遠方の物件を持っていると、入居状況の確認、修繕の立会い、管理会社との打合せのために、新幹線や飛行機で現地へ行く機会が増えます。新しい物件を探すために、地方都市や海外まで視察に行く投資家もいます。
こうした物件視察や遠方物件への出張の旅費交通費は、どこまで経費になるのでしょうか。この記事では、個人と法人の考え方の違い、購入した物件の取得価額との関係、観光を兼ねた旅行や同伴者の費用、海外視察の通達、裁決事例を整理し、法人の旅費規程や銀行からの見え方まで確認します。
- 所有物件の管理・修繕の立会い・管理会社との打合せのための旅費は、業務との関係を記録で示せれば経費になる
- 実際に購入した物件の購入のために直接要した費用は、取得価額に含めるべきかを検討する。個人で賃貸業を始める前の視察費は原則として必要経費にならない
- 観光を兼ねた場合は業務部分と観光部分を按分。同伴した家族の旅費は原則として経費にならない
- 海外視察は、個人は所得税基本通達37-16〜37-22、法人は法人税基本通達9-7-6〜9-7-10で判断する
- 法人は旅費規程を整えると、日当を含めて社内基準で精算できる。ただし不当に多額な支給は役員給与とされる
旅費交通費が経費になる考え方
個人:業務との直接の関係
個人の不動産所得の必要経費は、不動産所得を生ずべき業務について生じた費用です(所得税法37条1項)。家事上の経費や、これに関連する経費は原則として必要経費にならず、業務の遂行上必要な部分を明らかに区分できる場合などに限って、その部分が必要経費になります(所得税法45条1項1号、所得税法施行令96条)。
旅費交通費でいえば、「どの物件の、どんな業務のための移動か」を客観的に示せるかがポイントです。
法人:業務の遂行上必要な旅費
法人は、業務の遂行上必要な旅費であれば損金になります。一方、業務と関係のない旅行の費用や、業務に必要な範囲を超える旅費を法人が負担すると、その役員・従業員への給与として扱われることがあります。役員の場合、定期同額給与などに当たらない給与は損金に算入できないため、私的な旅行を法人の旅費にすると、損金にならないうえに源泉所得税の問題も生じます。
個人と法人の比較
| 場面 | 個人(不動産所得) | 法人 |
|---|---|---|
| 所有物件の巡回・修繕の立会い・管理会社との打合せ | 必要経費 | 損金 |
| 物件の購入に伴う現地確認・契約・決済のための旅費 | 取得価額に含めるかを検討 | 取得価額に含めるかを検討 |
| 業務拡大のための新規物件の視察(購入しなかったもの) | 業務との関係を示せれば必要経費になり得る | 損金になり得る |
| 賃貸業を始める前の視察 | 原則として必要経費にならない | 設立後の法人の業務としての視察なら損金になり得る |
| 観光を兼ねた旅行 | 業務部分のみ(按分) | 業務部分のみ。残りは役員・従業員への給与 |
| 同伴した家族の旅費 | 原則として必要経費にならない | 原則として役員への給与 |
| 日当 | 事業主本人への日当は経費にならない | 旅費規程に基づく相当額は旅費として損金 |
個人で賃貸業を始める前の費用のうち、不動産所得を生ずべき事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出した費用は、開業費(繰延資産)として扱える場合があります(所得税法施行令7条1項1号)。事業的規模に当たるか、開業準備のための支出といえるかは個別の判断になるため、税理士に確認してください。
購入した物件の取得価額との関係
物件を購入する場合、その資産の取得価額には、購入代価のほか、購入のために要した費用が含まれます(所得税法施行令126条1項1号、法人税法施行令54条1項1号)。そのため、購入が決まった物件の契約や決済のための旅費など、特定の物件の購入に直接要した費用は、取得価額に含めるべきかを検討する必要があります。
一方、購入するかどうかを決める前の幅広い情報収集や、購入に至らなかった物件の視察は、特定の資産の取得に直接要した費用とはいえない場合が多く、業務との関係を示せれば期間の費用として扱う余地があります。どこまでを取得価額に含めるかは、物件ごとの経緯で判断が分かれるところです。取得時の諸費用の全体像は物件取得時の諸費用一覧で整理しています。
観光を兼ねた視察と同伴者の費用
