の経緯、強みの理由、苦しかった時期にどう乗り越えたか、なぜ今M&Aを選んだのか。数字は資料で読めますが、経営者の考え方は面談でしか分かりません。

一方で、弱みや課題も隠さず話せるようにしておきます。後のDDで見つかるより、面談で自分から話したほうが信頼につながります。売却前の準備は会社を売る前の「磨き上げ」で解説しています。

売り手が話すこと・話さないほうがよいこと

区分例考え方
話すこと創業の経緯、経営理念、強みと弱み、従業員への思い、M&Aを決めた理由、引退後の希望相手が「一緒にやれるか」を判断する材料。率直に話す
慎重に話すこと主要取引先の名前、具体的な取引条件、個別の訴訟やトラブル秘密保持契約の範囲と、仲介者・FAの助言に従う。詳細はDDで開示する
話さないこと従業員個人の給与や評価、健康状態などの個人情報。他の買い手候補の名前や条件個人情報や第三者の情報は面談の場で出すものではない

価格については、面談で絶対に触れてはいけないわけではありません。ただ、初回の面談で金額の駆け引きに入ると、お互いを知るという目的がかすみます。価格や細かな条件は、仲介者・FAを通じて意向表明書や基本合意で詰めるのが通常の進め方です。

また、面談で「大丈夫です」「問題ありません」と気軽に言ったことは、後で最終契約の表明保証(会社の状態が真実かつ正確だという約束)につながることがあります。分からないことは「確認してお答えします」と持ち帰って構いません。

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売り手が買い手に聞くこと:質問リスト

面談は売り手が「選ばれる」場であると同時に、買い手を選ぶ場でもあります。次の質問は、遠慮せずに聞いてください。

テーマ質問の例確かめたいこと
M&Aの目的なぜ当社に関心を持ったのか。買収後に何を実現したいのか目的が具体的か。転売目的ではないか
経営方針当社の経営理念や商品・サービスはどうするのか変わること・変わらないこと
経営の担い手誰が社長になるのか。買い手から役員を派遣するのか現場を任せられる人がいるか
従業員雇用と給与、退職金、勤務地はどうなるのか雇用維持の考え方。説明会の時期
取引先主要取引先との関係を続けるのか。仕入先を変える予定はあるか取引の継続性
経営者保証私の個人保証と担保はいつ、どうやって外すのか解除・引継ぎの具体的な段取り
買収資金自己資金か、借入か。どの金融機関と相談しているか支払能力。資金の出どころ
過去のM&Aこれまでに会社を買ったことはあるか。その会社は今どうなっているか買収後の統合(PMI)の実績

特に経営者保証と買収資金は必ず聞いてください。中小M&Aガイドラインは、M&A後に会社の資金を流出させる一方で経営者保証の解除を行わず、連絡を絶つような不適切な譲り受け側の存在を指摘しています。保証の扱いについては、最終契約で解除・移行を買い手の義務とし、クロージングの条件に設定することも勧めています。面談の段階で答えがあいまいな買い手は、慎重に見る必要があります。手口と対策は悪質な買い手によるM&Aトラブルで詳しく解説しています。

買い手側の作法:ガイドラインが勧めること

買い手の立場からトップ面談を見ると、どこを気をつけるべきかも分かります。中小PMIガイドラインは、譲渡側経営者への対応として、トップ面談では譲渡側や譲渡側経営者へ敬意をもって接し、適切なコミュニケーションで相互理解を深めることを求め、具体的な取組として次のような例を挙げています。

  • 面談の前に、譲渡側の沿革や経営理念、経営者に関する情報を可能な範囲で集め、十分理解しておく
  • 買い手が優位という印象を与えないよう、どちらかの事務所ではなく中立的な場所で面談したり、着座位置に配慮したりする
  • 譲渡側経営者のこれまでの経営方針や取組を傾聴する
  • 相手の考えを理解したうえで、M&Aの目的や目指す姿を熱意を持って明確に伝える

