日本経済新聞(2026年10月20日)が、投資ファンドが企業向け融資の新しい担い手になりつつあると報じました。M&A(合併・買収)の増加で企業の資金需要が膨らむ一方、銀行の貸出余力が細ってきており、1,000億円規模の企業融資専門のファンドが相次いで立ち上がる、という内容です。
大企業や大型M&Aの話に見えますが、「銀行がお金を貸せる量に限りが見えてきた」というのは、中小企業の資金調達にも関わる変化です。この記事では、報道で示された数字を引用しながら、何が起きているのか、そして中小企業の経営者が今から何を備えておくべきかを考えます。
- 銀行の預貸率(預金に対する貸出金の比率)は2026年3月末に65%と、この5年で2.6ポイント上昇。預金の獲得競争も激しくなり、銀行の貸出余力は細りつつある(日本経済新聞)
- その穴を埋める形で、ファンドが機関投資家から資金を集めて企業に貸す「プライベートクレジット」が日本でも広がり始めた。銀行自身も運用会社と組んで融資ファンドをつくっている
- 中小企業への直接の影響は限られるが、銀行が融資先をより選ぶ、預金・貸出の金利が上がるという形で、間接的に効いてくる
- M&Aの資金調達では、銀行融資に劣後ローン(メザニン)を組み合わせる選択肢が広がる。ただし金利は高く、返済計画とコベナンツの確認が欠かせない
報道で示されたデータ
記事では、次のような数字が紹介されています。
| 項目 | 報道で示された内容 |
|---|---|
| 大手行のM&A向け融資 | 2023年9月末に6兆6,000億円。コロナ禍前の2.5倍で、8割をメガバンクが貸し出し |
| 国内のM&A件数 | 2026年1〜9月で3,883件。同期間として過去最多(レコフデータ) |
| 銀行の預貸率 | 2026年3月末に65%。この5年で2.6ポイント上昇 |
| 新しい融資ファンド | ポラリス・キャピタル・グループが2026年度中にも1,000億円規模、トパーズ・キャピタルが700億〜1,000億円規模の設立を目指す |
| 金利の目安 | 大手行の貸出金利は3〜4%ほど、ファンドは4〜6%程度が多い。劣後ローンでは10%弱を見込む |
| 銀行系の動き | 三井住友銀行が米運用会社と共同で融資ファンドを設立し、5年後に5,000億円規模へ。三菱UFJフィナンシャル・グループも米運用大手などと連携 |
| 海外との比較 | 北米のプライベートクレジットの運用残高は2024年末で1.5兆ドル(約230兆円)と、日本の200倍の規模(英プレキン) |
出典:日本経済新聞「銀行貸し出しに迫る限界 ファンドが企業融資、ポラリス最大級1000億円」(2026年10月20日)。数字は同記事が示した各機関のデータによる。
ポイントは、お金を借りたい側の需要は強いのに、銀行の「貸す原資」である預金が思うように増えないという構図です。金利のある世界に戻り、預金は銀行同士で奪い合うものになりました。預金が増えなければ、貸出も無限には伸ばせません。
プライベートクレジットとは何か
プライベートクレジットとは、銀行ではなく、ファンドなどが機関投資家(生命保険会社や年金基金など)から集めたお金を企業に貸し出す仕組みです。米国や欧州では、すでに企業融資の主要な担い手になっています。
銀行融資と比べた特徴を整理すると、次のようになります。
| 比較の観点 | 銀行融資 | ファンドからの融資(プライベートクレジット) |
|---|---|---|
| お金の出どころ | 預金 | 機関投資家の資金 |
| 金利の水準 | 比較的低い | 高め。劣後ローンはさらに高い |
| 返済の順位 | 先順位(シニア)が中心 | シニアのほか、劣後ローン(メザニン)も多い |
| 規制 | 自己資本規制などの対象 | 銀行本体より規制の制約を受けにくく、大口の資金を出しやすい |
| 主な用途 | 運転資金・設備資金・M&A資金など幅広い | 主にM&A資金。設備資金や不動産取得資金に広げる動きも |
| 付き合い方 | 長期の取引関係が前提 | 案件ごとの契約。財務制限条項(コベナンツ)が細かいことが多い |
銀行にとっても、融資ファンドは「自分のバランスシートを使わずに資金を出せる」仕組みです。報道によれば、ファンドが銀行の持つ企業向け融資の債権を引き受けることも検討されています。
中小企業にはどんな影響があるか
ここからは、税理士・公認会計士として、また融資を受けながら事業を続けてきた経営者としての考えです。
直接の影響は、まだ限定的
報道された融資ファンドの主な対象は、M&Aに伴う大きな資金です。年商数億円規模の会社が、明日からファンドで借りられるようになる、という話ではありません。中小企業の資金調達の中心は、これからも銀行・信用金庫・日本政策金融公庫です。
間接的には「銀行が選ぶ」局面が近づく
それでも見過ごせないのは、銀行の貸出余力が細ることの影響です。貸せる量に限りがあれば、銀行は同じ量のお金を、より安全で、より取引全体の収益が見込める先に振り向けます。つまり、