海外渡航の通達
海外への視察には、個人・法人それぞれに詳しい通達があります。国内の旅行に直接適用されるものではありませんが、業務部分と私的部分を分ける考え方として、国内の視察でも参考になります。
| 論点 | 個人(所得税基本通達) | 法人(法人税基本通達) | 内容 |
|---|---|---|---|
| 基本 | 37-16、37-17 | 9-7-6 | 業務の遂行上直接必要な渡航で、通常必要と認められる部分に限り旅費 |
| 全期間が業務 | 37-18 | 9-7-6(注) | おおむね全期間が明らかに業務なら、不当に多額でない限り全額 |
| 業務かどうかの判定 | 37-19 | 9-7-7 | 目的・旅行先・経路・期間等で実質判定。観光渡航の許可を得て行う旅行、旅行あっせん業者等の団体旅行への応募、同業者団体等の主として観光目的の団体旅行は、原則として業務に当たらない |
| 同伴者 | 37-20 | 9-7-8 | 親族等の同伴費用は原則として経費にならない(法人は役員への給与)。明らかに必要な同伴は例外 |
| 業務と観光の併用 | 37-21 | 9-7-9 | 期間の比などで按分。直接の動機が業務で観光を併せて行った場合は、業務を行う場所までの往復旅費は業務部分 |
| 観光目的の団体旅行でも業務部分がある場合 | 37-22 | 9-7-10 | 業務に直接関連する部分の旅行に直接要した費用は旅費 |
通達本文は所得税基本通達「海外渡航費」と法人税基本通達「海外渡航費」で確認できます。
按分の考え方
たとえば、3泊4日の旅行のうち、2日を物件の視察と現地業者との打合せに使い、残り2日を観光に使った場合は、日数の比で業務部分を計算するのが基本です。旅行の直接の動機が物件の視察で、その機会に観光をしたのであれば、視察先までの往復の交通費は業務部分とし、宿泊費などを按分する考え方になります。
海外不動産の視察ツアーに参加する場合は、行程表を確認してください。旅行あっせん業者などが主催する団体旅行への応募や、主として観光目的の団体旅行は、原則として業務に必要な渡航に当たらないとされています。そのうえで、行程の中に物件の視察や現地業者との面談など業務に直接関連する部分があれば、その部分に直接要した費用は旅費として扱えます(所得税基本通達37-22、法人税基本通達9-7-10)。海外物件の税務は海外不動産の赤字は通算できるかも参考にしてください。
裁決事例
昭和45年10月7日裁決(裁決事例集No.1・27頁):業務と観光を目的とする海外渡航
- 要旨:業務の遂行と観光を目的とする海外渡航の航空運賃の全額を損金と認定した事例(法人税)
- 確認先:国税不服審判所 公表裁決事例要旨(法人税法関係・海外渡航費)
要旨の見出しのみが公表されている事例ですが、観光を兼ねた渡航でも、往復の航空運賃は業務に必要な部分として認められうることを示しています。現在の通達(37-21、9-7-9)の「直接の動機が業務であれば、業務を行う場所までの往復旅費は業務部分」という考え方と整合します。
平成25年7月9日裁決:使途を説明できないタクシー代
- 事案:クリニックを経営する医師(青色申告)が、接待交際費や旅費交通費を事業所得の必要経費に算入した
- 判断:必要経費と認められない飲食に伴うタクシー代は必要経費にならないとした。それ以外のタクシー代も、事業用車両を保有していることに加え、業務に必要とされる具体的な理由を明らかにしていないとして必要経費算入を認めなかった。一方、事業専用と認められた車両の通勤時の高速代・ガソリン代・洗車代は旅費交通費として必要経費に算入した。また、開業前に採用予定者との面談のために負担した交通費は開業費に当たるとした
- 確認先:国税不服審判所 平成25年7月9日裁決
事業所得の事案ですが、移動の目的と業務との関係を個別に説明できるかどうかで結論が分かれています。物件視察の旅費でも、「どの物件に何をしに行ったか」が分からない交通費は、否認されるリスクがあります。
平成3年11月19日裁決:家族旅行と変わらない慰安旅行
- 要旨:従業員が青色事業専従者である配偶者のみの請求人が、従業員等のレクリエーションのための慰安旅行として福利厚生費に計上した費用について、サラリーマン家庭が行う通常の家族旅行と何ら異なる点は認められないとして否認した事例
