海外の不動産を買う、海外の口座に資金を移す、海外の家族に送金する。こうした資金の動きは、日本の税務署にも情報が届く仕組みが整っています。金融機関による国外送金等調書、本人が提出する国外財産調書、各国の税務当局が口座情報を交換するCRS(共通報告基準)です。
この記事では、海外送金・海外口座と税務調査の関係を、情報が届く仕組み、本人の提出義務、加算税の軽減と加重の順に整理し、海外の賃貸物件の記載誤りで加重措置が適用された裁決事例を紹介します。個人と法人の違い、会計上の扱い、銀行からの見え方も確認します。海外送金を避ける話ではなく、正しく申告し、資金の流れを説明できるようにするための記事です。
- 100万円超の海外送金・海外からの受金は、金融機関が国外送金等調書で税務署に報告する
- 12月31日に5,000万円超の国外財産を持つ居住者(非永住者を除く)は、翌年6月30日までに国外財産調書を提出する
- 海外の金融口座の情報は、CRSに基づき外国の税務当局から日本に提供される
- 国外財産調書を期限内に出し、申告漏れの原因の財産が記載されていれば加算税は5%軽減、提出がない・記載がない場合は5%加重。調査で関連資料を期限までに出さないと、軽減なし・加重10%
- 海外賃貸物件を「自己使用」と記載し所在地なども欠けていた調書について、加重措置を適用した裁決がある。種類・用途・所在を正確に書く
税務署に海外の資金情報が届く3つの仕組み
| 仕組み | 誰が出すか | 対象 | 根拠・時期 |
|---|---|---|---|
| 国外送金等調書 | 金融機関 | 国外への送金・国外からの受金で100万円超のもの。送金者・受金者の氏名、住所、金額など | 国外送金等調書法4条。為替取引を行った日の翌月末までに提出 |
| 国外財産調書 | 本人(居住者。非永住者を除く) | 12月31日に5,000万円超の国外財産。種類、数量、価額など | 国外送金等調書法5条。翌年6月30日まで(令和5年分以後) |
| CRSによる口座情報の交換 | 外国の金融機関→外国の税務当局→日本の国税庁 | 日本の居住者が外国の金融機関に持つ口座の情報 | OECDの共通報告基準と租税条約等の情報交換規定 |
国税庁は、国外送金等調書について「国外への送金及び国外から受領した送金の金額が100万円を超えるもの」を金融機関が提出すると説明し、国外財産調書などとあわせて海外取引や国内外の財産の把握に活用していると公表しています(国税庁レポート2024:適正・公平な課税・徴収、国税庁:F4-1 国外送金等調書)。CRSは、各国の税務当局が自国の金融機関から非居住者の口座情報の報告を受け、その居住地国の税務当局に提供する仕組みです(国税庁:CRSコーナー)。
財産債務調書との関係
国内外を合わせた財産が大きい人は、財産債務調書の提出も必要です。国税庁の案内では、退職所得を除く所得が2,000万円を超え、かつ12月31日に3億円以上の財産(または1億円以上の国外転出特例対象財産)を持つ人、または所得にかかわらず10億円以上の財産を持つ居住者が対象で、令和5年分以後の期限は翌年6月30日です(国税庁 No.7457 財産債務調書の提出義務)。
海外送金で説明を求められやすい場面
海外送金そのものに税金がかかるわけではありません。調査で問われるのは、送金の目的と、それに対応する申告が整っているかです。
| 送金の場面 | 確認されやすい点 | 残しておく記録 |
|---|---|---|
| 海外不動産の購入代金 | 取得価額、土地建物の区分、資金の出所 | 売買契約書、送金明細、現地の固定資産税評価、為替レート |
| 海外の自分名義の口座への移動 | 口座で生じる利子・配当・為替差益の申告 | 口座の取引明細、年間の残高証明 |
| 海外からの家賃・売却代金の受取り | 不動産所得・譲渡所得の申告、外国税額 | 現地管理会社の収支報告書、現地の申告書・納税証明 |
| 海外の親族への送金・親族からの受金 | 贈与(贈与税)か、生活費か、貸付けか | 送金目的のメモ、契約書、生活費の送金なら継続性の記録 |
