入居が決まりにくい時期や競合の多いエリアでは、ポータルサイトへの掲載強化、仲介会社へのAD(広告料)の上乗せ、一定期間の家賃を無料にするフリーレントなど、さまざまな空室対策を組み合わせます。
こうした空室対策の費用は、税務上いつ、どのように経費になるのでしょうか。フリーレントの期間は、家賃収入をどう計上するのでしょうか。この記事では、広告費・AD・フリーレントの税務と会計を整理し、法人と個人の違い、消費税、銀行が見る実質賃料までを確認します。
- ポータル掲載料やチラシなどの広告費は、支出の効果が及ぶ期間の費用(広告宣伝費)。看板など資産になるものは減価償却
- 仲介会社に払うADは、会社に対して取決めに基づき支払うものであれば、入居者募集の費用として損金・必要経費になるのが一般的。担当者個人への謝礼は交際費等の問題になる
- ADは宅建業法の報酬規制とも関係する。名目と実態、請求書の発行元を確認する
- フリーレントは、個人は契約上の支払日基準(所得税基本通達36-5)。法人は期間に応じた計上が原則で、支払を受けるべき日の計上も認められる(法人税基本通達2-1-29)
- 銀行は実質賃料を見る。レントロールにフリーレントとADの条件を明記して説明する
広告費の扱い
入居者募集のための広告費は、法人は損金、個人は不動産所得の必要経費です。
| 支出 | 税務上の扱い | 注意点 |
|---|---|---|
| ポータルサイトの掲載料 | 掲載期間に応じた費用 | 年間契約を一括で払った場合は、支払日から1年以内の役務なら短期前払費用の特例を検討 |
| チラシ・パンフレットの制作 | 原則として費用 | 大量に作り置きした場合は、未使用分を貯蔵品とする考え方もある |
| 看板・のぼり(自分の物件に設置) | 取得価額に応じて減価償却資産 | 少額減価償却資産の特例と、貸付用資産の除外に注意 |
| ホームステージング・モデルルームの家具 | 家具を購入すれば器具備品、レンタルなら期間の費用 | 入居者に引き渡す家具は設備の扱いを検討 |
| 物件紹介動画・写真撮影 | 原則として費用 | 長期間使うウェブサイト制作は内容により資産計上を検討 |
不特定多数の者に対する宣伝的効果を意図する費用は広告宣伝費の性質を持ち、交際費等には含まれません(租税特別措置法関係通達61の4(1)-9)。一方、特定の相手に贈る物品などは、広告の名目でも交際費等とされることがあります。国税不服審判所の昭和53年12月14日裁決(裁決事例集No.17・86頁)は、特定の顧客に贈呈した美術書の費用について、広告宣伝費ではなく交際費等に該当するとしています(公表裁決事例要旨(租税特別措置法関係・交際費等の他の支出との区別))。
AD(広告料)の扱い
ADとは何か
賃貸の募集では、貸主が入居者を見つけてくれた仲介会社(客付け会社)に対して、仲介手数料とは別に「AD」「広告料」などの名目で家賃の1か月分前後を支払う慣行が、地域によって見られます。
宅地建物取引業者が受け取れる報酬には国土交通省告示で上限があり、告示の報酬以外には、依頼者の依頼によって行う広告の料金に相当する額などに限って受け取れるとされています(国土交通省「宅地建物取引業法 法令改正・解釈について」)。ADの名目で支払う金銭が、実際に依頼した広告の費用なのか、実質的には成約報酬なのかは、仲介会社側の法令遵守の問題でもあります。貸主としては、何に対する支払なのかを取決めや請求書で明確にしておくことが大切です。
税務上の扱い
| 支払の相手と形 | 法人 | 個人 |
|---|---|---|
| 仲介会社(法人・事業者)に、取決めに基づき請求書を受けて支払う | 損金(支払手数料・広告宣伝費など) | 必要経費 |
| 仲介会社の担当者個人に、謝礼として現金・商品券を渡す | 原則として交際費等(措通61の4(1)-15(9)) | 業務との関係の説明が難しく、必要経費性が問われる |
