デューデリジェンス

DD(デューデリジェンス)の注意点|売り手が準備すること・買い手が見落としやすいこと

DD(デューデリジェンス)は、買い手が売り手の会社を調べる手続きです。ただ、うまく進むかどうかは、売り手の準備と買い手の目の付けどころの両方で決まります。売り手の資料がそろわずに時間切れになる、買い手が大事な論点を見落として買収後に問題が噴き出す、といったケースは珍しくありません。

この記事では、中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」の記載と、表明保証違反が争われた東京地方裁判所の判決をもとに、DDで売り手が準備すること、買い手が見落としやすいこと、DDの結果を価格と契約に反映する方法を整理します。DDの種類と費用の全体像はDDの種類と範囲・費用の考え方をご覧ください。

この記事の結論
  • 売り手は、資料を早く・正確に出すことが最大の準備。会社と経営者個人の財産は最終契約の前に整理しておく
  • 社内に売却を伝えていない場合は、非開示の役員・従業員に悟られない工夫が必要。専門家の指示を守る
  • 不利な事実は先に開示して価格や補償で調整する。秘匿は表明保証違反として大きな責任につながる(東京地裁平成18年1月17日判決)
  • 買い手が見落としやすいのは、未払残業代、名義株と株式の履歴、契約の承継(チェンジオブコントロール)、許認可、源泉所得税・消費税、経営者個人への依存
  • 見つかった問題は、価格調整・特別補償・前提条件・クロージング前の是正で契約に反映する

売り手が準備すること①:資料をそろえる

DDの期間の多くは、資料の依頼と提出、質疑応答に使われます。資料の提出が遅れると、期間が延びて専門家の費用が増えるだけでなく、「何か隠しているのでは」という不信感にもつながります。一般的に求められる資料は次のとおりです。

分野主な資料
会社・株式定款、登記事項証明書、株主名簿、株式の移動の記録(贈与・相続・売買の契約書)、株主総会・取締役会の議事録
財務・税務決算書・税務申告書(数期分)、総勘定元帳、試算表、固定資産台帳、借入金の一覧と契約書、税務調査の記録
契約主要な取引先との契約書、賃貸借契約、リース契約、業務委託契約、フランチャイズ・代理店契約
人事労務就業規則、賃金規程、退職金規程、賃金台帳、勤怠記録、36協定、社会保険の加入状況、労働トラブルの記録
許認可・不動産許認可証、行政の指導記録、不動産の登記事項証明書、図面、検査済証
その他訴訟・クレームの一覧、保証・担保の一覧、保険契約、ITシステムの一覧

ガイドラインは、会社と経営者個人の財産が明確に分かれていない場合の整理にも触れています。たとえば、経営者個人名義の土地を会社が事業に使っている場合は買い手への売却や引継ぎを、会社の資産だが経営者個人が使っている自家用車などは会社から経営者個人への売却を検討します。これを最終契約の後に回すと、合意内容が大きく変わって争いになるリスクがあるため、可能な限り最終契約の前に整理することが望ましいとされています。役員貸付金・役員借入金の整理も同じ考え方です(役員借入金の解消方法、役員貸付金の解消方法参照)。

売り手が準備すること②:情報管理と開示の姿勢

社内に知られずに進める工夫

ガイドラインは、売り手が社内(役員・従業員)にM&Aを開示していない場合、非開示の役員・従業員に悟られずに実施する等の工夫が必要で、売り手・買い手ともにFAや士業等専門家の指示を守ることが重要だとしています。具体的には、資料のやり取りをオンラインのデータルームで行う、現地調査を休日や時間外に設定する、専門家の来社理由を決めておく、といった工夫です。従業員への伝え方は従業員・取引先・銀行に売却をどう伝えるかで解説しています。

不利な事実は先に出す

DDで最も避けたいのは、売り手が問題を知りながら黙っていて、クロージング後に発覚するパターンです。最終契約では、売り手が会社の財務や法令順守の状態について表明保証をするのが通常で、事実と違えば補償を求められます。