| 法人から海外の個人・法人への支払 | 源泉徴収の要否、役員への支払でないか | 契約書、請求書、源泉徴収の記録 |
外貨建ての取引は円に換算して申告します。個人の場合、原則として取引日の電信売買相場の仲値(TTM)で換算するのが基本です。換算に使ったレートと日付も記録に残しておきます。
海外の賃貸物件の損益通算の制限は海外不動産の赤字は損益通算できるかと国外中古建物の減価償却損失の制限、非居住者に支払うときの源泉徴収は非居住者から借りる・買うときの源泉徴収で解説しています。
国外財産調書と加算税の軽減・加重
国外財産調書には、提出を促すための加算税の特例があります。国税庁の「国外財産調書制度(FAQ)」の説明は次のとおりです(国税庁:国外財産調書制度(FAQ))。
| 場面 | 特例 |
|---|---|
| 期限内に提出した調書に、申告漏れの原因となった国外財産の記載がある | その部分の過少申告加算税・無申告加算税を5%軽減 |
| 期限内の提出がない、または記載がない(重要なものの記載が不十分な場合を含む) | その部分の過少申告加算税等を5%加重 |
| 調査で国外財産の取得・運用・処分に係る書類の提示等を求められ、指定された期限(求められた日から60日を超えない範囲)までに出さなかった | 軽減措置は適用せず、加重は10% |
| 偽りの記載、正当な理由のない期限内不提出 | 1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(情状により免除あり) |
重加算税の対象となる仮装・隠蔽の事実に係る部分は、軽減・加重の対象から除かれます。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る裁決事例:国外財産調書と加重措置
海外賃貸物件を「自己使用」と記載した調書(令和5年12月7日裁決)
国税不服審判所 令和5年12月7日裁決は、国外財産調書と財産債務調書の提出義務がある個人が、米国の建物を賃貸の用に供していたところ、調査を受けてその物件の不動産所得の減価償却費の過大計上などで修正申告をし、加重措置を適用した過少申告加算税が課された事案です。請求人は、物件は毎年確定申告しており、財産は特定済みなので「重要なものの記載が不十分」には当たらないと主張しました。
審判所は、「重要なものの記載が不十分である」場合とは、記載すべき事項の誤りや記載漏れにより修正申告等の基因となる財産の特定が困難な場合をいい、その判断は調書自体の記載内容から行うべきとしました。そのうえで、調書の物件の欄は、種類欄に自己が使用する建物である旨、用途欄に「一般用」と記載されていて、賃貸の用に供していた実態と異なり、所在欄には所在地の記載がなく、戸数・床面積の記載もなかったことから、物件を特定することは困難として、加重措置の適用を適法と判断しました。
実務への示唆:建物は、用途(一般用・事業用)別、所在別に、戸数・床面積・価額を記載します。海外の賃貸物件は事業用として、所在地まで正確に書くことが必要です。「申告しているから分かるはず」は通用しません。
自主的な修正申告の後に調書を出した(平成29年9月1日裁決)
国税不服審判所 平成29年9月1日裁決は、国外の預金利子などの申告漏れについて、調査を予知しない自主的な修正申告をした後に、期限を過ぎた国外財産調書を提出した事案です。自主的な修正申告なので通常の過少申告加算税はかかりませんが、原処分庁は加重措置による過少申告加算税を課しました。
審判所は、加重措置は自主的な修正申告にも適用され、また、期限後に提出された調書を期限内に提出したものとみなす規定は、調書が提出された後に修正申告があった場合の取扱いを定めたもので、修正申告の後に提出された調書には適用されないとして、処分を適法としました(審査請求は棄却)。
実務への示唆:国外財産調書の提出を忘れていたことに気づいたら、修正申告より先に、または同時に調書を出す順序を意識する必要があります。具体的な手順は、修正申告と更正の請求とあわせて顧問税理士と確認してください。
