M&Aで買い手が「この会社を本当に買ってよいか」を確かめる調査が、DD(デューデリジェンス)です。ただ、ひと口にDDといっても、財務・税務・法務・労務・IT・不動産・環境と種類は多く、全部を本格的に行えば時間も費用もかかります。オーナー経営者や買い手の社長から多いのは、「うちの規模なら、どこまでやればいいのか」「費用はどう決まるのか」という質問です。
この記事では、中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」と、事業承継・M&A補助金(16次公募)の公募要領をもとに、DDの種類と調べる内容、規模別の範囲の決め方、費用が決まる仕組み、税務上の扱い、銀行からの見え方を整理します。
- DDは主に買い手が、FAや士業等専門家を使って、売り手の財務・法務・税務・事業などの実態を調べる工程。仲介者はDDを自ら実施すべきでないとされている
- 種類は、財務・税務・法務・人事労務・ビジネス・IT・不動産・環境・知財など。何を調べるかは買い手の意向で決まる
- 規模が小さい案件では、税務申告書の確認と経営者へのヒアリングで終えることもあるが、ガイドラインは予算があっても対象を絞って実施を検討することを勧めている
- 費用の公的な相場はない。範囲(種類×論点)・期間・人数でおおむね決まる
- 事業承継・M&A補助金(16次公募)では、DDを行う場合に補助上限が200万円上乗せされ、DD費用は補助額ベースで200万円以内が原則
DDとは何か:誰が、何のために行うのか
中小M&Aガイドラインは、DDを「主に譲り受け側が、譲り渡し側の財務・法務・ビジネス(事業)・税務等の実態について、FAや士業等専門家を活用して調査する工程」と説明しています。目的として挙げられているのは、譲渡対価の金額の精査と、判明した実態を踏まえて事業の改善を行うことなどです。
ガイドラインが強調しているのは、DDが買い手のためだけの手続きではないという点です。
- 買い手は、客観的な資料にもとづいて「そもそもM&Aを実行すべきか」を判断し、価格・表明保証・補償などの条件を調整できる。買収後の統合(PMI)に役立つ情報も得られる
- 売り手は、DDが十分に行われないと、最終契約で負う表明保証の範囲や補償額・補償期間が重くなりうる
また、両当事者の間に立つ仲介者は、DDを自ら実施すべきでなく、DD報告書の結論を決めるべきでないとされています(資料の整理やスケジュール管理といった、調査の判断に影響しない範囲の支援は可)。DDは一方当事者の意向が反映されやすいためです。仲介とFAの違いはM&A仲介とFAの違いで整理しています。
DDの種類と、それぞれで調べること
ガイドラインは、DDは一般に財務DDと法務DDなどから構成され、そのほかにビジネス(事業)DD、税務DD(財務DDに一部含まれることがある)、人事労務DD(法務DDに一部含まれることがある)、知的財産DD、環境DD、不動産DD、IT DDといった多様なDDがあると説明しています。主な中身と担い手を表にまとめます。
| 種類 | 主に調べること | 主な担い手 |
|---|---|---|
| 財務DD | 正常収益力(正常EBITDA)、実態純資産、運転資本、借入・簿外債務、資金繰り | 公認会計士 |
| 税務DD | 過去の申告の誤り、源泉所得税・消費税、役員給与・交際費、組織再編の履歴 | 税理士 |
| 法務DD | 株主と株式の履歴、重要な契約(チェンジオブコントロール条項)、許認可、訴訟 | 弁護士 |
| 人事労務DD | 未払残業代、労働時間管理、社会保険の加入、退職金制度、キーパーソン | 社会保険労務士・弁護士 |
| ビジネスDD | 市場と競合、取引先の集中、事業計画の実現性、シナジー | 買い手自身・コンサルタント |
| IT DD | 基幹システム、ライセンス、情報セキュリティ、個人情報の管理 | ITの専門家 |
| 不動産DD | 権利関係、境界、遵法性、土壌・アスベスト、賃貸借の条件 | 不動産鑑定士・司法書士・建築士など |
| 環境DD | 土壌汚染、廃棄物、排水などの法令順守と浄化費用 | 環境調査会社 |
