会社を買う前に、その会社の実態を調べるのがデューデリジェンス(DD)です。売り手から出された決算書と説明だけで判断すると、買った後に、未払残業代、税務調査の追徴、解除される契約、使えない許認可といった問題が出てきかねません。
中小M&Aガイドライン(第3版)は、DDによって、買い手は客観的資料に基づいてそもそもM&Aを実行すべきかを検討でき、実行する場合には譲渡額・表明保証・補償などの調整によってM&A成立後のトラブルを防止できるとしています。この記事では、買い手の立場で確認すべき項目を8分野のチェックリストにまとめ、規模に応じた範囲の絞り方、費用の決まり方、見つかった問題の手当て方を整理します。
- DDの目的は、買うかどうかの判断、価格・契約条件の調整、買収後の統合(PMI)の準備の3つ
- 確認するのは、ビジネス・財務・税務・法務・労務・不動産・IT・経営者との取引の8分野
- 小規模な案件は範囲を絞ってよいが、財務・税務の要点と労務(未払残業代)は外さない
- 費用は、範囲・期間・人数・報告書の要否で決まる。公表された相場はないため、見積りの前提を確認する
- 見つかった問題は、価格・特別補償・前提条件・中止のどれで手当てするかを決める。DDで知った問題を表明保証だけに頼らない
DDの範囲は規模とリスクで決める
ガイドラインは、DDは想定しうるリスク全般を調べることもあれば、対象を限定して簡易な形で行うこともあり、調査の密度は様々だとしています。株式譲渡は、売り手の法人格がそのまま残るため、未払残業代などの簿外債務や、紛争に関する損害賠償などの偶発債務のリスクが比較的高くなりやすく、より詳細なDDが行われる傾向にあるとも述べています。
| 案件の性格 | DDの範囲の目安 | 外さない項目 |
|---|---|---|
| 小規模(経営者と少人数の従業員) | 決算書・申告書の数期分の確認と経営者へのヒアリングを中心に、要点を絞る | 簿外債務、税務の要点、未払残業代、主要取引先との契約 |
| 中規模(従業員数十人、複数拠点) | 財務・税務・労務を専門家に依頼し、法務は契約・許認可を中心に | 正常な収益力、運転資本、チェンジ・オブ・コントロール条項、労務 |
| 許認可業種・規制業種 | 上記に加え、許認可と行政の指導・処分の履歴を重点的に | 許認可の承継の可否、法令違反の有無 |
| 不動産を多く持つ会社 | 不動産の権利関係、評価、環境 | 名義、担保、賃貸借の条件 |
中小PMIガイドラインは、コスト等の観点からDDを依頼しない場合でも、DD報告書の作成を不要とするなどの簡易な調査を依頼し、可能な限り各領域の課題やリスクを把握しておくことが望ましいとしています。分野ごとの詳しい内容はDDの種類・範囲・費用をご覧ください。
買い手のためのDDチェックリスト(8分野)
1. ビジネス
- 売上の内訳(取引先別・商品別・地域別)と、上位取引先への集中度
- 主要取引先との関係が、社長個人の関係に依存していないか
- 価格決定力、仕入先の代替性、競合の状況
- 事業計画の前提(受注残、単価、人員)が実績と整合しているか
- キーパーソン(番頭格の社員、技術者)が残る見込みがあるか
2. 財務
- 正常な収益力:役員報酬、私的な経費、一時的な損益を調整した利益(正常収益力の調整)
- 純資産の実態:売掛金の回収可能性、在庫の評価、固定資産の含み損益、貸倒引当金の不足
- 運転資本:売掛金・在庫・買掛金の水準と季節変動(運転資本の調整)
- 純有利子負債:借入金、リース債務、未払税金、預り金、役員借入金(純有利子負債と現預金同等物)
- 簿外債務:未計上の退職給付債務、保証債務、未払残業代
- 月次試算表と決算書の整合、決算の締めの早さ
3. 税務
- 法人税・消費税・源泉所得税の申告と納付の状況、過去の税務調査の指摘
- 役員給与(定期同額、事前確定届出)、役員退職金の支給の経緯
- 同族関係者との取引(社長への貸付、社宅、不動産の賃貸借)の価格
- 繰越欠損金の額と、買収後に使えるかどうか
- 消費税の課税区分、インボイスの対応
4. 法務
- 株主名簿と実際の株主の一致、名義株、株券発行会社なら株券の有無
- 株主総会・取締役会の議事録の整備、役員の任期と登記
- 主要な契約のチェンジ・オブ・コントロール条項、競業避止、独占条項
- 許認可の種類と承継の可否、行政の指導・処分の履歴
- 係争中の訴訟、クレーム、知的財産権の帰属
5. 労務
- 就業規則・賃金規程・退職金規程と、実際の運用の一致
- 36協定の締結・届出、出勤簿と給与計算から見た未払残業代の有無
- 社会保険・労働保険の加入漏れ、管理監督者の扱い
- 有給休暇の未消化、退職予定者、労働紛争
未払残業代の見方は労務DDと未払残業代で詳しく解説しています。
6. 不動産・環境
- 事業用の土地・建物の名義(社長個人名義のものがないか)、担保の設定
- 賃借している拠点の賃貸借契約の期間、解約予告、原状回復の条件
- 土壌汚染、アスベスト、法令上の制限
7. IT・個人情報
- 会計・販売のシステムと、買収後の統合のしやすさ
- ソフトウェアのライセンス違反、個人情報の管理体制
- 中小PMIガイドラインは、ITシステム分野の取組として、ライセンス等違反の抑止、情報セキュリティ対策、ITシステム管理方針の明確化を挙げている
8. 経営者・関連当事者との取引
