決算書と銀行格付け

賃貸業のKPI(稼働率・NOI・経費率)と決算書|物件の数字を銀行格付けにつなげる読み方

物件を買うときには表面利回りを見ても、買った後は決算書の数字しか見ていない。そんな賃貸業の会社は少なくありません。しかし銀行は、決算書の数字の裏にある物件ごとの稼ぐ力を知りたがっています。それを示すのが、稼働率・NOI・経費率といった賃貸業のKPIです。

KPIは経営管理の数字で、税務の申告や決算書の表示のルールとは別物です。この記事では、主なKPIの計算方法、決算書とのつなげ方、税務と会計の違い、銀行が見るポイントを解説します。

この記事の結論
  • 賃貸業の基本KPIは、稼働率(部屋数と賃料の両方)、NOI(賃料収入−運営費)、経費率、残債利回り
  • NOIは減価償却費と支払利息を含まない「物件の稼ぐ力」。決算書の営業利益とは別の数字なので、つなぎ方を説明できるようにする
  • KPIは管理のための数字で、税務上の計上額とは一致しないことがある。フリーレントの賃料を均等にならして計上した処理が否認された裁決もある
  • 決算書の表示区分(賃貸原価か販管費か、売上高か営業外収益か)は会計の基準で実態から判断する。KPIの設計と併せて顧問税理士と検討する

賃貸業の主なKPIと計算方法

KPI計算式何がわかるか
稼働率(部屋数)入居中の戸数 ÷ 総戸数空室の多さ
稼働率(賃料)実際の賃料収入 ÷ 満室想定賃料空室・値下げ・フリーレントの影響を含めた稼ぎ
NOI賃料収入等 − 運営費(管理費・修繕費・固定資産税・保険料・水道光熱費など)物件そのものの稼ぐ力
経費率(OPEX率)運営費 ÷ 賃料収入等運営の効率
NOI利回りNOI ÷ 取得価格(または簿価)投資に対する実質の利回り
残債利回り年間の家賃収入 ÷ 融資残高借入に対する稼ぐ力

稼働率は「部屋数」と「賃料」の両方で見る

部屋数ベースの稼働率が95%でも、賃料の高い店舗区画が空いていれば、賃料ベースでは大きく下がります。逆に、入居率は高いのに賃料を下げて埋めている場合も、賃料ベースの稼働率で初めて見えます。決算書の売上高と直接つながるのは賃料ベースです。

NOIは減価償却費と支払利息を含めない

NOI(Net Operating Income)は、物件の収入から運営に必要な費用を引いたものです。減価償却費(お金が出ない費用)と支払利息(借り方の問題)を含めないため、物件そのものの稼ぐ力を、借入の条件や取得時期に左右されずに比べられます。

残債利回りは借入とのバランスを見る

著書では、売却すべき物件を判断する指標として「残債利回り」(グロス家賃収入÷融資残高)を挙げ、6%を下回る物件はポートフォリオ全体の債務償還年数を押し上げている可能性が高いとしています。計算方法と使い方は残債利回りとはで詳しく解説しています。

KPIは「物件ごと・毎月」に記録する

KPIは、年に一度決算書から逆算するのではなく、物件ごとに毎月記録してこそ意味があります。稼働率が下がり始めた物件、修繕費がかさみ始めた物件は、月次の数字で早めに気づけます。目標値は、物件の種類・立地・築年数で大きく違うため、他社の数字よりも、同じ物件の過去の推移と比べるのが実務的です。管理会社の月次報告をそのまま綴じるのではなく、自社の一覧表に転記して推移を見られるようにしておくと、銀行への説明資料にもそのまま使えます。

KPIと決算書(PL)をつなげる

KPIは物件ごと、決算書は会社全体の数字です。銀行に説明するときは、両者のつながりを示せると説得力が増します。

物件別のKPI集計決算書(PL)との対応
賃料収入等の合計売上高(家賃・共益費・駐車場収入など)
運営費の合計賃貸原価または販管費の一部
NOIの合計減価償却費・本社経費を引く前の利益
NOI − 減価償却費 − 本社経費(役員報酬など)営業利益
営業利益 − 支払利息 ± その他経常利益

