新築の賃貸物件を建てると、建物の工事代金とは別に、水道・電気・ガスを使えるようにするための支払いが出てきます。自治体に払う水道加入金、電力会社に払う引込工事の負担金、ガス会社に払う導管工事の負担金、そして下水道の受益者負担金。どれも数十万円から数百万円になることがあり、請求元も名目もばらばらです。
これらは、誰に、何のために払ったかで扱いが分かれます。供給事業者の施設を使う権利を得るための負担金は無形減価償却資産(施設利用権)、公共的な施設の負担金は繰延資産、敷地や建物の中の配管・設備は建物附属設備や構築物です。この記事では、それぞれの税務上の扱いを法人と個人に分けて整理し、消費税、公表裁決、決算書の表示、銀行からの見え方まで解説します。
- 水道加入金など水道事業者への負担金は「水道施設利用権」。無形減価償却資産として15年で償却
- 電力会社・ガス導管事業者への工事費負担金は「電気ガス供給施設利用権」。同じく15年
- 公共下水道の受益者負担金は繰延資産で、償却期間は6年(特例)
- 敷地内・建物内の配管や受変電設備は、建物附属設備(給排水・衛生・ガス設備、電気設備はいずれも15年)
- 施設利用権の対価は消費税の課税仕入れ。対価性のない負担金は課税仕入れにならない
- 会計上、税法上の繰延資産は「長期前払費用」などで表示されるのが一般的。銀行の実態評価で差し引かれることもある
払った先と目的で4つに分ける
| 支払いの例 | 払う先 | 税務上の区分 | 償却期間・耐用年数 |
|---|---|---|---|
| 水道加入金(給水の新設に伴う負担金) | 水道事業者(自治体の水道局など) | 無形減価償却資産:水道施設利用権 | 15年 |
| 公共下水道を使う排水設備の新設に伴う改築費用の負担金 | 公共下水道管理者 | 水道施設利用権に準ずる | 15年 |
| 電気の引込みのための工事費負担金 | 一般送配電事業者など | 無形減価償却資産:電気ガス供給施設利用権 | 15年 |
| 都市ガスの導管工事の負担金 | 一般ガス導管事業者 | 無形減価償却資産:電気ガス供給施設利用権 | 15年 |
| 公共下水道の受益者負担金 | 地方公共団体 | 繰延資産 | 6年 |
| 建物内の給排水・ガス配管、衛生設備 | 工事会社 | 建物附属設備(給排水又は衛生設備及びガス設備) | 15年 |
| 受変電設備・建物内の配線 | 工事会社 | 建物附属設備(電気設備) | 15年 |
| 敷地内の上下水道の配管工事 | 工事会社 | 原則土地。構築物とすることも可 | 構築物なら構造による |
施設利用権:供給事業者の施設を使う権利
法人税法施行令13条8号は、無形減価償却資産として、電気ガス供給施設利用権(一般送配電事業者や一般ガス導管事業者などに対して電気・ガスの供給施設を設けるための費用を負担し、その施設を利用して電気・ガスの供給を受ける権利)と、水道施設利用権(水道事業者に対して水道施設を設けるための費用を負担し、その施設を利用して水の供給を受ける権利)を挙げています。個人についても所得税法施行令6条8号に同じ定めがあります。
耐用年数は、減価償却資産の耐用年数等に関する省令の別表第三で、どちらも15年です。国税庁のタックスアンサー「No.5463 宅地開発等に際して支出する開発負担金等」でも、上下水道の負担金は水道施設利用権の取得価額となり、償却期間は15年と説明されています。
公共下水道を使う排水設備を新設・拡張する際に、公共下水道の改築に要する費用を負担する場合の負担金も、水道施設利用権に準じて扱います(法人税基本通達7-1-8、所得税基本通達2-21)。
受益者負担金:繰延資産で6年
地方公共団体が都市計画事業などとして公共下水道を設置する場合に、著しく利益を受ける土地所有者が都市計画法などに基づいて負担する受益者負担金は、繰延資産(自己が便益を受ける公共的施設の設置のための費用)です。償却期間は、特例により6年とされています(法人税基本通達8-2-5、所得税基本通達50-4の2)。
敷地・建物の中の工事は有形の資産
