「中小企業向けの特別償却や税額控除は、アパートの設備にも使えるのか」。設備投資を検討している不動産オーナーや、不動産会社の経営者からよくいただく質問です。
結論は、賃貸物件の建物や設備には、原則として使えません。制度の対象となる「指定事業」には不動産業も含まれていますが、資産を貸付けの用に供する場合は対象から除かれているからです。この記事では、主な制度の要件と除外の仕組み、不動産会社でも使える場面、裁決事例、特別償却の会計処理と銀行からの見え方までを整理します。
- 中小企業投資促進税制・中小企業経営強化税制は、指定事業に不動産業を含むが、貸付けの用に供する資産は対象外。賃貸物件の建物・設備には原則として使えない
- 使える可能性があるのは、ホテルの自営など自社の事業に直接使う設備。経営強化税制は計画認定や生産等設備の要件もある
- 新品であること、指定事業の用に供したことは厳格に判断される。展示・実演に使われた機械を新品と認めなかった裁決がある
- 特別償却は税負担の時期をずらす仕組み。準備金方式を使えば、損益計算書の利益を崩さずに適用できる
主な制度と「貸付けの除外」
中小企業の設備投資を後押しする代表的な制度は、次の2つです(国税庁タックスアンサーNo.5433、No.5434)。
| 項目 | 中小企業投資促進税制 | 中小企業経営強化税制 |
|---|---|---|
| 根拠(法人) | 租税特別措置法42条の6 | 租税特別措置法42条の12の4 |
| 期限 | 令和9年3月31日までの取得等 | 令和9年3月31日までの取得等 |
| 主な対象資産 | 機械及び装置(1台160万円以上)、一定の測定工具・検査工具、一定のソフトウエア(70万円以上)、一定の貨物自動車など | 経営力向上設備等に当たる機械及び装置、工具、器具及び備品、建物附属設備、ソフトウエアなど(一定規模以上) |
| 特別償却 | 基準取得価額の30% | 即時償却など(区分により異なる) |
| 税額控除 | 7%(資本金3,000万円以下の法人など) | 7%(特定中小企業者等は10%)など |
| 主な要件 | 青色申告の中小企業者等、新品、指定事業の用に供する | 上記に加え、経営力向上計画の認定、生産等設備であること |
| 貸付けの扱い | 事業の用から貸付けを除く(一定の内航運送の事業を営む法人を除く) | 同左 |
どちらの制度も、指定事業の一覧に不動産業、駐車場業、物品賃貸業、宿泊業が含まれています。ここだけを見ると賃貸業でも使えそうに見えますが、特定機械装置等を供する「事業の用」から、法人の貸付けが除かれています。入居者に貸し付ける建物や、その建物に付属する設備は貸付けの用に当たるため、対象外と考えるのが基本です。
中小企業経営強化税制は、さらに対象が「生産等設備」に限られます。国税庁は、生産等設備とは収益を稼得するための活動の用に直接供される減価償却資産で構成されているものをいい、本店、寄宿舎等の建物、事務用器具備品、乗用自動車、福利厚生施設のようなものは該当しないとしています。
個人にも、租税特別措置法10条の3(中小事業者が機械等を取得した場合の特別償却又は所得税額の特別控除)など同様の制度があり、貸付けの用に供したものは対象外とされています。
少額特例との関係
設備投資の優遇としては、中小企業者等の少額減価償却資産の特例(令和8年4月1日以後の取得は40万円未満、年300万円まで)もあります。こちらも令和4年4月1日以後に取得した資産のうち、貸付け(主要な事業として行われるものを除く)の用に供したものは対象外です(タックスアンサーNo.5408)。
ただし、少額特例には、不動産貸付業の法人が賃借人に家具・電気機器などを貸し付ける行為を「主要な事業として行われる貸付け」の例とする通達(法人税基本通達7-1-11の3)があり、特別償却とは扱いが異なります。詳しくは少額減価償却資産・一括償却資産と「貸付けの用」の除外と家具家電付き物件の備品・少額資産の処理を参照してください。
| 制度 | 賃貸物件の建物・設備 | 入居者に貸す家具・家電 | 自社で使う設備 |
