外部への売却(M&A)

M&Aの秘密保持契約(NDA)・ノンネームシート・IMとは|どの段階で何を開示し、情報漏えいをどう防ぐか

M&Aで最も避けたい事態の1つが、情報の漏えいです。「あの会社は売りに出ているらしい」という噂が広がると、従業員が辞め、取引先が離れ、銀行の見る目も変わります。中小M&Aガイドラインも、情報の漏えいがあった場合にはM&Aが頓挫してしまうことがあると注意しています。

そのため、M&Aでは情報を段階的に出していきます。最初は会社名を伏せたノンネームシートで打診し、関心を示した相手と秘密保持契約(NDA)を結んでから、実名入りの企業概要書(IM)を渡す、という順番です。この記事では、各段階で何を開示するのか、NDAに何を書くのか、社内や取引先・銀行への情報管理をどうするかを、ガイドラインの記載に沿って整理します。

この記事の結論
  • 情報は ノンネームシート → 秘密保持契約 → 企業概要書(IM) → トップ面談 → DD の順に段階的に開示する
  • ノンネームシートは、業種・地域・規模の組合せで会社が特定されないように作る
  • 会社名を明かすネームクリアは、原則として候補ごとに売り手が個別に同意する
  • NDAでは、秘密情報の範囲、目的外使用の禁止、開示できる相手、従業員の引抜き禁止、有効期間を確認する
  • 顧問税理士・弁護士や金融機関への相談が秘密保持の対象から外れているかを必ず確認する

情報開示の順番:どの段階で、何を出すか

ガイドラインは、マッチングの一般的な流れを次のように説明しています。仲介者・FAは、まず数十社程度の候補リスト(ロングリスト)の先に、売り手を特定できないノンネームシートを送って打診し、関心を示した数社程度(ショートリスト)と秘密保持契約を結んだうえで、企業概要書を渡す、という流れです。

段階開示する資料主な中身前提
打診ノンネームシート(ティーザー)業種、地域(広めに)、規模の目安、譲渡の理由、希望するスキーム売り手が特定されないこと
関心の表明(秘密保持契約の締結)―売り手の同意、NDAの締結
検討企業概要書(IM)社名、事業内容、財務、株主・役員構成、組織、従業員、商流、不動産、許認可、今後の展望NDAの締結後
面談・意向表明トップ面談の資料経営方針、従業員の処遇の考え方など候補を絞った後
DD開示資料一式契約書、帳簿、議事録、労務資料など基本合意後が通常

東京地方裁判所平成18年1月17日判決(平成16年(ワ)第8241号)が認定した事実にも、この順番が表れています。買い手は対象会社と機密保持契約を結んだうえで、アドバイザーを通じて3期分の決算書や会社概要を入手し、その後に意向表明書を提出してDDに進んでいました。

ノンネームシート:会社が特定されないように作る

ノンネームシートは、ガイドラインの用語集では「譲り渡し側が特定されないよう企業概要を簡単に要約した企業情報」とされています。作るときに気をつけたいのは、情報の組合せで特定されることです。

  • 「〇〇市の」「業界で唯一の」といった表現は、地域や特徴で会社が分かってしまう
  • 売上高や従業員数は、幅を持たせて書く(例:売上高5〜10億円)
  • 同業者や取引先に送る場合は特に慎重に。打診を避けたい先は、事前に仲介者・FAに伝えておく

ガイドラインは、売り手が打診を希望する先、避けたい先があれば事前に伝えること、打診の優先順位を十分に話し合うことを勧めています。候補先リストの内容を売り手と協議して数社に絞り込んでから、その先にだけノンネームシートを送る方法もあります。

ネームクリア:会社名を明かすときの同意

原則は「候補ごとの個別同意」

ノンネームシートを見て関心を示した候補に会社名を明かすことをネームクリアといいます。ガイドラインは、ネームクリアは売り手の同意を得て、候補先と秘密保持契約を結んだうえで行う必要があり、同意は原則として開示先ごとに個別に取得する必要があるとしています。

