事業承継税制の特例措置を使うための最初の関門が、「特例承継計画」です。計画を出していない会社は、2027年12月31日までに贈与や相続をしても、特例措置を使えません。
一方で、「どこまで詳しく書けばよいのか分からない」「5年後のことなど決められない」という声もよく聞きます。実は、中小企業庁のマニュアルは、計画作成の段階で具体的に書けない場合は大まかな記載にとどめ、承継の前に変更することも認めています。
この記事では、中小企業庁の「特例承継計画に関する指導及び助言を行う機関における事務について」(令和8年4月改訂版、以下「マニュアル」)をもとに、特例承継計画の書き方と提出の手順を解説します。
- 特例承継計画(様式第21)は、会社が作成し、認定経営革新等支援機関の指導・助言を受けて、2027年9月30日までに都道府県に提出する
- 記載事項は、会社、特例代表者、特例後継者(最大3人)、承継までの経営計画、承継後5年間の経営計画、支援機関の所見
- 5年間の計画は、売上目標などが必須ではない。各年の取組と、その理由・期待される効果を書く
- 計画に名前のない人は特例の認定を受けられない。後継者の変更・追加は様式第24で、2027年10月1日以後もできる
- 計画を出しても贈与は義務ではない。使う可能性があれば、まず出しておくのが基本
特例承継計画とは:提出期限と全体の流れ
特例承継計画は、経営承継円滑化法施行規則に定める計画で、特例措置の適用を受けるための前提です。マニュアルによれば、提出できる期間は平成30年4月1日から令和9年(2027年)9月30日までで、令和8年4月1日施行の改正省令で1年6か月延長されました。
事業承継税制を使うまでの流れは、次の4ステップです。
| ステップ | 内容 | 期限 |
|---|---|---|
| ① 特例承継計画の作成・提出 | 会社が作成し、認定支援機関が所見を記載。都道府県に提出し確認を受ける | 2027年9月30日 |
| ② 株式の贈与・相続 | 特例代表者から特例後継者へ | 2027年12月31日 |
| ③ 認定申請 | 都道府県知事に円滑化法の認定を申請 | 贈与の翌年1月15日まで/相続開始後8か月以内 |
| ④ 税務申告 | 計画の確認書・認定書の写しとともに申告。納税猶予の開始 | 贈与税は翌年3月15日まで/相続税は10か月以内 |
株式の承継の前に計画を提出できなかった場合でも、③の認定申請の際にあわせて計画を提出することができます(マニュアル)。ただし、②の期限(2027年12月31日)は動きません。期限全体の整理は事業承継税制の特例の期限(2027年)と今やるべきことをご覧ください。
提出先は、会社の主たる事務所が所在する都道府県の担当課です(国税庁パンフレットの窓口一覧)。
記載事項:様式第21に何を書くか
マニュアルが示す記載事項を、書き方のポイントとあわせて整理します。
| 項目 | 書く内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 1. 会社について | 認定を受けようとする会社の名称等 | ― |
| 2. 特例代表者について | 株式を承継させる予定の代表者の氏名、代表権の有無(無の場合は退任年月日) | 計画提出時に、現に代表者であるか、代表者であった者であること |
| 3. 特例後継者について | 株式を承継する予定の後継者の氏名(最大3人) | 記載された人でなければ特例の認定を受けられない |
| 4. 承継までの経営の計画 | 承継予定時期、それまでの経営上の課題、課題への対処方針 | 贈与・相続後に作成する場合や、先代がすでに役員を退任している場合は記載不要 |
| 5. 承継後5年間の経営計画 | 後継者が承継後5年間に行う具体的な取組 | 売上・利益目標や設備投資は必須ではない。各年に取組を書く |
| 別紙 認定支援機関の所見 | 支援機関の名称、指導・助言の年月日、指導・助言の内容 | 支援機関が記載する |
持株会社の場合は、4と5に子会社などでの取組を書きます。
特例後継者は「書いておく」ことが大切