| 知的財産DD | 商標・特許の名義と有効性、ライセンス契約 | 弁理士・弁護士 |
個別の論点は、財務DD、税務DD、法務DD、労務DDと未払残業代、不動産DDの各記事で詳しく解説しています。
規模別に、どこまで行うか
ガイドラインの考え方
ガイドラインは、DDは想定しうるリスク全般を調べることもあれば、対象事項を限定して簡易に行うこともあり、調査の密度は様々だとしています。そのうえで、中小M&Aの実務では、買い手が専門家費用をかけた本格的なDDを行わず、売り手の数年分の税務申告書の確認と経営者へのヒアリングだけで終えることもあると紹介しています。
一方でガイドラインは、中小企業は一見問題がなくても何らかの課題・リスクを抱えていることが少なくなく、経営者自身が気づいていないこともあるため、経営者からのヒアリングだけでリスクを評価するには限界があるとも述べています。結論として、予算などの制約がある場合でも、検討対象を絞るなどの工夫をして実施する調査を検討することが望ましいとしています。
範囲を決める3つの軸
規模で一律に決まるものではありませんが、実務では次の3つの軸で範囲を決めていきます。
- 価格への影響:正常収益力と純資産のずれは、価格に直結する。財務DDは規模が小さくても優先度が高い
- 致命傷になるか:許認可が引き継げない、主要取引先との契約が解除される、多額の未払残業代がある、といった論点は、金額が小さい案件でも確認する
- スキーム:ガイドラインは、株式譲渡は法人格がそのまま残るため簿外債務・偶発債務のリスクが比較的高く、より詳細なDDが実施される傾向があるとしています。事業譲渡は引き継ぐ財産を選べるため、リスクを遮断しやすい
これを規模の目安に当てはめると、次のような考え方になります(あくまで考え方の例で、案件ごとに異なります)。
| 案件のイメージ | 中心になる調査 | 追加を検討する調査 |
|---|---|---|
| 小規模(従業員数名、店舗・事務所が1か所) | 税務申告書・決算書の数期分の確認、経営者ヒアリング、重要な契約と許認可の確認 | 未払残業代の簡易チェック、賃貸借契約の承継可否 |
| 中規模(従業員数十名、複数拠点) | 財務DD・税務DD・法務DD・労務DDを有資格者が実施 | 不動産DD、IT DD |
| 比較的大きい(子会社や工場がある、借入が大きい) | 上記に加えビジネスDD、不動産DD | 環境DD、IT DD、知財DD |
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見るDDの費用はどう決まるか
公的な「相場」はない
DDの費用について、公的な統計として示された相場はありません。インターネット上には「○○万円から」といった金額も見かけますが、前提となる範囲がそれぞれ違うため、比べても意味がないことが多いのが実情です。
費用は、おおむね次の掛け算で決まります。
同じ年商でも、次のような事情があると期間と人数が増え、費用は上がります。
- 子会社やグループ会社がある、拠点が多い
- 試算表や契約書が整っておらず、資料の提出と質疑に時間がかかる
- 現金売上が多い、在庫が多い、役員との取引が多いなど、確認の手間がかかる論点がある
- 報告書を金融機関や保険会社(表明保証保険)に提出する前提で、正式な形式が必要になる
逆に、調べる論点をあらかじめ絞り込み、売り手が資料を早く出せれば、費用は抑えられます。見積もりを取るときは「どの種類を、どの論点まで、何日で、何人で」行う前提かを確認し、複数の見積もりを同じ条件で比べることが大切です。
補助金から見えるDD費用の上限
公的な数字として参考になるのが、中小企業庁の事業承継・M&A補助金(専門家活用枠)です。16次公募(申請受付は2026年10月2日〜11月6日17時)の公募要領では、次のとおり定められています。
| 項目 | 内容(16次公募・専門家活用枠) |
|---|---|
| 補助率 | 買い手支援類型:補助対象経費の2/3以内。売り手支援類型:1/2または2/3以内(営業利益率の低下・赤字などの要件で2/3) |
| 補助上限額 | 600万円。DDを実施する場合は200万円を上乗せ |
