税のしるべ(2026年10月19日号)が、国税庁が実地の税務調査の前に帳簿等のデータの提出を求める取組について、Q&Aを公表したと報じました。国税庁のホームページには「税務調査等における帳簿等データの提出依頼等に関するQ&A(令和8年10月)」が掲載されています。
会計ソフトで帳簿をつけている会社や個人事業主・大家さんにとって、「調査に来る前に、仕訳データや総勘定元帳を送ってください」という依頼は、これから珍しくなくなりそうです。この記事では、国税庁の公表資料をもとに、事前のデータ提出はどんな場面で依頼されるのか、断るとどうなるのか、提出後に修正申告をしたら加算税はどうなるのかを整理し、税理士・公認会計士として事業者が準備しておきたいことをお伝えします。
- 国税庁は、実地の調査の前に帳簿等のデータの提出をお願いする取組を行っており、その考え方を16問のQ&A(令和8年10月)にまとめた
- 依頼は原則として事前通知の後。ただし日程調整に時間がかかる場合などは事前通知の前に依頼されることもある。実地の調査を予定していない調査でも依頼されることがある
- 正当な理由なく応じない場合は罰則規定の対象となりうるとしつつ、応じないことだけで罰則が適用されるものではなく、強権的に求めることもないとされている
- 事前にデータを出したことだけで、修正申告が「更正を予知して」されたもの(加算税10%)になるわけではない、との考え方が示された
- 提出されたデータは、課税処分の証拠として必要なものは通常7年保存される。データの中身がそのまま調査の入口になる前提で、日頃の帳簿を整えておくことが大切
報道と国税庁の公表で示された内容
税のしるべは、国税庁が調査前の帳簿等データの提出依頼についてQ&Aを示し、依頼に応じない場合の対応などを明らかにしたと伝えています。国税庁の公表資料で確認できる主な内容は次のとおりです。
| 項目 | 示された内容 |
|---|---|
| 取組の趣旨 | 実地の調査後に行っていた帳簿の確認作業の一部を、事前に提出されたデータで調査前に税務署側で行い、調査期間や臨場による拘束時間を短くする |
| 依頼の時期 | 実地の調査を予定する場合、原則として事前通知の後。日程調整に時間がかかる場合などは事前通知の前に依頼することがある |
| 依頼の範囲 | 納税者に保有するデータを確認したうえで、調査に必要な範囲に限って依頼する |
| 応じない場合 | 正当な理由なく応じなければ罰則規定(国税通則法128条)の対象となりうる。ただし応じないことのみで罰則は適用されず、強権的に求めることもない |
| 加算税 | 事前にデータを提出したことのみをもって、「更正があるべきことを予知して」された修正申告には当たらない |
| データの取扱い | 令和8年7月以降の調査から、データの提出を依頼する際に国税当局の電子データの取扱いを説明する取組を開始。証拠として必要なものは通常7年保存し、満了後に消去 |
| オンライン | Teamsでの面談は基本的に「実地の調査」に当たらない。画面共有での提示は可能。録音・録画・チャット・文字起こしは遠慮を求める |
出典:税のしるべ「調査前の帳簿等データの提出依頼でQ&A、依頼に応じない場合の対応など示す」(2026年10月19日号)、国税庁「税務調査等における帳簿等データの提出依頼に関する取組等について」「税務調査等における帳簿等データの提出依頼等に関するQ&A(令和8年10月)」。
そもそも「実地の調査」と「事前通知」とは
この取組を理解するには、税務調査の手続の基本を押さえておく必要があります。
税務署の職員は、調査について必要があるときは、帳簿書類などの提示や提出を求めること(質問検査権)ができます。そのうち、職員が事業所や自宅などに臨場して行うものが「実地の調査」です。実地の調査を行う場合には、原則として、調査を始める日時・場所・対象となる税目や期間などを事前に通知することになっています。
国税庁のQ&Aでは、調査の前にオンラインでデータの提出を求めることは質問検査権の行使には当たるものの、臨場を伴わないため「実地の調査」には当たらない、と整理されています。そのため、事前通知でいう「調査を開始する日時」は、初めて事業所などに臨場する日時になります。
