ホテルや旅館の建物は、同じ構造の住宅より耐用年数が短く定められています。レジデンスからホテルへの転用や、中古ホテルの取得を検討するとき、耐用年数は毎年の減価償却費、決算書の利益、そして融資期間にまで影響する数字です。
この記事では、ホテル・旅館用途の建物の耐用年数を、木造内装部分の判定、複数用途・転用・中古の扱い、附属設備と備品、法人と個人の違い、裁決事例、銀行の見え方の順に整理します。
- ホテル・旅館用の建物は、RC造39年(木造内装部分が延べ面積の3割超なら31年)、木造17年など。住宅用より短い
- 木造内装部分は、客室・ホール・廊下など顧客が直接使う部分で、相当の費用をかけた内装に限って判定する
- 転用したら転用後の用途の耐用年数に切り替える。中古は簡便法を最初の年に選ぶ
- 家具・寝具・食器などの備品は、接客業用の短い耐用年数があるものも多い
- 耐用年数が短いと償却費が増え、経常利益と簿価が早く減る。融資期間が短くなることもある
ホテル・旅館用建物の法定耐用年数
減価償却資産の耐用年数等に関する省令(耐用年数省令)別表第一では、建物の耐用年数を「構造」と「用途」の組み合わせで定めています。ホテル・旅館用と住宅用を比べると、次のとおりです。
| 構造 | 旅館用・ホテル用 | 住宅用 |
|---|---|---|
| 鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造 | 39年(木造内装部分が延べ面積の3割超は31年) | 47年 |
| れんが造・石造・ブロック造 | 36年 | 38年 |
| 金属造(骨格材の肉厚4mm超) | 29年 | 34年 |
| 金属造(肉厚3mm超4mm以下) | 24年 | 27年 |
| 金属造(肉厚3mm以下) | 17年 | 19年 |
| 木造・合成樹脂造 | 17年 | 22年 |
| 木骨モルタル造 | 15年 | 20年 |
※耐用年数省令別表第一。住宅用の欄には寄宿舎用・宿泊所用なども含まれる。
RC造では住宅用47年に対しホテル用39年、木造内装部分が多ければ31年と、差が大きくなります。
木造内装部分「3割超」の判定
RC造の旅館・ホテルが31年になるかどうかは、耐用年数の適用等に関する取扱通達2-1-7で判定方法が定められています。
ここでいう木造内装部分とは、通常の建物に一般的に施される程度の木造内装ではなく、客室等として顧客の直接利用に供するために相当の費用をかけて施設された内装をいいます。和風旅館の客室のように、木材を多用した内装に相当の費用をかけている場合が想定されています。
判定には、内装仕上げ表や工事の内訳書、図面での面積の集計が必要です。レジデンスからの転用では、既存の内装をそのまま使うのか、旅館として和室の内装を新たに施すのかで判定が変わり得るため、設計段階で面積を集計しておくと申告時に慌てません。
複数用途・転用・中古の扱い
複数の用途に使う建物
1つの建物を2つ以上の用途に共通して使っている場合は、使用目的・使用の状況などを勘案して合理的に判定し、その判定の基礎となった事実が著しく変わらない限り継続して適用します(耐用年数の適用等に関する取扱通達1-1-1)。低層階がホテル、上層階が賃貸住宅のような建物は、用途ごとの面積や区分経理の状況を踏まえて判断します。
住宅からホテルへの転用
期中に用途を転用した場合、原則は転用前と転用後の期間に分けて、それぞれの用途の耐用年数で計算します。ただし、その事業年度(個人はその年)に転用した資産の全部について、期首(個人は1月1日)から転用後の耐用年数で計算することも認められています(法人税基本通達7-4-2、所得税基本通達49-18)。一部の資産だけをこの方法で計算することはできません。
中古のホテル・旅館を買った場合
中古建物は、見積法か簡便法で耐用年数を決められます(耐用年数省令3条)。
