法人が事務所や社宅を借りる、個人から物件を買う、仲介業者に手数料を払う。こうした支払をした法人は、翌年の1月に支払調書を税務署に提出する必要があります。不動産に関するものは、不動産の使用料等の支払調書、不動産等の譲受けの対価の支払調書、不動産等の売買又は貸付けのあっせん手数料の支払調書の3つです。
資産管理法人を持つ不動産投資家は、法人がオーナー個人から物件を一括で借り上げている、オーナー個人の土地を法人が借りている、という形が多く、自分自身に払う家賃や地代も支払調書の対象になり得ます。この記事では、3つの支払調書の提出範囲と金額基準を国税庁の案内で確認し、受け取る側の申告との関係、裁決事例、会計上の扱い、銀行からの見え方まで解説します。
- 提出するのは、法人と不動産業者である個人(主として建物の賃貸借の代理・仲介を営む人を除く)
- 使用料等は同一人に年15万円超、譲受けの対価は100万円超、あっせん手数料は15万円超
- 法人に払う使用料等は、家賃・地代を除く権利金・更新料等だけが対象。個人の家主に払う家賃は対象
- 管理会社経由でも「支払を受ける者」は物件の所有者。共有なら共有者ごと
- 期限は原則翌年1月31日。令和9年1月以後は、前々年の提出枚数が30枚以上の種類はe-Tax等が義務
3つの支払調書の提出範囲
国税庁のタックスアンサーの説明を整理すると、次のとおりです(No.7441 不動産の使用料等の支払調書、No.7442 不動産等の譲受けの対価の支払調書、No.7443 不動産等の売買又は貸付けのあっせん手数料の支払調書)。
| 支払調書 | 対象となる支払 | 提出範囲(同一人への年中の支払合計) | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 不動産の使用料等 | 土地・建物の賃借料、地代、権利金、礼金、返還しない敷金、更新料、承諾料、名義書換料など | 15万円超 | 法人への支払は、賃借料を除く権利金・更新料等のみ |
| 不動産等の譲受けの対価 | 不動産・不動産の上に存する権利などの購入代金。交換・競売・公売・収用・現物出資による取得も含む | 100万円超 | 補償金が支払われる場合は種類と金額を摘要欄に記載 |
| 不動産等の売買又は貸付けのあっせん手数料 | 売買・貸付けの仲介手数料 | 15万円超 | 使用料等・譲受けの調書の「あっせんをした者」欄に記載すれば省略できる |
提出義務があるのは、いずれも支払をする法人(国や地方公共団体、人格のない社団等を含む)と不動産業者である個人です。不動産業者である個人のうち、主として建物の賃貸借の代理や仲介を営む人は提出義務がありません。金額基準は原則として消費税等を含めて判断しますが、消費税等の額が明確に区分されていれば、含めないで判断して差し支えないとされています。
使用料等に含まれるもの
国税庁の令和8年分の手引では、使用料等には、土地・建物の賃借料のほか、権利金(保証金・敷金などの名目でも返還を要しない部分を含む)、礼金、更新料、承諾料、名義書換料が含まれ、催物の会場のような一時的な賃借料や、広告のための塀や壁面のように土地・建物の一部を使う賃借料も対象とされています(国税庁:令和8年分 法定調書の作成と提出の手引 第5章)。
資産管理法人で起こりやすい場面
| 場面 | 支払調書 | ポイント |
|---|---|---|
| 法人がオーナー個人の物件を一括借上げ(サブリース)している | 使用料等(個人への家賃) | 年15万円超なら対象。オーナー本人が役員でも同じ |
| 法人がオーナー個人の土地を借りて建物を建てている | 使用料等(地代、権利金) | 地代のほか、権利金や更新料の授受も記載 |
| 法人が役員の自宅の一部を事務所として借りている | 使用料等 | 社宅・事務所の家賃も対象になり得る |
| 法人が個人の売主から物件を買った | 譲受けの対価 | 年100万円超なら対象。オーナー個人から法人へ物件を移した場合も同じ |
| 法人が仲介業者(個人)に手数料を払った | あっせん手数料 | 他の調書の「あっせんをした者」欄に記載すれば省略可 |
| 法人が不動産会社(法人)から事務所を借りている | 使用料等 | 家賃だけなら不要。権利金・更新料を払えばその分は対象 |
サブリースの賃料の決め方はサブリース方式(一括借上げ)の仕組みと適正賃料、個人から法人へ物件を移すときの税金は個人から法人へ物件を移すときの税金で解説しています。
管理会社経由・共有の場合
手引では、管理会社を通じて個人に使用料等を支払う場合も個人に支払う使用料等になり、「支払を受ける者」には管理会社ではなく物件の所有者を記載するとしています。不動産の所有者が共有で複数いる場合は、共有者ごとの作成が必要で、共有持分が不明なら支払総額と他の共有者などを摘要欄に記載します。
また、支払金額の欄には、その年中に支払の確定した金額(未払の金額を含む)を記載します。
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不動産投資家向け税務・融資支援を見る受け取る側の申告との関係
支払調書は、受け取った側の申告内容を確認するための資料として税務署で使われます。家賃や譲渡代金を受け取った個人は、支払調書の有無にかかわらず、正しく申告する必要があります。
裁決事例:支払調書の金額で収入を計上して、計上漏れが生じた
国税不服審判所 平成24年6月28日裁決は、土地を事業用借地として出店企業に貸していた個人の不動産所得が争われた事案です。主な争点は、出店企業から受け取った立退きの「協力金」が請求人の収入になるかどうかで、審判所は、協力金は実質的に同族会社に支払う立退き費用で請求人には帰属しないと判断しました。
