デューデリジェンス

DDの費用は誰が負担するか|費用の決まり方、破談になった場合、売り手・買い手の双方がDDをするのはどんな案件か

M&Aを検討するとき、仲介会社やFA(フィナンシャル・アドバイザー)への手数料と並んで気になるのが、DD(デューデリジェンス)の費用です。「誰が払うのか」「いくらかかるのか」「途中でやめたらどうなるのか」。DDの費用は、M&Aを進めるかどうかの判断にも影響します。

この記事では、DDの費用の負担の原則、費用の決まり方、M&Aが成立しなかった場合の扱い、補助金の対象になる場合、そして売り手・買い手の双方がDDを行うのはどんな案件かを整理します。DDを行うべきかどうかはDDは行うべきかで解説しています。

この記事の結論
  • DDの費用は、調査を依頼した側が負担するのが原則。買い手のDDは買い手、売り手のセラーズDDは売り手
  • 費用の相場を示す公的な資料はない。範囲・対象期間・会社の規模・人数と日数・報告書の詳しさで決まる
  • M&Aが成立しなくても、DDの費用は通常戻らない。費用の扱いは基本合意書で決めておく
  • 事業承継・M&A補助金(専門家活用枠)では、DD費用が補助対象になり、買い手支援類型ではDDの実施が要件
  • 売り手もDDを行う(セラーズDD)のは、入札で複数の買い手と交渉する案件や、事業・グループが複雑な案件が中心

誰が負担するのか:原則は「依頼した側」

費用負担する人内容
買い手のDD買い手買い手が公認会計士・税理士・弁護士などに依頼する調査
セラーズDD(売り手側DD)売り手売り手が売却前に自社を調べる調査
DDへの対応売り手資料の準備、質問への回答、顧問税理士・社内の対応
仲介・FAの報酬契約によるDDの費用とは別。成功報酬などの体系はM&A仲介の手数料(レーマン方式)を参照

中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」も、DDは主に譲り受け側が、FAや士業等専門家を活用して調査する工程であり、通常は譲り受け側が専門家に調査の実施を依頼すると説明しています。どの調査を行うかも、譲り受け側の意向に従います。

見落とされやすいのが、売り手側にも費用と手間がかかることです。DDでは、数年分の決算書・申告書・契約書・給与台帳などの提出と、多くの質問への回答が求められます。ガイドラインも、顧問税理士は顧問先のDDについて、資料の提供や過去の会計・税務処理に関するインタビューなどに積極的に協力することが望ましいとしています。顧問税理士の対応が通常の顧問業務の範囲を超えれば、別途の費用がかかることもあります。

費用はどう決まるのか

DDの費用は、弁護士や公認会計士の作業時間に基づいて見積もられることが多く、次の要素で大きく変わります。

要素費用への影響
調査の種類財務だけか、税務・法務・労務・不動産・ITまで行うか
対象とする期間直近3期か5期か。税務は更正の期間制限(原則5年)も意識する
会社の規模と構造拠点数、子会社・関係会社の数、取引の複雑さ
資料の整い方資料がそろっていれば短く、なければ作業が増える
人数と日数現地調査の有無、インタビューの回数
報告書の形式重要な発見事項だけの簡易な報告か、詳細な報告書か

中小M&Aガイドラインは、財務DDの調査範囲や調査手法は、譲り受け側がどのような譲渡スキームを前提に、どの程度のリスクを容認できるのか、財務DDにどの程度の時間やコストを掛けられるのかによって異なるとしています。たとえば、株式譲渡を前提とする場合は、簿外債務・偶発債務も含めた全般的な調査を要することが多いと述べています。そのため、依頼者と公認会計士が事前に調査範囲と調査手法について合意したうえで決めることになります(合意された手続)。