失敗例としては、買い手の経営者が譲渡側の過去の取組や業績に否定的な発言や態度を示したため関係が悪化し、十分な協力が得られなかった例が紹介されています。売り手から見れば、面談で自社の過去を軽んじる発言が多い買い手は、買収後の従業員への接し方も想像がつく、ということです。

面談の後にすること

面談メモを作り、仲介者・FAと共有する

面談が終わったら、その日のうちに、相手の発言と自分の受けた印象をメモにします。特に、従業員の処遇、経営者保証、残留期間など、条件に関わる発言は正確に残します。中小M&Aガイドラインも、仲介者・FAと緊密なコミュニケーションを取り、助言を得ながら交渉を進めることを求めています。

条件を税務と銀行の面から検証する

面談では「退職金は〇〇くらいで」「会長として1年残ってほしい」「社長名義の土地も一緒に」といった話が出がちです。これらは、税金と手取りに大きく影響します。

  • 役員退職金:売却時に退職金を受け取り、その後も同じ勤務形態・報酬で残ると、退任の事実が認められず損金性が否認されるおそれがある(中小PMIガイドライン)
  • 社長個人名義の不動産:会社に売るのか、賃貸を続けるのかで、譲渡所得の税金と買い手の評価が変わる
  • 株式の譲渡代金:個人の株主が非上場株式を譲渡したときの譲渡益には20.315%(所得税・復興特別所得税15.315%、住民税5%)がかかる

また、買い手が買収資金を借入でまかなう場合、融資の実行が契約の前提条件になることがあります。著書のモデルでは債務償還年数「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」10年以内を健全の目安としており、買収後にこの数字が大きく悪化する買い手は、代金の支払や買収後の資金繰りに不安が残ります。

次の段階の書面は基本合意書(LOI)の拘束力、社長が抜けた後の引継ぎは社長依存の会社を売れる会社にするにはをご覧ください。

まとめ

  • トップ面談は、相手の考え方と人柄を確かめる場。不用意な言動は信頼を損なう
  • 面談前に、希望条件に優先順位を付け、譲れない点を固める
  • 売り手は、目的・経営方針、経営の担い手、従業員、経営者保証、買収資金を必ず聞く
  • 個人情報や詳細な取引条件は面談では出さず、DDで開示する。分からないことは持ち帰る
  • 面談で出た条件は、役員退職金・不動産・譲渡益の税金と、買い手の資金調達の面から検証する

クレフティでは事業承継・M&A支援として、トップ面談の前の希望条件の整理、面談で出た条件の税務面の確認、手取り額の試算、買い手の資金計画のセカンド・オピニオンをお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。

よくある質問

トップ面談はM&Aのどの段階で行いますか?
一般的には、秘密保持契約を結んで買い手候補が会社の概要資料を検討した後、意向表明書や基本合意の前に行います。中小M&Aガイドラインは、トップ面談の時期や方法には様々な形態があるとしたうえで、譲り受け側の経営理念・企業文化や経営者の人間性等を直接確認するための場であり、その後の円滑な交渉のためにも重要な機会だと位置付けています。
トップ面談で価格の話をしてもいいですか?
禁止されているわけではありませんが、初回の面談で金額の交渉に入ると、お互いの人柄や考え方を確かめるという本来の目的が薄れがちです。価格や細かな条件は、面談後に仲介者・FAを通じて意向表明書や基本合意の中で詰めることが多くあります。売り手としては、絶対に譲れない条件だけは、面談の前に整理しておくことが大切です。
買い手に必ず聞いておくべきことは何ですか?
M&Aの目的と買収後の経営方針、従業員の雇用と処遇、誰が経営を担うのか、売り手の経営者保証をどう引き継ぐのか、買収資金をどう用意するのか、の5点は必ず確認してください。特に経営者保証と資金の出どころは、中小企業庁が注意喚起している、売却後のトラブルに直結する項目です。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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