特例後継者として計画に記載されていない人は、特例の認定を受けられません。後継者候補が複数いて決めきれない場合は、候補を記載しておき、後で変更する方法も考えられます。ただし、後継者を2人・3人にすると、議決権の要件(各10%以上で、同族の中で筆頭)や経営の意思決定の問題も出てきます。要件は事業承継税制(特例措置)の要件で解説しています。
承継後5年間の経営計画の書き方
最も悩むのが「承継後5年間の経営計画」です。マニュアルは次のように説明しています。
- 後継者が実際に承継した後の5年間で、どのような経営を行う予定か、具体的な取組内容を記載する
- 設備投資・新事業展開や、売上目標・利益目標の記載を必ずしも求めるものではない
- 後継者が、先代経営者や認定支援機関とよく相談のうえ、事業の持続・発展に必要と考える内容を自由に記載する
- すでに後継者が代表権を持っている場合も、株式の取得で経営権が安定した後の取組を書く
さらに、支援機関向けのチェックポイントとして、「なぜその取組を行うのか」「その取組の結果、どのような効果が期待されるか」が書かれているか、各年において取組が記載されているかを確認するよう求めています。すべてが新しい取組である必要はありません。
記載のイメージ(架空の例)
金属部品の製造業で、2027年に贈与を予定している会社を想定した記載のイメージです(実在の会社・事例ではありません)。
| 年 | 取組 | 理由と期待される効果 |
|---|---|---|
| 1年目 | 主要取引先への後継者の同行訪問、受注管理の担当者の育成 | 取引先との関係を後継者に引き継ぎ、受注の継続性を高める |
| 2年目 | 老朽化した加工機1台の更新を検討、工程ごとの原価の把握 | 不良率の低下と、採算の悪い製品の見直しにつなげる |
| 3年目 | 若手社員向けの技能伝承の仕組みづくり | 熟練者の退職に備え、技術を社内に残す |
| 4年目 | 新規取引先の開拓(近隣業種への提案) | 特定の取引先への依存度を下げる |
| 5年目 | 金融機関と中期計画を共有し、設備資金の調達方針を決める | 財務の安定と、次の投資余力の確保 |
ポイントは、会社の実情に合った、実行できる内容を書くことです。計画どおりにいかなかったからといって、それだけで猶予が打ち切られるわけではありません。一方で、内容は都道府県の確認を受け、税務申告にも添付される書類です。背伸びした目標を並べるより、課題と取組の筋が通っていることのほうが大切です。
承継が数年先なら「大まかに書いて、後で具体化」
マニュアルは、計画作成の数年後に株式の承継を予定しているなど、承継後の具体的な経営計画を書くことが難しい場合には、大まかな記載にとどめ、実際に株式を承継しようとする前に具体的な計画を定めることも可能としています。その場合は、変更手続きを行うことが求められます。
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事業承継・M&A支援を見る認定経営革新等支援機関の所見
計画には、認定経営革新等支援機関(認定支援機関)による指導・助言の内容を記載する必要があります。認定支援機関は、国が認定する公的な支援機関で、商工会・商工会議所のほか、金融機関、税理士、公認会計士、弁護士などが認定を受けています(中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」)。
マニュアルは、支援機関に対し、事業承継を行う時期や準備状況、承継までの課題と対処方針、承継後の計画の実現性などについて指導・助言を行い、所見欄には取組への評価や実現可能性(それを高めるための指導・助言)を書くよう求めています。
支援機関の関与は、計画の作成時だけではありません。特例措置では、承継後5年間の平均の従業員数が承継時の8割を下回った場合、その理由を報告する書類(様式第27)にも、支援機関の所見が必要です。理由が経営状況の悪化などの場合は、経営改善のための指導・助言も行います。計画を一緒に作った支援機関が、その後の5年間も関わり続けることを想定して選ぶとよいでしょう。打ち切りや雇用要件の詳細は事業承継税制の取消し・納税猶予が打ち切られる場合をご覧ください。
計画の変更と、合併等があった場合
