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会社の売却後に海外移住すると税金はどうなるか|出国税(国外転出時課税)、非居住者の株式譲渡、住所の判定の判例・裁決

会社の売却が決まると、「売ったら海外で暮らしたい」「子どもの教育のために移住したい」と考えるオーナーもいます。ここで注意したいのが、売却と出国の順番です。株式を持ったまま出国すると、まだ売っていない株式の含み益に出国税(国外転出時課税)がかかることがあります。出国してから売っても、日本で課税される株式の譲渡があります。

この記事では、売却後の海外移住と出国税について、国税庁の公表資料で制度の要件を確認し、「日本に住所があるか」が争われた最高裁判決と国税不服審判所の裁決をもとに、移住の計画で押さえる点を整理します。

この記事の結論
  • 出国税は、1億円以上の有価証券等を持ち、出国前10年以内に日本に5年超住んでいた人が対象。出国の時に売ったものとみなして含み益に課税する
  • 売却が終わってから出国し、手元が現預金だけなら、出国税の対象資産はない(買い直した有価証券は対象になりうる)
  • 非居住者が売っても、事業譲渡類似(25%以上保有・5%以上譲渡)などは日本で課税される。租税条約も確認する
  • 「住所」は生活の本拠で判断される。最高裁(平成23年)は非居住を認め、裁決(令和3年)は永住権があっても居住者と判断した
  • 相続税・贈与税は、本人と家族が10年を超えて日本に住所がないなどの条件を満たさないと、国外財産も課税対象になる

出国税(国外転出時課税)の仕組み

国税庁によれば、国外転出時課税は、国外転出(国内に住所・居所を有しないこと)をする時に、1億円以上の有価証券等などを持っている一定の居住者について、国外転出の時に対象資産を譲渡したものとみなして、含み益に所得税を課す制度です。平成27年7月1日以後の国外転出から適用されています(国税庁 No.1478、所得税法60条の2)。

項目内容
対象者対象資産の合計が1億円以上で、原則として国外転出の日前10年以内に国内に住所・居所を有していた期間の合計が5年超の人
対象資産有価証券(株式・投資信託など)、匿名組合契約の出資の持分、未決済の信用取引・デリバティブ取引など
課税の内容国外転出の時に譲渡したものとみなして、含み益に課税
申告納税管理人を届け出れば、出国した年分の確定申告で。届け出ないなら出国の時までに準確定申告
納税猶予納税管理人の届出と担保の提供などで5年(延長の届出で最長10年)猶予。猶予期間に応じた利子税がかかる
帰国した場合5年以内(猶予を延長していれば10年以内)に帰国し、対象資産を持ち続けていれば、帰国の日から4か月以内の更正の請求などで課税を取り消せる

非上場の自社株も「有価証券」です。売却価格が数億円と見込まれる会社のオーナーが、株式を持ったまま出国すると、出国税の対象になりうるということです。また、出国していなくても、贈与・相続で非居住者の家族に対象資産が移った場合に課税される「国外転出(贈与・相続)時課税」もあります。

出国税は「売ったもの」とみなすだけ

出国税は、まだ代金を受け取っていない株式に課税する制度です。売却代金が入る前に納税資金が必要になるため、納税猶予を使う場合でも、担保と猶予期間後の納税計画が必要になります。

売却と出国、どちらが先か

パターン別の課税関係

パターン日本での課税注意点
①日本で売却し、代金を受け取ってから出国譲渡所得に20.315%。出国税は、手元の有価証券等が1億円未満なら対象外代金で上場株式・投資信託を買っていれば、その額が1億円以上かを確認
②株式を持ったまま出国し、出国後に売却出国時に含み益へ出国税。出国後の譲渡も、事業譲渡類似などに当たれば日本で課税出国税と出国後の譲渡の関係(取得価額の調整など)を、専門家と確認する
③アーンアウト・分割払いが残ったまま出国譲渡の年に居住者として課税。後から受け取る代金の扱いを確認追加対価の課税時期は契約内容で変わる

