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建物だけを子に贈与して家賃収入を移す方法と注意点|収入の帰属、贈与税、借入が残るときの負担付贈与と銀行の承諾

「土地は親の名義のまま、賃貸建物だけを子に贈与すれば、家賃収入を子に移せるのではないか」というご相談は少なくありません。建物の価額は年数の経過とともに下がり、土地より贈与税の負担が小さいことが多いためです。

結論からいえば、手続きを正しく踏めば、家賃収入は建物の所有者となった子に帰属します。ただし、名義だけを移して実態が伴わない場合、借入が残っている場合、土地の相続税評価が変わる場合など、注意すべき点がいくつもあります。この記事では、課税を逃れるための話ではなく、贈与を実態どおりに行い、必要な税金を正しく申告し、銀行とも整合させるための手順を、税務・会計・銀行の3つの視点で整理します。

この記事の結論
  • 家賃収入は、名義ではなく真実の所有者・賃貸人に帰属する(所得税法12条)。登記・賃貸借契約・口座・管理の実態をそろえて初めて子の所得になる
  • 建物の贈与には贈与税(暦年課税か相続時精算課税)と、登録免許税・不動産取得税がかかる
  • 敷金を引き継ぐなら、敷金相当の現金も同時に贈与するのが基本。しないと負担付贈与として扱われる
  • 借入が残る建物は、子が債務を引き受けると負担付贈与になり、時価評価・親の譲渡所得・消費税の問題が生じる。債務者の変更には銀行の承諾が要る
  • 土地は使用貸借になり、贈与税はかからないが、親の相続時は自用地評価になる

家賃収入は誰のものか:所得の帰属の考え方

所得税法12条は、資産から生じる収益の法律上の帰属者が名義人にすぎず、別の人が実際に収益を享受している場合は、その享受している人に課税するという実質所得者課税の考え方を定めています。家賃収入でいえば、建物の真実の所有者で、賃貸借契約の真実の賃貸人は誰か、が問われます。

名義と実態が争われた公表裁決

国税不服審判所の公表裁決事例要旨には、賃料の帰属が争われた事例がいくつかあります。

  • 平成25年4月19日裁決:親名義の土地の上に子名義の建物があり、賃貸借契約書の目的物は「親の土地」と書かれていた事案です。審判所は、賃借人が実際に使っているのは建物で、土地は建物の利用に必要な範囲で一体として使われているにすぎないとして、契約の目的物は建物であり、賃料収入は建物の所有者である子に帰属すると判断しました
  • 平成24年12月4日裁決:個人が「建物は自分の同族会社に譲渡した」と主張し、賃料は会社に帰属するとした事案です。審判所は、登記名義を会社に移せない事情はなく、譲渡の取引としての実態もなく、賃貸借契約の賃貸人も個人のままだったとして、賃料は個人に帰属すると判断しました
  • 平成26年5月14日裁決:一部の契約が実父名義で結ばれていた事案で、審判所は、登記名義、賃料の振込先口座、経費の引落口座がいずれも請求人のもので、実父は契約の存在も知らず収支の説明も受けていなかったことから、所得は請求人に帰属すると判断しました

確認先:国税不服審判所 公表裁決事例要旨「資産の貸付けによる所得」

実態をそろえるために必要なこと

これらの事例からわかるのは、登記・契約・お金の流れ・管理の実態の4つで判断されるということです。建物を子に贈与するなら、次の点をそろえる必要があります。

項目子に帰属させるために必要な状態
登記建物の所有権移転登記(贈与)を済ませる
賃貸借契約賃貸人の地位が子に移ったことを入居者・管理会社に通知し、更新・新規契約は子の名義で結ぶ
家賃の入金口座子名義の口座に変更する
経費の支払い建物の固定資産税、修繕費、管理料、火災保険料などを子の口座から払う
管理の実態子が収支を把握し、管理会社とのやりとりや修繕の判断に関わる

賃貸中の建物の所有権が移ると、賃貸人の地位も原則として新しい所有者に移ります(民法605条の2)。それでも、入居者や管理会社への通知、口座の変更をしなければ、家賃は親の口座に入り続け、実態は親の賃貸業のままになってしまいます。

贈与税と流通税:建物の贈与でかかる税金

税金内容
贈与税暦年課税なら年110万円の基礎控除を超える部分に累進税率。相続時精算課税(原則60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫へ)を選べば、年110万円の基礎控除と累計2,500万円の特別控除を超える部分に一律20%
登録免許税贈与による所有権移転登記は、固定資産税評価額の1,000分の20
不動産取得税贈与による取得にも、都道府県の不動産取得税がかかる(相続とは扱いが異なる)