変更申請書(様式第24)
確認を受けた計画の内容に変更があった場合は、変更申請書(様式第24)を都道府県に提出し、確認を受けることができます。変更後の計画についても、改めて認定支援機関の指導・助言が必要です。マニュアルの注意点を整理すると次のとおりです。
| 変更の内容 | 可否 |
|---|---|
| まだ贈与・相続を受けていない特例後継者の変更 | できる |
| 事業承継税制の適用を受けた後の特例後継者の変更 | できない |
| 適用後の特例後継者の追加 | 他の要件を満たす限りできる(認定済みの後継者を含めて3人まで) |
| 承継後5年間の事業計画の変更(より詳細にする場合を含む) | できる。当初の計画が具体的でなかった場合は変更が求められる |
| 2027年10月1日以後の変更申請 | できる |
合併・株式交換等があった場合
計画の確認を受けた会社が合併で消滅した場合や、株式交換等で完全子会社になった場合は、合併存続会社や株式交換完全親会社等が「合併等があった場合の報告書(様式第24の4)」を提出し、確認を受けることができます。ただし、消滅した会社などの特例代表者が、存続会社などの特例代表者でない場合は、確認を受けられません。この報告書も2027年10月1日以後に提出できます。
ホールディングス化などの組織再編を検討している場合は、計画の確認との順番を事前に整理しておく必要があります(持株会社をつくって株主構成を整理する)。
よくある誤解と、銀行から見た特例承継計画
よくある誤解
| 誤解 | 実際 |
|---|---|
| 計画を出したら、必ず贈与しなければならない | 出しても使わない選択ができる |
| 5年間の売上目標を達成しないと猶予が打ち切られる | 計画の未達だけで打ち切られる仕組みではない。打ち切りは代表者の退任や株式の譲渡などの確定事由による |
| 後継者は1人しか書けない | 最大3人まで書ける |
| 期限後は計画を一切出せない | 新規の提出は2027年9月30日まで。確認済み計画の変更申請は10月1日以後も可能 |
| 計画を出せば事業承継税制が必ず使える | 贈与・相続の時点で会社・後継者・先代経営者の要件を満たし、認定を受ける必要がある |
公表された裁決・判例について
特例承継計画の記載内容そのものをめぐって争われた公表裁決は、2026年10月時点で国税不服審判所の公表裁決事例要旨には見当たりません。計画は都道府県の確認手続きの中で整えられるため、問題になるのは、むしろ期限に間に合わないことと、後継者の記載漏れです。
銀行から見た特例承継計画
特例承継計画の「承継後5年間の経営計画」は、銀行に提出する事業計画と同じ方向を向いているべきです。銀行に「設備投資で拡大する」と説明しながら、計画には「現状維持」と書いている、といった食い違いは避けたいところです。銀行が事業計画のどこを見るかは融資に通る事業計画書の書き方で解説しています。計画づくりを、後継者が自分の言葉で会社の5年後を語る練習の機会にしていただければと思います。
まとめ
- 特例承継計画(様式第21)は、認定支援機関の指導・助言を受けて2027年9月30日までに都道府県へ提出する
- 記載事項は、会社、特例代表者、特例後継者(最大3人)、承継までの計画、承継後5年間の計画、支援機関の所見
- 5年間の計画は、売上目標などが必須ではない。各年の取組と理由・効果を、会社の実情に合わせて書く
- 後継者の変更は贈与・相続を受ける前まで。追加は適用後も可能。変更申請は2027年10月1日以後もできる
- 計画を出しても贈与は義務ではない。使う可能性があれば、期限までにまず出しておく
クレフティは、事業承継税制の判断材料づくり(株価と税額の試算、一般措置との比較)、特例承継計画に記載する内容(後継者・承継時期・承継後の経営計画)の整理、贈与・相続後の申告や届出の確認まで、事業承継・M&A支援の中でご相談をお受けしています。なお、クレフティは認定経営革新等支援機関ではないため、計画への所見の記載(指導・助言)は認定支援機関にご依頼いただく必要があります。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