|---|---|---|---|
| 中小企業投資促進税制 | 対象外(貸付け) | 対象外(貸付け) | 要件を満たせば対象 |
| 中小企業経営強化税制 | 対象外(貸付け) | 対象外(貸付け) | 計画認定・生産等設備などの要件を満たせば対象 |
| 中小企業者等の少額特例 | 原則対象外(主要な事業としての貸付けを除く) | 主要な事業としての貸付けの例とされる | 対象 |
不動産会社でも使える可能性がある場面
貸付けの除外があっても、不動産会社が自社の事業に直接使う資産であれば、制度の対象になる可能性があります。
- ホテル・旅館を自ら運営する場合:宿泊業は指定事業に含まれる。建物を運営会社に貸すのではなく自営なら、宿泊業の用に供する一定の設備が検討対象になる
- 物件管理や会計のソフトウエア:自社の業務に使う一定のソフトウエアは、中小企業投資促進税制の対象資産に含まれる(取得価額などの要件あり)
- 宅建業の売買・仲介で使う設備:賃貸以外の本業で直接使う設備
ホテルを自営するか運営会社に貸すかで税務が大きく変わる点は、ホテルを自営するか運営会社に貸すかで解説しています。いずれも、対象資産の規模、新品であること、指定事業の用に供したことなどの要件を一つずつ満たす必要があります。駐車場の運営のように、役務の提供か貸付けかの判断が分かれうる事業もあるため、適用前に事実関係を整理してください。
法人と個人の違い
| 項目 | 法人 | 個人 |
|---|---|---|
| 根拠 | 租税特別措置法42条の6、42条の12の4 | 租税特別措置法10条の3、10条の5の3 |
| 青色申告 | 必要 | 必要 |
| 特別償却の方法 | 損金経理、または特別償却準備金の積立て(損金経理または剰余金の処分) | 必要経費に算入 |
| 税額控除の上限 | 調整前法人税額の20%(両制度の合計)、1年繰越し | 所得税額の一定割合が上限 |
| 貸付けの扱い | 貸付けの用は対象外 | 同様 |
裁決事例:要件は厳格に判断される
展示・実演に使われた機械は「新品」ではない(平成29年10月31日裁決)
- 出典:国税不服審判所 平成29年10月31日裁決[裁決全文]
- 事案:製造業の法人が購入した機械装置(税抜6,000万円)について、中小企業投資促進税制(措置法42条の6)の特別償却を適用した。この機械は、販売者が棚卸資産として管理しながら、1年以上にわたり展示場で展示し、来場者の求めに応じて切断加工の実演に使っていたものだった
- 判断:要件の「その製作の後事業の用に供されたことのないもの」とは、製作者や販売者で使用されたことのない、いわゆる新品をいい、販売者の業種・業態、資産の構造、使用の状況を総合的に見て判断するとした。展示・実演で相当程度の消耗を伴い、部品交換も行われていたことから、販売者で使用されていたとして要件を満たさないと判断した(棄却)
- 示唆:販売者が棚卸資産として管理していたことや保証付きで買ったことだけでは、新品とは認められません。展示品やデモ機を安く買うときは、制度が使えない可能性があります
対象事業の用に供していない設備は対象外(平成10年5月29日裁決)
- 出典:国税不服審判所 平成10年5月29日裁決(裁決事例集No.55・370頁)[裁決全文]
- 事案:スキー場でリフト事業を営み、ロッジで飲食店業・旅館業も行う法人が、リフトなどについて当時の中小企業者の機械等の特別償却を適用した。法人は、ロッジに来るにはリフトに乗るしかないため、リフトはロッジの事業の用にも供していると主張した
- 判断:リフトを利用するスキー客がロッジ内の事業を利用するとしても、リフトをロッジ内事業の用に供しているとはいえないとして、特別償却を認めなかった
- 示唆:「事業の用に供した」とは、その事業を遂行するための手段として使っていることをいいます。関連があるだけでは足りないと考えておくべきです。賃貸業に関連する設備でも、対象事業に直接使っていなければ制度は使えません
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る会計上の扱い:特別償却準備金
