証憑・印紙・税務調査

非居住者から借りる・買うときの源泉徴収|家賃は20.42%、購入代金は10.21%、個人の居住用の例外と裁決事例

海外に住む日本人や外国の投資家・法人から国内の不動産を買う、あるいは借りるとき、支払う側に源泉徴収の義務が生じます。買主や借主が個人であっても、事業者でなくても対象になり、源泉徴収を漏らすと、後から買主・借主自身が税金と不納付加算税を負担することになりかねません。

この記事では、非居住者から借りる・買うときの源泉徴収を、税率と例外、居住者かどうかの確認、納付の手続の順に整理し、売主の非居住者性や固定資産税精算金の扱いが争われた公表裁決を紹介します。資産管理法人で起こりやすい場面、会計上の扱い、銀行からの見え方も確認します。

この記事の結論
  • 非居住者・外国法人に国内の不動産の家賃を払うときは20.42%、購入代金を払うときは10.21%を源泉徴収する
  • 法人はもちろん、事業者でない個人も源泉徴収義務者になる
  • 例外は、個人が自己・親族の居住用に借りる場合と、個人が自己・親族の居住用に買い、対価が1億円以下の場合だけ。法人の社宅は例外に当たらない
  • 居住者かどうかは支払の時の住所の実態で判断される。印鑑登録証明書の住所だけでは足りないとした裁決がある
  • 売買代金に加えて固定資産税の精算金も譲渡対価として源泉徴収の対象とされた裁決がある

源泉徴収の税率と例外

国税庁のタックスアンサーの説明は次のとおりです(No.2880 非居住者等に不動産の賃借料を支払ったとき、No.2879 非居住者等から土地等を購入したとき、No.2884 非居住者等に対する源泉徴収・源泉徴収の税率)。

支払税率(所得税・復興特別所得税)源泉徴収が不要な場合
国内の不動産・不動産の上に存する権利の賃借料20.42%土地・家屋を自己またはその親族の居住の用に供するために借りた個人が支払うもの
国内の土地等(土地・借地権・建物・附属設備・構築物)の譲渡対価10.21%個人が自己またはその親族の居住の用に供するために購入し、譲渡対価が1億円以下のもの

国税庁の説明では、源泉徴収の対象となる所得税等は、令和9年分以後は「所得税、防衛特別所得税および復興特別所得税」となりますが、タックスアンサーの税率の表記は上記のとおりです。

例外の範囲は狭い

  • 法人は例外の対象外:法人が社宅や寮として借りる場合、役員・従業員が住む場合でも源泉徴収が必要
  • 個人でも投資用は対象:個人が賃貸用の物件を買う、事務所として借りる場合は源泉徴収が必要
  • 購入は1億円の上限:自己の居住用でも、譲渡対価が1億円を超えれば源泉徴収が必要

租税条約で免除されるか

国税庁は、多くの租税条約では土地等の不動産の賃貸料や譲渡対価について、不動産の所在する国でも課税できる規定を置いているため、国内法の規定により課税することになると説明しています。不動産については、租税条約で源泉徴収が免除されることは通常ないと考えておくのが安全です。

居住者か非居住者か:支払時に確認する

所得税法では、国内に住所があるか、現在まで引き続いて1年以上居所がある個人が居住者、それ以外が非居住者です。源泉徴収の要否は支払の時の状況で判断されます。国籍ではなく、生活の本拠がどこにあるかの実態で判断されるため、海外赴任中の日本人も非居住者になり得ます。

印鑑登録証明書の住所だけでは足りない(平成20年9月25日裁決)

国税不服審判所 平成20年9月25日裁決(裁決事例集No.76 244頁)は、分譲マンション用地として土地建物を買った会社に対し、売主が非居住者だったとして源泉所得税の納税告知処分と不納付加算税の賦課決定処分がされた事案です。会社は、売買契約書に添付された売主の印鑑登録証明書で国内の住所を確認しているから、売主は居住者だと主張しました。