東京地方裁判所平成18年1月17日判決(平成16年(ワ)第8241号)は、株式の売主側が対象会社の不適切な会計処理を秘匿していた事案で、表明保証違反を認め、売主側に約3億0,529万円の支払を命じました。判決は、買主が重大な過失で違反を知らなかった場合に売主が責任を免れる余地を認めつつ、DDは買主の権利であって義務ではないと述べ、買主の重過失を否定しています。「DDで見つけられなかった買い手が悪い」という言い分は通りにくい、ということです。詳しくは株式譲渡契約の要点と表明保証違反の判例をご覧ください。

判決の確認先

東京地方裁判所 平成18年1月17日判決・平成16年(ワ)第8241号 損害賠償等請求事件。裁判所ウェブサイト(裁判例情報)

問題を先に開示すれば、価格に織り込む、特別補償の対象を限定する、といった交渉ができます。ガイドラインも、DDが十分に行われないと、売り手が負う表明保証の範囲や補償額・補償期間の負担の増加につながりうるとしています。売り手にとってDDは、責任の範囲を明確にする機会でもあります。

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買い手が見落としやすいこと

中小企業は、帳簿に表れない負債や、経営者個人に依存した事業の前提を抱えていることがあります。ガイドラインも、中小企業は一見問題がなくても何らかの課題・リスクを抱えていることが少なくなく、経営者自身が認識していないケースもあると注意しています。見落としやすい論点を表にまとめます。

論点見落としやすい理由確認の方法
未払残業代決算書に載らない。固定残業代の運用が不適切なことも多い勤怠記録と賃金台帳の突合、管理監督者の範囲の確認
名義株・株式の履歴古い株式の移動に契約書がない。株主名簿が実態と違う設立時からの株主の変遷、払込みの記録、贈与税の申告
契約の承継賃貸借や取引基本契約に、支配権が変わると解除できる条項(チェンジオブコントロール)がある重要契約の条項確認、相手方の承諾の要否
許認可株式譲渡ならそのまま残るが、事業譲渡では取り直しが必要なものが多い業法ごとの承継の可否、役員要件・専任者要件
源泉所得税・消費税役員への経済的利益、外注の源泉漏れ、消費税の区分誤り税務DDで過去の申告と元帳を確認
保証・簿外債務会社が他社や経営者の親族の借入を保証している保証の一覧、金融機関の残高証明、議事録
売掛金・在庫の実在性回収不能の売掛金や不良在庫が資産に残っている年齢調べ、実地棚卸への立会い
経営者個人への依存取引先・金融機関・技術が社長個人に結びついている取引先別の売上と担当者、引継ぎ期間の設定

特に、株式譲渡では法人格がそのまま残るため、こうした簿外債務・偶発債務を全部引き継ぎます。ガイドラインも、株式譲渡は事業譲渡に比べてより詳細なDDが実施される傾向があるとしています。スキームの違いは事業譲渡と株式譲渡の違いで整理しています。

DDの進め方で注意すること

期間を区切り、質疑を記録する

DDの期間は案件によりますが、だらだらと延ばすと双方の負担が増えます。依頼した資料、回答、追加の質問は一覧表で管理し、口頭の回答も記録に残すことが大切です。後で表明保証の範囲を議論するときに、「何を開示したか」が争点になるからです。

最終契約からクロージングまでを空けすぎない

ガイドラインは、最終契約からクロージングまでに特段の事情なく2か月以上などの一定期間を設けると、業績の変化やDDで把握した内容からの変化によって、契約の修正や不履行が生じるリスクがあると指摘しています。DDで見つかった問題の是正にかかる期間を見込んだうえで、必要以上に空けないように日程を組みます。

経営者保証の扱いを早めに確認する

ガイドラインは、経営者保証の解除・移行について、金融機関への事前相談も考えられるとし、その際は相談先と秘密保持契約を結び、仲介契約・FA契約や買い手との契約の秘密保持条項から相談先を除外しておく必要があるとしています。買い手は、売り手からこの相談の申し出があれば拒むべきでないとされています。実務は事業承継と経営者保証をご覧ください。