| 情報提供を業としない個人に、紹介料として支払う | 事前の契約、具体的な役務、相当な金額などの要件を満たせば交際費等に当たらない(措通61の4(1)-8) | 契約と役務の実態があれば必要経費 |
国税不服審判所の公表裁決にも、取引の相手方の従業員への支払が争われた事例があります。たとえば、得意先の従業員に対するコミッションは交際費等とするのが相当であるとした事例(昭和48年3月19日裁決、裁決事例集No.6・65頁)や、得意先の役員に対しロイヤリティ契約等に基づき支払った手数料は交際費等に当たらないとした事例(平成3年7月10日裁決、裁決事例集No.42・293頁)です(出典は上記の公表裁決事例要旨)。相手が会社か個人か、契約に基づく対価か謝礼かで結論が分かれています。担当者個人への謝礼については不動産業者への個人的なお礼・謝礼の扱いと注意点で詳しく解説しています。
計上の時期
ADは、通常、入居者の賃貸借契約が成立したときに支払義務が確定します。法人・個人とも、債務が確定した期の費用として計上するのが基本です。支払が翌期になる場合は未払金として計上します。
消費税
仲介会社に支払うADは、仲介会社からの役務の提供の対価として課税仕入れになります。仕入税額控除を受けるには、原則として適格請求書(インボイス)の保存が必要です。ただし、住宅の貸付けは非課税売上のため、居住用物件の募集費用に係る消費税は、課税売上割合や個別対応方式の区分によって控除できないことが多い点に注意してください。
フリーレントの扱い
個人:契約上の支払日基準
個人の不動産所得の総収入金額は、契約または慣習により支払日が定められているものはその支払日、定められていないものは支払を受けた日の属する年分に計上します(所得税基本通達36-5)。フリーレント期間に家賃の支払日がない契約であれば、その期間の家賃収入は計上されません。
法人:期間にわたる計上と、支払を受けるべき日の計上
法人税基本通達2-1-29は、資産の賃貸借は履行義務が一定の期間にわたり充足されるものに該当するとし、収入する金額が期間のみに応じて定まっている賃貸借の収益は、通常は毎事業年度定額で益金の額に算入されることになるとしています。そのうえで、ただし書で、契約または慣習により支払を受けるべき日において収益計上を行っている場合には、その日を役務の提供の日に近接する日として認めるとしています(法人税基本通達2-1-29)。
フリーレント付きの契約で、契約期間全体の賃料総額を期間で均等に計上するのか、契約上の支払日に計上するのかは、通達の読み方や契約の内容によって判断が分かれうるところです。どちらの方法をとるかを決めたら、継続して適用してください。
なお、借りる側については、令和7年の通達改正で、無償等賃借期間(フリーレント期間など)を含む賃貸借取引の賃料を、課税上の弊害がない場合に賃借期間にわたって損金算入する取扱いが設けられています(法人税基本通達12の5-3-2)。貸す側の取扱いを直接定めたものではありませんが、フリーレントを期間で按分するという考え方が税務でも示されたことは参考になります。
| 項目 | 個人 | 法人 |
|---|---|---|
| フリーレント期間の家賃収入 | 支払日がなければ計上しない | 期間に応じた計上が原則。支払を受けるべき日の計上も認められる |
| 根拠 | 所基通36-5 | 法基通2-1-29 |
| 方法の選択 | 契約の定めによる | 継続適用を前提に方針を決める |
消費税
フリーレント期間は対価を受け取らないため、その期間について課税売上は生じません。店舗・事務所など課税される貸付けでは、実際に受け取る賃料に基づいて課税売上を計算します。住宅の貸付けは非課税です。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る会計上の扱いと決算書の表示
税務上は、広告費・ADがいつ損金になるか、フリーレント期間の収益をいつ計上するかが論点です。一方、決算書の表示や収益の認識は、企業会計の基準(GAAP:一般に公正妥当と認められる会計基準)に沿って判断します。