工事会社に払う配管や設備の工事費は、自分の資産をつくる費用です。建物内部の給排水・衛生・ガスの設備や電気設備は建物附属設備、敷地内の上下水道の工事は原則として土地の取得価額で、規模・構造により構築物とすることもできます(法人税基本通達7-3-4、所得税基本通達38-10)。土地まわりの工事の線引きは造成費・地盤改良費・擁壁工事は土地か建物か構築物かで詳しく扱っています。
見積書では「設備工事一式」に負担金が含まれていることもあります。事業者への負担金と工事会社への工事代金を分けてもらうと、区分がはっきりします。
法人と個人の違い・少額の取扱い
| 論点 | 法人 | 個人 |
|---|---|---|
| 施設利用権の償却 | 償却限度額の範囲内で損金経理(定額法) | 償却費を必要経費に算入(定額法) |
| 繰延資産の償却 | 償却限度額の範囲内で損金経理 | 償却期間にわたって必要経費に算入 |
| 20万円未満の繰延資産 | 支出時に損金経理すれば損金(法人税法施行令134条) | 支出時の必要経費(所得税法施行令139条の2) |
| 分割徴収される公共的施設の負担金 | 一定の要件で支出時に損金(法人税基本通達8-3-4) | 一定の要件で支出時に必要経費(所得税基本通達50-5の2) |
| 業務開始前の支出 | 設立後であれば通常どおり資産計上 | 業務開始前でも、施設利用権・繰延資産として資産計上し、業務開始後に償却 |
分割徴収の取扱いは、負担金が償却期間以上にわたって分割徴収され、分割額がおおむね均等で、徴収がおおむね施設の工事の着工後に始まる、といった要件をすべて満たす場合に限られます。
金額の小さい施設利用権について、少額減価償却資産や一括償却資産の特例を使えるかは、賃貸業では令和4年の改正(貸付けの用に供した資産の除外)との関係を確認する必要があります(少額減価償却資産・一括償却資産と「貸付けの用」の除外)。
消費税:権利の対価なら課税仕入れ
消費税法基本通達11-2-6は、国や地方公共団体などが公共的施設の設置のために受ける負担金で、受け取る側が資産の譲渡等の対価に該当しないとしているものは、払う側でも課税仕入れに該当しないとしています。そのうえで注書きで、負担金が電気ガス供給施設利用権、水道施設利用権などの権利の設定等の対価と認められる場合には、払う側で課税仕入れに該当するとしています。
| 支払い | 消費税の扱いの傾向 |
|---|---|
| 施設利用権の設定の対価となる負担金(水道加入金、電気・ガスの工事費負担金など) | 課税仕入れ |
| 対価性のない受益者負担金など | 課税仕入れにならない |
| 工事会社への配管・設備工事 | 課税仕入れ |
請求書や納付書に消費税の記載があるかを確認し、区分を合わせておきましょう。課税仕入れとなる場合も、住宅の貸付けに使う建物のためのものであれば、個別対応方式では控除できない区分に入るのが通常です(個別対応方式と一括比例配分方式)。
公表裁決:歩道の乗入れ工事費は繰延資産
平成28年3月3日裁決:公共的施設の設置のための費用、償却期間は4年
相続で取得した土地を事業用定期借地として店舗用地に貸すため、建物の解体や造成とあわせて、県道の歩道に車両用の出入口を新設する切下げ工事、既存の切下げ部分の埋戻し、街路樹・植栽帯・交通標識の移設を行った個人の事案です。
審判所は、この乗入れ・側溝の改修工事は自ら所有する土地の工事ではなく、県道の歩道部分の工事であるものの、借地契約で工事を行ったうえで土地を引き渡すこととされ、賃料を得る便益を受けており、効果が1年以上に及ぶことから、自己が便益を受ける公共的施設の設置又は改良のための費用として繰延資産に当たると判断しました。償却期間は、アスファルト舗装の耐用年数10年を基礎とし、歩道は一般公衆が利用するもので専ら請求人が使うものではないため、その10分の4の4年としています。街路樹などの移設も、切下げ工事と一体のものとして繰延資産とされました(国税不服審判所)。