個人と法人で違うところ
| 項目 | 個人 | 法人 |
|---|---|---|
| 国外財産調書・財産債務調書 | 提出義務の対象(居住者。国外財産調書は非永住者を除く) | 対象外。法人の海外資産は決算書・申告書の明細で把握される |
| 国外送金等調書 | 個人名義の送金が対象 | 法人名義の送金も対象 |
| 海外の所得 | 居住者(非永住者を除く)は全世界所得に課税。外国税額控除 | 全世界所得に課税。外国税額控除 |
| 注意点 | 親族への送金と贈与税、国外中古建物の損失制限 | 海外への支払の源泉徴収、役員個人への支払の混入、海外関連会社との取引価格 |
会計上の扱いと、銀行からの見え方
外貨建ての資産・負債の表示
法人の決算書は、会社法431条の「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」、すなわち一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に従って作ります。外貨建ての取引は、企業会計の外貨建取引等会計処理基準などに沿って円に換算し、外貨預金などの換算差額は為替差損益として表示されます。為替差損益は通常、本業の損益ではないため営業外損益に表示されるのが一般的です。税務上の換算方法と会計上の表示は別の問題で、どの区分になるかは取引の内容によりますから、顧問税理士と確認してください。
銀行が見る点
| 銀行が見る点 | 影響 |
|---|---|
| 海外資産の評価 | 海外不動産は国内の銀行では担保評価が難しく、資産として低く見られることがある |
| 資金の流れ | 融資金や国内の家賃収入が海外に流れていないか。資金使途と整合しているか |
| 為替変動 | 外貨建て資産の評価や家賃収入が円換算で変動し、利益が読みにくくなる |
| 税務リスク | 加算税・修正申告で現預金が減り、著書のモデルで使う債務償還年数((借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等))が悪化する |
海外の資産や送金の記録が整理されていると、銀行に対しても資金の流れを説明しやすくなります。
実務のチェックポイント
- 海外送金ごとに、目的・相手・金額・為替レートを記録し、契約書や請求書とひも付けているか
- 海外口座の取引明細と年末残高を毎年保存し、利子・配当・為替差益を申告しているか
- 12月31日の国外財産の合計が5,000万円を超えるかを毎年確認しているか
- 国外財産調書の建物は、用途(事業用)・所在地・戸数・床面積・価額を正確に記載しているか
- 国内外の財産・所得の規模で、財産債務調書の提出が必要か確認したか
- 調書の提出漏れに気づいたら、修正申告との順序を税理士と確認したか
- 海外の親族への送金について、贈与税の要否を確認したか
税務調査の全体像は不動産業の税務調査で見られるポイント、通帳の入出金の説明は通帳の動きと税務調査で解説しています。海外への移住を考えている方は海外移住と税金もご覧ください。
まとめ
- 100万円超の海外送金は国外送金等調書、海外口座はCRSで、情報が税務署に届く
- 5,000万円超の国外財産を持つ居住者は、翌年6月30日までに国外財産調書を提出する。財産の規模によっては財産債務調書も必要
- 調書を期限内に正しく出せば加算税は5%軽減、出さない・記載がない・重要な記載が不十分なら5%加重。資料を出さなければ加重は10%
- 海外賃貸物件を自己使用と記載し所在地も欠けていた調書に、加重措置を適用した裁決がある。調書は種類・用途・所在まで正確に
- 海外送金は目的と記録が大切。正しい申告と記録が、税務調査でも銀行でも説明の土台になる
海外不動産の申告や国外財産調書の作成は、現地の資料の読み方や為替換算など、国内物件にはない論点が多くあります。クレフティでは不動産投資家向けサポートの中で、海外物件を含む申告の整理から税務調査への対応、融資を見据えた決算書づくりまでご相談をお受けしています。