- 社長への貸付金・社長からの借入金、仮払金
- 社長や親族の会社との取引の条件
- 会社の借入に付いている経営者保証と担保。買収後に誰が引き継ぐか
- 経営者個人の財産で事業に使っているもの、会社の財産で個人が使っているもの
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る見つかった問題の手当て方
DDの目的は、問題を見つけることではなく、見つけた問題を契約と価格にどう反映するかを決めることです。
| 問題の性格 | 例 | 手当ての方法 |
|---|---|---|
| 金額で見積もれる | 未払残業代の概算額、不足している引当金 | 価格から差し引く。純有利子負債に含める |
| 発生するか分からない | 税務調査で否認される可能性、係争中の訴訟 | 特定の事項についての補償(特別補償)、エスクロー(代金の一部の預託)、補償の期間・上限の設定 |
| 売り手が直せる | 議事録の不備、名義株、社長名義の事業用資産、社会保険の加入漏れ | クロージングの前提条件にし、クロージングまでに是正してもらう |
| 取引の前提が崩れる | 主要な許認可が承継できない、粉飾が見つかった | 条件の大幅な見直し、または中止 |
DDで知った問題を、表明保証だけに頼らない
表明保証は、会社の状態が真実かつ正確だという売り手の約束です。ただ、買い手がDDで知っていた問題について、後から表明保証違反を主張できるかは、事案と契約の定め方によって判断が分かれます。
札幌地方裁判所 令和2年12月25日判決(平成29年(ワ)第1617号)では、保険薬局を経営する会社の株式を買った買主が、表明保証違反を理由に約2億5,960万円の補償を求めました。裁判所は、患者の本人負担金の減免について、規則に違反するとしつつも、DDの前に買主が作った確認事項の書面に「自己負担分減免の有無」が記載され、買主の担当者も減免の事実を聞いていたことから、買主が知っていた以上、直ちに表明保証違反とはいえないと判断し、請求を全部棄却しました(裁判所ウェブサイト)。
買い手の側から見ると、DDで見つけた問題は「表明保証があるから大丈夫」と考えず、価格の調整や特別補償として、契約に具体的に書いておくことが大切だということです。判決の詳細と、売主に約3億円の支払が命じられた東京地裁平成18年1月17日判決との比較は、売却後のトラブルと判例で解説しています。
DDの費用と、DD後にやめられるか
費用の決まり方
DDの費用について、公的資料で示された相場はありません。費用は、主に次の要素で決まります。
- 範囲:どの分野を、何期分、どの深さで調べるか
- 期間:資料の開示から報告までの日数
- 人数:担当する公認会計士・税理士・弁護士・社会保険労務士などの人数と経験
- 成果物:正式な報告書を作るか、論点メモやヒアリングで済ませるか
- 現地調査:拠点の数、棚卸の立会いの有無
見積りを比べるときは、金額だけでなく、前提となる範囲と成果物をそろえて比べてください。誰が費用を負担するかはDDの費用は誰が払うかで整理しています。
DD後にやめられるか
基本合意書は、独占交渉や秘密保持などを除き、最終契約を結ぶ義務までは負わない形にするのが一般的です。DDで重大な問題が見つかれば、条件の見直しや中止を検討できます。ただし、合理的な理由なく交渉を打ち切ると、相手の信頼を損ない、事案によっては責任を問われることもあります。考え方はDD後にM&Aをやめられるかをご覧ください。
DDの結果は、買収資金とPMIにも使う
DDの報告書は、買収資金を借りるときの金融機関の審査資料にもなります。買収後の事業計画は、DDで確かめた正常な収益力と運転資本を前提に作ると、銀行への説明に説得力が出ます。著書のモデルでは、債務償還年数「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」10年以内を健全の目安としており、DDで見つかった簿外債務や追加の投資は、この数字を悪化させる要因として織り込みます。
中小PMIガイドラインは、M&A成立後にPMIへ円滑に移行するため、企業概要書、DD調査報告書、譲渡側へのQ&Aシートなどの情報をPMI推進チームや支援機関に引き継ぐことを挙げています。また、DDはM&Aプロセス中の限られた期間内に、可能な範囲で集めた資料に基づくもので、必ずしも全ての課題やリスクを把握できるとは限らないとも注意しています。DDで分かったことは、買収後の100日の計画に直結させてください。
まとめ
- DDの目的は、買うかどうかの判断、価格・契約条件の調整、PMIの準備
- 確認するのは ビジネス・財務・税務・法務・労務・不動産・IT・経営者との取引 の8分野。規模に応じて絞るが、財務・税務と労務の要点は外さない
- 費用は範囲・期間・人数・成果物で決まる。見積りは前提をそろえて比べる
- 見つかった問題は、価格・特別補償・前提条件・中止で手当てする。DDで知った問題を表明保証だけに頼らない(札幌地裁令和2年12月25日判決)
- DDの結果は、買収資金の審査とPMIの計画にも使う
クレフティでは事業承継・M&A支援として、買い手側の財務・税務DD、DDで見つかった論点の価格・契約への反映の検討、買収資金の調達支援をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