| 場面 | 位置づけ |
|---|---|
| 事前通知の後、臨場前にデータの提出を依頼される | 「実地の調査」以外の調査としての質問検査等 |
| 日程調整に時間がかかり、事前通知の前に依頼される | 同上(例外的な扱い) |
| 実地の調査を予定していない調査で依頼される | 税務署でデータを確認し、問題がなければ口頭で調査終了の連絡。必要と判断されれば事前通知のうえ実地の調査へ |
| Teamsでの面談 | 基本的に「実地の調査」には当たらない |
実地の調査を予定していない調査でも、データの確認で問題がないと判断されれば口頭で終了が伝えられる、という点は、事業者にとって負担が軽くなる面があります。一方で、データを見た結果、実地の調査に進むこともあります。最初に出すデータの質が、その後の展開を左右すると考えたほうがよいでしょう。
「断れるのか」と「加算税」の考え方
応じないことだけで罰則にはならない。ただし…
事前のデータ提出を求められたとき、多くの方が気にするのは「断ってもよいのか」という点です。国税庁のQ&Aは、正当な理由なく応じない場合は罰則規定の対象となりうるとしつつ、従来の書類の提示・提出の求めと同様に、応じないことのみをもって罰則が適用されるものではなく、強権的に提出を求めることもないとしています。あくまで納税者の理解と協力のもと、承諾を得て行う取組という位置づけです。
セキュリティ上の理由から、データではなく紙で出したい、あるいは臨場の際に提示したい、という相談も想定されています。これについてQ&Aは、求めには原則として応じる必要があるとしたうえで、データで出してもらえば分析・検証がスムーズになり、調査期間の短縮にもつながるので、できる限りデータでの提出に協力してほしい、と説明しています。
実務的には、「出さない」と構えるより、何を、どの範囲で、どの方法で出すかを、顧問税理士を通じて調査担当者とすり合わせるのが現実的です。Q&Aでも、依頼は調査に必要な範囲に限るとされています。
事前提出だけで「予知して」にはならない
もう一つの論点が加算税です。過少申告加算税は、国税庁のQ&Aの説明では、調査通知の後に修正申告をした場合、原則として、それが「調査があったことにより更正があるべきことを予知して」されたものであれば10%、そうでなければ5%とされています(金額が大きい部分は割合が上がる仕組みがあります)。
事前にデータを出すと、「税務署がもう中身を見ているのだから、その後の修正申告は予知したものとされるのでは」という懸念が出てきます。Q&Aは、申告内容の検討を経た誤りの指摘などにより、納税者が調査のあったことを了知したと認められた後の修正申告は原則として「予知して」されたものに当たるとしたうえで、事前にデータを提出したことのみをもって、「予知して」されたものには当たらないとの考え方を示しました。ただし、個々の事実関係を精査して判断する、という注記も付いています。
加算税と延滞税の全体像は過少申告加算税・重加算税・延滞税とはで解説しています。
提出したデータはどう扱われるのか
データを外部に出すことへの不安に対して、国税庁は取扱いのルールも示しています。
| 論点 | 国税庁の説明 |
|---|---|
| 保存期間 | 行政文書として保存期間を設定。課税処分の証拠として必要なものは通常7年。満了後に消去。1年未満のものも必要がなくなり次第消去 |
| 管理 | アクセス権限を設定し、必要に応じてパスワード設定や暗号化を行う |
| 他の調査での利用 | 他の事案の税務調査や行政指導に活用することがある。入手先や内容が他の調査対象者に分からないよう取り扱う |
| オンラインストレージでの提出 | 国税当局のオンラインストレージ(PrimeDrive)で提出したデータは「留置き」の対象にならない。取扱いの説明文の交付か口頭説明を行う |
| 職員の身分確認 | Teamsでの面談でも、求めがあればカメラで身分証明書を提示する |