審判所は、住民票(除票)や出入国の状況から、売主は契約のために帰国する直前まで国外に住所を有しており、滞在中もホテルに宿泊していたことなどを認定し、代金の支払時に国内に住所があったとは認められず、引き続き1年以上居所を有していたとも認められないとして、売主は非居住者と判断しました。登記上も、売主の住所は一度国外に移転し、売買の直前に国内に戻す変更登記がされていました。さらに、会社が売主を居住者と判断したことにやむを得ない事情があったとしても、不納付加算税を免除する「正当な理由」には当たらないとされています。

出国していても居住者とされた例(平成7年3月29日裁決)

逆に、国税不服審判所 平成7年3月29日裁決(裁決事例集No.49 374頁)は、外国籍の売主が代金の支払時には出国していたものの、国内に多額の資産を残し、住んでいた部屋に美術品などが残され、住み込みの家事使用人を引き続き雇う意思があったと推認されることなどから、出国は一時的なもので売主は居住者に当たるとして、買主に対する納税告知処分を全部取り消しました。

実務への示唆:居住者かどうかは、書類上の住所ではなく生活の実態で判断されます。判断に迷う売主・貸主との取引では、住民票の写し、登記上の住所の変遷、海外勤務の有無などを契約前に確認し、契約書で売主の居住者・非居住者の区分を表明してもらうなど、記録を残しておくことが大切です。

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源泉徴収の対象になる金額

売買代金以外の精算金も対価になる

同じ平成20年9月25日裁決では、売買代金と実測精算金に加えて、買主が負担した固定資産税・都市計画税の未経過分の精算金も、国内にある土地等の譲渡による対価に当たると判断されています。固定資産税はその年の1月1日の所有者に課されるもので、買主が納税義務を負うものではないため、精算金は譲渡の対価の一部という整理です。源泉徴収の額は、精算金を含めた対価の総額で計算します。精算金の税務上の扱いは固定資産税の精算金は取得価額でも解説しています。

外貨で払う場合の換算

国税庁は、非居住者等への支払が外貨による場合は円に換算して源泉徴収を行い、換算は支払期日における電信買相場が原則で、支払が著しく遅延していない場合は現に支払った日の電信買相場によっても差し支えないとしています。

納付の手続と、源泉徴収を漏らしたとき

  • 納付期限:源泉徴収した税額は、原則として支払った月の翌月10日までに、「非居住者・外国法人の所得についての所得税徴収高計算書(納付書)」で納付する(e-Taxでも可)
  • 国外で支払う場合:支払者が国内に住所・居所・事務所等を有するときは、国外での支払でも国内で支払ったものとみなして源泉徴収が必要
  • 漏らした場合:支払者に納税告知がされ、原則10%の不納付加算税と延滞税がかかる。売主・貸主に後から求償するのは実務上難しいことが多い

売主側(非居住者)は、源泉徴収された税額を差し引いて精算するため、日本で確定申告をして譲渡所得の税額を計算し、源泉徴収税額との差額を納付または還付を受けることになります。非居住者の不動産所得の申告については海外移住と税金もご覧ください。

個人と法人で違うところ

場面個人の買主・借主法人の買主・借主
自己・親族の居住用に借りる源泉徴収不要例外なし。社宅でも20.42%
自己・親族の居住用に買う1億円以下なら不要、1億円超は10.21%例外なし。10.21%
投資用・事業用に借りる・買う源泉徴収が必要源泉徴収が必要
実務上のリスク源泉徴収義務者になる自覚がないまま支払ってしまう資産管理法人が海外在住の親族から物件を借りる・買う場合に漏れやすい

資産管理法人では、海外に住む家族が所有する物件を法人が借り上げる、海外赴任中の役員から物件を買い取るといった場面で源泉徴収が漏れやすくなります。役員が海外赴任中かどうかは、法人の側で把握しているはずの事実です。関係者からの物件の取得は法人から個人(役員)へ物件を売るときの税務、サブリースの賃料はサブリース方式の仕組みと適正賃料もあわせて確認してください。

