日本経済新聞(2026年10月)が、国税庁が検討している非上場株式の相続税評価の新しいルール案に、自民党内から異論が相次いでいると報じました。10月22日の党の会合では、岸田文雄元首相が「企業の稼ぐ力をつけて経済を成長させようとしてきたこれまでの議論とまったく逆の方向」と苦言を呈し、「いったん凍結すべきだ」との意見も出たとされています。
非上場株式の評価は、オーナー経営者の相続税や、子どもへの株式の贈与の税額を直接左右します。この記事では、報道で示された内容を引用しながら、何が議論されているのか、事業承継税制との関係、そして制度の行方が見えない中でオーナー経営者が今準備しておくことを整理します。国税庁の案の中身や、これまでの経緯は非上場株式の評価見直しの最新動向で詳しく解説しています。
- 国税庁は非上場株式を簿価純資産と残余利益(収益力)で評価する新方式を検討し、2028年1月からの適用を目指す。これに対し、自民党の会合で異論が相次ぎ、「凍結」論も出た(日本経済新聞)
- 国税庁の試算では全体の5割超で評価額が下がる一方、資産規模が大きい会社や収益性の高い会社ほど上がり、中堅企業では5〜6倍になる会社もあるとされる
- 年末の2027年度税制改正大綱で、事業承継税制とあわせて「白紙」から検討が進む可能性も出てきた。結論はまだ見えない
- オーナー経営者は、現行ルールでの株価の把握と新方式での概算、事業承継税制の期限の確認を進め、どの結論にも対応できる複数の案を用意しておきたい
報道で示された内容
記事では、次のような内容が紹介されています。
| 項目 | 報道で示された内容 |
|---|---|
| 国税庁の案 | 非上場株式を「簿価純資産」と収益力を示す「残余利益」で評価する方式を検討。会社の規模に応じて2つの方式を併用する今の計算式を統一。2028年1月からの適用を目指す |
| 見直しの背景 | 会計検査院が、今の制度は税負担の公平性や実態とのかい離の点で問題があると指摘。国税庁は、非上場株式を使った税逃れのスキームが広がっているとみている |
| 今の規定との関係 | 国税当局が「著しく不適当」と認めれば評価額を計算し直せる規定(評価通達6項)があるが、納税者が予想できないとして適用に慎重な意見もある。国税庁は評価方法自体の改正が必要との立場 |
| 影響 | 資産規模の大きい会社や収益性の高い会社ほど評価額が増える。廃業や第三者への売却を迫られるリスク、重要な技術が流出する経済安全保障上の懸念も |
| 国税庁の試算(9月) | 調整係数を掛けると非上場企業全体の5割超で評価額が下がる。一方、従業員2,000人以下の中堅企業の中には評価額が5〜6倍になる会社も(経済産業省) |
| 自民党の動き | 10月22日の合同会議で経済同友会・日本商工会議所からヒアリング。「いったん凍結すべきだ」との意見や、相続税・事業承継のあり方の抜本的な議論を求める声。10月21日には議員連盟が「期限・結論ありきとせず十分な検討」を求める決議 |
| 政府の答弁 | 財務相は10月13日の衆院予算委員会で、結論も見直しの方向も決まっていないと答弁 |
| 今後 | 年末の2027年度税制改正大綱の議論で目玉の一つに。事業承継税制とあわせ「白紙」の状態から検討が進む可能性 |
| 海外との比較 | 欧州では会社の規模にかかわらず事業用資産を相続税の対象から一定割合免除。ドイツでは条件に応じて85%または100%を免除 |
出典:日本経済新聞「非上場株の相続評価、自民党に異論 岸田文雄元首相『成長に逆行』」(2026年10月)。数字は同記事が示した各機関のデータによる。
論点を整理する
この議論には、大きく2つの考え方がぶつかっています。
| 立場 | 主な考え方 |
|---|---|
| 見直しを進める側(国税庁・会計検査院の指摘) | 今の評価方法は、会社の規模によって方式が分かれ、実態とかい離している。規模の大きな会社ほど評価額が相対的に低くなるなど、税負担の公平性に問題がある。非上場株式を使った税逃れも広がっている |
| 慎重な検討を求める側(経済団体・与党の一部) | 利益を伸ばし、純資産を厚くするほど承継時の税負担が重くなり、成長投資を抑える。中堅企業では負担が急に増え、廃業や外部への売却につながりかねない。結論ありきで進めるべきではない |
どちらにも一理があります。今の評価方法では、同じような財務内容でも会社の規模の区分によって評価額が大きく違うことがあり、それを利用した対策も行われてきました。一方で、新方式では「稼ぐ力」がそのまま評価額に反映されるため、成長している会社ほど承継のハードルが上がるという指摘も、実務の感覚に合うところがあります。
事業承継税制との関係
今回の報道で注目したいのは、評価方法の見直しが、事業承継税制の見直しとセットで議論される可能性が出てきたことです。
| 項目 | 今の事業承継税制(特例措置) | 報道で示された課題 |
|---|---|---|
