都心部では、土地の所有権ではなく借地権付きの建物として売りに出される物件があります。土地の所有権付きより価格が抑えられるため、利回りが高く見えることも少なくありません。一方で、税務上は、買った代金が減価償却できる建物と、減価償却できない借地権に分かれます。さらに、地主への承諾料、毎月の地代、更新料と、所有権の物件にはない支出が続きます。
この記事では、借地権付き建物を取得したときの取得価額の区分、借地権の取得価額に入るもの、地代と更新料の処理、消費税、相続税の評価、公表裁決、決算書の表示と銀行からの見え方を整理します。
- 借地権付き建物の代金は、建物(償却できる)と借地権(償却できない)に区分する
- 借地権の対価部分が建物等の購入代価のおおむね10%以下なら、区分せず建物等に含めることができる
- 借地契約に当たり支出した手数料、整地費用、増改築の承諾料なども借地権の取得価額
- 地代は期間の費用。更新料は帳簿価額に加算したうえで一部を損金(必要経費)にする特別な計算
- 相続税では、借地権は自用地価額×借地権割合、貸している建物の借地権は貸家建付借地権として評価
- 銀行は、借地権の残存期間と地主の承諾を重く見る。融資の期間・担保評価に影響する
取得価額の区分:建物と借地権
借地権は減価償却しない
借地権(建物の所有を目的とする地上権または土地の賃借権)は、税務上「土地の上に存する権利」として、土地と同じく減価償却しない資産です。建物の購入代価のうち借地権の対価と認められる部分は、借地権の取得価額になります(法人税基本通達7-3-8(1)、所得税基本通達38-12(1))。
ただし、借地権の対価と認められる部分の金額が、建物等の購入代価のおおむね10%以下であるときは、強いて区分せず建物等の取得価額に含めることができます(同通達のただし書)。借地権の価値が小さい物件では、この簡便な取扱いが使えます。
区分の方法
売買契約書に建物と借地権の価額が分けて記載されていれば、それが基礎になります。記載がない場合は、建物と借地権それぞれの価額の比率で区分します。借地権の価額は、相続税の路線価に示される借地権割合や、不動産鑑定評価などを手がかりにします。按分の考え方は土地と建物の按分方法と争いになった裁決事例が参考になります。
借地権の取得価額に含まれるもの
法人税基本通達7-3-8と所得税基本通達38-12は、借地権の取得価額には、借地権の対価として土地所有者または借地権者に支払った金額のほか、次の金額を含むとしています。
| 費用 | 扱い | 根拠 |
|---|---|---|
| 建物の購入代価のうち借地権の対価と認められる部分 | 借地権の取得価額(10%以下なら建物に含めることも可) | 7-3-8(1)、38-12(1) |
| 賃借した土地の改良のための地盛り・地ならし・埋立て等の整地費用 | 借地権の取得価額 | 7-3-8(2)、38-12(2) |
| 借地契約に当たり支出した手数料その他の費用 | 借地権の取得価額 | 7-3-8(3)、38-12(3) |
| 建物の増改築に当たり土地の所有者等に支払った費用(増改築承諾料) | 借地権の取得価額 | 7-3-8(4)、38-12(4) |
| 借地権の譲渡に伴い地主に支払う承諾料(名義書換料) | 借地権の取得価額に含めるのが一般的 | 借地契約の更改に当たり借地権の対価として支払う金額 |
| 仲介手数料 | 建物と借地権に配分 | 購入のために要した費用 |
通達の「借地契約」には、契約の更新・更改も含まれます。借地権の譲渡に伴って地主に払う承諾料は、地主との関係で新たに借地契約上の地位を得るための支出として、借地権の取得価額に含めて考えるのが一般的です。
取得後の支出:地代・更新料・承諾料
地代は期間の費用
毎月の地代は、土地を借りている期間の対価なので、法人は損金、個人は不動産所得の必要経費です。前払いした地代は、対応する期間で費用にします。
更新料は「加算して一部を損金」
借地権の存続期間の更新に当たって更新料を払ったときは、次のように計算します(法人税法施行令139条、所得税法施行令182条)。
更新料の全額をその期の費用にすることはできず、全額を資産にしたままにするのでもありません。古い借地権の価値の一部が更新によって入れ替わったと考え、その部分だけを費用にする仕組みです。更新時の借地権の価額の根拠(借地権割合を使った試算など)を残しておきましょう。
法人と個人の違い
| 論点 | 法人 | 個人 |
|---|---|---|
| 借地権の取得価額 | 減価償却しない。売却時の譲渡原価 | 減価償却しない。売却時の取得費 |
| 地代 | 損金 | 不動産所得の必要経費 |
| 更新料 | 法人税法施行令139条の計算 | 所得税法施行令182条の計算 |
| 借地権を取得するための借入金の利子 | 損金 | 不動産所得が赤字の場合、土地等(土地の上に存する権利を含む)の取得のための負債の利子として損益通算が制限される部分に当たる |
個人の損益通算の制限は借入金利子の処理と土地部分の利子の損益通算制限で解説しています。
消費税
借地権の設定・譲渡の対価、更新料や名義書換料は、土地の上に存する権利の設定・譲渡または土地の貸付けの対価として非課税です(消費税法基本通達6-1-3、国税庁タックスアンサー「No.6225 地代、家賃や権利金、敷金など」)。地代も、土地の貸付けの対価として原則非課税です。建物の購入代価は課税されるため、建物と借地権の区分は消費税の計算にも影響します。
相続税の評価:借地権と貸家建付借地権
借地権付きの賃貸物件を相続したときは、建物と借地権をそれぞれ評価します。
| 財産 | 評価方法の概要 | 根拠 |
|---|---|---|
| 借地権(普通借地権) | 自用地としての価額×借地権割合 | 財産評価基本通達27 |
