決算書と銀行格付け

不動産会社の月次試算表と銀行への提出|賃貸・売買特有の月次処理と、決算とのずれを防ぐ方法

「試算表をください」。新しい融資を相談したとき、あるいは決算から半年たったころ、銀行からこう言われることがあります。そのとき、3か月前の、減価償却費も入っていない試算表しか出せない会社と、前月分の精度の高い試算表をすぐに出せる会社では、銀行の受け止め方がまったく違います。

試算表の一般的な見られ方は試算表を銀行に提出するときのポイントで解説しています。この記事では、不動産会社ならではの月次処理に絞って、試算表の精度を上げる方法、税務と会計の関係、銀行への出し方を解説します。

この記事の結論
  • 不動産会社の月次試算表は、家賃の発生主義での計上、管理会社の送金明細の総額計上、減価償却費・固定資産税・保険料の月割り、借入金の元本と利息の区分で精度が決まる
  • 販売用不動産を仕入れる会社は、取得費用を取得価額に入れるか費用にするかを月次の段階で決めておく
  • 税務上の損金算入と決算書の表示区分は別の問い。月次の段階から決算と同じ区分で処理しておけば、決算とのずれが小さくなる
  • 月次の数字は、中間申告(仮決算)、決算前の対策、銀行への説明の土台になる

月次試算表は「毎朝の体重計」

著書では、年に1度の決算を「人間ドック」、毎月の月次チェックを「毎朝の体重計」にたとえています。体重計に毎日乗る人は1キロ増えた時点で気づけますが、年に1度しか乗らない人は、気づいたときには10キロ太っている。決算書も同じで、月次で異変に気づければ小さな修正で済みます。

著書ではまた、毎月の月次決算を早めに締めて資産・負債の一覧表を更新し、物件ごとの時価評価、残債、含み損益、債務償還年数・ICR・残債利回り・自己資本比率などの主要指標を1枚のシートにまとめて、銀行からの資料請求にすぐ応えられるようにしておくことを勧めています。

不動産会社特有の月次処理

項目月次でやるべき処理やらないと起きること
家賃収入その月分の家賃を発生主義で計上し、未収・前受を管理入金月のずれで売上が月ごとに大きくぶれる
管理会社の送金送金明細をもとに、家賃収入と管理料・修繕費などを総額で計上売上・経費が過小になり、消費税の区分も崩れる
減価償却費年間見込額を月割りで計上決算で利益が急に下がる
固定資産税・都市計画税年税額を月割り、または納期ごとの計上を毎年同じ方法で納期の月だけ赤字になる
火災保険料(長期一括)前払費用から月割りで費用化支払月に費用が集中する
借入金の返済返済予定表で元本と利息を分け、残高を突き合わせる元本まで費用にして利益が過小になる
敷金・保証金預り金として負債に計上。償却分は契約どおり収益に収入と預り金が混ざる
大きな工事修繕費か資本的支出か、見積書の段階で区分の方針を決める決算で区分が変わり、利益が大きく動く

管理会社の送金明細は「総額」で

管理会社から届くのは、家賃から管理料、修繕費、広告料、清掃費などを差し引いた純額です。この純額をそのまま「家賃収入」とすると、売上高も費用も実際より小さく表示されます。稼働率や経費率といったKPIも読めません。KPIと決算書のつなぎ方は賃貸業のKPI(稼働率・NOI・経費率)と決算書で扱っています。

家賃は「いつの分か」で計上する

法人は、家賃を期間に対応させて計上するのが基本で、翌月分を当月に受け取る契約なら、受け取った月は前受金として処理します。月次の段階でこの管理をしておけば、決算での修正がほとんど不要になります。計上時期の考え方は家賃収入の計上時期をご覧ください。

消費税の区分も月次で整える

不動産会社の取引は、住宅家賃(非課税)、店舗・事務所家賃や駐車場収入(課税)、土地の売却(非課税)、建物の売却(課税)と、消費税の区分が入り混じります。月次の段階で取引ごとに区分しておかないと、決算でまとめて直すことになり、課税売上割合や納税額の見込みも立ちません。建物の取得や売却を予定している期は、月次で課税売上割合の推移を見ておくと、仕入税額控除の計算方法を検討する材料になります。

販売用不動産を扱う会社の月次処理

買取再販や開発を行う会社では、次の処理が試算表の精度を左右します。

  • 物件ごとに、取得価額(購入代金、仲介手数料、登記費用など)、工事費、販売費を集計する
  • 不動産取得税・登録免許税などの取得費用を、取得価額に入れるか費用にするか、会社の方針で毎回同じに処理する
  • 売却した物件は、売上高と売上原価(その物件の簿価)を同じ月に計上する
  • 長く売れていない物件は、売却見込額との比較を毎月見ておく

販売用不動産の評価は販売用不動産の評価損(低価法)と税務で解説しています。

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税務上の扱いと会計上の表示:月次から決算と同じ区分で

月次試算表は、企業会計原則や中小企業の会計に関する指針・要領など、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に沿って作る決算書の「途中経過」です。法人税法22条4項も、収益・費用の額は一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算するとしています。

法人と個人の違い

項目法人個人
月次試算表の位置づけ決算書・申告の土台。中間申告(仮決算)にも使う法的な義務はないが、青色申告の帳簿の日々の記帳が前提
減価償却費損金経理した額のうち償却限度額まで損金。月次は見込みで計上し、決算で確定年分の償却費を必要経費に(強制償却)
家賃の計上時期期間対応(発生主義)が基本契約上の支払日が基本
中間申告前期実績の予定申告か仮決算かを選べる(条件あり)予定納税(減額申請の制度あり)