通常は、①の売却が終わってから出国する順番が、課税関係が最もわかりやすくなります。売却の譲渡所得は、居住者として売った年分の確定申告で、通常どおり申告・納税します(個人株主が株式を売ったときの税金)。

非居住者でも日本で課税される株式の譲渡

国税庁の説明では、恒久的施設を持たない非居住者が株式を譲渡した場合でも、次のような所得は日本の国内源泉所得として申告の対象になります(国税庁 No.1936)。

  • 事業譲渡類似の株式等の譲渡:譲渡年以前3年以内のいずれかの時に、特殊関係株主等が発行済株式の25%以上を持っていて、譲渡年に特殊関係株主等が5%以上を譲渡した場合
  • 不動産関連法人の株式の譲渡:国内の土地等が資産の50%以上を占める法人の株式で、一定の持株割合を超える特殊関係株主等が譲渡した場合
  • 日本に滞在する間に行う内国法人の株式等の譲渡

オーナー企業の売却は、ほとんどが事業譲渡類似の要件に当たります。移住してから売れば日本の税金がかからない、とは考えないことです。なお、租税条約によって日本で課税されない場合もあるため、移住先の国との条約と、移住先の国での課税もあわせて確認します。

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「住所」はどう判断されるか:判例・裁決

非居住者になったかどうかは、住民票を抜いたかどうかでは決まりません。所得税法の「住所」は生活の本拠であり、客観的な事実で判断されます。

判決・裁決事案結論ポイント
最高裁平成23年2月18日判決(平成20年(行ヒ)139号、贈与税)香港に赴任しつつ国内にも相応の日数滞在していた人が、国外財産の贈与を受けた国内に住所があったとはいえない(納税者勝訴)赴任期間中の約3分の2を香港の居宅で過ごし、現地で業務をしていた。贈与税回避の目的で国内の滞在日数を調整していたとしても、住所の判断は客観的な実体による
国税不服審判所令和3年3月26日裁決(所得税)香港の永住権を持ち、香港の法人の役員として日本と香港を行き来していた人が、非居住者として申告しなかった居住者に当たる(審査請求は棄却)年間のおおむね6割を超える日数を国内の自己所有地上の滞在先で過ごし、業務も国内で行うことが多かった。永住権や現地での税務申告は判断を覆さない

令和3年の裁決は、最高裁平成23年判決を引用し、住所は「客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか」で決まるとしたうえで、滞在日数、生活の場所と状況、職業・業務の内容と従事状況、生計を一にする親族の居住地、資産の所在、各種届出の状況を総合して判断するとしました。なお、この事案では居住者とされた結果、外国子会社合算税制も適用されています。

移住するなら、実態をそろえる
  • 生活の拠点(住居)を移住先に置き、日本の住居をどうするか決める
  • 家族の居住地、仕事の場所、滞在日数の記録を残す
  • 日本の会社の役員を続けるか。役員報酬が残ると、非居住者でも日本で課税される
  • 国内の住所を引き払う手続(住民票、納税管理人の届出)を行う

日本の会社の役員を続けたまま移住すると、生活の本拠の判断に影響するだけでなく、非居住者の役員報酬への源泉徴収など、別の手続も必要になります。海外移住と税金の全体像は海外移住と税金で解説しています。

相続税・贈与税は「10年」がかかわる

所得税で非居住者になっても、相続税・贈与税の対象から外れるとは限りません。国税庁の説明では、相続などで財産を取得した時に日本に住所がない人は、原則として国内財産だけが相続税の対象ですが、日本国籍を持つ相続人が相続開始前10年以内に日本に住所を有したことがある場合や、被相続人が非居住被相続人などに当たらない場合には、国外財産も課税対象になります(国税庁 No.4138)。