一方で、審判所は、請求人が出店企業作成の「不動産の使用料等の支払調書」の支払金額に基づいて賃料を総収入金額に算入したことにより、翌年1月分の賃料が収入から漏れていたと認定し、その部分について過少申告加算税の対象としています(重加算税は過少申告加算税相当額を超える部分が取り消されました)。
実務への示唆:支払調書の金額は、支払者側の集計です。受け取る側の収入は、個人なら契約上の支払日、法人なら期間対応といった自分の計上基準で計算する必要があります。支払調書の金額をそのまま収入にすると、前払いや年をまたぐ支払で差が出ます(家賃収入の計上時期)。
提出の方法と期限
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 提出期限 | 原則として支払った年の翌年1月31日。土日祝日に当たる場合は翌日(令和8年分は令和9年2月1日) |
| 提出先 | 支払者の所轄税務署。合計表とあわせて提出 |
| マイナンバー・法人番号 | 税務署提出用には支払を受ける者の番号を記載。写しを本人に交付する場合は番号を記載できない |
| e-Tax等の義務 | 令和9年1月以後に提出する法定調書は、種類ごとに前々年の提出枚数が30枚以上ならe-Tax・認定クラウド・光ディスク等で提出(令和8年までは100枚以上) |
e-Tax等の義務化は、国税庁の案内(法定調書のe-Tax等による提出義務化の概要)で確認できます。物件や家主の数が多い法人は、提出枚数の判定に注意が必要です。
個人と法人の違い
| 項目 | 個人 | 法人 |
|---|---|---|
| 提出義務 | 不動産業者である個人のみ(主として建物の賃貸借の代理・仲介を営む人を除く) | すべての法人 |
| 個人の大家として家賃を受け取る側 | 支払調書は税務署の確認資料。収入は自分の計上基準で申告 | 法人が受け取る家賃は、使用料等の支払調書の対象外(権利金・更新料等を除く) |
| 物件の購入 | 不動産業者である個人が買えば譲受けの対価の調書が必要 | 個人・法人どちらから買っても、100万円超なら調書が必要 |
会計上の扱いと、銀行からの見え方
支払そのものの処理
支払調書は税務上の提出書類で、会計処理そのものを変えるものではありません。法人の決算書は、会社法431条の「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」、すなわち一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に従って作ります。家賃・地代は期間に応じて費用に、物件の購入代金は取得価額として資産に計上します。建物を賃借するために払った権利金などは、税務上は繰延資産として償却期間に応じて損金にする扱いがあり(支出額が20万円未満なら支出時の損金にできる)、会計上の表示とあわせて顧問税理士と確認してください。
銀行が見る点
| 銀行が見る点 | 支払調書・関連取引との関係 |
|---|---|
| 役員・関係者への家賃・地代 | 決算書の勘定科目内訳明細書などで、誰にいくら払っているかが分かる。金額の妥当性と契約書の有無 |
| 資産管理法人とオーナー個人の取引 | 法人の費用とオーナー個人の収入が対応しているか。個人の申告との整合 |
| 物件の取得 | 取得価額、売主、仲介手数料が契約書・登記と一致しているか |
| 収益の安定性 | サブリース賃料が実際の入居状況と比べて適正か。法人の採算が成り立っているか |
関係者間の家賃や物件の売買は、税務署も銀行も、契約書と金額の妥当性を見ます。支払調書を正しく出し、受け取る側も同じ金額で申告していることは、取引が適正に行われていることを示す基本的な裏付けになります。
実務のチェックポイント
- 法人が個人(役員を含む)に払っている家賃・地代・権利金・更新料を、支払先ごとに年間で集計しているか
- 法人に払っている使用料等のうち、権利金・更新料等を拾い出しているか
- 管理会社経由の支払で、物件の所有者を確認して記載しているか。共有なら共有者ごとか
- その年に100万円超の物件の購入(交換・現物出資を含む)がなかったか
- 仲介手数料を払った場合、あっせん手数料の調書を出すか、他の調書の「あっせんをした者」欄に記載したか
- 前々年の提出枚数から、e-Tax等の義務の有無を確認したか(令和9年以後は30枚以上)
- 受け取る側の個人の申告では、支払調書の金額ではなく自分の計上基準で収入を計算しているか
法人を設立した後の届出や提出書類は法人設立後の届出一覧、資産管理法人の全体像は資産管理法人のメリット・デメリットもご覧ください。
まとめ
- 不動産の支払調書は、使用料等(15万円超)・譲受けの対価(100万円超)・あっせん手数料(15万円超)の3つ
- 提出するのは法人と不動産業者である個人。法人に払う使用料等は権利金・更新料等のみが対象
- 資産管理法人がオーナー個人に払う家賃・地代や、オーナー個人からの物件の購入も対象になり得る
- 管理会社経由でも所有者を記載し、共有なら共有者ごとに作成する
- 受け取る側は支払調書の金額ではなく自分の計上基準で申告する。関係者間の取引を正しく記録・報告することが、税務署にも銀行にも説明できる土台になる
支払調書の作成は、年に一度のため手順を忘れやすい手続です。クレフティでは不動産投資家向けサポートの中で、資産管理法人の年末・年始の法定調書の作成から、関係者間取引の契約・賃料の見直し、融資を見据えた決算書づくりまでご相談をお受けしています。