- 決算書の数字が良く、説明がしっかりしている会社には、引き続き条件の良い融資が出る
- 数字が弱い会社や、銀行との情報共有が少ない会社は、金利や期間、保証の条件が厳しくなりやすい
という差が、これまでより広がりやすくなると考えています。地方銀行の融資が都心の不動産に向かっている動きも、同じ流れの中にあります(地銀の不動産融資が過去最大の伸び)。
金利は上がる方向に
預金を集めるコストが上がれば、貸出の金利にも反映されます。変動金利の借入が多い会社は、金利が1〜2%上がったときに返済負担がどうなるかを、今のうちに試算しておくことをおすすめします(金利上昇局面で中小企業がやるべき借入対策)。
M&Aで資金を集めるときの選択肢が広がる
事業承継やM&Aで会社を買う側にとっては、資金の出し手が増えることはプラスです。中堅規模以上の案件では、銀行のシニアローン+ファンドの劣後ローン+自己資金のように、何層かに分けて資金を組み立てる方法が、これまでより使いやすくなるでしょう。
ただし、劣後ローンを使う前に、次の点は必ず確認してください。
- 金利の重さ:10%前後の金利は、買収した会社の利益から返していくことになります。返済原資となるキャッシュフローに対して、借入の総額と利息が無理のない水準か、債務償還年数で確認します(M&Aで融資をどう使うか、銀行はM&A融資のどこを見るか)
- 返済の方法と満期:劣後ローンは満期に一括で返す形も多く、満期のときに借り換えられるかどうかが大きなリスクになります
- コベナンツ:一定の利益水準や純資産を保つ条件に違反すると、期限前の返済を求められることがあります
- 銀行からの見え方:劣後ローンは、期間や返済方法、金利の条件によっては、銀行から自己資本に近いものとして見てもらえる場合があります。逆に、条件次第では単なる借入として扱われます。日本政策金融公庫の資本性ローンとの違いも含めて、事前に銀行と相談しておくのが安全です(資本性劣後ローンとは)
中小規模のM&Aでどの金融機関に相談すべきか、LBOがどの規模から現実的かは、LBOはどの規模から使うものかと融資を使ったM&Aの仕組みで解説しています。
今後も注意して見ていきたいこと
プライベートクレジットは、資金の出し手を増やすという意味で、日本の企業や産業の再編を後押しする仕組みです。一方で、次の点は今後も注意が必要だと考えています。
- 融資の中身が見えにくい:ファンドの融資は、銀行融資に比べて外から実態が見えにくい面があります。米国では、景気の後退局面で、こうした融資の焦げ付きを懸念する見方も出ています。日本でも規模が大きくなるほど、貸し手・借り手の双方に慎重さが求められます
- 債権の譲渡:銀行の融資債権をファンドが引き受ける動きが広がると、借り手から見て「お金を借りている相手」が変わることがあります。融資契約に債権譲渡についてどんな定めがあるか、一度確認しておくとよいでしょう
- 金利の動き:政策金利と預金金利の動きは、銀行の貸出姿勢と貸出金利の両方に影響します
- 自分の取引銀行の方針:銀行が貸出先を選ぶ局面では、取引銀行が自社をどう評価しているか、今後どの分野に融資を伸ばしたいのかを、担当者との面談で聞いておくことが大切です
経営者が今からやっておきたいこと
融資の環境は、借り手にはコントロールできません。コントロールできるのは、自社の決算書と、銀行との付き合い方です。
- 決算書と試算表を早く・正確に出せるようにする:銀行が選ぶ局面では、情報を早く出せる会社が有利です(決算書を銀行に出す前のチェック)
- 債務償還年数と実態の純資産を把握する:銀行の格付けを左右する数字を、自社でも把握しておきます(銀行格付けを上げる方法)
- 取引銀行を複数持つ:メインバンクに加えて、規模や性格の違う金融機関とも取引を育てておきます(信用金庫と地方銀行の違い)
- 融資枠を平時に確保する:当座貸越などの枠は、資金が必要になってからでは設定しにくいものです(当座貸越とは)
- M&Aを考えているなら、資金計画から逆算する:買収価格だけでなく、何年で返せるか、自己資金をどれだけ残せるかを先に決めておきます(M&Aの買収資金を融資で調達するには)
まとめ
- 銀行の預貸率は上昇し、預金の獲得競争も激しくなって、銀行の貸出余力は細りつつある
- 投資ファンドや銀行系のファンドが、企業向け融資(プライベートクレジット)に相次いで参入している
- 中小企業への直接の影響は限られるが、銀行が融資先をより選ぶ、金利が上がるという形で間接的に効いてくる
- M&Aでは劣後ローンを含めた資金の組み立てが広がる一方、金利の重さ・満期の一括返済・コベナンツには注意が必要
- 決算書を整え、取引銀行を分散し、融資枠を平時に確保しておくことが、次の局面への備えになる
自社の決算書が銀行からどう見えているか、M&Aの資金計画が無理のないものか、一度確認してみたい方はお気軽にご相談ください。