業者に選定を任せる場合の条件

早期のマッチングを望む場合などは、一定の基準の下で仲介者・FAにネームクリア先の選定を任せることも考えられます。ただしガイドラインは、包括的な一任はすべきでないとし、その場合に仲介者・FAが次のことをしなければならないとしています。

  1. 個別同意が通常であること、任せると希望しない先に開示されるリスクがあることを売り手に明示的に説明し、理解を確認する
  2. 希望する業種・所在地、除外する個社(取引先・同業他社など)など、できるだけ具体的な基準を決める
  3. 売り手から指示があれば、ネームクリアを速やかに中止すると確約する

テール条項(契約終了後に成約しても手数料が発生する条項)の対象も、少なくともネームクリアが行われて紹介された相手に限るべきとされています。ノンネームシートを見せただけの相手は対象にすべきではありません。

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秘密保持契約(NDA)で定めること

2種類のNDA

ガイドラインの用語集によれば、秘密保持契約(NDA、CAとも呼ばれます)は、買い手候補がノンネームシートを見て関心を持ち、詳しい情報を得るために売り手と結ぶ場合と、売り手・買い手が仲介者・FAと結ぶ場合(仲介契約・FA契約の秘密保持条項として入ることが多い)があります。当事者間で結ぶNDAの雛形として、ガイドラインの参考資料7に「秘密保持契約書サンプル」があります。

主な条項と確認点

条項確認点
秘密情報の範囲開示した資料だけでなく、M&Aを検討している事実そのものも秘密に含めるか
目的外使用の禁止M&Aの検討以外に使わない。同業者が相手なら特に重要
開示できる相手役員・従業員、弁護士・公認会計士・税理士などのアドバイザー、金融機関。同じ義務を負わせることが条件か
返還・破棄交渉が終わったら資料を返すか破棄し、その証明を出すか
引抜き・勧誘の禁止交渉で知った従業員や取引先に接触しないこと
直接接触の禁止売り手の従業員・取引先・金融機関に無断で接触しないこと
有効期間交渉が終わった後も何年か効力を残すか
損害賠償違反した場合の責任

専門家・金融機関への相談を妨げないか

売り手にとって特に重要なのが、相談先の除外です。ガイドラインは、公認会計士、税理士、弁護士などの士業等専門家や事業承継・引継ぎ支援センターから助言を受けること(広義のセカンド・オピニオン)の妨げにならないよう、これらの者への情報共有が許容されているか(秘密保持義務が一部解除されているか)を確認しておくことが望ましいとしています。

第3版はさらに、売り手が経営者保証の扱いについて金融機関や専門家に事前相談したい場合、相談先を秘密保持条項の対象から除外する必要があるとし、買い手はその申し出を拒むべきではないとしています。また、M&A支援機関登録制度の登録機関は、顧客が情報提供受付窓口に相談したことだけを理由に、秘密保持義務違反として不利益な扱いをしないことを誓約しています。

企業概要書(IM)に書くこと

企業概要書(IM:インフォメーション・メモランダム)は、秘密保持契約の締結後に買い手候補に渡す、実名入りの会社資料です。中小企業庁の第3版概要資料は、記載内容の例として、事業内容、財務状況、株主・役員構成、組織図、従業員構成(正社員・業務委託の別、部署の構成など)、商流、不動産、技術・特許・許認可、今後の事業の展望を挙げています。

IMで大事なのは、後で出てくる資料と矛盾しないことです。IMの数字や説明は、DDで裏付けを求められ、最終契約の表明保証にもつながります。

  • 財務:決算書の数字に加え、役員報酬や私的な経費など、M&A後に変わる費用を分けて示すと、正常な収益力を説明しやすい
  • リスク:係争、行政指導、許認可の更新など、マイナスの情報も早めに出す。ガイドラインも、支援機関への相談の際にはマイナスな情報ほど先に伝える姿勢を求めている
  • 不動産・資産:社長個人名義で事業に使っている資産、会社名義で私的に使っている資産を区別する

