「事業承継税制を使えば、自社株の贈与税がゼロになると聞いた。うちの会社でも使えるのか」。オーナー経営者から、こうしたご質問をよくいただきます。答えは「要件を満たせば、納税を猶予できる」です。ゼロになるのではなく、要件を守っている間は納税が猶予され、一定の場合に免除される制度です。
そして、その要件は、会社・後継者・先代経営者のそれぞれに細かく決められています。1つでも欠けると使えませんし、使い始めた後に要件を外れると猶予が打ち切られます。
この記事では、事業承継税制(特例措置)の要件を、国税庁のパンフレット「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし」(令和8年7月)と中小企業庁の資料をもとに、表で整理します。
- 特例措置は、特例承継計画の提出が2027年9月30日まで、贈与・相続が2027年12月31日まで。全株式が対象で、猶予割合は100%
- 会社は、上場会社・中小企業者でない会社・風俗営業会社・資産管理会社(一定のものを除く)に当たらないこと
- 後継者(贈与)は、代表権・18歳以上・贈与直前に役員・同族で議決権50%超・その中で筆頭(2〜3人なら各10%以上)
- 先代経営者は、かつて代表権があり、贈与直前に同族で50%超・後継者を除いて筆頭、贈与時には代表権がないこと
- 贈与では取得株数の要件(原則として発行済株式の3分の2に達するまで)もある。要件の確認は、株価の試算と同時に始める
制度の全体像:何が猶予されるのか
法人版事業承継税制は、後継者が、都道府県知事の「円滑化法の認定」を受けた非上場会社の株式を贈与や相続で取得したときに、その株式に対応する贈与税・相続税の納税を猶予し、後継者の死亡などで免除する制度です(国税庁タックスアンサー「No.4439 非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例等」)。
制度には「一般措置」と「特例措置」の2つがあり、特例措置は平成30年度改正で10年間の時限措置として設けられました。
| 項目 | 特例措置 | 一般措置 |
|---|---|---|
| 事前の計画 | 特例承継計画の提出が必要(平成30年4月1日〜令和9年9月30日) | 不要 |
| 適用期限 | 平成30年1月1日〜令和9年12月31日の贈与・相続等 | なし |
| 対象株数 | 全株式 | 総株式数の最大3分の2まで |
| 納税猶予割合 | 100% | 贈与100%、相続80% |
| 承継パターン | 複数の株主から最大3人の後継者 | 複数の株主から1人の後継者 |
| 雇用確保要件 | 弾力化(8割を下回っても報告で継続可) | 承継後5年間平均8割の雇用維持 |
| 事業継続が困難な場合の免除 | あり | なし |
| 相続時精算課税の適用 | 60歳以上の者から18歳以上の者への贈与 | 60歳以上の者から18歳以上の推定相続人・孫への贈与 |
出典:国税庁パンフレット(令和8年7月)、中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」
対象となる株式は、議決権に制限のないものに限られます。議決権制限株式を後継者に渡しても、この制度の対象にはなりません。期限の詳しい整理と、期限後の見通しは事業承継税制の特例の期限(2027年)と今やるべきことで解説しています。
会社の要件:使えない会社に当たらないか
国税庁のパンフレットでは、会社の主な要件を「次の会社のいずれにも該当しないこと」として示しています。
| 該当すると使えない会社 | ポイント |
|---|---|
| 上場会社 | 非上場であることが前提 |
| 中小企業者に該当しない会社 | 経営承継円滑化法2条の資本金・従業員数の基準で判定 |
| 風俗営業会社 | 風俗営業等の規制法上の性風俗関連特殊営業を営む会社 |
| 資産管理会社(一定の要件を満たすものを除く) | 資産保有型会社・資産運用型会社 |
中小企業者の範囲
経営承継円滑化法2条は、中小企業者を業種ごとに次のように定めています(資本金か従業員数のどちらかを満たせばよい、という読み方になります)。
| 業種 | 資本金の額または出資の総額 | 常時使用する従業員の数 |
|---|---|---|
| 製造業・建設業・運輸業その他 | 3億円以下 | 300人以下 |