DDの結果を価格と契約に反映する

DDで問題が見つかったときの反映方法は、主に次の4つです。

反映方法向いている問題例
価格の調整金額が見積もれる問題不良在庫・回収不能の売掛金、未払残業代の見込額を株価から差し引く
特別補償発生するか不確実だが、起きたら大きい問題税務調査で追徴された場合の補償、係争中の訴訟の補償
クロージングの前提条件取引の前に解決すべき問題賃貸人の承諾取得、経営者保証の解除の目途、許認可の手当て
クロージング前の是正売り手が自ら直せる問題未払残業代の精算、名義株の整理、役員貸付金の回収

表明保証の範囲は、ガイドラインの言うとおり、DDの結果を踏まえて、問題が顕在化する可能性や影響の大きさ、価格に織り込まれているかを双方で擦り合わせて決めるのが基本です。定型的に無期限・無制限の表明保証を入れることは慎重に検討すべきとされています。

税務と銀行の目線

  • 税務:売り手がクロージング前に役員貸付金の回収や不要資産の売却をすると、会社側・個人側で課税が生じることがあります。退職金を払う場合は、支給の時期と、売却後に会社に残るかどうかで扱いが変わります(役員退職金が否認されるケース参照)
  • 銀行:買い手が融資を受ける場合、DDで把握した正常収益力と借入の状況が審査の土台になります。著書のモデルでは、債務償還年数「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」が10年以内を健全の目安としており、DDで利益の下方修正や簿外の負債が見つかれば、借りられる額が変わります(M&A・買収資金の融資参照)

まとめ

  • 売り手の最大の準備は、資料を早く・正確に出すこと。会社と個人の財産は最終契約の前に整理する
  • 社内に知られずに進める工夫と、不利な事実の先出しが売り手を守る(東京地裁平成18年1月17日判決:DDは買主の権利であって義務ではない)
  • 買い手は、未払残業代・名義株・契約の承継・許認可・源泉と消費税・保証・経営者個人への依存を重点的に確認する
  • 最終契約からクロージングまでを空けすぎない。経営者保証は秘密保持に注意して早めに相談する
  • 見つかった問題は、価格調整・特別補償・前提条件・是正で契約に反映する

DDの結果を見て撤退できるかはDDの結果を見てM&Aをやめられるか、よく見つかる問題の価格への反映はDDでよく見つかる問題と価格への反映をご覧ください。M&Aの準備全体は売る前の磨き上げでも解説しています。

クレフティでは事業承継・M&A支援として、売り手側の事前の財務・税務チェック、買い手側の財務・税務デューデリジェンス、株価算定をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士が対応します。

よくある質問

売り手は、DDの前に何を準備しておけばよいですか?
決算書・税務申告書の数期分、総勘定元帳、株主名簿と株式の移動の記録、重要な契約書、許認可、就業規則・賃金台帳・勤怠記録、不動産の登記と賃貸借契約、借入と保証の一覧などを、早めにそろえておくことです。資料の提出が遅れるほどDDの期間と費用が増え、買い手の不安も大きくなります。会社と経営者個人の財産が混ざっている場合は、最終契約の前に整理しておくことが望ましいとされています。
不利な情報は、DDで聞かれなければ黙っていてもよいですか?
おすすめしません。最終契約では、売り手が会社の状態について表明保証をするのが通常で、事実と違えば補償を求められます。東京地裁平成18年1月17日判決は、売り手側が不適切な会計処理を秘匿していた事案で、DDは買主の権利であって義務ではないとして買主の重過失を否定し、約3億円の支払を命じました。問題は先に開示し、価格や補償の範囲で調整するほうが、結果として売り手を守ります。
DDで問題が見つかったら、M&Aは中止になりますか?
必ずしも中止にはなりません。多くの場合、価格の引下げ、特定の問題についての特別補償、クロージング前の是正(未払残業代の精算、契約相手の承諾取得など)、クロージングの前提条件の追加といった形で、最終契約に反映して進めます。ただし、許認可が引き継げない、主要取引先が離れるといった事業の前提が崩れる問題なら、撤退を検討することになります。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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