中高層のマンションや大きめのアパートを建てるときは、着工前の説明会、工事中の騒音・振動への対応、完成後のテレビの受信障害など、近隣との関係で出ていく費用が避けられません。金額が数百万円にのぼることもあり、「これは建物の代金なのか、その期の経費なのか、交際費なのか」と迷う論点です。
結論は、当初から予定された近隣対策の費用は建物の取得価額、建設後に予期せず生じた損害の補償は一時の費用、同意を得るための接待は交際費等、という整理が基本です。この記事では、通達と国税庁の回答で税務上の扱いを確認し、法人と個人の違い、受け取る側の課税、会計上の表示、銀行からの見え方まで解説します。
- 建設に伴う住民対策費・公害補償費で当初から予定されていたものは、建設後の支払でも建物の取得価額(法人税基本通達7-3-7)。毎年払う補償金は除く
- 建物の完成後に予期せず生じた電波障害の補償は、損害賠償金として一時の費用とした国税庁の回答がある
- 住民の同意を得るための旅行・観劇・酒食は交際費等。日照・風害・電波障害の損害補償の金品は交際費等に当たらない
- 取得価額に含めた交際費等も、支出した期の交際費等の額に含めて損金不算入額を計算する
- 近隣対策の遅れは工期と資金繰りに直結する。費用と合意の状況を記録し、銀行に説明できるようにする
税務上の扱い:3つの場面に分ける
① 当初から予定された住民対策費は取得価額
法人税基本通達7-3-7は、工場、ビル、マンション等の建設に伴って支出する住民対策費、公害補償費等の費用で、当初からその支出が予定されているもの(毎年支出することとなる補償金を除く)は、たとえその支出が建設後に行われるものであっても、その減価償却資産の取得価額に算入するとしています。
建設計画の段階で、日照や電波障害への補償、工事中の騒音・振動への補償などを見込んでいた場合、それは建物を建てるために必要な費用の一部です。着工前に払っても、竣工後に払っても、建物の取得価額に入ります。なお、宅地開発等の許可を受けるために地方公共団体に払う負担金のうち一定のもの(7-3-11の2の(2)(3))は、この取扱いから除かれ、それぞれの性質に応じて無形減価償却資産や繰延資産になります(水道加入金・電気の引込工事負担金の処理)。
② 建設後に予期せず生じた損害の補償は一時の費用
国税庁の質疑応答事例「工場周辺の住民のためにテレビの共聴アンテナを設置する費用」は、もともと所有していた土地に高さ19mの工場を建てた後、周辺住民にテレビの難視聴が生じ、その原因が工場建物にあると判明したため、住民の求めに応じて共聴アンテナを提供した法人の事例です(費用約200万円)。
回答は、この費用は住民に与えた損害を補償するもので、法人が積極的に何らかの便益を受けるものではないから繰延資産に該当しない、また建物の建設後に生じた問題であるから建物の取得価額に算入すべきものとも認められない、したがって一種の損害賠償金として一時の費用として処理して差し支えないというものです。
①との違いは、当初から予定されていたかどうかです。電波障害が事前の調査で予測され、対策工事が建設計画に組み込まれていたなら①、完成後に初めて判明したなら②に近い、と整理できます。
③ 同意を得るための接待は交際費等
措置法通達61の4(1)-15は、交際費等に含まれる費用の例として、「建設業者等が高層ビル、マンション等の建設に当たり、周辺の住民の同意を得るために、当該住民又はその関係者を旅行、観劇等に招待し、又はこれらの者に酒食を提供した場合におけるこれらの行為のために要した費用」を挙げています((7))。そして注書きで、周辺の住民が受ける日照妨害、風害、電波障害等による損害を補償するために当該住民に交付する金品は、交際費等に該当しないとしています。
同じ「近隣対策」でも、損害の補償か、関係づくりのための接待かで扱いが変わります。補償の対象と金額の根拠(日照のシミュレーション、受信障害の調査結果など)を書面で残しておくと、区分の説明がしやすくなります。
法人と個人の違い
| 場面 | 法人 | 個人 |
|---|---|---|
| 当初から予定された住民対策費・補償 | 建物の取得価額(7-3-7) | 所得税基本通達に同じ定めはないが、建設のために要した経費(所得税法施行令126条1項2号)として取得価額に含めるのが自然 |
| 建設後に予期せず生じた損害の補償 | 一時の損金(損害賠償金) | 業務に関連して生じたものなら必要経費 |
| 毎年支払う補償金 | 支払う各期の損金 | 各年の必要経費 |
| 住民の同意を得るための接待 | 交際費等(損金不算入の規定の対象) | 業務との関連性があれば必要経費。交際費等の損金不算入の規定はない |
法人の場合、交際費等を建物の取得価額に含めたときでも、交際費等の損金不算入額の計算では、支出の事実があった事業年度の交際費等として扱います(措置法通達61の4(1)-24(1))。取得価額に入れたことで交際費等の計算から外れるわけではなく、損金不算入額のうち取得価額に含まれている部分は、別途調整します(同61の4(2)-7)。交際費等の全体像は不動産賃貸業の交際費で解説しています。
消費税
損害を補償するための金銭は、資産の譲渡等の対価ではないため、払う側で課税仕入れになりません。一方、共聴アンテナの設置工事を工事会社に発注した代金や、接待の飲食代は課税仕入れです。補償金を現金で渡すのか、工事を発注して設備を提供するのかで、消費税の扱いが変わる点に注意してください。
受け取る側の課税:自分の物件の隣に建物が建つ場合
反対に、所有する賃貸物件の隣に建物が建ち、補償を受け取る側になることもあります。