| 卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
| サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
| 小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
政令で別の基準が定められている業種もあります(同条5号)。出典はe-Gov法令検索「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」です。
資産管理会社に注意
実務で最も問題になりやすいのが、資産管理会社です。国税庁のパンフレットは、次のように説明しています。
- 資産保有型会社:有価証券、自ら使用していない不動産、現金・預金などの特定の資産の保有割合が、総資産の総額の70%以上の会社
- 資産運用型会社:特定の資産からの運用収入が、総収入金額の75%以上の会社
本業とは別に賃貸不動産や余剰資金を厚く持っている会社は、この割合に近づくことがあります。「一定の要件を満たすもの」は除かれますが、その判定には事業の実態の確認が必要です。また、使い始めた後に資産管理会社に該当すると、猶予の全額を納めることになります(事業承継税制の取消し・納税猶予が打ち切られる場合)。
後継者の要件:贈与と相続で違う
後継者の要件は、贈与と相続で少しずつ違います。国税庁パンフレットの記載を並べると次のとおりです。
| 要件 | 贈与(受贈者) | 相続(相続人等) |
|---|---|---|
| 代表権 | 贈与の時に代表権を有している | 相続開始の日の翌日から5か月を経過する日に代表権を有している |
| 年齢 | 贈与の日に18歳以上 | ― |
| 役員 | 贈与の直前に役員であること(特例措置) | 相続開始の直前に役員であること(特例承継計画に記載された後継者で、被相続人が70歳未満で死亡した場合などを除く) |
| 同族で過半数 | 後継者と特別の関係がある者で、総議決権数の50%超を保有 | 同左(相続開始の時) |
| 後継者が1人 | 特別の関係がある者の中で最も多くの議決権を保有 | 同左 |
| 後継者が2〜3人 | 各人が総議決権数の10%以上を保有し、かつ特別の関係がある者(他の後継者を除く)の中で最も多くの議決権を保有 | 同左 |
一般措置では、贈与について「贈与の日まで引き続き3年以上会社の役員であること」が要件です。特例措置では「贈与の直前に役員であること」で足ります(令和7年度改正による見直し)。とはいえ、役員就任の登記や株主総会の手続きは、贈与の日程から逆算しておく必要があります。
また、特例措置の対象となる後継者は、特例承継計画に記載された者に限られます。計画に名前のない人は、認定を受けられません(中小企業庁「特例承継計画に関する指導及び助言を行う機関における事務について」令和8年4月改訂版)。計画の書き方は特例承継計画の書き方と提出で解説しています。
先代経営者(贈与者・被相続人)の要件
先代経営者等の主な要件は次のとおりです(国税庁パンフレット)。
| 要件 | 贈与者 | 被相続人 |
|---|---|---|
| 代表権 | 会社の代表権を有していたこと | 同左 |
| 議決権 | 贈与の直前に、贈与者と特別の関係がある者で総議決権数の50%超を保有し、かつ、後継者を除いたこれらの者の中で最も多くの議決権を保有していた | 相続開始の直前に同様 |
| 贈与時の地位 | 贈与の時に代表権を有していないこと | ― |
ポイントは、贈与の時点で先代が代表権を外れていることです。会長や取締役として残ることはできますが、代表取締役のままでは要件を満たしません。
なお、贈与の直前に、すでに事業承継税制の適用を受けている者がいる場合などは、議決権と代表権の要件が不要になります。先代経営者以外の株主(先代の配偶者など)からの贈与・相続も、一定の期間内であれば特例措置の対象になります。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る取得株数の要件:3分の2に届くまで渡す
贈与の場合は、後継者が一定数以上の株式を取得する必要があります。国税庁のパンフレットの記号を使うと次のとおりです。
- a:贈与の直前に先代経営者等が持っていた株式数
- b:贈与の直前の発行済株式等の総数(議決権に制限のないもの)
- c:後継者が贈与の直前に持っていた株式数