| 対象 | 中小企業 | 大企業や中堅企業は対象外 |
| 効果 | 一定の要件のもとで贈与税・相続税の納税を猶予し、最終的に免除される仕組み | 欧州と違い、事実上の課税の繰り延べで、原則免除にはなっていない |
| 要件 | 後継者が代表者であることなどの要件 | 欧州にはない「代表者要件」の制約がある |
| 期限 | 特例承継計画の提出は2027年9月30日まで、贈与・相続は2027年12月31日まで | 期限後の扱いは決まっていない |
評価額が上がる会社でも、事業承継税制で納税を猶予できるなら影響は和らぎます。逆に、事業承継税制の特例が期限で終われば、評価額の上昇がそのまま税負担に直結します。評価方法と事業承継税制の両方の行方を、合わせて見ていく必要があります(事業承継税制の特例の期限と今やるべきこと、事業承継税制の要件)。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見るこれからどうなるか:3つのシナリオ
ここからは、公認会計士・税理士として、事業承継のご相談を受けてきた立場からの考えです。結論は年末の税制改正大綱まで見えませんが、起こりうる展開を整理しておくと備えやすくなります。
| シナリオ | 想定される展開 | オーナーへの影響 |
|---|---|---|
| ① 案に近い形で導入 | 2028年1月から新方式が適用される。経過措置や調整係数で負担の急増は一定程度抑える | 評価額が上がる会社は、2027年中の贈与や事業承継税制の活用を急ぐ動きが出る |
| ② 修正・延期して導入 | 中堅企業への配慮、事業用資産の一部免除、事業承継税制の拡充などとセットで、時期を遅らせて導入 | 新方式の中身次第。移行時期まで準備の時間がとれる |
| ③ 凍結・白紙から再検討 | 評価方法と事業承継税制のあり方を、抜本的に議論し直す | 当面は現行ルールが続く。ただし、評価通達6項による個別の否認リスクは残る |
どのシナリオでも、今の段階で「新ルールで株価が5倍になる」「何もしなくてよい」と決めつけるのは危険です。報道によれば、国税庁の試算では全体の5割超で評価額が下がるとされており、自社がどちら側に入るかは、決算書の数字で確かめてみないと分かりません。
オーナー経営者が今準備しておくこと
- 現行ルールで自社株の評価額を把握する:類似業種比準価額、純資産価額、配当還元価額を計算し、数期分の推移を見ておく(非上場株式の相続税評価の基本)
- 新方式の考え方で概算しておく:簿価純資産と過去の利益の水準から、評価額が上がる側か下がる側かを幅で把握する。資産規模が大きい会社、利益率が高い会社は特に確認を
- 事業承継税制の期限を確認する:特例承継計画の提出期限(2027年9月30日)に間に合うよう、使うかどうかを早めに判断する
- 株式を移す時期の案を複数用意する:2027年中に贈与する案、制度の結論を待つ案など、シナリオごとに税額と手続きを比べておく
- 行き過ぎた対策をしない:評価額を下げるためだけの取引は、評価通達6項で否認されることがある。国税庁が税逃れのスキームを警戒していることも、報道で示されています(総則6項と株式評価)
あわせて、銀行の視点も忘れないでください。新方式のように純資産と収益力が評価に直結すると、「会社を強くするほど株価が上がる」関係がいっそう強まります。けれども、純資産が厚く、利益を出し続ける会社は、銀行からの評価も高く、融資を受け続けられる会社です。評価額を下げるために会社を弱くするのではなく、強い会社を、どの時期に、どの方法で引き継ぐかを考えることが、制度がどう決まっても役に立つ備えになると考えています。
今後も注意して見ていきたいこと
- 年末の2027年度税制改正大綱:評価方法の見直しが盛り込まれるか、凍結・先送りとなるか
- 事業承継税制の扱い:2027年末に期限を迎える特例措置が延長・拡充されるか。中堅企業への対象拡大や代表者要件の見直しがあるか
- 経過措置と適用時期:導入される場合、2028年1月からの適用が維持されるか、経過措置がどうなるか
- 国税庁の追加の試算:業種や経営状況に応じた、より具体的な試算が示されるか
まとめ
- 国税庁が検討する非上場株式の新しい評価方法に、自民党の会合で異論が相次ぎ、「凍結」を求める意見も出た
- 国税庁の試算では全体の5割超で評価額が下がる一方、資産規模や収益性の高い会社ほど上がり、中堅企業では5〜6倍になる会社もあるとされる
- 年末の税制改正大綱で、事業承継税制とあわせて白紙から検討される可能性もあり、結論は見えていない
- 現行ルールでの株価の把握、新方式での概算、事業承継税制の期限の確認を進め、株式を移す時期の案を複数用意しておく
- 評価を下げるために会社を弱くするのではなく、強い会社をどう引き継ぐかを考える
自社株の評価額が新しい方式でどう変わりうるか、事業承継税制を使うべきかを一度確認したい方は、お気軽にご相談ください。