| 例 | 計算 | 耐用年数 |
|---|---|---|
| RC造ホテル、築20年 | (39-20)+20×20% | 23年 |
| RC造ホテル、築45年(全部経過) | 39×20%=7.8 | 7年 |
| 木造旅館、築25年(全部経過) | 17×20%=3.4 | 3年 |
簡便法が使えるのは事業に使った最初の事業年度(個人は年分)だけで、取得価額の50%を超える改修をした場合は使えないなどの制限があります。詳しくは中古建物の耐用年数(簡便法)と否認された事例をご覧ください。
なお、中古資産を取得して取得前と異なる用途に使う場合について、国税庁の質疑応答事例(貨車を倉庫等として使用する場合の耐用年数)は、合理的な見積りが困難なときは、用途変更後の残存耐用年数の割合が変更前と等しいとみなす算式によってよいとしています。中古の住宅を買ってホテルとして使う場合の考え方の参考になります。
附属設備と備品
ホテルは、建物本体以外の資産が多いのが特徴です。主なものの耐用年数は次のとおりです(耐用年数省令別表第一)。
| 資産 | 耐用年数 |
|---|---|
| 電気設備(照明設備を含む、蓄電池電源設備以外) | 15年 |
| 給排水・衛生設備、ガス設備 | 15年 |
| 冷暖房設備(冷凍機の出力22kW以下) | 13年(その他は15年) |
| エレベーター | 17年 |
| 消火・排煙・災害報知設備 | 8年 |
| 応接セット・その他の家具(接客業用) | 5年 |
| カーテン・座ぶとん・寝具など繊維製品 | 3年 |
| じゅうたんなど床用敷物(接客業用) | 3年 |
| テレビなどの音響機器 | 5年 |
| 電気冷蔵庫・電気洗濯機など | 6年 |
| 食事・ちゅう房用品(陶磁器製・ガラス製) | 2年 |
建物と附属設備・備品を見積書の段階で分けておくと、償却の計算が実態に近づきます。区分の考え方は建物と建物附属設備・構築物の区分、少額な備品の扱いは少額減価償却資産・一括償却資産と貸付用資産の除外で解説しています。
法人と個人で違うところ
| 項目 | 法人 | 個人 |
|---|---|---|
| 根拠 | 法人税法31条、耐用年数省令 | 所得税法49条、耐用年数省令 |
| 建物の償却方法 | 定額法(平成10年4月1日以後取得)。附属設備・構築物も平成28年4月1日以後取得分は定額法 | 同左 |
| 償却費の計上 | 償却限度額の範囲内で損金経理した金額(任意償却) | 計算した償却費を必要経費に算入(強制償却) |
| 期中の転用 | 法人税基本通達7-4-2 | 所得税基本通達49-18 |
| 中古の簡便法 | 事業の用に供した事業年度のみ | 業務の用に供した年分のみ |
法人は償却費の計上額を限度額の範囲内で調整できますが、償却不足は銀行から「本来の利益より良く見せている」と見られることがあります。詳しくは法人の任意償却と償却不足を銀行はどう見るかをご覧ください。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る裁決事例:耐用年数の判断
国税不服審判所の公表裁決事例から、ホテル・旅館の耐用年数を考えるうえで参考になるものを紹介します。
構造は主要構造部で判定する(平成11年8月27日裁決)
- 出典:国税不服審判所 平成11年8月27日裁決(裁決事例集No.58・161頁)[裁決全文]
- 事案:登記上は鉄筋コンクリート造の共同住宅で、床や階段などに木造を多く使った建物について、請求人は折衷様式だから耐用年数を見積もるべきだとして短縮を求めました。
- 判断:建物の構造様式は骨格である主要構造部で判定するのが相当であり、耐力壁が鉄筋コンクリートなら「鉄筋コンクリート造のもの」に当たるとして、短縮申請の却下を適法としました。