- d:贈与後に後継者が持つ株式数
計算例
発行済株式90株(b)、先代経営者が60株(a)、後継者が既に6株(c)を持っている場合。
- b×2/3−c = 90×2/3−6 = 54株
- a(60株)は54株以上なので、54株以上を贈与する必要があります
先代経営者が40株しか持っていない場合(a=40、c=0)は、b×2/3(60株)に届かないため、40株の全部を贈与する必要があります。
一般措置でも同じ株数を取得する必要がありますが、猶予の対象は総株式数の3分の2までに限られます。「少しずつ贈与して様子を見る」という使い方は、この制度では難しいと考えてください。
手続きと期限:要件は「入口」と「その後」にある
要件は、贈与の時点で満たせば終わりではありません。手続きと期限を整理すると次のとおりです(国税庁パンフレット、継続届出書のパンフレット)。
| 段階 | 手続き | 期限 |
|---|---|---|
| 計画 | 特例承継計画を都道府県知事に提出し確認を受ける | 2027年9月30日まで(贈与・相続後でも認定申請時までは提出可) |
| 承継 | 贈与・相続 | 2027年12月31日まで |
| 認定 | 都道府県知事に円滑化法の認定を申請 | 贈与の翌年1月15日まで/相続開始後8か月以内 |
| 申告 | 贈与税・相続税の申告書を提出し、担保を提供 | 贈与の翌年2月1日〜3月15日/相続開始を知った日の翌日から10か月以内 |
| 5年間 | 都道府県に年次報告書、税務署に継続届出書 | 毎年。第1種基準日の翌日から3か月以内(年次報告)・5か月以内(継続届出) |
| 5年経過後 | 税務署に継続届出書 | 3年ごと。第2種基準日の翌日から3か月以内 |
猶予される税額と利子税に見合う担保は、制度の適用を受ける株式の全部を担保として提供すれば、見合う担保の提供があったものとみなされます。
公表された裁決・判例について
国税不服審判所の「公表裁決事例要旨」で租税特別措置法関係の分類を見ると、2026年10月時点で、農地等の納税猶予についての項目はある一方、非上場株式等の納税猶予についての項目は見当たりません。要件をめぐって公表された争いが少ないのは、都道府県の認定と税務署の手続きが二重に要件を確認する仕組みになっているためと考えられます。
一方、贈与の前に株価を下げる行為は別の問題として争われています。国税不服審判所の令和6年3月25日裁決は、相続で取得した取引相場のない株式について、財産評価基本通達の定めによる評価が著しく不適当として、国税庁長官の指示による評価を認めた事例です(総則6項と株式評価)。要件をそろえるための株式の移動や組織の変更も、経済的な合理性を説明できる形で進めることが大切です。
銀行から見た要件の確認
要件を満たして猶予を受けた会社は、後継者が議決権の過半数を持ち、代表者として経営する体制が制度上も確認された会社です。銀行にとっては、後継者の経営権が安定していることの裏付けになります。一方で、猶予期間中に後継者が代表を退くと猶予が打ち切られるため、経営者保証の引継ぎや後継者の体制づくりも、同じ時間軸で考えておく必要があります(事業承継と経営者保証)。
まとめ
- 特例措置は、特例承継計画を2027年9月30日までに提出し、2027年12月31日までに贈与・相続することが前提
- 会社は、上場会社・中小企業者以外・風俗営業会社・資産管理会社(一定のものを除く)でないこと。賃貸不動産や余剰資金の多い会社は要注意
- 後継者(贈与)は、代表権・18歳以上・贈与直前に役員・同族で50%超かつ筆頭(2〜3人なら各10%以上)。計画に名前のある人に限られる
- 先代経営者は、贈与時に代表権を外れていることが必要。取得株数の要件で、原則3分の2に届くまで渡す
- 要件は入口だけでなく、5年間の年次報告・継続届出と、その後の保有継続まで続く
株価の水準によっては、事業承継税制を使わずに暦年贈与や相続時精算課税で移すほうが、管理の手間を含めて合理的なこともあります(暦年贈与・相続時精算課税で株式を移す方法、自社株評価の方法)。クレフティでは、要件の確認、株価と税額の試算、特例承継計画に記載する内容の整理まで(計画への所見の記載は認定経営革新等支援機関に依頼する必要があります。クレフティは認定支援機関ではありません)、事業承継・M&A支援の中でご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
