日本経済新聞(2026年10月19日)が、地方銀行の不動産業向け融資がこの1年で約3兆円増え、比較できる2011年以降で最大の伸びになったと報じました。銀行融資全体に占める不動産業向けの割合はバブル期を上回り、金融庁も警戒を強めている、という内容です。
不動産投資家にとっては「まだ借りやすい」というニュースにも読めます。しかし、銀行の融資姿勢は、借り手の努力とは関係なく変わります。この記事では、報道で示されたデータを引用しながら、融資の環境がいまどこにあるのか、そして不動産投資家が今のうちに何を備えておくべきかを考えます。
- 国内銀行の不動産業向け融資は、融資全体の約18%とバブル期(約10%)を上回る水準まで増えている(日本経済新聞が報じた日銀のデータ)
- 地元の資金需要が縮むなかで、地銀は都心の不動産に融資を広げる「越境融資」を増やしている。金融庁は不動産業向け融資の動向を監視対象に挙げた
- 今すぐ金融システムの問題になるとは見られていないが、金利上昇と市況の変調が重なると、融資の蛇口は一気に絞られうる
- 借りやすい今こそ、債務償還年数・ICR・純資産・現預金を点検し、取引銀行を分散しておくことが、次の局面への備えになる
報道で示された「不動産融資の集中」のデータ
日本経済新聞の記事では、日銀・全国地方銀行協会・金融庁などのデータをもとに、次のような状況が紹介されています。
| 項目 | 報道で示された内容 |
|---|---|
| 国内銀行の不動産業向け貸出残高(2026年6月末) | 約120.8兆円、前年同月比8.2%増。融資全体の約18%を占め、バブル期(約10%)を大きく上回る |
| 地方銀行の不動産業向け融資 | 1年間で約3.1兆円増。統計を遡れる2011年以降で最大の増加幅 |
| 個別の銀行 | 融資の4割〜5割近くを不動産業(物品賃貸業を含む場合あり)に頼る地域金融機関もある |
| 都心5区の不動産業向け融資 | 約6割を首都圏の外に本店を置く銀行が担っている(金融庁) |
| 市況の変化 | 東京都心6区の中古マンションの平均希望売り出し価格が、8月まで4か月連続で下落(東京カンテイ) |
出典:日本経済新聞「地銀の不動産融資、最大の伸び 価格高騰の都心5区は6割が『越境融資』」(2026年10月19日)。数字は同記事が示した各機関のデータによる。
ここで押さえておきたいのは、融資が増えている理由です。記事は、人口減少で地元企業の資金需要が冷え込むなか、地銀が資金需要の大きい大都市圏の不動産に活路を求めている構図を指摘しています。つまり、不動産の収益力が急に高まったから融資が増えているというより、銀行側の事情で資金が流れ込んでいる面があるということです。
「越境融資」は、なぜ注意が必要なのか
地元以外の地域での融資は、銀行にとって新しく取引を広げやすい分野です。一方で、銀行の経営方針や当局の指摘が変わったときに、真っ先に見直されやすい分野でもあります。
借り手から見ると、次のような変化が起こりえます。
- 借換えや追加融資の相談で、以前と同じ条件(期間・金利・自己資金の割合)が出なくなる
- 担当者の異動や支店の方針変更で、取引そのものが縮小される
- 物件の評価や返済能力の見方が厳しくなり、次の物件の融資が通りにくくなる
もちろん、越境融資そのものが悪いわけではありません。ただ、1つの銀行、それも地元外の銀行だけに頼っている状態は、環境が変わったときの逃げ道が少ないと考えておいたほうがよいでしょう。取引銀行の分け方は信用金庫と地方銀行の違いでも解説しています。
金融当局は何を警戒しているか
記事によれば、金融庁は2026事務年度の金融行政方針で、不動産業向け融資の動向を監視対象の一つに挙げています。地域金融機関へのヒアリングでは、不動産業向け融資の限度額を設けていない銀行もあったといいます。
一方で、日銀は2026年4月の金融システムレポートで、不動産価格が大きく下落した場合でも、金融機関の自己資本比率は全体として規制水準を上回ると評価したと報じられています。不動産向け融資の延滞の割合(デフォルト率)も、全体に比べて低い水準にあるとされます。