表示区分は会計の基準で判断する

賃貸に直接かかる費用(管理委託料、修繕費、物件の固定資産税、減価償却費など)を「賃貸原価(売上原価)」として売上総利益の上で表示するか、販管費にまとめて表示するかは、会社の事業の実態と会計方針によります。駐車場や自販機の収入を売上高に入れるか営業外収益に入れるかも同じです。

ここでいう会計の基準とは、企業会計原則や中小企業の会計に関する指針・要領など、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)です。法人税法22条4項も、収益・費用の額は「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って計算するとしています。

税務上は損金算入が認められるかが論点になります。一方、決算書の表示区分(売上高か営業外収益か、販管費か特別損失か、資産計上か費用処理か)は、企業会計の基準(GAAP)に沿って判断する必要があり、どの区分にできるかは取引の実態次第です。付帯収入の区分は「収益は上に、費用は下に」:PLの表示区分と銀行格付けをご覧ください。

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KPIの数字と税務上の扱い:法人と個人の違い

KPIを計算するときに使う費用の多くは、税務上も損金・必要経費になります。ただし、扱いが法人と個人で違うものがあり、KPIの比較に影響します。

項目法人個人KPIへの影響
修繕費修繕費なら損金、資本的支出なら資産計上同じ考え方資本的支出はNOIから外れ、毎年の減価償却費になる
固定資産税原則、賦課決定の日の事業年度の損金(納期の開始日・実際の納付日の事業年度で損金経理も可)原則、賦課決定のあった年の必要経費(納期開始日・納付日の年も可)年をまたいだ計上のずれに注意
家族・役員への給与役員給与は定期同額などの要件青色事業専従者給与は届出・事業的規模などの要件本社経費としてNOIの外に置くのが一般的
減価償却費損金経理した額のうち償却限度額まで強制償却NOIに含めない
支払利息損金必要経費(土地取得部分の利子は損益通算に制限あり)NOIに含めない

修繕費か資本的支出かの区分は、NOIを大きく動かします。同じ工事でも、修繕費ならその年のNOIを押し下げ、資本的支出なら翌年以降の減価償却費になります。KPIを年ごとに比べるときは、大きな工事の扱いを注記しておくと誤解されません。判断の基準は修繕費と資本的支出の違いをご覧ください。

裁決事例:フリーレントの賃料を均等にならした処理は認められなかった

KPIの「実質賃料」を考えるとき、フリーレントや賃料減額期間を契約期間全体でならして見ることがあります。しかし、税務上の計上額は別の基準で決まります。

  • 国税不服審判所 平成30年6月15日裁決
  • 事案:事務所を賃借して一部を転貸していた法人が、当初6か月間の賃料が減額される契約について、支払賃料・受取賃料とも、契約期間の賃料総額を月数で均等にあん分した額で損金・益金を計上した
  • 判断:賃料は契約上の各月の賃料に基づいて計算すべきで、均等にあん分した額による計上は認められないとされた(審査請求は棄却)。受取賃料は当時の法人税基本通達2-1-29(使用料等は前受けを除き、契約により支払を受けるべき日の事業年度の益金)、支払賃料は同2-2-12(債務の確定)を前提とした判断で、消費税の計算も契約上の賃料によるとされた
  • 一次情報:国税不服審判所 公表裁決事例

実務への示唆

管理のためのKPIとして、フリーレントを含めた「実質賃料」を均して見ることは有益です。しかし、それをそのまま税務上の計上額にすることはできません。KPIの数字と、申告・決算書の数字を分けて管理することが大切です。また、会計上の扱いは、会社が適用する会計の基準によって検討が必要です。フリーレントや広告料の税務・会計の扱いは空室対策の広告費・AD・フリーレントの処理、家賃の計上時期は家賃収入の計上時期で扱っています。