| 貸家の敷地の借地権(貸家建付借地権) | 借地権の価額−借地権の価額×借家権割合×賃貸割合 | 同28 |
| 定期借地権等 | 原則として、借地権者に帰属する経済的利益と存続期間を基に評価(一定の場合は簡便な算式) | 同27-2 |
| 建物(貸家) | 固定資産税評価額−固定資産税評価額×借家権割合×賃貸割合 | 貸家の評価 |
借地権割合は路線価図・評価倍率表に示されています(国税庁タックスアンサー「No.4611 借地権の評価」)。借地権の取引慣行があると認められる地域以外の借地権は、評価しない取扱いもあります(財産評価基本通達27のただし書)。賃貸割合と空室の考え方は賃貸物件の相続税評価で詳しく扱っています。
なお、個人が所有する土地に同族法人が建物を建てる場合などは、権利金の授受がないと借地権の認定課税が問題になり、「相当の地代」や「土地の無償返還に関する届出書」の扱いを別途検討する必要があります。借地権付き建物を買う場面とは論点が異なるため、計画段階で税理士に相談してください。
公表裁決:事業用借地権の一時金は借地権の取得価額
平成14年9月17日裁決(裁決事例集No.64・311頁)
遊技場を営む法人が、パチンコ店舗の所有を目的とする事業用借地権の設定に当たり、土地の賃貸人に一時金3,000万円(理由のいかんを問わず返還されないもの)と保証金4,000万円(明渡し後に返還)を払い、いずれも創立開業費として資産計上した後、全額を償却費として損金に算入した事案です。保証金の部分は、調査の指摘を受けて修正申告しています。
請求人は、事業用借地権は借地借家法で新たに設けられたもので、法人税法の想定する借地権とは内容が異なると主張しました。審判所は、事業用借地権は存続期間が定められ更新などの規定が適用されないものの、法人税法上の「土地の上に存する権利」から除外する規定もないとして、土地の上に存する権利に含まれるとし、土地所有者に支払った返還されない一時金は借地権の取得価額に算入すべきで、損金の額に算入できないと判断しました(国税不服審判所)。
実務への示唆:存続期間が決まっている定期借地権でも、権利金などの返還されない一時金は、税務上は借地権の取得価額として扱われ、開業費などとして償却することはできません。期間が限られている分、投資の回収計画は建物の償却と家賃収入で組み立てる必要があります。
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不動産投資家向け税務・融資支援を見る会計上の扱いと決算書の表示
企業会計(一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)。中小企業では「中小企業の会計に関する指針」や「中小企業の会計に関する基本要領」など)では、借地権は無形固定資産として表示するのが一般的です。建物は有形固定資産、借地権は無形固定資産と、BSの中で表示場所が分かれます。
会計上も、取得価額は購入代価に付随費用を加えた額です。承諾料や仲介手数料を販管費に入れてしまうと、取得の期の営業利益を不必要に押し下げます。区分の判断は、税務上の扱いと会計上の表示を分けて、取引の実態に沿って行います。
銀行からの見え方
| 論点 | 銀行が見るポイント |
|---|---|
| 減価償却費 | 代金のうち借地権の部分は償却できないため、所有権の物件より減価償却費が小さい。償却前利益に足し戻す額も小さくなる |
| 純資産 | 借地権は無形固定資産。担保評価や実態評価で、簿価どおりに見てもらえるとは限らない |
| 担保と承諾 | 建物に抵当権を設定するのが基本で、金融機関から地主の承諾書を求められることが多い |
| 融資期間 | 定期借地権では残存期間が融資期間の上限の目安になりやすい |
| 地代の負担 | 地代は毎月の固定費。返済原資の計算で差し引かれる |
借地権付き建物は、購入価格が抑えられる分、利回りが高く見えます。しかし、地代を差し引いた実質の収支、償却できない借地権の比率、融資の期間と金額の制約を織り込むと、所有権の物件と比べた有利・不利は物件ごとに変わります。購入前に、地代控除後の収支と、借地権の残存期間に見合う返済計画を試算しておくと、銀行との話も進めやすくなります。収支の見方はICRの考え方も参考にしてください。
実務のチェックポイント
- 売買代金を建物と借地権に区分したか(借地権が10%以下なら簡便な取扱いも検討)
- 地主への承諾料、借地契約の手数料、整地費用を借地権の取得価額にしたか
- 仲介手数料などの付随費用を、建物と借地権に配分したか
- 借地契約の種類(普通借地権か定期借地権か)、残存期間、更新の条件を確認したか
- 更新料を払う時期を把握し、法人税法施行令139条・所得税法施行令182条の計算に必要な資料を準備したか
- 建物の消費税と、借地権(非課税)の区分を合わせたか
- 融資の前に、地主の承諾書の取得や担保設定の条件を確認したか
- 相続を見据えて、借地権・貸家建付借地権の評価を試算したか
まとめ
- 借地権付き建物の代金は、償却できる建物と償却できない借地権に区分する(借地権が10%以下なら建物に含めることも可)
- 承諾料・手数料・整地費・増改築承諾料などは借地権の取得価額
- 地代は期間の費用、更新料は帳簿価額に加算したうえで一部を損金(必要経費)にする
- 事業用借地権など定期借地権の返還されない一時金も、借地権の取得価額とされた裁決がある
- 相続税では借地権・貸家建付借地権として評価。銀行は残存期間と地主の承諾、地代控除後の収支を見る
物件取得時の諸費用の全体像は物件取得時の諸費用一覧、相続の準備は相続税の準備でも解説しています。借地権付き物件の取得と融資のご相談は、不動産投資家向けサービスをご覧ください。