- 確認先:国税不服審判所 公表裁決事例要旨(所得税法関係・家事費、家事関連費)
名目が「視察」や「研修」であっても、実態が家族旅行であれば経費にはなりません。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る法人の旅費規程と日当
法人では、出張旅費規程を作り、役員・従業員の出張に交通費・宿泊費・日当を支給する方法があります。
- 損金算入:業務の遂行上必要な出張について、規程に基づいて支給する相当な額の旅費・日当は、旅費として損金になります
- 受け取る側の所得税:給与所得者が勤務する場所を離れて職務を遂行するための旅行に必要な支出に充てる金品で、その旅行について通常必要であると認められるものは非課税とされています(所得税法9条1項4号)。役職に比べて著しく高い日当など、通常必要と認められる範囲を超える部分は給与として課税されます
- 消費税:使用人等が勤務する場所を離れて職務を遂行するための旅行に支給する出張旅費・宿泊費・日当等のうち、その旅行に通常必要であると認められる部分は、インボイスの交付を受けることが困難な課税仕入れとして、一定の事項を記載した帳簿の保存だけで仕入税額控除の対象になります(消費税法施行規則15条の4第2号、消費税法基本通達11-6-4)。国外での移動・宿泊は国内取引ではないため、海外出張の旅費は原則として課税仕入れになりません
旅費規程の金額は、法人の規模、役職、同業他社の水準などから見て相当なものにしておく必要があります。物件数が少ない法人で、実態に比べて出張の回数や日当が過大になっていると、税務調査で役員給与とされるおそれがあります。
会計上の表示と銀行からの見え方
会計上、所有物件の管理のための旅費交通費は、不動産賃貸業が本業の法人であれば販管費の旅費交通費として表示されます。物件の取得に直接要した費用として取得価額に含めたものは、建物・土地などの資産に含まれ、建物部分は減価償却を通じて費用になります。取得価額に含めるか期間費用とするかは、税務上の論点であると同時に、会計上も取得原価の範囲の問題になります。どちらにできるかは取引の実態次第で、顧問税理士と検討してください。
銀行は、旅費交通費の金額そのものより、物件数や売上に比べて不自然に多くないかを見ます。物件数が少ないのに旅費交通費や交際費が多い決算書は、私的な支出が混じっているのではないかと見られ、利益の実態に疑問を持たれます。営業利益が薄い法人ほど、旅費の多さは格付けにも響きます。
遠方物件を多く持つ場合は、管理会社との役割分担を見直し、現地訪問の回数と目的を整理することが、経費の妥当性の説明にも、物件の収益管理にも役立ちます。管理会社への委託費については管理委託料・BM費・PM費の処理と相場で解説しています。
実務のチェックポイント
| 確認すること | 残しておく記録 |
|---|---|
| 移動の目的 | 訪問した物件名、用件(巡回、修繕の立会い、内見、契約、管理会社との打合せ) |
| 日程 | 行程表、面談相手、打合せの記録、写真 |
| 観光との按分 | 業務日と私用日の区分、按分の計算 |
| 同伴者 | 同伴した人と、その人が担った業務の内容 |
| 取得価額との関係 | 購入した物件の契約・決済のための旅費かどうか |
| 法人の旅費規程 | 規程の金額の相当性、出張報告書、精算書 |
| 車での移動 | 走行記録(日付、行き先、距離、用件) |
車両費の考え方は不動産賃貸業での車両費・ガソリン代、経費全体の整理は不動産賃貸業で経費にできるもの一覧をご覧ください。
まとめ
- 所有物件の管理のための旅費は、業務との関係を記録で示せれば経費になる
- 購入した物件の購入のために直接要した旅費は、取得価額に含めるべきかを検討する。個人で賃貸業を始める前の視察費は原則として必要経費にならない
- 観光を兼ねた場合は按分し、家族の同伴費用は原則として経費にならない。海外視察は通達(37-16〜37-22、9-7-6〜9-7-10)で判断する
- 裁決では、使途を具体的に説明できないタクシー代が否認され、実態が家族旅行の慰安旅行も否認された
- 法人は旅費規程で日当を含めて精算できるが、相当な金額にとどめる。銀行は物件数に比べて旅費が不自然に多くないかを見る
遠方物件の管理体制や、経費の処理を見直したい場合は、不動産投資家向けサービスでご相談ください。