銀行からの見え方:KPIは格付けの「裏付け」

銀行の格付けは決算書の数字で行われますが、担当者が稟議を書くときに知りたいのは、その数字が来期以降も続くかどうかです。KPIはその裏付けになります。

  • 営業利益・ICR:著書のモデルでは、ICRは(営業利益+受取利息・配当金)÷支払利息。稼働率と経費率が安定していれば、営業利益とICRが続く根拠になる
  • 債務償還年数:(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)。物件別のNOIと返済額の対応を示すと、どの物件が年数を押し上げているかがわかる
  • 担保評価:銀行は収益還元法で物件を評価することがあり、そのもとになるのがNOIに近い純収益

銀行に出すなら「物件一覧」とセットで

物件ごとの所在地、取得時期、取得価格、融資残高、年間賃料、NOI、稼働率を一覧にした資料を決算書に添えると、銀行は決算書の数字を物件単位で分解して理解できます。著書でも、物件ごとの時価評価・残債・含み損益と主要指標を1枚のシートにまとめ、銀行からの資料請求にすぐ応えられるようにしておくことを勧めています。ICRの考え方はICRとは、格付け全体は不動産投資家・賃貸業の法人の銀行格付けをご覧ください。

実務のチェックポイント

  • 稼働率を、部屋数ベースと賃料ベースの両方で毎月記録しているか
  • NOIの計算に、減価償却費と支払利息を混ぜていないか
  • 大規模修繕など一時的な支出があった年は、KPIの注記で説明できるか
  • 物件別NOIの合計から、決算書の営業利益までのつながりを説明できるか
  • フリーレントや賃料減額を、KPIでは実質賃料、税務・決算書では契約どおりの金額と分けて管理しているか
  • 残債利回りの低い物件を、定期的に洗い出しているか

まとめ

  • 賃貸業の基本KPIは、稼働率(部屋数と賃料)、NOI、経費率、残債利回り
  • NOIは物件の稼ぐ力、営業利益は会社の本業の利益。両者のつながりを説明できるようにする
  • KPIは管理の数字で、税務上の計上額とは一致しないことがある。フリーレントを均した処理が否認された裁決がある
  • 決算書の表示区分は会計の基準(GAAP)で、取引の実態から判断する。損金算入の可否と表示の両方を顧問税理士と検討する
  • 物件一覧とKPIを決算書に添えると、銀行は数字を物件単位で理解できる

物件ごとの数字を、銀行に伝わる決算書と資料に整える支援は、不動産投資家向けサービスで行っています。

よくある質問

NOIと決算書の営業利益は何が違いますか?
NOIは物件の賃料収入などから運営費を引いた金額で、減価償却費と支払利息を含めません。決算書の営業利益は、減価償却費や本社の人件費・役員報酬なども差し引いた会社全体の数字です。NOIは物件の稼ぐ力、営業利益は会社の本業の利益を表します。銀行は両方を見るため、物件別のNOIを集計した数字と決算書の営業利益がどうつながるかを説明できるようにしておくと伝わります。
稼働率は部屋数で計算すればよいですか?
部屋数ベースの稼働率だけでは、賃料の高い区画の空室や、フリーレント・賃料減額の影響が見えません。満室時の想定賃料に対して実際にいくら入っているかを示す賃料ベースの稼働率も併せて見ると、決算書の売上高と整合した説明ができます。
フリーレント期間の賃料は、契約期間で均等にならして計上してもよいですか?
法人税では、国税不服審判所の平成30年6月15日裁決が、契約期間の賃料総額を月数で均等にならした額ではなく、契約で定めた減額後の各月の賃料に基づいて益金・損金を計算すべきとしています。KPIとして実質賃料を均して見ることと、税務上の計上額は分けて考え、会計上の扱いは適用する会計基準に照らして顧問税理士と検討してください。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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