状況国外財産への相続税
被相続人・相続人が日本に住所がある課税対象
相続人は海外だが、相続開始前10年以内に日本に住所があった(日本国籍あり)課税対象
被相続人・相続人ともに、相続開始前10年以内に日本に住所がない(日本国籍あり)国内財産のみ課税対象

「売って移住すれば相続税がかからない」というのは、少なくとも10年を超える海外での生活を前提とする話です。また、国外転出時課税の納税猶予を受けている間の相続は、取扱いが異なる場合があると国税庁は注記しています。売却代金を家族にどう渡すかは売却代金の使い方と相続対策をご覧ください。

移住前に確認すること

時期確認すること
売却の交渉中出国の予定時期と、クロージング・代金受領の時期の前後関係
契約時アーンアウト・分割払い・顧問契約が残るか。残るなら非居住者になった後の課税と送金
出国前有価証券等が1億円以上か。納税管理人を誰にするか。準確定申告か確定申告か
出国後日本の会社の役員を続けるか。国内の不動産収入があるか。滞在日数の記録
長期帰国の可能性(5年・10年以内なら課税の取消し)。相続税の10年ルール

銀行との関係も変わる

非居住者になると、日本の金融機関での新たな借入や、口座の取扱いに制限がかかることがあります。売却代金で国内の不動産を買って賃貸する場合も、非居住者のままで融資を受けるのは簡単ではありません。融資を使う投資を予定しているなら、移住の前に借入の方針を決めておくほうが現実的です。海外移住と不動産融資の関係は海外移住と不動産融資で取り上げています。

まとめ

  • 出国税は、1億円以上の有価証券等を持つ一定の居住者が出国する時、含み益に課税する制度。納税猶予(5年、最長10年)と帰国時の取消しがある
  • 会社を売るなら、売却を終えてから出国する順番が最もわかりやすい。代金で買った有価証券も対象になりうる
  • 非居住者でも、事業譲渡類似(25%以上保有・5%以上譲渡)などの株式の譲渡は日本で課税される
  • 住所は生活の本拠で判断される。最高裁平成23年判決と令和3年裁決が、判断の物差しを示している
  • 相続税・贈与税は10年を超える海外生活が前提。移住だけで外れるわけではない

海外の会社に売る場合の注意点は海外の会社に売るときの注意点で取り上げます。クレフティでは事業承継・M&A支援として、売却の時期と出国の時期を組み合わせた税額の試算、出国前の申告・納税管理人の手続のご相談をお受けしています。移住先の国の税金は、その国の専門家への確認もあわせて必要です。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士が対応します。

よくある質問

会社を売った後に海外へ移住すれば、出国税はかかりませんか?
国外転出時課税(出国税)の対象は、有価証券や未決済のデリバティブ取引などです。売却が終わって手元にあるのが現金・預金だけなら、その預金は対象資産になりません。ただし、売却の代金で上場株式や投資信託を買っている場合、それらが1億円以上なら対象になりえます。売却で生じた譲渡所得は、居住者として売った年分の確定申告で、通常どおり課税されます。
先に海外へ移住してから株式を売れば、日本の税金はかからないのですか?
そうとは限りません。まず、出国の時点で株式などの対象資産が1億円以上あり、出国前10年以内に日本に5年超住んでいた人は、出国の時に株式を売ったものとみなして含み益に課税されます。さらに、非居住者が内国法人の株式を売る場合でも、発行済株式の25%以上を持つ特殊関係株主等が5%以上を売る「事業譲渡類似」などに当たると、日本の国内源泉所得として課税対象になります。租税条約で扱いが変わることもあります。
海外に住んでいるかどうかは、何で判断されるのですか?
所得税法の「住所」は、生活の本拠、つまりその人の生活の中心がどこにあるかで判断されます。最高裁平成23年2月18日判決は、客観的に生活の本拠としての実体があるかで決めるべきとしました。国税不服審判所の令和3年3月26日裁決は、滞在日数、生活の場所、業務の状況、資産、各種届出などを総合して判断し、海外の永住権を持つ人を日本の居住者と認定しています。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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