- 示唆:内装に木材を多用していても、構造の判定は主要構造部で行います。木造内装の多いRC造の旅館は「木造」になるのではなく、RC造の中で31年の区分に当たるかどうかの問題になります。
建具・ユニットバスは「建物」(平成2年1月30日裁決)
- 出典:国税不服審判所 平成2年1月30日裁決(裁決事例集No.39・201頁)[裁決要旨]
- 判断:「器具及び備品」は、建物と構造上独立・可分で、建物本来の効用を維持する目的以外の固有の目的で設置されたものであることを要するとし、鋼製建具・木製建具・畳敷物・ユニットバスは建物に当たり、器具及び備品には当たらないとしました。
- 示唆:客室の建具や浴室ユニットを「備品」として短い耐用年数で償却することはできません。備品として扱えるのは、建物から独立した家具や寝具などです。
中古の見積りは最初の年だけ(平成25年12月17日裁決)
- 出典:国税不服審判所 平成25年12月17日裁決[裁決全文]
- 判断:中古資産の見積法等による耐用年数の算定は、取得して事業の用に供した最初の事業年度に限ってでき、その後の事業年度に変更することはできないとされました。
- 示唆:中古ホテルを買った年の申告で、法定耐用年数か簡便法かを決める必要があります。
会計上の扱いと銀行の見え方
会計上は「相当の償却」
企業会計では、減価償却は資産の使用実態に応じて規則的に行い、会社計算規則5条2項も償却すべき資産について相当の償却を求めています。中小企業では税法の耐用年数を会計上もそのまま使うのが一般的ですが、ホテルは内装・設備の更新周期が短い事業でもあります。税法の耐用年数と、実際の改装サイクルのずれを経営者自身が把握しておくことが大切です。
銀行の見え方
| 見られる数字 | 耐用年数が短い場合の影響 |
|---|---|
| 経常利益 | 償却費が増えて小さくなる |
| 償却前利益 | 変わらない(返済能力そのものは同じ) |
| 建物の簿価・純資産 | 簿価が早く減り、借入残高を下回ると債務超過に近づく |
| 融資期間 | 法定耐用年数の残りを目安にする銀行では、期間が短くなり返済が重くなることがある |
著者自身、2019年に複数の銀行から融資を止められた原因は、減価償却が速い物件が多く、貸借対照表上の資産の簿価よりも負債の金額が大きい債務超過の状態に陥っていたことでした。耐用年数の短い資産は、償却前利益が十分でも、BSの見え方で評価を下げることがあります。償却費と銀行の見方は減価償却費と銀行の見方、融資期間との関係は融資期間と耐用年数の関係をご覧ください。
実務のチェックポイント
- 建物の構造(主要構造部)と用途(ホテル・旅館用か)を確認したか
- RC造なら、木造内装部分の面積割合を図面と内装仕上げ表で集計したか
- 複数用途の建物は、用途の判定根拠を記録したか
- 転用した年は、転用後の耐用年数に切り替えたか(期首からの一括適用を使うか)
- 中古なら、簡便法を最初の年に選んだか。50%超の改修をしていないか
- 建物・附属設備・備品を見積書の段階で区分したか(建具・ユニットバスは建物)
- 償却費の増加で、経常利益・簿価・純資産と融資期間がどう変わるか試算したか
まとめ
- ホテル・旅館用の建物は、RC造39年(木造内装3割超は31年)、木造17年など、住宅用より短い
- 木造内装部分は、顧客が直接使う部分のうち相当の費用をかけた内装で判定する
- 転用したら転用後の用途の耐用年数へ。中古の簡便法は最初の年にしか選べない
- 建具・ユニットバスは建物、家具・寝具などは接客業用の短い耐用年数が使える
- 短い耐用年数は経常利益と簿価を早く減らす。融資期間とBSへの影響まで試算する
ホテル・旅館の取得や転用では、耐用年数の判断が、その後の決算書と融資条件を左右します。クレフティの不動産投資家向けサービスでは、取得前の償却計画から、銀行に伝わる決算書づくりまでご相談いただけます。