会計上の扱いと、銀行からの見え方

会計処理

法人の決算書は、会社法431条の「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」、すなわち一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に従って作ります。源泉徴収した税額は、納付するまで「預り金」として負債に計上し、物件の取得価額や家賃の費用は源泉徴収前の総額で計上します。源泉徴収を漏らして買主が税額を負担した場合、その負担額をどう処理するかは、売主に求償できるかなどの事実関係によって変わりますので、顧問税理士と検討してください。

銀行が見る点

銀行が見る点影響
購入資金源泉徴収税額は売主への支払から差し引くが、翌月10日までに納付する資金が必要。決済日の資金計画に織り込む
決済の流れ融資を使う決済では、売主への送金額と源泉徴収税額の内訳を事前に銀行と共有しておく
追徴リスク源泉徴収漏れの納税告知・不納付加算税は予定外の資金流出。著書のモデルで使う債務償還年数((借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等))の現預金が減る
関係者取引海外在住の親族・役員との取引は、価格と手続の適正さを確認される

実務のチェックポイント

  • 売主・貸主の住所の実態(住民票、登記上の住所の変遷、海外勤務の有無)を契約前に確認したか
  • 買主・借主が個人か法人か、物件を自己・親族の居住用に使うか、購入なら1億円以下かを確認したか
  • 源泉徴収の対象額に、実測精算金・固定資産税精算金などを含めたか
  • 外貨で払う場合の換算レートを記録したか
  • 源泉徴収税額を翌月10日までに納付する資金と手続を準備したか
  • 決済の段取り(融資実行、売主への送金額、納付)を、仲介業者・司法書士・銀行と事前に共有したか
  • 継続して家賃を払う場合、毎月の源泉徴収と納付の仕組みを作ったか

海外の資金移動全般は海外送金・海外口座と税務調査、支払調書の提出は不動産の使用料等・譲受けの対価の支払調書で解説しています。

まとめ

  • 非居住者・外国法人への家賃は20.42%、購入代金は10.21%を源泉徴収する。個人の買主・借主も対象
  • 例外は、個人が自己・親族の居住用に借りる場合と、個人が自己・親族の居住用に1億円以下で買う場合だけ
  • 居住者かどうかは支払時の生活の実態で判断され、印鑑登録証明書の住所だけでは足りない
  • 固定資産税精算金なども譲渡対価に含めて源泉徴収する
  • 源泉徴収を漏らすと、買主・借主に納税告知と不納付加算税。契約前の確認と、決済の資金計画が欠かせない

非居住者との不動産取引は、源泉徴収のほか、売主の確定申告、決済の資金の流れなど、関係者が多く段取りが複雑になります。クレフティでは不動産投資家向けサポートの中で、取引前の確認から源泉徴収・納付の手続、融資を見据えた資金計画までご相談をお受けしています。

よくある質問

海外に住む日本人から中古マンションを買う場合も、源泉徴収が必要ですか?
売主が所得税法上の非居住者であれば、国籍にかかわらず、買主は売買代金を支払う際に10.21%の所得税等を源泉徴収し、原則として翌月10日までに納付する必要があります。法人はもちろん、事業者でない個人も対象です。ただし、個人が自己またはその親族の居住の用に供するために購入し、譲渡対価が1億円以下の場合は、源泉徴収は不要です。
会社が社宅として非居住者のマンションを借りる場合はどうなりますか?
源泉徴収が不要になる例外は、土地・家屋を自己またはその親族の居住の用に供するために借りた個人が支払う賃借料に限られます。法人が借りる場合は、社宅として役員や従業員が住む場合でも例外に当たらないため、支払う家賃から20.42%の所得税等を源泉徴収する必要があります。
売主が居住者だと思って源泉徴収しなかった場合、どうなりますか?
後から売主が非居住者と認定されると、買主に源泉所得税の納税告知と不納付加算税が課されることがあります。平成20年9月25日の公表裁決では、売買契約書に国内住所の印鑑登録証明書が添付されていても、売主は支払時に非居住者だったとして納税告知処分が適法とされ、不納付加算税の正当な理由も認められませんでした。契約前に売主の住所の実態を確認しておくことが大切です。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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