建物の贈与税の評価額は、負担のない通常の贈与であれば、固定資産税評価額をもとに、貸家であれば借家権割合を控除した貸家の評価になります。相続時精算課税を選んだ財産は、贈与者の相続時に贈与時の価額(令和6年以後の贈与は基礎控除後の額)で相続財産に加算されます(国税庁タックスアンサー No.4103)。暦年課税の相続前贈与の加算期間の見直しを含め、制度の選び方は生前贈与と相続の新ルールを参照してください。

敷金は「現金も一緒に」渡す

入居者から預かっている敷金の返還義務は、建物の所有権が移ると新しい所有者に引き継がれます。何もしなければ、子は「敷金返還債務を負担して建物をもらった」ことになり、形式上は負担付贈与に当たります。

国税庁の質疑応答事例「賃貸アパートの贈与に係る負担付贈与通達の適用関係」は、敷金に相当する現金の贈与を同時に行っている場合は、実質的な負担はないものとして、負担付贈与通達は適用されないとしています。建物の贈与と同時に、敷金相当額の現金を子の口座へ移すのが基本の手順です。敷金の基本的な扱いは礼金・敷金・保証金・更新料の処理も参考にしてください。

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借入が残っている建物の場合:負担付贈与と銀行の承諾

負担付贈与になると何が変わるか

建物の取得時の借入れが残っていて、子がその返済を引き受ける形で贈与すると、負担付贈与になります。国税庁のタックスアンサー(No.4426)によれば、次のように課税関係が変わります。

項目負担のない贈与負担付贈与
子の贈与税の課税価格相続税評価額(貸家の評価)通常の取引価額から負担額を控除した額(平成元年3月29日 直評5ほか)
親の所得税原則としてかからない負担額で建物を譲渡したものとされ、譲渡益が出れば譲渡所得の課税
親の消費税かからない負担額が対価となり、親が課税事業者なら建物の譲渡として課税
子の取得価額・減価償却親の取得価額・経過年数・未償却残高を引き継ぐ負担の額などに応じて扱いが変わるため個別に確認

時価評価になるため、思ったほど贈与税が下がらない、あるいは親に譲渡所得が出る、ということが起きます。先に紹介した平成18年12月15日の公表裁決(夫婦の共有名義と借入で詳しく紹介)でも、負担付贈与の対象となった土地・建物は、公示価格や再建築価格をもとにした時価で評価されています。

銀行の承諾なしに進めない

借入れの残る建物には、通常、銀行の抵当権が付いています。融資契約には、担保物件を譲渡するときは銀行の承諾を得ることや、無断で譲渡すると期限の利益を失うことが定められているのが一般的です。

また、親子の間で「子が返済する」と約束しても、銀行が承諾しなければ債務者は親のままです。前述の平成18年の裁決では、負担付贈与の契約を銀行が知らなかったため、当事者間で負担割合を変えたにとどまり、連帯債務者としての地位は変わっていないと判断されています。

借入れが残る建物を子に移すなら、次の順番で進めます。

  1. 銀行に、建物を子に贈与したいことと、借入れの扱い(親が完済する、子が引き受ける、子が借り換えるなど)を相談する
  2. 子が引き受ける場合は、銀行の審査を経て、債務引受または借換えの手続きを行う
  3. 負担付贈与になる場合は、時価・親の譲渡所得・消費税を試算する
  4. 贈与契約、登記、入居者・管理会社への通知、口座変更を同じ時期に行う

親が自分で借入れを完済してから負担のない贈与をする、という方法もあります。どの方法が適切かは、残高、親子それぞれの資金、相続全体の計画によって変わります。

土地はどうなるか:使用貸借と相続時の評価

建物だけを子に移すと、子は親の土地を使って建物を所有することになります。地代を払わない(固定資産税相当額程度の負担にとどまる)場合は使用貸借です。

国税庁の個別通達「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」(昭和48年11月1日 直資2-189)では、建物の所有を目的とする使用貸借による土地の借受けは、借地権の慣行のある地域でも使用権の価額は零とされ、子に借地権相当額の贈与税はかかりません。

一方で、同じ通達により、使用貸借されている土地を相続するときは、土地の上の建物の利用状況にかかわらず、自用地として評価されます。親が建物も持っていたときは「貸家建付地」として評価が下がっていた土地が、建物を子に移したことで評価が上がることがあります。また、相続税の小規模宅地等の特例の適用関係も変わり得ます。