| DD費用の扱い | 補助額ベースで200万円以内。有資格者が行う財務・税務・法務DDなどを複数行う場合は、DD1種につき補助額ベースで200万円まで認める場合がある |
| 過大な費用 | 対象業務や会社規模に比べて明らかに過大な場合、事務局が内訳の説明を求め、減額することがある |
| 買い手支援類型の要件 | 補助対象経費に計上するかどうかを問わず、DDの実施が必要 |
補助額ベースで200万円は、補助率2/3であれば対象経費300万円に相当する計算です。これは相場ではなく補助の上限ですが、「DD1種あたりこのくらいまでなら過大とはみなされにくい」という1つの目安として、見積もりの妥当性を考える材料になります。補助金の全体像は事業承継・M&Aの補助金と公的支援をご覧ください。
DDの費用は誰が負担するか、税務上どう扱うか
原則は、調べたい側が負担する
買い手が行うDDの費用は、原則として買い手が負担します。売り手が売却前に自社の問題点を把握するために行う調査(セラーズDD)は、売り手の負担です。誰がどの規模から双方のDDを行うかはDDの費用は誰が負担するかで詳しく扱います。なお、ガイドラインは売り手に対しても、仲介者に払う手数料のほか、DDなどで活用する他の支援機関への支払いも意識する必要があると注意しています。
買い手法人の税務:取得価額に入るかどうか
買い手の法人が株式を購入した場合、その取得価額は「購入の代価(購入手数料その他その有価証券の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)」とされています(法人税法施行令119条1項1号)。DD費用が「購入のために要した費用」に当たれば、株式の取得価額に含まれ、株式を売却するまで損金になりません。
一方で、買収するかどうかを決める前の調査費用まで取得価額に含めるべきかは、意思決定の時期や費用の性質によって判断が分かれます。契約書・請求書の書き方も含め、実行前に税理士と確認してください。事業譲渡で事業を譲り受ける場合も、資産の取得価額や資産調整勘定との関係が問題になります(のれんを損金にできるスキーム参照)。
銀行の目線:DDの結果は融資の審査資料になる
買い手が買収資金を借りる場合、金融機関は対象会社の決算書だけでなく、買収後に返済できるかを見ます。DDで把握した正常収益力、借入や簿外債務、運転資金の必要額は、そのまま融資の審査資料になります。
著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」で計算し、10年以内を健全の目安としています。DDで利益の水増しや簿外の負債が見つかれば、この年数は一気に悪化します。クレフティが支援した専門職(年商5,000万円)の9,000万円のM&Aでは、政府系金融機関と地方銀行の協調融資で、買収資金と統合後の運転資金を調達しました。融資を前提とする案件ほど、DDの結果を数字で説明できることが重要です。買収資金の融資はM&A・買収資金の融資で整理しています。
まとめ
- DDは主に買い手が専門家を使って行う調査。仲介者は自ら実施すべきでない
- 種類は財務・税務・法務・人事労務・ビジネス・IT・不動産・環境・知財など。何を調べるかは買い手が決める
- 小規模案件では申告書の確認とヒアリングで終えることもあるが、ガイドラインは対象を絞ってでも実施を検討することを勧めている
- 範囲は「価格への影響」「致命傷になるか」「スキーム」の3つの軸で決める
- 費用の公的な相場はなく、範囲×期間×人数で決まる。補助金(16次公募)ではDD費用は補助額ベース200万円以内が原則
- 買い手法人では、DD費用が株式の取得価額に含まれるかが論点になる
DDの進め方の注意点はDDの注意点、DDの結果を見て撤退できるかはDDの結果を見てM&Aをやめられるかをご覧ください。クレフティでは事業承継・M&A支援として、財務・税務デューデリジェンス、株価算定、他社の調査報告書のセカンドオピニオンをお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士が対応します。