- 広告費・AD:不動産賃貸業が本業の法人では、販管費(広告宣伝費・支払手数料)に表示するのが一般的です。物件の取得前・竣工前に先行して出る広告費の扱いは新築時に先行する広告費は資産計上できるかで検討します
- フリーレント:上場企業など新しいリース会計基準(企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」)を適用する会社は、その基準に沿って賃貸収益の計上方法を検討する必要があります。中小企業では、契約に基づいて支払を受けるべき日に計上する処理が多く見られますが、どの方法が実態に合うかは顧問税理士・会計の専門家と確認してください
- 売上高の区分:家賃収入は売上高です。「収益は上に」という考え方で、家賃に付随する収入を売上高に含めることを検討することはありますが、どの区分にできるかは取引の実態次第です。PLの表示区分については「収益は上に、費用は下に」:PLの表示区分と銀行格付けをご覧ください
銀行からの見え方
実質賃料で見られる
銀行は、物件の評価や融資の審査で、レントロール(賃料一覧)を確認します。その際に見るのは、表面の賃料ではなく、フリーレントやADを差し引いた実質的な賃料収入です。
| 条件(月額賃料10万円、2年契約の例) | 2年間の受取賃料 | AD | 実質の月額 |
|---|---|---|---|
| 条件なし | 240万円 | なし | 10万円 |
| フリーレント1か月 | 230万円 | なし | 約9.6万円 |
| フリーレント1か月+AD2か月分 | 230万円 | 20万円 | 約8.75万円 |
数字は説明のための仮定です。表面賃料を維持したままフリーレントやADを重ねると、レントロール上は賃料水準が保たれて見えても、実際の手取りは大きく下がります。銀行が実質ベースで見直すと、物件の収益力や担保評価が想定より低く見積もられることがあります。
説明のしかた
- レントロールに、各住戸のフリーレント期間・AD・礼金などの条件を明記する
- 入金ベースの収支(実際に入った家賃)と、契約ベースの収支を両方示す
- 空室対策の内容と、入居率の推移を示す
- ADが高い状態が続いている場合は、賃料設定やリフォームを含めた改善策を示す
フリーレントを使って表面賃料を高く見せ、売却や借換えの際に高く評価してもらおうとする使い方は、実態と違う評価につながるおそれがあります。銀行との信頼関係のためにも、条件は開示して説明するのが基本です。
実務のチェックポイント
- ADの取決めを残す:対象物件、金額、支払条件、何に対する支払か
- 請求書は会社名義で受け取る:担当者個人への現金の受け渡しは避ける
- ADの計上時期を確認する:入居契約の成立時に債務確定。期末をまたぐものは未払計上
- フリーレントの方針を決める:法人は期間按分か支払日基準か、継続して適用する
- 消費税の区分を確認する:住宅の募集費用は非課税売上に対応する課税仕入れになりやすい
- レントロールに条件を明記する:フリーレント、AD、礼金の有無
- 入金ベースの収支を作る:銀行への説明と、物件の収益管理の両方に使う
管理会社への委託費は管理委託料・BM費・PM費の処理と相場、礼金・更新料などの収入の扱いは礼金・敷金・保証金・更新料・償却敷金の処理、家賃の計上時期は家賃収入の計上時期、銀行の見方は不動産投資と銀行格付けをご覧ください。
まとめ
- 広告費は期間の費用。看板など資産になるものは減価償却
- 仲介会社に取決めに基づいて支払うADは損金・必要経費になるのが一般的。担当者個人への謝礼は交際費等の問題になり、宅建業法の報酬規制にも注意する
- フリーレントは、個人は契約上の支払日基準、法人は期間に応じた計上が原則で、支払を受けるべき日の計上も認められる。方針を決めて継続適用する
- 銀行は実質賃料を見る。レントロールに条件を明記し、入金ベースの収支で説明する
空室対策の費用処理や、銀行に提出するレントロール・収支資料の整え方は、不動産投資家向けサービスでご相談ください。