会計処理は、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に沿って行います。企業会計では、減価償却は資産の使用実態に応じて規則的に行うものです。特別償却は政策的な税の優遇であり、資産の使用実態を表すものではありません。
国税庁のタックスアンサーでは、特別償却の適用に代えて、特別償却限度額以下の金額を損金経理により特別償却準備金として積み立てる方法、または決算確定日までに剰余金の処分により積み立てる方法も認められています。
| 方法 | 損益計算書 | 貸借対照表 | 税務 |
|---|---|---|---|
| 減価償却費として損金経理 | 減価償却費が増え、経常利益が下がる | 資産の簿価が下がる | 損金算入 |
| 特別償却準備金(損金経理) | 繰入額が費用になる | 準備金を計上 | 損金算入 |
| 特別償却準備金(剰余金の処分) | 影響なし | 純資産の中で準備金を積み立てる | 申告書で減算して損金算入 |
剰余金の処分による方法なら、損益計算書は通常の減価償却だけで作られるため、会計上の利益と税務上の優遇を切り分けられます。準備金はその後の事業年度で取り崩して益金に算入するため、税負担が後ろにずれるだけという点も同じです。どの方法をとるかは、会計方針と税効果の扱いを含めて顧問税理士と決めてください。
銀行からの見え方
| 指標 | 特別償却(損金経理) | 特別償却準備金(剰余金の処分) | 税額控除 |
|---|---|---|---|
| 経常利益 | 適用年度は下がる | 変わらない | 変わらない |
| 法人税等 | 適用年度は減り、後の年度で増える | 同左 | 減る(取り戻しはない) |
| 償却前利益 | ほぼ変わらない(税額の差を除く) | 変わらない | 変わらない |
| 純資産 | 税負担の繰延べ分だけ一時的に厚くなる | 同左 | 税額控除の分だけ厚くなる |
銀行は経常利益を重視するため、特別償却を減価償却費として計上した年は、利益が一時的に落ちて見えます。準備金方式を選ぶか、計上した場合は「特別償却による一時的な減益」と説明できるようにしておきましょう。また、特別償却は税の先送りなので、将来の納税資金も見込んでおく必要があります。
税額控除は、税額そのものが減るため、純資産と現預金が確実に増えます。ただし、使える場面は限られます。「節税になるから」と対象外の資産に無理に当てはめることは避け、要件を満たす投資にだけ使うのが基本です。納税と財務の関係は「払った税金の2倍、会社は強くなる」の意味、税負担の考え方は良い節税・悪い節税も参考にしてください。
実務のチェックポイント
- 投資する資産が、賃貸物件(貸付けの用)の資産か、自社の事業に直接使う資産かを区分したか
- 指定事業に当たるか、資産の種類・規模(160万円以上など)の要件を満たすかを確認したか
- 新品であるか。展示品・デモ機・中古品ではないか
- 経営強化税制を使う場合、経営力向上計画の認定と、生産等設備に当たるかを確認したか
- 特別償却と税額控除のどちらを選ぶか、資本金による税額控除の可否を確認したか
- 特別償却は、損金経理か準備金方式かを決め、決算書の利益への影響を試算したか
- 個人の場合も、同様の制度の要件と貸付けの除外を確認したか
まとめ
- 中小企業投資促進税制・経営強化税制は、指定事業に不動産業を含むが、貸付けの用に供する資産は対象外
- 賃貸物件の建物・設備や、入居者に貸す家具家電には原則として使えない。少額特例は扱いが別
- 自社で直接使う設備(ホテルの自営、業務用ソフトウエアなど)は、要件を満たせば検討の余地がある
- 新品要件・事業の用の要件は厳格。展示・実演機を新品と認めなかった裁決、関連があるだけでは事業の用とはいえないとした裁決がある
- 特別償却は税負担の繰延べ。準備金方式なら損益計算書の利益を崩さずに適用できる
設備投資の税制の適用判断から、決算書の見え方を踏まえた処理方法まで、不動産投資家向けサービスでご相談いただけます。