つまり、「今すぐ危ない」という状況ではありません。それでも当局が監視を強めているという事実は、銀行の審査がこれから厳しくなる方向に動きやすいことを意味します。1990年に不動産融資の総量規制が導入され、バブル崩壊のきっかけの一つになった歴史もあります。融資の蛇口は、閉まるときは一気に閉まります。
一番の変数は「金利」
記事では、日本不動産研究所の調査で、開発業者など142社のうち122社が「金利上昇」をリスク要因に挙げたことも紹介されています。
不動産投資家にとっても、金利は最大の変数です。金利が上がると、次の数字がまとめて悪化します。
| 指標 | 金利上昇の影響 |
|---|---|
| ICR(営業利益÷支払利息) | 利息が増えて倍率が下がる。銀行が警戒する1倍に近づく |
| 債務償還年数 | 返済に回せる利益が減り、年数が延びる |
| 物件の価格 | 利回りに求められる水準が上がり、価格が下がりやすい。含み損が生まれ、実態の純資産が減る |
| 次の融資 | 上の3つの悪化で、格付けが下がり、追加融資が通りにくくなる |
金利上昇の影響を具体的に試算する方法は、不動産投資の金利上昇対策とICRとはで解説しています。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る借りやすい今こそ、絞られても困らない財務をつくる
ここからは、税理士として、また自らも融資を受けて不動産投資を続けてきた立場からの考えです。
私自身、2019年に複数の銀行から「あなたには、貸せません」と言われ、融資が止まった経験があります。減価償却の速い物件が多く、帳簿上の資産より負債のほうが大きい債務超過の状態に陥っていたことが原因でした。融資は、借りられるときには当たり前のように出てきますが、止まるときは一斉に止まります。そのとき頼りになるのは、銀行の事情に左右されない自分の財務の強さだけです。
今回の報道を受けて、次の4点を点検しておくことをおすすめします。
- 債務償還年数:借入の返済に何年かかるか。10年以内が健全、20年を超えると厳しく見られやすい水準です(決算書を銀行に出す前のチェック)
- ICR:金利が1〜2%上がっても、利息を十分にまかなえるか
- 実態の純資産:物件の時価と借入残高の差、つまり含み益・含み損まで含めて、純資産がどれだけ残っているか(含み益・含み損と銀行の実態BS)。著書では、プロパー融資の目安として純資産1億円を挙げています(純資産1億円の壁)
- 現預金:空室や修繕、金利上昇が重なっても、数か月〜1年は持ちこたえられる手元資金があるか
あわせて、取引銀行を1つに集中させないこと、そして融資期間が物件の耐用年数を大きく超えるような借り方を増やしすぎないことも大切です(融資期間と耐用年数の関係)。
今後も注意して見ていきたいこと
今回の報道は、すぐに融資が止まるという話ではありません。ただし、次の動きには引き続き注意が必要です。
- 金融庁・日銀の動き:不動産業向け融資への監督が強まると、審査基準や融資の上限が見直される可能性があります
- 金利:政策金利の引き上げが続けば、変動金利の借入から順に返済負担が増えます
- 都心の価格:中古マンションの希望売り出し価格の下落が一時的なものか、流れが変わるのか
- 自分の取引銀行の方針:中期経営計画で不動産融資をどう位置づけているか、担当者との面談で融資の方針を聞いておく
融資の環境は、借り手がコントロールできません。コントロールできるのは、自分の決算書だけです。だからこそ、融資が出やすい今のうちに、決算書を整え、財務の余裕をつくっておくことが、次の局面で差になると考えています。
まとめ
- 地銀の不動産業向け融資は過去最大の伸びで、融資全体に占める割合はバブル期を上回る
- 地元外での「越境融資」は、銀行の方針や当局の指摘で見直されやすい
- 金融当局は監視を強めており、審査は厳しくなる方向に動きやすい
- 一番の変数は金利。ICR・債務償還年数・実態純資産・現預金を今のうちに点検する
- 取引銀行を分散し、借りやすい今こそ「絞られても困らない財務」をつくる
ご自身の決算書が、金利上昇や融資の引き締めにどこまで耐えられるか、一度確認してみたい方はお気軽にご相談ください。