実務への示唆:敷地の外の公共施設の工事でも、自分の事業のために負担した費用は、一時の費用ではなく繰延資産になり得ます。施設が専ら自分の利用のためか、一般の利用もあるかで償却期間(耐用年数の10分の7か10分の4か)が変わります(法人税基本通達8-2-3、国税庁タックスアンサー「No.5462 公共的施設などの負担金」)。
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不動産投資家向け税務・融資支援を見る会計上の扱いと決算書の表示
税務上の分類と、決算書の表示は一致しないことがあります。企業会計(一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)。中小企業では「中小企業の会計に関する指針」や「中小企業の会計に関する基本要領」など)で繰延資産として計上できるのは、創立費・開業費・株式交付費・社債発行費等・開発費に限られるとするのが一般的な考え方です。
そのため、公共的施設の負担金のような税法固有の繰延資産は、決算書では「投資その他の資産」の長期前払費用などとして表示されるのが一般的です。水道施設利用権や電気ガス供給施設利用権は、無形固定資産として表示します。
| 項目 | 税務上の区分 | 決算書の表示の例 |
|---|---|---|
| 水道施設利用権・電気ガス供給施設利用権 | 無形減価償却資産 | 無形固定資産 |
| 下水道の受益者負担金、歩道の乗入れ工事費 | 繰延資産(税法固有) | 投資その他の資産(長期前払費用など) |
| 建物内の配管・電気設備 | 建物附属設備 | 有形固定資産(建物附属設備) |
銀行からの見え方
これらの支出は、建物本体と比べれば小さな金額です。ただ、銀行が決算書を読むときには、次の点に影響します。
- 実態の純資産:銀行によっては、無形固定資産や長期前払費用を換金性のない資産として、純資産から差し引いて実態を評価することがあります。金額の大小とともに、内容を説明できるようにしておきましょう
- 償却前利益:施設利用権の償却費は減価償却費として扱われます。繰延資産の償却費をどう扱うかは銀行の見方によるため、科目と内訳を明示しておくと誤解が生じにくくなります
- 担保評価:施設利用権や負担金は担保評価の対象にならないのが通常です。総投資額と担保評価の差の一部として、資金計画に織り込んでおきます
新築の総事業費を銀行に示すときは、建物の工事費だけでなく、供給事業者への負担金や受益者負担金も含めた総額で資金計画を作ることが大切です。後から負担金が判明すると、自己資金の追加が必要になることもあります。資金計画の立て方は資金繰り表の作り方も参考にしてください。
実務のチェックポイント
- 水道・電気・ガスの負担金を、払った先(水道事業者、一般送配電事業者、一般ガス導管事業者、自治体、工事会社)ごとに整理したか
- 施設利用権(15年)、繰延資産(受益者負担金は6年)、建物附属設備(15年)、土地・構築物に分けたか
- 見積書の「設備工事一式」に含まれる負担金を、工事代金と分けてもらったか
- 20万円未満の繰延資産や分割徴収の負担金の取扱いを確認したか
- 消費税の課税・不課税を、請求書や納付書の記載と合わせたか
- 決算書で、税法固有の繰延資産を長期前払費用などとして表示したか
- 銀行に示す総事業費に、負担金類を漏れなく含めたか
まとめ
- 水道加入金は水道施設利用権、電力・ガスの工事費負担金は電気ガス供給施設利用権。いずれも無形減価償却資産で15年
- 公共下水道の受益者負担金は繰延資産で6年。敷地外の公共施設の工事費も繰延資産になり得る(平成28年3月3日裁決)
- 敷地内・建物内の配管や設備は建物附属設備、敷地内の上下水道工事は原則土地(構築物も可)
- 権利の対価となる負担金は課税仕入れ。対価性のない負担金は課税仕入れにならない
- 決算書では税法固有の繰延資産は長期前払費用などで表示。総事業費には負担金類も含めて資金計画を立てる
新築の諸費用全体は新築の竣工前後に出る費用の扱い、取得時の諸費用は物件取得時の諸費用一覧で整理しています。新築計画の資金計画づくりは、不動産投資家向けサービスでご相談ください。