見落とされやすいのが、「他の調査で活用することがある」という点です。たとえば取引先との売上・仕入の記録は、相手方の調査の参考にもなりえます。取引の相手先と記録が食い違っていないかは、自社の調査だけの問題ではなくなっています。
データで見られる時代に、事業者が準備しておくこと
ここからは、税理士・公認会計士として、また融資を受けながら事業を続けてきた立場からの考えです。
「データの中身」がそのまま第一印象になる
これまでの実地の調査では、職員が臨場してから帳簿をめくり、質問をしながら確認を進めていました。事前提出では、職員が会社に来る前に、仕訳データ全体を分析できるようになります。摘要が空欄の仕訳、「諸口」ばかりの仕訳、決算期末に集中する大きな振替、現金勘定のマイナス残高などは、データにすると一目で目立ちます。
これは、銀行が決算書や試算表を見るときとよく似ています。融資の審査でも、勘定科目の内訳や摘要がきちんとしている会社は「数字を管理できている会社」と評価されやすく、説明のつかない仮払金や役員貸付金が多い会社は、それだけで評価を下げられます(決算書を銀行に出す前にやるべき3つのチェック)。税務署に出して困る帳簿は、銀行に出しても困る帳簿です。
今から整えておきたいこと
| 項目 | やっておくこと |
|---|---|
| 会計データの出力 | 仕訳帳・総勘定元帳・補助元帳を、期間を指定してCSVやPDFで出せるか確認する。クラウド会計なら出力手順を把握しておく |
| 摘要と証憑 | 取引先名・内容が分かる摘要にする。請求書・領収書と仕訳が対応づけられるようにする(電子取引データの保存も含む) |
| 説明が必要な科目 | 仮払金・仮受金・役員貸付金・雑損失などの内訳を、期末ごとに整理しておく |
| 依頼が来たとき | すぐに出さず、顧問税理士に連絡する。対象の税目・期間・データの範囲と提出方法を確認し、必要な範囲で提出する |
| 誤りに気づいたら | 提出前後にかかわらず、気づいた誤りは顧問税理士と相談して早めに対応する。修正申告の時期で加算税の割合が変わりうる |
不動産賃貸業の方は、家賃の入金記録、修繕費と資本的支出の区分、家族への給与などが論点になりやすいところです。通帳と帳簿の対応がとれているかは、通帳の動きと税務調査も参考にしてください。
どのような会社に調査が来やすいのかは税務調査が来る会社・来ない会社で整理しています。データでの調査が広がるほど、日頃の帳簿の質の差が、調査の手間にも、指摘の有無にも、そして銀行の評価にもはっきり表れるようになるはずです。
今後も注意して見ていきたいこと
- 事前通知の前の依頼がどこまで広がるか:Q&Aでは例外的な扱いとされていますが、実際の運用でどの程度使われるかは、今後の事例を見ていく必要があります
- 加算税の「予知」の判断:事前提出後のやり取りの中で、どの時点から「調査があったことを了知した」とされるのかは、個々の事実関係で判断されます。実務の積み重ねや裁決例に注目しています
- オンラインでの調査の広がり:Teamsでの面談やオンラインストレージでの提出が増えると、税理士事務所側の情報管理や、調査対応の進め方も変わっていきます
まとめ
- 国税庁は、実地の調査の前に帳簿等のデータの提出をお願いする取組について、16問のQ&A(令和8年10月)を公表した
- 依頼は原則として事前通知の後。日程調整などの事情があれば事前通知の前もある。実地の調査を予定しない調査でも依頼されることがある
- 正当な理由なく応じなければ罰則規定の対象となりうるが、応じないことだけで罰則は適用されず、強権的に求めることもないとされている
- 事前にデータを出したことだけで、修正申告が「更正を予知して」されたものになるわけではない
- 提出データは証拠として必要なものは通常7年保存され、他の事案の調査に活用されることもある
- データで見られる前提で、摘要・証憑・内訳を整えておくことが、調査対応にも融資にも効く
税務調査の連絡が来た、あるいは帳簿の整え方を一度見直したいという方は、お気軽にご相談ください。初回のご相談は無料です。