項目贈与前(親が土地・建物を所有)贈与後(土地は親、建物は子・使用貸借)
家賃収入親の不動産所得子の不動産所得
土地の相続税評価貸家建付地(評価減あり)自用地
建物の相続財産親の財産子の財産(親の相続財産から外れる。精算課税なら加算あり)

建物の贈与による家賃収入の移転と、土地の評価が上がる影響を、両方とも試算してから判断することが大切です。賃貸物件の相続税評価は賃貸物件の相続税評価で整理しています。

会計上の扱いと銀行からの見え方

建物を受け取った子は、自分の不動産所得の帳簿に建物を計上し、負担のない贈与であれば親の取得価額・耐用年数・経過年数・未償却残高を引き継いで減価償却を続けます。国税庁の質疑応答事例(相続により取得した減価償却資産の耐用年数)は、所得税法60条1項の相続等で取得した資産について、中古資産の見積耐用年数は使えず、これらを引き継ぐとしています。資産・負債を実態どおりに記録するという点は、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)の考え方と同じです。税務上の評価と帳簿の計上額が別の数字になる点も押さえておきましょう。

銀行からは次のように見えます。

  • 親の側:家賃収入が減る一方、借入れが残っていれば返済原資が減って見える。借入れを残したまま建物だけ移すのは、銀行にとっても説明がつかない
  • 子の側:家賃収入と建物が子の申告書に載り、子の次の融資の実績になる。借入れを引き受けていれば、子の負債としても数えられる
  • 世帯全体:銀行は家族の資産と負債を合わせて見ることが多い。移転の目的と、移転後の物件別収支を説明できるようにしておく

実務のチェックポイント

チェック項目確認する内容
目的家賃収入の移転、相続対策、子の資産形成など、何のための贈与かを家族で共有したか
贈与契約贈与契約書を作り、登記・通知・口座変更までを同時期に行うか
敷金敷金相当額の現金を同時に贈与するか
借入れ銀行に事前相談したか。誰が返済するかを銀行との契約で確定させたか
負担付贈与時価評価、親の譲渡所得、親の消費税を試算したか
申告子の贈与税申告(精算課税なら選択届出書)、子の不動産所得の申告を行うか
土地使用貸借の確認、相続時の自用地評価と小規模宅地等の特例への影響を試算したか

まとめ

  • 家賃収入は真実の所有者・賃貸人に帰属する。登記・契約・口座・管理の実態をそろえることが前提
  • 建物の贈与には贈与税と登録免許税・不動産取得税がかかる。敷金は現金も同時に贈与する
  • 借入れが残る建物は負担付贈与となり、時価評価・親の譲渡所得・消費税の問題が生じる。債務者の変更には銀行の承諾が必要
  • 土地は使用貸借になり贈与税はかからないが、相続時は自用地評価になる
  • 「収入を移す」ことだけを目的にせず、相続全体と銀行との関係まで含めて設計する

不動産の贈与全般の税金は不動産を贈与するときの税金でも解説しています。クレフティでは、不動産投資家向けサポートの中で、贈与の手順の設計、贈与税の申告、銀行との調整までご相談をお受けしています。

よくある質問

建物の登記を子に移せば、家賃収入は子の所得になりますか?
子が建物の真実の所有者となり、賃貸人の地位も引き継いで、家賃の受取りや経費の支払いを子自身が管理していれば、家賃収入は子に帰属します。登記だけを移して、家賃は親の口座に入り、親が管理を続けているような場合は、実質的に親の所得とされるおそれがあります。所得税法12条は、名義ではなく実際に収益を享受する人に課税する考え方をとっています。
借入が残っている建物を贈与すると、どうなりますか?
子が借入れを引き継ぐ形にすると負担付贈与となり、建物は相続税評価額ではなく通常の取引価額で評価されます。親には負担額を対価とする譲渡所得の課税が生じることがあり、親が消費税の課税事業者なら消費税もかかります。また、借入の債務者を変えるには銀行の承諾が必要で、無断で建物を譲渡すると融資契約の違反になるおそれがあります。必ず事前に銀行と相談してください。
土地を親の名義のまま子に無償で使わせると、贈与税はかかりますか?
建物の所有を目的とする土地の使用貸借では、借地権の慣行のある地域でも、使用権の価額は零として扱われ、子に贈与税はかかりません(国税庁の個別通達)。ただし、その土地は親の相続のときに自用地として評価されるため、貸家建付地として評価されていた場合より評価額が上がることがあります。贈与の前に、相続時の評価まで試算しておくことが大切です。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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