区分の判断は月次の段階から

税務上は損金算入が認められるかが論点になります。一方、決算書の表示区分(売上高か営業外収益か、販管費か特別損失か、資産計上か費用処理か)は、企業会計の基準(GAAP)に沿って判断する必要があり、どの区分にできるかは取引の実態次第です。

たとえば大規模修繕を、月次では「修繕費(販管費)」に入れておき、決算で資本的支出や特別損失に振り替えると、期中に銀行に出した試算表と決算書の利益が大きく違ってしまいます。見積書の段階で税務上の区分と表示区分の方針を顧問税理士と決め、月次から同じ区分で処理しておけば、銀行への説明も一貫します。大規模修繕の区分は大規模修繕と特別損失をご覧ください。

中間申告と月次試算表

法人税と消費税の中間申告には、前期の実績による予定申告と、半年分(消費税は中間申告の対象期間分)の決算を組む仮決算があります。仮決算は、仮決算で計算した税額が予定申告の税額を超える場合には使えないなどの条件がありますが、業績が前期より下がっている会社では、中間納付を減らせることがあります。年間の税額は変わらず、変わるのは納めるタイミングです。

当事務所の公開事例でも、年商5〜10億円の不動産売買・賃貸業の会社に中間申告の方法を提案し、予定納税を減らして資金繰りに余裕をつくったケースがあります。仮決算を選ぶには、月次の数字が決算と同じ精度で締まっていることが前提です。詳しくは中間申告と予定納税の仕組みをご覧ください。

銀行からの見え方:試算表は「今」の格付け材料

銀行は決算書で格付けをしますが、決算から時間がたつほど、試算表で直近の状況を確認します。

銀行が試算表で見ること不動産会社でのポイント
前期の同じ時期との比較物件の売却・取得で売上が大きく動いた理由
営業利益・経常利益の水準減価償却費を月割りで入れたうえでの利益か
借入金と現預金の残高返済予定表・通帳と一致しているか
債務償還年数・ICRの見込み年換算した利益で、著書のモデルの目安(債務償還年数10年以内)に収まるか
財務制限条項期末に抵触しそうな指標がないか

融資契約に財務制限条項がある場合、決算の3か月前に試算表で指標を試算しておくと、対策の時間がとれます。条項の考え方はDSCR・LTVと財務制限条項で解説しています。

年換算するときの注意

期中の試算表を12か月分に換算して指標を見るときは、不動産業特有の季節性に注意が必要です。

  • 入退去が集中する時期は、原状回復費や広告料が増え、稼働率も一時的に下がる
  • 固定資産税・都市計画税を納期ごとに計上している会社は、納期の月に費用が偏る
  • 物件の売却益は一度きりの利益で、そのまま12か月分に換算できない
  • 大規模修繕は工事の完了月に費用が立つため、月次の利益を大きく押し下げる

こうした要因を、銀行に出すときに一言添えておけば、「この月だけ赤字になっている理由」を聞かれる前に説明できます。前年同月との比較を並べた月次推移表にすると、季節性が見えやすくなります。

提出のタイミングと添える資料

  • 月末から1か月以内に締められる体制をつくる
  • 試算表と一緒に、物件一覧(取得時期、融資残高、賃料、稼働率)と借入一覧を出す
  • 前期との大きな差には、一言の説明を添える
  • 数字が悪い月こそ、銀行に聞かれる前に理由と対策を説明する

実務のチェックポイント

  • 月末から1か月以内に、前月の試算表を締められているか
  • 管理会社の送金明細を、家賃収入と費用の総額で計上しているか
  • 減価償却費・固定資産税・保険料を、月割りなど毎年同じ方法で計上しているか
  • 借入金残高を返済予定表と、現預金を通帳と、毎月突き合わせているか
  • 大きな工事の税務上の区分と表示区分を、見積書の段階で決めているか
  • 決算の3か月前に、試算表で利益・納税額・主要指標の見込みを確認しているか

まとめ

  • 不動産会社の月次試算表は、家賃の発生主義、管理会社の送金明細の総額計上、減価償却費などの月割り、元本と利息の区分で精度が決まる
  • 税務上の損金算入と決算書の表示区分は別の問い。月次の段階から決算と同じ区分で処理すれば、試算表と決算書のずれが小さくなる
  • 月次の数字は、中間申告(仮決算)、決算前の対策、財務制限条項の確認の土台になる
  • 精度の高い試算表をすぐに出せることが、銀行の信頼につながる。処理の方針は顧問税理士・会計の専門家と検討する

月次の締めから銀行への提出資料までの体制づくりは、不動産投資家向けサービスでご支援しています。

よくある質問

管理会社から届く送金額だけを家賃収入として計上してもよいですか?
おすすめしません。送金額は、家賃から管理料・修繕費・広告料などを差し引いた純額です。純額で計上すると、売上高も経費も実際より小さく表示され、稼働率や経費率が読めなくなります。消費税の計算でも、課税売上と課税仕入を正しく区分できなくなるおそれがあります。管理会社の送金明細をもとに、家賃収入と差し引かれた費用を総額で計上するのが基本です。
月次試算表で減価償却費を計上しないと、何が問題ですか?
月次の利益が実際より大きく見え、決算で一気に減価償却費を計上したときに、利益が大きく下がります。銀行は期中の試算表と決算書を比べるため、差が大きいと試算表全体の信頼性が下がります。年間の見込み額を12で割って毎月計上しておけば、試算表と決算書の差を小さくできます。
月次試算表は、税務申告にも関係しますか?
月次試算表そのものは申告書ではありませんが、法人税・消費税の中間申告を仮決算で行う場合は、半年分の決算を組む必要があり、月次の精度がそのまま効きます。また、決算前に試算表で利益の見込みを把握しておけば、役員報酬や修繕の時期、納税資金の準備を前もって検討できます。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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