見積もりを比べるときは、金額だけでなく、何を調べ、何を調べないのかを確認してください。安い見積もりが、重要な項目を範囲から外した結果ということもあります。

見積もりを依頼するときに伝えること

専門家に正確な見積もりを出してもらうには、次の情報を最初に伝えるのが効果的です。

  1. 予定しているスキーム:株式譲渡か、事業譲渡か。株式譲渡なら会社の過去のリスクを広く見る必要がある
  2. 対象会社の概要:売上規模、従業員数、拠点・子会社の数、不動産の有無
  3. 特に気になっている点:残業代、過去の税務調査、主要取引先との契約、許認可など
  4. スケジュール:最終契約までの期間。短期間で行うほど人数が必要になる
  5. 報告の形:重要な発見事項の一覧でよいか、銀行や社内の決裁に使える詳細な報告書が必要か

DDの費用は、見つかったリスクの大きさと比べて考えるのが本来の姿です。たとえば、過去数年分の未払残業代や、申告の誤りによる追徴税額と加算税は、DDの費用を大きく上回ることがあります。

M&Aが成立しなかったら、費用はどうなるか

DDの結果を見てM&Aをやめることは、基本合意書に法的拘束力がない限り可能です。しかし、DDの費用は、M&Aが成立するかどうかにかかわらず、依頼した専門家の作業に対して発生します。通常は依頼した側が負担し、戻ってはきません。

そのため、基本合意書を結ぶときに、次の点を確認しておくことが大切です。

  • DD費用を各自が負担するのか、一定の場合に相手方に請求できるのか
  • 独占交渉の期間と、交渉を終了できる場合
  • 交渉が終了した場合の資料の返還・破棄と秘密保持

ガイドラインは、基本合意書は基本的に法的拘束力がないものの、独占的交渉権や秘密保持義務については法的拘束力を認めることが通常だとしています。独占交渉の条項をめぐっては、最高裁第三小法廷平成16年8月30日決定(平成16年(許)第19号)が、条項違反による損害は最終的な合意が成立するとの期待の侵害にとどまるなどとして、相手方の第三者との協議の差止めを認めませんでした(裁判所ウェブサイト)。費用やペナルティを相手に求めたい場合は、条項で明確に決めておくしかない、ということです。詳しくはDDの結果を見てM&Aをやめられるかで扱います。

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補助金でDD費用が対象になる場合

中小企業庁の事業承継・M&A補助金(専門家活用枠)では、DD費用が補助の対象になります。16次公募(申請受付は2026年10月2日〜11月6日)の公募要領では、次のように定められています。

項目16次公募の公募要領の内容
補助率買い手支援類型は補助対象経費の2/3以内。売り手支援類型は1/2または2/3以内(要件による)
補助上限額600万円。DDを行う場合は200万円を加算
買い手支援類型の要件補助対象経費に計上するかどうかを問わず、DDを実施すること
引継ぎが実現しなかった場合補助上限額を変更したうえで、買い手支援類型では原則としてDD費用のみを補助対象経費として認める

補助金は、交付決定を受けた後に専門家と契約する必要があるなど、手続の順番が決まっています。公募回ごとに内容が変わるため、申請前に最新の公募要領を確認してください。制度全体は事業承継・M&Aの補助金と公的支援で紹介しています。

売り手・買い手の双方がDDをするのは、どんな案件か

売り手が自ら行うDDをセラーズDD(ベンダーDD)といいます。売り手がセラーズDDを行う目的は、次のとおりです。

  • 売却前に問題を見つけ、是正するか、説明の準備をする
  • 複数の買い手候補に、同じ品質の情報をまとめて提供する
  • 価格交渉や、表明保証・補償の範囲の交渉で主導権を持つ

規模の線引きに公的な基準はありませんが、セラーズDDが向いているのは、次のような案件です。

セラーズDDが向いている案件理由
入札で複数の買い手候補と交渉する買い手ごとのDDの負担を減らし、比較しやすくする
子会社・関係会社が多い、過去に組織再編をしている税務・法務の論点が多く、事前整理の効果が大きい
不動産や許認可が事業の中心売却前の是正に時間がかかる
売却額が大きく、表明保証の範囲が重要交渉の前提を売り手側で固めておける