機能復旧のための補償金
業務の用に供している固定資産について、電波障害、日照妨害、風害、騒音等による機能の低下があり、原因者から機能を復旧するための補償金を受け取って、その目的に合った資産の取得・改良をしたときは、そのうち機能復旧のために支出したと認められる部分は、修繕費等として必要経費(損金)に算入することができます。補償金に代えて原因者から設備の交付を受けた場合なども同様です(所得税基本通達37-14の3、法人税基本通達7-8-7)。
昭和58年4月22日裁決(裁決事例集No.26・51頁):補償料名義の金員を一時所得とした事例
隣接地のマンション建設工事に伴い、補償料の名義で金員を受け取った個人の事案です(要旨のみ公表)。審判所は、請求人の土地は近隣商業地域内にあり中高層建築物の高さの制限も受けていないことから、建物の建築による具体的な土地の利用価値の低下との因果関係は明確でなく、仮に若干の低下があっても社会通念上受忍すべき範囲内であるなどとして、この金員を一時所得と判断しました(国税不服審判所 公表裁決事例要旨)。
実務への示唆:受け取った補償金の所得区分は、何に対する補償か(資産の損害か、業務の収益の補償か、紛争解決のための金銭か)で変わります。合意書に補償の対象と算定の根拠を書いてもらうことが、申告の判断材料になります。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る会計上の扱いと決算書の表示
企業会計(一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)。中小企業では「中小企業の会計に関する指針」や「中小企業の会計に関する基本要領」など)でも、固定資産の取得原価には、その資産を使用できる状態にするまでに必要な付随費用を含めます。建設計画に組み込まれた近隣対策費は、建設仮勘定に集めて竣工時に建物へ振り替えるのが自然です。
一方、完成後に予期せず生じた補償は、その期の費用です。このときPLのどこに表示するかで、銀行が見る数字が変わります。
| 支出 | 税務 | 決算書の表示の例 |
|---|---|---|
| 当初から予定された住民対策費 | 取得価額 | 建設仮勘定 → 建物 |
| 完成後に生じた損害の補償(通常の範囲) | 損金 | 販管費 |
| 完成後に生じた臨時・多額の補償 | 損金 | 実態により特別損失とすることも検討 |
| 住民の同意を得るための接待 | 交際費等 | 交際費(または取得価額に含めて別途調整) |
著書では、PLの整え方として「収益は上に、費用は下に」という考え方を紹介しています。税務上は損金算入が認められるかが論点です。一方、決算書の表示区分(販管費か特別損失か、資産計上か費用処理か)は、企業会計の基準(GAAP)に沿って判断する必要があり、どの区分にできるかは取引の実態次第です。毎期のように生じる補償か、臨時で多額のものかによって判断が変わるため、顧問税理士・会計の専門家と検討してください。
銀行からの見え方
費用の位置で、営業利益・経常利益が変わる
近隣対策費を取得価額に含めれば、その期の利益には影響せず、竣工後に減価償却費として少しずつ費用になります。一時の費用として販管費に計上すれば、その期の営業利益が下がり、営業利益を分子に使うICR(ICRの考え方)も下がります。税務上の区分が先に決まり、そのうえで表示区分を実態に合わせて選ぶ、という順番です。
近隣対策の遅れは、工期と資金繰りに効く
銀行がより気にするのは、近隣との協議が長引いたときの影響です。着工が遅れれば竣工も遅れ、家賃収入が入り始める時期が後ろにずれます。その間も土地の借入金の利息はかかり、建築中の利息の扱い(建築中の借入利息は取得価額か期間費用か)も変わってきます。融資の実行前後には、近隣説明の状況や補償の見込み額を確認されることもあります。
近隣対策の予算は、建築費の見積りとは別枠で、余裕を持って資金計画に織り込んでおくのが安全です。合意書、説明会の記録、補償額の算定根拠をそろえておけば、税務と融資の両方に使えます。
実務のチェックポイント
- 近隣対策の費用を、建設計画の段階で予定していたものと、完成後に生じたものに分けて記録したか
- 当初から予定の住民対策費・補償を、建設仮勘定に集めて建物の取得価額にしたか
- 毎年支払う補償金を、取得価額ではなく各期の費用にしたか
- 補償の金品と、同意を得るための接待(交際費等)を区分したか
- 取得価額に含めた交際費等を、支出した期の交際費等の計算に含めたか
- 補償を現金で払ったか、工事を発注して設備を提供したかで、消費税の区分を確認したか
- 補償の対象・金額の根拠・合意内容を書面で残したか
- 近隣対策による工期の遅れを、資金計画と銀行への説明に織り込んだか
まとめ
- 当初から予定された住民対策費・公害補償費は、建設後の支払でも建物の取得価額(毎年の補償金は除く)
- 完成後に予期せず生じた電波障害の補償は、損害賠償金として一時の費用とした国税庁の回答がある
- 同意を得るための接待は交際費等、損害補償の金品は交際費等に当たらない
- 受け取る側では、機能復旧のための補償金で資産を直した部分は修繕費等にでき、紛争解決的な金銭は一時所得とされた例がある
- 費用の表示区分は実態で判断し、近隣対策の進み具合と資金計画を銀行に説明できるようにしておく
新築の竣工前後に出る費用の全体像は新築の竣工前後に出る費用の扱いで整理しています。新築計画の段階からのご相談は、不動産投資家向けサービスをご覧ください。