決算書の整え方は売る前の磨き上げ、収益力の調整は正常EBITDAとはをご覧ください。

社内・取引先・銀行への情報管理と、法律・税務の注意点

誰に、いつ話すか

ガイドラインは、DDの段階でも、社内に情報を開示していない場合は、非開示の役員・従業員に悟られずに行う工夫が必要だとしています。また、クロージング後に公表すると合意しているなら、それまで秘密保持を貫く必要があるとしています。社内では、経理責任者など最小限の人にだけ、時期を区切って伝えるのが一般的です。従業員・取引先・銀行への伝え方は従業員・取引先・銀行に売却をどう伝えるかで解説します。

法律の注意点

  • 営業秘密:顧客名簿や原価情報などは、秘密として管理されていれば、不正競争防止法上の「営業秘密」(同法2条6項)として保護されうる。NDAとあわせて、資料に「秘密」と表示する、閲覧者を限るなどの管理をしておく
  • 個人情報:合併その他の事由による事業の承継に伴って個人データが提供される場合、提供を受ける者は第三者に当たらないとされる(個人情報保護法27条5項2号)。交渉段階で顧客や従業員の個人データを出す範囲と方法は、個人情報保護委員会のガイドラインなどを確認し、必要な範囲に絞る

税務と銀行の目線

IMやDDで開示する決算書、税務申告書、勘定科目内訳明細書は、買い手だけでなく、買い手に融資する銀行も読みます。税務申告と決算書の数字がずれていたり、説明できない勘定が残っていたりすると、価格の減額や融資審査の長期化につながります。著書のモデルでも、銀行は決算書の数字を実態に組み替えて安全性・収益性・成長性・返済能力を採点しています。決算書を銀行目線で見直す方法は銀行に出す前に決算書で見直すことで整理しています。

まとめ

  • 情報はノンネームシート → NDA → IM → トップ面談 → DDと段階的に出す
  • ノンネームシートは、業種・地域・規模の組合せで特定されないように作る
  • ネームクリアは原則として候補ごとに個別同意。業者に任せるなら具体的な基準と中止の確約を
  • NDAでは、検討の事実も秘密に含めるか、開示できる相手、引抜き禁止、有効期間を確認する
  • 税理士・弁護士・金融機関への相談が秘密保持の対象から外れているかを必ず確認する
  • IMの内容はDDと表明保証につながる。後で矛盾しない資料を作る

基本合意の段階で定める独占交渉義務の効力は基本合意書(LOI)の拘束力で、M&A全体の流れはM&Aはどう進むのかで解説しています。クレフティでは事業承継・M&A支援として、IMに載せる財務情報の整理、売り手側のデューデリジェンス、秘密保持契約を含む契約条件の税務面の確認をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士が対応します。

よくある質問

ノンネームシートとIMは何が違うのですか?
ノンネームシート(ティーザー)は、会社が特定されないように企業概要を簡単にまとめた資料で、買い手候補に関心の有無を打診するために使います。企業概要書(IM)は、秘密保持契約を結んだ後に渡す、会社名や事業・財務の具体的な情報を記載した資料です。前者は「どんな会社か」、後者は「どの会社で、どんな中身か」を伝える資料です。
ネームクリア(会社名の開示)は、仲介会社に任せてもいいですか?
中小M&Aガイドラインは、原則として開示先の候補ごとに売り手から個別に同意を得る必要があるとしています。早期のマッチングを望む場合などに一定の基準で業者に選定を任せることも考えられますが、その場合も候補先との秘密保持契約は必須で、包括的に一任すべきではないとされています。希望しない先に開示されるリスクを理解したうえで判断してください。
秘密保持契約を結んだ相手に、取引先や銀行に話すなと言われました。顧問税理士にも相談できませんか?
契約の定め次第ですが、中小M&Aガイドラインは、税理士・公認会計士・弁護士などの専門家や事業承継・引継ぎ支援センターに相談できるよう、秘密保持義務の一部解除が定められているかを確認しておくことが望ましいとしています。経営者保証の扱いを金融機関に事前相談する場合も、相談先を秘密保持の対象から除外する必要があります。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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