一方、買い手候補が1社に絞られている小規模な案件では、セラーズDDまでは行わず、顧問税理士と一緒に申告書や契約を自己点検するだけでも効果があります。中小M&Aガイドラインも、DDの調査が十分でない場合には、売り手が負う表明保証の範囲や補償額・補償期間などの負担が増えうると指摘しています。自己点検で問題を減らしておくことは、売り手にとっても費用以上の意味があります。

費用を抑える工夫と、税務の扱い

DDの費用を抑えるには、作業時間を減らすことが近道です。

  1. 資料を早く、まとめてそろえる:決算書・申告書・内訳書・契約書・議事録・給与台帳を一覧にして提出する
  2. 範囲を重要な項目に絞る:調べない項目は、表明保証などの契約条件で手当てする
  3. 質問に答える担当者を決める:回答の遅れは、日数と費用に直結する

買い手の会社が負担したDD費用の税務上の扱いにも注意が必要です。株式を取得するために要した費用は、株式の取得価額に含めるかどうかの判断が必要になります(法人税法施行令119条)。DDの時期や内容によって判断が分かれることがあるので、顧問税理士と確認してください。また、買収資金を借り入れる場合は、DD費用を含めた資金計画を銀行に示しておくと、融資の相談がスムーズです(M&Aの買収資金を融資で調達するには)。

まとめ

  • DDの費用は、調査を依頼した側が負担するのが原則。売り手にも資料準備などの負担がある
  • 費用の相場を示す公的な資料はない。範囲・期間・規模・人数と日数・報告書で決まるので、何を調べ、何を調べないかを確認する
  • M&Aが成立しなくても費用は通常戻らない。費用の扱いと交渉の終了の条件は基本合意書で決めておく
  • 事業承継・M&A補助金では、DD費用が補助対象になり、DDを行う場合は補助上限額が加算される
  • 売り手もDDを行うのは、入札や複雑な案件が中心。小規模なら顧問税理士との自己点検でも効果がある

クレフティでは、案件の規模とリスクに合わせて範囲を絞った財務・税務DD、売却前の自己点検(セラーズDD)のお手伝いをしています。初回のご相談は無料で、担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士が対応します。詳しくは事業承継・M&A支援をご覧ください。

よくある質問

DDの費用は、売り手と買い手のどちらが払うのですか?
買い手が専門家に依頼して行うDDは、買い手が負担するのが原則です。売り手が自分の会社を事前に調べるセラーズDD(売り手側DD)を行う場合は、売り手が負担します。また、DDに対応するための資料準備や、顧問税理士への対応依頼にかかる費用は、売り手側で発生します。特別な取り決めをする場合は、基本合意書などで定めておきます。
DDの費用の相場はいくらですか?
公的な資料で示された相場はなく、調査の範囲(財務・税務・法務・労務など)、対象とする期間、会社の規模や拠点数、関与する専門家の人数と日数、報告書の詳しさで決まります。中小M&Aガイドラインも、財務DDの調査範囲や手法は、依頼者がどの程度のリスクを許容し、どの程度の時間やコストを掛けられるかによって異なるとしています。見積もりを取るときは、範囲と手続を具体的に示してもらうことが大切です。
DDをした後でM&Aが成立しなかったら、費用は戻ってきますか?
通常は戻りません。DDは成立するかどうかにかかわらず、依頼した専門家の作業に対して費用が発生します。なお、事業承継・M&A補助金(専門家活用枠)の16次公募の公募要領では、補助事業期間内に経営資源の引継ぎが実現しなかった場合でも、買い手支援類型では原則としてDD費用を補助対象経費として認めるとしています(補助上限額は変更されます)。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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